怪しい幻妖師
神国東瀛の四天王の一人を始末した天喰凛音はその足で皇都大蓮に向かっていた。
もうすぐ夕闇が迫り来る時刻だ。幸運なことに風はほとんど吹いていない。
天狼の化身である凛音は夜目を使い、真夜中でも歩き続けることができた。だが、敵は神国ばかりではない。狂禍獣と呼ばれる凶悪な化け物と戦うには夜は不利だ。
ひとまず今夜泊まる場所を探すことにしたが、その前にやるべきことがあった。
「そこの呪い師よ、いつまでわたしの後を着けてくるつもりだ?」
凛音は自分の背後に向けて声を上げた。すると、景色が歪み出し、一人の若い男が現れた。
「なんだ、気付いてたのか。君も人が悪いな」
年齢は二十代前半ぐらい。背は高く、痩躯に爽やかな色合いに染め上げた幻妖師たちの愛用する衣服を着ていた。両腕には風変わりな装飾を施した金属製の腕輪を嵌めていた。
「僕の〝姿隠し〟を見破るとは恐れ入ったよ。さすがは天狼の化身と言ったところかな」
呪い師に悪びれた様子は微塵も感じられない。それよりも、自分の咒法を見破られたことに驚愕していた。
「わたしは既に千年以上生きている。見くびるな」
神獣と呼ばれるのは伊達じゃない。人間の小賢しい咒法を見抜くなどいとも容易いことだ。
「何故わたしを尾行していたのか、正直に答えてもらおうか?」
凛音は振り返ると、再度同じ質問をした。特に警戒もしていない。
「まいったな。信じてもらえるといいんだけど――」
男にしては綺麗な顔立ちの呪い師は屈託のない笑みを浮かべた。
「僕は君にとても興味があってね。変な意味に捉えないでくれよ。君がこれから何をやろうとしているのか見届けたいんだよ。できれば、仲間に加えてくれると嬉しいんだけどな」
呪い師は素直に話しているように思えた。だが、仲間は要らなかった。却って足手まといになるからだ。
「あいにくだが、わたしに仲間は必要ない」
「随分とつれない言い方だね」
呪い師は大仰に両手を広げて、深くため息をついた。
「じゃあ、こういう取引はどうだい? 僕を仲間にしてくれれば、君が探している赤蠅無土という幻妖師に関する情報を提供するよ。敵を知るのは戦いにおいて重要なことじゃないかな?」
凛音は少しの間沈黙した。何か思考を巡らしているようだ。
「二つ条件がある」
「条件?」
「そうだ。一つは例え何が起ころうとあたしの邪魔はしない。もう一つは少しでもお前を足手まといと感じた場合は容赦なく見捨てる。この二つの条件を呑めるか?」
凛音を話し終えた直後、二人の視線は激しくぶつかり合った。
「……分かったよ。君だってまだ僕の力の凄さを知らないだろ? 断言できるよ。僕の咒法は君を決して失望させないと――」
呪い師の口調には相手に安心感を漂わせる温かさを感じた。




