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神国の皇都へ

 華々しい戦装束を纏(まと)い、両手に旋棍(せんこん)の先端に槍の穂先みたいな尖ったものが取り付けられた特殊武器――滅殺牙(めっさつが)を持っていた。


「ほほう。小娘、お前が天狼だな? やっと見つけたぞ!」

 鬼岩(き がん)は嬉々として鋼鉄製の棍棒を謎めいた少女に向けた。


「だったら、どうだと言うんだ? ドブネズミ」

 少女は見下したような視線を向けた。


「フン、知れたことよ!」

 鬼岩(き がん)はそれだけ答えると、瞬時にその場から姿を消した。次に現れたのは少女の頭上の上空だった。


「さぁ、死ねぇい!」

 両手に持った無数の棘のある棍棒を力の限りに振り下ろす。だが、少女には命中しなかった。


 その代わりに砂煙とともに木造の一軒家が粉々に粉砕した。


「チッ、どこに行きやがった!」

 体勢を立て直そうと、身構える鬼岩の背後に少女はいた。


「ここだよ、ドブネズミ」

 鬼岩(き がん)の首元には滅殺牙の尖った穂先が突きつけられていた。


「さっき殺した村人の仇だ!」

 冷や汗が垂れ落ちる鬼岩(き がん)の首に滅殺牙を突き刺した。


 血しぶきが飛び散り、神国の四天王の一人は呆気なく息絶えた。


「さぁ、お前たちはどうする? 生か死か、好きな方を選べ」

 天狼が化けた少女――天喰(あまじき)凛音(りんね)は残った兵士どもに歩み寄っていく。


「ひぃぃ、逃げろ!」

 鬼岩(き がん)の私兵たちは蜘蛛の子を散らすようになりふり構わず逃げて行った。


 事が一段落すると、村人たちは凛音(りんね)を囲むように集まり、「ありがとうございました!」と感謝の言葉を並べ立てた。


「ちょっと、止めてくれ! それより、わたしのせいでみんなに怖い思いをさせて悪かったな」

 村人が一人死んでいるのだ。礼などおこがましかった。


「わたしが現れたことで、またこの村に東瀛(とうえい)の軍が来るかもしれない。あなたたちには迷惑な話だと思うが、この村を捨ててどこかに身を隠したほうがいい」

「天狼様の言いつけならば、そう致しましょう! 天狼様も是非お気を付けてくださいませ!」


「ああ、必ずこの世の乱れを正してやる! では、元気でな!」

 凛音(りんね)はこの世界を救うとは言わなかった。彼女本来の目的は、狂ったこの世界を一度滅ぼすことにあったからだ。その後の再生こそが真なる平穏な世界を生み出すと信じていた。


(こうなっては全てが手遅れなんだ。許してくれ!)


 悲しき目をしながら凛音(りんね)は本懐を遂げるために再び歩き始めようとした。

「天狼様、少しお待ち下され!」

 先ほど殺されかけた老婆が声をかけてきた。


「我が家にわし一人では食べきれぬ米がありますだ。それで握り飯をお作りしますので、旅の傍(かたわ)らでお食べくだせぇ」

「いや、わたしには神丹(しんたん)というものがある。別に気にしてくれるな」

 この村に来るまでに飢餓に苦しむ人たちを嫌というほど見てきた。このご時世食料があるに越したことはない。安易に受け取るわけにはいかなかった。


「婆さん、やっぱり天狼様には肉のほうがいいんじゃねぇのか? うちの台所には焼いた豚の肉がある。天狼様、うちらの感謝の気持ちだ! 受け取ってくれ!」

 さすがにこうまで言われては無下に断れなかった。ほんの少しという条件付きで貰うことにした。


 少しして、包みに入れられた握り飯三つと数切れの焼き豚を手にその村を後にした。


 目指すは神国東瀛の皇都大蓮(だいれん)である。

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