謂れのない濡れ衣
時は夕刻。村長を含めた村人たち全員が開けた場所に一塊に集められ、恐れ慄いている。
何しろ神国東瀛の四天王の一人が直々に現れたのだから、怖がらないほうが無理というものだ。
「将軍、この村の村人を全員集めました!」
敬礼をしながら、一人の兵士が鬼岩に告げた。
「分かった。下れ」
派手な戦装束姿の鬼岩は巨漢で筋骨隆々とした体躯をしており、両手には柄の部分以外に無数の棘の付いた長い鋼鉄製の棍棒を持っていた。歳は三十代半ばぐらいに見えた。
「よぉし、お前らに訊きてぇことがある。この村に我らに刃向かいし天狼が潜んでいるという密告が届いた。噂だと、天狼は人に化けると言う話だ。そろそろお前らクズどもの脳みそでも俺様が何を言いたいのか、理解できただろう? 天狼はこの中に紛れてるってことだ!」
「そんな!? 天狼様があっしらの中にいるなど、恐れ多いことです。おそらく、何かの聞き間違いではないかと――」
「お前、今天狼に〝様〟を付けたな。それが何を意味するのか分かってるんだろうな?」
鬼岩の言葉に、その中年の村人の顔は恐ろしさから青白くなった。
「神国に対する反逆だ!」
激しい怒号とともに鬼岩は鋼鉄製の棍棒をその村人に叩きつけた。
大量の鮮血が飛び散り、ほとんどの骨が砕かれた死体を見た村人たちから悲鳴が上がった。
「フン、俺の恐ろしさが分かったか! よく聞け、お前ら! 天狼が化けた奴を教えた者にはたんまりと褒美をくれてやるぞ! さぁ、俺様に教えろ!」
「あ、あの……」
一人の老婆がしわがれた声を上げた。
「おう、何だ? 言ってみろ!」
「は、はい。先ほど殺された者が申し上げましたように天狼様はここにはおりません。将軍がお耳にされた話はただの噂でございます」
「ババァ、お前まで〝様〟を付けるか! じゃあ、俺様に教えてくれよ。なんでこの村は天変地異にも遭わなければ、疫病が蔓延しておらんのだ? 天狼が怪しげな小細工でも弄しているからじゃねぇのか!」
「それはこのババァにも分かりません。ただ、天狼様とは関係ないことは事実でございます」
「ああ、そうかい! ババァ、お前が言いてぇことはよく分かった! だがな、俺も四天王と畏れられる男だ。このままむざむざと手ぶらで帰るわけにはいかねぇんだよ! こうなったらお前ら全員天狼を匿った罪で引っ立ててやる! おい、縄で縛り上げろ!」
鬼岩が出した号令を聞いた村人たちにどよめきが走った。そのときだ。
「そんなに自分の面子が大事か? ドブネズミ」
少女の辛辣な言葉にその場にいた全員が声の主を探し回った。
「将軍、あそこに人が――!?」
驚きながら一人の兵士が人差し指で指した。
ある一軒家の屋根にその少女はいた。年齢は十五歳よりは上に見える。




