36 ファーマル防衛線8 ファーマルの街を守った英雄たち
「さぁ来い、ルナレディアお姉様には指一本触れさせんぞ!」
「ロウ姉、一発でも喰らったらアウトなんだから無茶はだめだって!」
ルウロウさんと弟のルウディーさんが、オークエンペラー三体の周りを走り攪乱。
高さ十メートルを超える巨体のすぐ側を走る恐怖はとんでもないものだと思うが、二人が上手く三体のオークエンペラーがかち合うようにし、同士討ち狙いの誘導をしている。
これなら行ける……!
「ルナ! 行ってくれ、俺を信じて……柱魔法アルズシルト!」
「もちろん! 信じているわ、シアン!」
俺はルナに合図を送り、三体のオークエンペラーの近くに柱魔法を出現させる。
ヴォアアアアアア!
突如真横に現れた柱にオークエンペラー三体が反応、視線がそちらに行き、巨大な斧で攻撃を始める。
「柱魔法アルズシルト、二本目!」
すぐさまオークエンペラーの背後に二本目の柱魔法を設置。
三体の内、一体が後方の柱に反応し振り返る。
「ルナ、そいつだ! 真正面から攻撃を! 直前で三本目を出して防ぐ!」
「分かったわ!」
ルナが正面から攻撃を仕掛けると、オークエンペラーが巨大な斧を構え振り下ろしてくる。
「ルナは俺が守るって決めたんだ……! 柱魔法アルズシルト、三本目!」
オークエンペラーの強烈な攻撃がルナに迫るが、俺の三本目の柱魔法が受け止める。
「うん……! さすが私のシアン! きっちり守ってくれる!」
斧が柱に弾かれ、オークエンペラーが少し体制を崩す。
「ルナ! 二本目の柱を足場にジャンプ! 右目を攻撃……!」
「了解……! 貫け、ウインディアブレード!!」
ルナが足に風の魔法を纏わせ、二本目に出した柱魔法を足場にジャンプ。
突きのように剣を構え、風の魔法の緑の輝きを放つ剣をオークエンペラーの右目に突き刺す。
ヴォアアアアアアア……!
オークエンペラーが叫び、右目から激しく黄色い光が溢れだす。
発光が収まると、巨体が力なく地面に倒れ込む。
「…………オークエンペラーの動きが完全に沈黙……! 行ける、行けるよシアン!」
ルナが三本目の柱を足場に着地。
倒れたオークエンペラーを確認し、討伐宣言をする。
「す、すごい……! さすがルナレディアお姉様! 見てくれていますかフォスター殿、メイドーラ殿……! ご子息があなた方の仇を取ってくれました……! シアン様、あと二体です!」
「やった、やったぞ……! さすがシアン様にルナレディア様だ!」
右目を貫かれ動かなくなったオークエンペラーを見たルウロウさんが叫び、引き続き弟であるルウディーさんと、残り二体となったオークエンペラーの攪乱を始める。
「やはりあの右目が弱点のようです! ロイドさん、指示を!」
「ああ……ついに……人間がオークエンペラーを討伐出来る日が来たとは……その歴史的瞬間を目の当たりに出来て、僕は嬉しいよ! みんな、見ての通りだ! シアン君が柱魔法を使い、ルナレディアが飛び、とどめを刺す。僕たちのお仕事は、残り二体の攪乱をして二人の補助! メイメイ、ヴィアン、アイリーン、さぁ、仕上げといこうか……倒すぞ、オークエンペラーを……!」
俺は振り返り、リーダーであるロイドさんに報告。
ロイドさんが大きな身体を震わせ、喜びを叫ぶ。
そしてすぐにSランクパーティー『月下の宴』のみんなに指示を出してくれた。
「うっはーっ! まさかオークエンペラーを倒すぞ指示が来るとは思わなかったー! 私ちょっと感動してるよー!」
「ふふ、すごいのね……シアン少年一人がパーティーに加わっただけで、この戦果。毒舌ルナが言った通り、これは間違いなく『逸材』ね……!」
「……ルナが生き生きと動いている……こんなの初めて見た。ルナとシアンのコンビ、これ、運命的出会いかも……」
Sランクパーティー『月下の宴』のメンバーが攪乱部隊に参加。
ルウロウさんとルウディーさんが一体を担当、残りの一体を『月下の宴』のメンバーが担当し攪乱。
行けるぞ、弱点と手順さえ分かってしまえば……俺たちは確実にオークエンペラーを倒せる!
「柱魔法アルズシルト! ルナ、後ろにもう一本行くよ!」
「いつでもいいわよシアン! さぁ、二体目……ウインディアブレード!」
俺が出した柱二本を足場に交互にジャンプをし、ルナが緑の風を纏い空を駆ける。
三本目の柱でオークエンペラーの攻撃を完全防御、出来た隙を突いて、ルナが二体目のオークエンペラーの右目を貫く。
ヴォアアアアアアア……ッ……
二体目の目から黄色い光が溢れ、地面に倒れ込む。
……しかし、あの黄色いのはなんだろう。
他のオークやオークキングには、あのような黄色い目はなかった。
いや、それは今考えることじゃあない。
残り一体、それを倒せばファーマルの街を守れるんだ……!
「そら、こっちだ! お仲間はもういないよ、残るは君だけさ!」
「シアン様、これで最後です……よろしくお願いいたします!」
ロイドさんがオークエンペラーに攻撃、退避を繰り返し、ルウロウさんが出来上がった隙を報告してくれる。
さぁ……行こうか。
これでラスト、俺たちが、Sランクパーティー『月下の宴』がオークエンペラーの討伐を完了させる……!
「ルナ、最後だ! 三本同時に全部出す! 好きに使ってくれ!」
「分かったわシアン! ふふ、リューネがシアンの三本の柱を『大盤振る舞い』って言う理由、ちょっと分かっちゃった!」
ルナが俺が出した三本の柱魔法を自由に駆け、空へと上がっていく。
オークエンペラーはルナの動きについていけず、でたらめに斧を振り回すのみ。
残念だけど、ルナはそんな遅い斧に当たることはないよ。
「ラスト……! 私たち、シアンを加えたSランクパーティー『月下の宴』が、オークエンペラー三体の討伐を完了させます! 貫け……ウインディアブレード……!」
今までで最大の光を放ったルナが、オークエンペラーの右目に剣を突き刺す。
ヴォアアアアアアア…………!
右目から激しく黄色い光を放ち、最後のオークエンペラーがゆっくりと地面に倒れ込む。
「………………討伐、完了……!」
ルナが地面に着地、最後のオークエンペラー討伐宣言を出す。
「……よし、よくやってくれた……! オーク、オークキングおよび全てのオークエンペラーの討伐完了を確認、これにて、Sランクパーティー『月下の宴』の任務を終了とする! 協力をしてくれたファーマル冒険者連合四十名、王都より派遣された騎士三百名、共に被害『ゼロ』! これは今ここにいる、みんながいたからこそ勝ち取れた勝利だ! さぁ誇ってくれ、倒すことが不可能と言われてきたオークエンペラーの討伐を完了させ街を守った、我らの勝利を!」
ルナの報告を受け、ロイドさんが大剣を空高く掲げ、勝利を宣言する。




