第30話
学ラン姿のディマイラリズがぶよぶよとした見た目の物体を掴み、そこにポケットから取り出した赤い球体をねじ込む。その後彼から地面に落とされた物体は甲高い叫び声を上げながらその形を変えていき、じきに巨大な青いドラゴンになった。
「これで完成だ。さあ行ってこい、前世がゾウとかいうふざけた勇者を殺すのがお前の目的だ」
ディマイラリズがこう命令すると、青いドラゴンはその翼をはためかせて宙に浮かび、パオゴローとユイズが乗っているギムに突進をしてきた。
「危ない、ギム!避けて!」
こちらに向かってくるドラゴンを見たユイズが、ギムに対して慌てて支持を出すものの・・・。
「ガッ!ガウ!」
ギムは想像以上の速さで飛び込んできた青いドラゴンのことを避けきれず、頭突きを食らってしまった。硬い頭同士がぶつかる鈍い音をした後、そのまま空中に留まる青いドラゴンとは異なり、ギムは急速に地上へと落ちていってしまう。
「くっ・・・。ユイズさん!ギムさんに掴まっててください!」
そんな中でパオゴローはこう叫び、ユイズも頷いて必死にギムの体にしがみつく。
そして・・・。
「グッ!ガウッ!ウウ・・・」
ギムはそのまま落ち、地面に体を強く打ち付けてしまった。
しかし朦朧とする意識の中でもギムは背中に乗るパオゴローとユイズのことを考えていたのか、力を振り絞って何とか体勢を調整して、彼らを下敷きにしてしまうような事態を防ぐことはできた。
だがそれのせいで先ほど頭突きを食らった頭を守ることができず、着地の瞬間にさらに強く地面に叩きつけてしまう。
「ギム!大丈夫!?」
慌てて背中から降りたユイズは急いでギムに声をかけるが、死んではいないとはいえかなりの痛みを堪えている様子だった。おまけに脳にかなりのダメージがかなりあるのか、上手く言葉を発することができていない。
「おいおい。お前ら知らないのか?そこにいるギムは魔王から選ばれた幹部の一角だぜ。そいつが死ねば魔王へとたどり着けるのによ」
「知ってるわよ。・・・でもギリギリまでギムのことを活かす方法は考えるようにしてるのよ。バカにしないでよね」
ユイズは、ギムから離れるとディマイラリズの方へと大股で歩いて近づき、彼に向かって反論する。
「おーこわっ。でもどうすんだよ。お前らが考えてるように簡単にはいかないぞ?」
「分かってるですよ。でもリチェピワはもう倒しましたから。出来る限りのことをして、それでもダメなら最悪ギムさんのことを殺す覚悟はできてます」
伸びてしまっているギムの顔を撫でながらパオゴローもこう口にする。
「勇者。お前はここ以外の王国を全部解放したらしいな。リチェピワまで倒したのは大したもんだ、あいつが支配してる国は普通じゃねえし」
ディマイラリズはニヤニヤと笑みを浮かべながらパオゴロー達のところへと近づいてくる。
「ディマイラリズ。君に2つ聞きたいです。魔物を生み出しているのは魔王じゃないですか?ここはクゥア王国じゃないですか?」
「最初に魔物を生んだのは魔王。だけど今は違う。魔王はめんどくさがり屋でな、魔物を生み出す能力を俺とリチェピワに分散させたのさ。ま、今でも魔物の素体は魔王が作り出してるがな」
立ち止まったギマイラリズは地面を足でトントンと叩くと、じきに先ほど見たのと同じような黒い卵が生えてきた。
そしてまたもそれが割れると中から紫色のぶよぶよとした物体が出てきて、ディマイラリズがそれを左手で拾い上げる。
「これが魔物の素体。そしてそこに魂を入れれば魔物は生まれる。どういう種類の姿になるのかってのは基本的にはランダムなんだけどな」
こう話す彼は再び右のポケットから赤い球体を取り出し、それをパオゴロー達に見せながら自慢げにこう話した。
「これリチェピワが少し前にこっちに送ってきた魂なんだよ。俺達は役割が分業化されててな。魔王は魔物の素体を作る、リチェピワは人間から魂を抜く、そして俺はその魂を素体に入れて魔物を作る。どうだ、効率が良いだろ?」
さらに彼は「ただギムは魔王が抱えるリスク分散のための道具だから大した役割はねえよ」と続ける。
「・・・」
その発言を聞いたパオゴローはギムのことを守るようにその前に立ち、ディマイラリズのことを睨む。すると「まあまあそんな怒んなって」とオーバーなジェスチャーを見せながらmディマイラリズはさらに続けた。
「それと2つ目の質問にも答えてあげないとな。ここは正確に言うとクゥア王国だった場所だ。まあ一応、俺の肩書きはクゥア王国の現国王だがな」
「・・・どういうことよ」
「ここにはもう人間・・・いや他の動植物もいない。約60年前、魔王はまずこの国に降り立った。それでここを魔物開発用の土地に改造したんだ。王家やら国民やらを色々な実験に使ってな。俺は古参だからその実験もこの目で見たぜ?」
「・・・とんでもないことしてんのね、アンタら」
そう言って怒りと嫌悪感を滲ませるユイズのことをディマイラリズは笑いながらたしなめる。
「まあまあそんなにカリカリすんなよ魔法使い。そんで俺は魔王が一番最初に転生させた魂だ。だからちょっと特殊でな、わざわざ前世の姿そっくりそのまま転生させてくれたんだよ。あ、そうだ知ってるか?魔王は元々、天界にいた男神だったんだ」
「それは女神さんから聞いたことがあります」
パオゴローは答えるとディマイラリズは「それだと話が早い。ギムぐらいまでの世代は魔王が天界と地獄から持ってきた魂が入ってるんだが、それ以降は魂が足りなくなってな。それでリチェピワを使って現地調達を始めたのさ」として笑った。
「世界はたくさんある。俺が元々いた世界。この世界。そしてそれ以外の多くの世界・・・。だが不思議なことに俺の前世がいた世界以外には定期的に魔王という存在が現れる。まあバグみたいなもんで、それを排除するのが女神と男神の仕事だった」
さらに「・・・魔王はそこからドロップアウトしたが」と付け加えた彼は右手に持っていた魂を、片方の手で掴んでいた素体にねじ込む。そしてそれを地面に投げ捨てると、素体は段々と体を変えていき、今度は一つ目の怪物へと変化した。
「サイクロプス、ですか・・・」
「お!分かるか!なあ魔物のデザインも俺が考えて魔王に提案したんだぜ!凄いだろ!さしずめ俺は魔物達の作者でもあるんだよ!」
ギマイラリズは自身の隣にいるサイクロプスのことを蹴りながら叫ぶ。
「小学生の頃、同じマンションにいた体の小さい奴から本をパクったことあるんだよ。それはファンタジーに出てくるような怪物の絵ばっかり載ってるやつでさ。意外と面白くてそれからそういう系統の話にハマっちまったんだが、まさかここで役に立つとは思わなかった。あのチビに感謝だな!」
平然とした様子で話すディマイラリズがユイズの方に指をさすと、サイクロプスは雄たけびを上げながら走り寄っていく。
「ユイズさん!」
「こんなの、アタシ1人でどうにかするわ!それとギムには防御魔法をかけたらひとまずは大丈夫!アンタは・・・そのムカつく奴をぶっ飛ばして!」
ユイズはサイクロプスに対して魔法の攻撃しながら応える。
「アタシ、その男嫌いだわ!パオゴローもそうでしょ!」
「何だよ。そんなに俺のこと気に食わないのか?」
ユイズの声を聞いたギマイラリズはやれやれと言った感じで肩をすくめる。
「ま、仕方ないか。まずは前世があのゾウだったっていうお前は殺す。ついでにあそこで伸びてるギムも殺す。そんであの魔法使いの女は半殺しにして魔王に捧げる。いやあ、完璧だな」
「・・・おい。君ごときが僕のことを倒せると思ってるですか?」
パオゴローは腰から剣を抜くと、ディマイラリズに向かって怒りの感情を込めてこう告げる。しかし当の本人は「お、良いね!やっぱり勇者はそうでないと!」と満面の笑みを浮かべるに過ぎない。
「それとこれも教えておいてやる。魔物の素体は死んだ魔法使いの肉体を再利用してるんだ。つまり魔物っていうのは魔法使いの体を基に作った素体に、他の人間の魂をねじ込んだもの。発想が天才的だろ?」
「そうですか。そんなことよりも僕は動物園のこと忘れていませんよ。しかも君、ゾウ以外の動物のコーナーにも変なことをしてたでしょ。貧弱な人間の分際で良い度胸してるです。あの時の分まで君のことをしばき回します」
「ハハ!ドライなのか粘着気質なのかよく分かんないなお前は!・・・さて、やってみろよ勇者。こんな最高の暮らしを邪魔されてたまるかよ、ああ!?」
次第に空にはディマイラリズの援護のために潜んでいた多数の魔物が集まってくる中、前世がゾウの勇者と前世が男子高校生の悪魔が対峙した。




