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第29話

勇者のパオゴロー、魔法使いのユイズ、そしてドラゴンのギムは入国したクゥア王国内部を歩いて進んでいるのだが・・・。


「マジでずっと何にも無いんだけど。どうなってんのこれ?」


思わず地面に座り込んだユイズがこう話す。


しかしそれもそのはず、ここまで魔物にも人間にも会っていないのだ。


「おかしいですね。そろそろ誰かに遭遇してもいいのに・・・。そもそも何も無いです」


道中、野宿をして体を休ませたり、これまで集めた食糧で栄養補給をしていても危険な目に遭うことは皆無。国中に靄がかかっており、遠くまできちんと見えていないのも関わらずパオゴロー達は安全なまま国を進んでいたのだ。


他の国だと郊外には人間が耕している畑などが見つかり、そこを監視している魔物にも出会うはず。しかしここまで彼らは戦闘など全くしていない。


「まあ確かに何事も無く進めるのは有難いけどさ。ちょっと気味悪いわよね」


「ガウガ・・・」


「ギムさんも『なんかおかしいぜ・・・』って言ってますね」


「ガ!ガウ!」


全員で休憩をしていた最中、突然ギムはパオゴローとユイズの前へと飛び出ると、器用に頭を下げて詫びた。


このクゥア王国に入国して数日程度過ごす中で、自身でさえつい最近になって思い出した、『自分は魔物の幹部である』ということをどう告げれば良いのか迷っていたのだ。


自分が助けに来るまでの間において同じ幹部であるチェピワからどのような事実が2人に告げられていたのか分からない。しかしその事実を思い出した以上、いつか正直に話さなければいけないともギムは思っていた。


そして少し驚いた顔をしている2人に対してギムは「ガウガウ!(『オ、オレ様は実は魔王から無理やり幹部に任命された魔物なんだ!』)」と言い、さらにこう続けた。


「ガウガ、ガウガウガ・・」


ギムは語る。


2人のことを騙すつもりなんてもちろん無かった。そもそも自身でさえ幹部であるという記憶を封じられていたのだから。そして魔王のことを裏切ったも本心。今の自分は魔王を倒すためには命を捧げる覚悟がある。いつかオレ様のことを殺すつもりでいてくれ、と。


そしてそれを聞いたパオゴローとユイズは口を揃えてこう答えた。


「はい。リチェピワから幹部云々の話はもう聞いています。魔王のところへたどり着くには幹部を全員倒す必要があるってことですよね?いざとなったらギムさんを殺す覚悟はできてます」


「だ、そうよ。確かにアタシとしてもギリギリまでは何とかしたいとは思ってるけど、最悪のことは想定しておくから」


「ガ!ガウガ!?」


パオゴローはともかくユイズまで想像以上にドライな回答をしたことにギムはショックを受ける。


数年前に両親を亡くし、ボロボロだった幼いユイズを荒野で保護したギム。家族同然の友人関係だとギムは思っていたのだが・・・。


「・・・ギム本人から幹部に関する話を聞けて安心したわ。リチェピワからそれを伝えられて牢獄に送り込まれた時、アタシはパオゴローに『いざとなったらギムを殺して』ってお願いしたの。付き合いが長いからこそ、あの時はそう思って・・・」


彼女はギムに近づくとその顔を優しく撫でながら続ける。


「でもさっき言ったでしょ?今はアタシもパオゴローもギリギリまではギムのことを殺さずに、何とか魔王を倒す術を探る。それでもダメだった時はギムの頼み通りにするわよ。でもそれはあくまでも最終手段だから」


「魔王を殺すには幹部を倒す必要があるってのは分かりました。でもまずはこのクゥア王国にいる幹部を一緒に倒して、それからどうするかです。できるならこの3人で全てを終わらせます。でもダメだったら仕方ないです」


この2人は話し合い、既に決めていた。ギムのことを殺さずに魔王にまでたどり着く方法を見つけるために全力で動き、それでもダメだったら潔くギムのことを手にかける。


そして彼らの言動を見たギムは、自身を幹部に据えたことは魔王にとって最大の失策になるだろうと確信したのだ。


「さて、ここで少し休んでまた前に行きますか」


「そうね。もうそれしかできないし」


草木も生えず、砂や灰色の石だけが広がっている土地でしばしの休憩をとっていた勇者一行。そこで保存のきく食糧を口に運んだり水分補給などをしていったのだ、国中を包んでいた靄が段々と晴れてきた。


「あれ?そろそろ靄がかなり消える感じ?向こうの方も見えそうね」


そのことに気づいたのか空を見上げるユイズ。すると彼女の言葉通り靄が消えていく。


「・・・何ですか、あれ?」


「・・・いや本当に何あれ?」


白みがかった靄が無くなったことでようやくこのクゥア王国の全貌・・・とまでは言わなくとも周囲の状況が十分に視認できるようになったパオゴロー達だが、その視線の先には小さな子供の背丈ほどと評せる大きさの黒い卵があった。


「・・・ガ!ガウガ!」


それを見て首を傾げるパオゴローとユイズだが、ギムはすぐに大きな声で騒ぎ始めた。


「え?『あれは魔物の卵だ!こ、ここはやべえ場所だ!』ですか?」


「ね、ねえパオゴロー。あの黒いやつ、動いてない?」


ギムの言葉を聞いて再び首を傾げるパオゴローだが、隣にいるユイズが指さしながら彼にこう伝える。


するとその黒い卵はボコボコと音を立てながら不気味に表面をうごめかせると、じきに音を立てて割れ、その中からは紫色のぶよぶよとした見た目の物体が流れ出てきた。


「紫の・・・。何ですかあれ?」


パオゴローは得体のしれないそれを見て驚きの表情を浮かべるが、ギムはなおも大きな声を出し続ける。


「ガオガオ!ガウウ!」


「『思い出したぜ!ここは魔物が生まれる場所だ!』・・・ですって!?」


ギムの言葉を聞いてユイズは「どうする?一旦逃げるわよ?」と声を出すが、時すでに遅し、その物体の背後へと近づく人影が見えた。


「お前らが二代目勇者とその仲間か。今ではすっかり絶滅危惧種の魔法使いに、魔王を裏切ったドラゴン。良いね、良いね。教室にいたオタクなんかは好きそうな展開だなあ!」


ユイズはすぐにギムに魔法をかけその体を大きくする。そしてパオゴローと共に背中に乗ると、空へと飛び上がった。


そして先ほどからの声の主が遂に彼らの前に姿を現す。


「逃げるだなんて恰好悪いな、勇者。そんなんじゃ人気出ないぞ?正義は悪と正面で戦ってなんぼなんだから」


それは若い男・・・いや少年と青年のちょうど中間だと表現しても良いぐらいだろうか。茶色でオールバックの髪。まだどこかあどけなさは残るが、パオゴローやユイズと同じぐらいの10代後半だと予想できる端正な顔立ち。


そして。


「何あの服?見たことないんだけど」


「・・・あれはどこかの学校の制服ですね。僕がゾウの頃に見た覚えがあります」


彼が身につけているのはこの世界には適さないような学ランだった。前のボタンは全て開けられており、下に着ているのは白いカッターシャツだ。


「ガウガ!ガウガウア!」


「『気をつけろ!あれが幹部のディマイラリズだ!』だそうです」


「なるほど。アイツを殺せば話は早い感じね?」


ギムの背中に乗りながらユイズがこう口にすると男は彼女のことを睨む。


「ああ、確かに俺はディマイラリズだが・・・。おいそこの女。ちょっと可愛いとは思ってたけど舐めた口聞いてくれるじゃねえか。ああ!?」


そしてそれからユイズとディマイラリズの睨み合いが続く。しかしパオゴローは彼のことを見ながら何か考え事をしていた。


「ちょっと。何してんのよパオゴロー。アイツのこと睨み返さないと。こういう時は目を逸らしたら負けよ」


ギマイラリズに対して分かりやすい敵対心をむき出しにしているユイズからこう声をかけられたパオゴローだが、ようやく何かを思い出したようで、ハッとした顔を見せた。


「・・・君、どこかで僕と会ったことがあるですか?例えば前世とかで」


「お前と・・・?」


するとパオゴローは珍しくその声に怒りを滲ませて言葉を繋ぐ。


「君、動物園でゾウがいるところに変なのを投げ込んだことがあるでしょう。しかも何度も」


「へ・・・?ハ、ハハハ!!そうだよ!よく知ってるなあ!あそこの、あのー・・・そうだ。何とか自然動物園って名前のところ。・・・何でお前、それを知ってんだよ?」


「僕はそこにいたゾウです。その服を着て、よく問題を起こしていた君のことを思い出しました」


こうパオゴローが告げると、ディマイラリズは腹を抱えて大笑いをし始めた。


「ゾ、ゾウ!?この勇者の前世ってあそこのゾウ!?マジかよ面白すぎるだろ!そう言えばいたな、生意気なガキのゾウ!なるほど、初代勇者の敵討ちには適任だし魔王のトラウマをえぐりに来たか、女神!」


しばし笑い声を響かせた後、ようやく息を整えて彼は語る。


「そうだよ。俺は動物園で嫌がらせを繰り返してた高校生さ。でも今は魔王の部下のディマイラリズ。それに俺は魔物じゃねえ・・・魔物に限りなく近いがまだ人間、しかも新たな魔物を生み出す権限も与えられた存在だ」


そして彼は足元にいた紫色の物体を乱暴に掴むと、ズボンのポケットから小さな赤い球体を取り出し、それをその中へとねじ込んだ。

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