第28話
「あ!あそこにギムがいる!」
フィル王国がある島と、隣国がある島とを繋ぐ大きな橋を渡っている勇者パオゴローと魔法使いユイズ。2人の視線の先にはようやくドラゴンのギムが見えてきた。
まだ靄のせいでかすんでいるが、ギムの方も器用に手を振っているようだ。
「・・・って言ってもこの大きな橋、いきなり走ったらめちゃくちゃ揺れるから怖いわね。しかも靄のせいで前も見えなくなる時があるし・・・」
「そうですね。でもゆっくり行けば良いです」
そう話すパオゴローだが、ユイズはある異変に気づく。彼の腰には剣とは異なる黒い物体があるのだ。
「あれ?リチェピワが持ってた棍棒も腰に差してるの?」
「はい、そうです。ちょっと気になったので拾いました。不思議な道具ですからね」
淡々と説明するパオゴローだが、この話を聞いたユイズは「相変わらず凄い感覚してるわよね・・・」と言って思わずしかめっ面を見せる。
「触れないわよ、アタシじゃ。それでどれだけの人間を撲殺したのよ」
「きちんと石鹸使って洗ったから大丈夫ですよ。しかも5回」
「・・・そういうことはするのね」
そして時に風にあおられて大きく揺れる橋の上を歩く2人だが、恐る恐る足を進めるユイズがパオゴローに尋ねる。
「ねえパオゴロー。パオゴローって前世はどんな生活をしてたの?」
「興味ありますか?」
「まあ少し前から興味はあったんだけど・・・。ここ怖いから気を紛らわしたいのよ」
波が高い海。その上にあるこの橋をそっと歩くユイズは彼にこう声をかける。するとパオゴローは「そうでうね、分かりました」と言うと、彼女の隣を歩きながら前世の頃の話をし始めた。
◇
僕はある動物園で生まれて、育てられてたゾウでした。
動物園っていうのは色んな動物を育てて、公開している場所です。僕はよく分からないですが動物に関する調査や研究とかもしているそうです。
ゾウっていうのは大きくて、鼻が長くて、耳も大きくて、パオーンってやつです。野菜や果物を食べます。ちなみに僕の細かい種類を言うと、アジアゾウっていうのだったらしいです。
僕は動物園に遊びに来て、僕のことを見ていた人間のことを何人か覚えています。子供は驚いたり、笑ったりしてました。人が多い時は楽しそうな声もよく聞こえてました。あ、でもごくごくたまにマナーが悪い人間もいましたが、そういうのはしょうがない連中です。
そして僕の面倒をいつも見てくれたのは奈嘉見多カナさんっていう女の人です。若かったですけど元気で仕事が早い人でした。
それに奈嘉見多さんはいつも明るくて「よっ!天才ゾウ!」とか「パオゴローって賢すぎ!」とか「わお!ジーニアスエレファント!」とか褒めてくれました。マジで何やっても褒めてくれました。
でもある時から奈嘉見多さんは来なくなりました。凄く寂しくなりました。何となく動物園中が静かになったことを覚えています。
そしてそれからしばらくして僕も病気で死にました。
それで気がついたら女神が目の前に現れて、バン王国に勇者として転生したんです。
◇
「・・・っていう感じです」
「だいぶ波乱万丈ね。まあでも大体は分かったわ、ありがとう。で、そのナカミタカナって人は優しかったの?」
「はい。できることならもう一度会いたいぐらいです」
「・・・そうなんだ」
ユイズはパオゴローの言葉を聞いて静かに返すが、しかし彼は不思議そうな顔をしてこう話す。
「それにしてもリチェピワが言ってましたが、魔王はゾウが嫌いだそうです。・・・昔、ある日突然全滅したっていうのも魔王の影響があったりするんですかね」
「・・・どうだろう・・・?そもそもアタシはその姿を見たことがないからイメージしづらいし・・・」
橋の上、2人して首を傾げる。
「・・・っていうかゾウってそんなに嫌われるもんなの?」
「そんな訳ないです。動物園にいる子供に聞いたら好きな動物のベスト5には入りますよ。これ、リチェピワにも言った気がしますが」
胸を張って答えるパオゴロー。しかしこれを聞いたユイズだが、さらに疑問を口にする。
「・・・それと気になってたんだけどさ、どうして前世がゾウのパオゴローが二代目勇者に選ばれたわけ?」
純粋な疑問だがこれは真っ当な質問だ。そもそもパオゴローが勇者に選ばれた理由などユイズは全く分からない。
のだが・・・。
「何かポンコツ女神さんによればよく分かんないらしいです」
「マジでポンコツね、あの女神」
そう。その理由は転生を司っている女神すらよく分からない。たまたま天界にて自分の近くにずっといた魂を転生させたに過ぎないからだ。
「さっき言ってたバン王国の国王はズイファって魔法使いでしょ。よっぽどパオゴローに優しくしてくれたのね。結局その人と約束したから魔王を倒しに行ってるんでしょう?」
ユイズはパオゴローがこの橋を渡る前、フィル王国の国民達に放った言葉が忘れられなかった。
『僕は優しくしてくれたズイファ国王さんとの約束を果たすために魔王を倒しにいくです。そのためには鬼にも悪魔にもなります』
こう言った時のパオゴローの表情は、いつもと同じように飄々としていたものの、それでもいつもと雰囲気が違うと感じたのだ。
するとユイズによる質問を聞いたパオゴローは答える。
「だって前世がゾウっていうことを正直に言った僕のことをずっと優しく育ててくれたです。たまには厳しい修行はありましたが、それが終わったら一緒にご飯を食べてくれました。良い人です」
「だけど・・・」と彼は表情をやや暗くして続ける。
「ズイファ国王さんの家族は魔物に殺されてしまいました。泣きながらお墓に手を合わせたのも知ってます。だからズイファ国王さんのために魔王を倒します」
「・・・そうなんだ。じゃあ魔王を倒して、ズイファ国王に良い報告をしに行かないとね」
しかしパオゴローはあっさりとそれを否定する。
「いや、それはできないです。ズイファ国王さん、もう死んでるか死にかけてるかどっちかです。病気を患ってるです」
それを聞いてユイズは呆れたようにため息をつき、揺れる橋の上でまた一歩踏み出す。
「アンタってやっぱり普通じゃないわね。そんなトーンで話す内容じゃないでしょ」
「だって仕方ないです。生き物はいつか死にますから」
このように会話をしながら一歩ずつ前へ前へと進む彼らだが、じきに橋の上で待機していたギムとも合流し、とうとうこの大きな橋を渡り切った。
そしてクゥア王国へと入った彼らの目に入ったのは。
「・・・何にも無いじゃないここ。草すら生えてないし・・・」
警備をしている魔物がいなければ草木も生えていない、ただ砂と石だけが広がっている光景。それに橋を渡っている時もそうだったのだが、靄によって遠くの方はあまり見えないという有様だ。
「仕方ないですね。とりあえず進みましょう。ギムさん、その袋の中には食糧と水はありますよね?」
「ガウ!」
ギムは背中に載せていた袋を開けると、パオゴロー達に見せる。
「ま、とりあえずこの王国を解放すれば良いんでしょ?さっさと倒して終わらせますか」
「ズイファ国王さんはそう言ってました。・・・もし違ったら殴りに行きます」
「やめなさいよ、ズイファ国王ってもう死んでるかもしれないんでしょ?」
こうしてパオゴロー達は、まだ解放されていない最後の王国であるクゥア王国を進んで行くこととした。




