第22話
「みんなァ!今日はわざわざ来てくれてありがとうォ!今からこの人間ちゃんの魂を肉体から取り除いて、新しい形にしてあげるわよォ!」
「それではこれよリ、リチェピワ女王陛下によル、“魂の洗浄”を始めル!」
宮殿の前に設置されているステージ上に現れた魔物。それは妖艶な雰囲気を醸し出し、盛り上がり続けるフィル王国の魔物と人間達の憧れの的である、リチェピワというこの国の女王だった。
彼女は2メートルほどあるだろうかその長身の背中から生えている翼を広げて、ステージを見つめている魔物や人間達に叫ぶ。
「ユイズさん、あれがこの国の女王を自称してる魔物ですね」
「そうみたいね・・・」
そして勇者であるパオゴロー達はその魔物のことをじっと見つめるが、ある違和感に気づいた。
「ねえ。あの魔物、他の奴よりも片言ではない気がするけど、ドヌ王国にいたライシとかに化けてたのと同じタイプ?」
ユイズは周りの魔物や人間に聞こえないように気をつかながらパオゴローにこう尋ねる。小声ではあるが、幸い、見物客はリチェピワの登場に盛り上がっているようで周囲のことにはそこまで神経が働いていないようだ。
「どうでしょうか・・・?でもあの魔物、翼が生えていますし、尻尾もあるから化けてるわけではなさそうですが・・・」
パオゴローがこう漏らした通り、リチェピワという女王は一見すると美しい人間の女性に見えるものの、魔物然とした箇所があるのも確かだ。
例えば、パオゴローが指摘した通り、翼や尾が生えている。それに雰囲気も人間とは異なる。
「だとするとあれは別に化けてるわけではないってわけね・・・」
そう話したユイズとパオゴローがステージから目を切って互いの顔を見合った、そのわずかな瞬間。
ドンッ。
前方のステージの方からは鈍い音がした。
「・・・え?」
そしてユイズもパオゴローも驚いて視線を前へと戻すとその目に入ってきたのは、ステージ上に横たわって倒れている男性と、その隣で黒い棍棒を手に持った笑顔のチェピワの姿だった。
「ちょ、ちょっと!マジ!?撲殺したの!?」
「・・・!」
2人が驚愕の表情を浮かべていると、しかし見物客の魔物はさらに大声で騒ぎ、それらのそばにいる人間は大きな拍手をしていた。
「さァ!これでこの人間ちゃんの魂はこの肉体から離れてェ、クゥア王国のディマイラリズの場所へと送られたわァ!そして新たな魔物の出来上がりィ!仲間が増えることを・・・喜ぶのよォ!!!」
リチェピワのこの一言で、さらに場は沸く。
・・・パオゴローとユイズという2人を除いて。
「・・・どうするの、パオゴロー。今動く?」
「くっ・・・」
パオゴローはどうするか悩んでいた。
たとえこの数の魔物であっても、自分とユイズの手によれば時間はかかれば一掃できる可能性は高い。もしくはここを今すぐ離れ、そして屋敷にいたギムを連れ出し、領土中に杭を打ち込んでユイズに結界を展開させれば一瞬で倒せるのだが・・・。
しかしどの作戦も不確定要素が多い。特に無防備の人間もたくさんいるとなれば行動に注意しなければいけない。
「もう・・・!どうするのよこの状況・・・!」
そしてその悩みはユイズも同様であった。彼女が考えていたこともパオゴローとほぼ同じではあったのだが、勇者には話していない最終手段があった。
それはドヌ王国で体内の魔力が暴走した時のような姿に変化をすること。
女神から任意で変化できると説明されたそれだが、しかしリスクも含まれているし、パオゴローにはそのことを黙っている以上、いきなり姿を変えられない。ユイズにとってこれは本当の最後の手段でありまだ彼に話すべきことでは無いと思っていたのだ。
それに仮に姿を変えたところで、パオゴローの考えと同じく人間の安全面は担保できない。となると彼女もどうにも動けないという状況だったのだ。
それでもほんの僅かな時間考えた後、パオゴローとユイズは同様の考えを導き出した。
「ユイズさん、まずはここを出て屋敷に戻りましょう。戦うならギムさんも必要です」
「同感ね。ここで戦闘を始めたら人間にも危害が及ぶわ。ギムのところに戻って作戦を練りましょう」
そう話した2人が周囲から変な目で見られないようにと、少しずつゆっくりとした足取りで後ろに下がっていたところ。
「そう言えばァ!今日はここに他国から来た侵入者がいるみたいよォ!」
「「!!」」
リチェピワが胸を張り、大声でこう叫んだ。
「しかもそれは二代目勇者とその仲間である魔法使いだってェ!みんなァ!勇者と魔法使いよォ!」
この言葉に、見物客はざわつき始める。
「ちょっと・・・嘘でしょ・・・」
「まあやっぱりバレてましたか・・・。あのガジジスとかいう魔物が伝えたんでしょうね」
2人は足を止めステージ上に立つリチェピワを見ながら困惑をする。そうすると、リチェピワも彼らの方を指さしながらさらにこう続けた。
「そこにいるのは分かってるのよォ。ちょっと宮殿内でお話しでもしようかァ?」
喧騒はピタリと止まり、魔物や人間はパオゴロー達の方に目を向ける。
「仕方ないですね。ここは言うことを聞きましょう」
「了解。アンタがそう言うほどの状況ってことね」
パオゴローとユイズは大人しく前へと足を進め、フィル王国の宮殿へと入ることとした。
◇
「あなたが二代目の勇者ねェ。カッコいい人間ちゃんだわァ。リチェピワはこの国の女王、サキュバスっていう種族よォ。よろしくねェ」
両手を拘束されて床に座らされている状態のパオゴローに、リチェピワは顔を近づけて舌なめずりをする。
「そしてそっちは・・・魔法使いねェ。久しぶりに見たけどやっぱり気に食わない匂いをしてるわァ」
そしてパオゴローの隣にいるユイズも両手を拘束されているのだが、彼女に対しては、リチェピワは冷たく目を向けるだけ。ちなみにパオゴローの剣は当然のごとく没収されてしまった。
ここはフィル王国の宮殿内にあるリチェピワが寝泊まりしている部屋らしい。煌びやかな装飾品だらけなのだが、大きな鏡の横には人間の骸骨らしきものも飾られている。
この部屋に入る際、リチェピワは部下の魔物は扉の前に置いておき、中には入らせなかった。彼女曰く『勇者が警戒しちゃうからァ。本音で話したいのゥ』ということらしい。
「それでェ・・・ここに来るまでにどれだけの国を解放させたのかしらァ?」
見るからに高価そうなイスに座り直し、さらに漆黒のドレスを着て足を組むリチェピワは、目の前にいるパオゴロー達に尋ねる。
「残すはこことクゥア王国だけです。さっさと君を殺したいものですね」
「右に同じ。以下同文」
「・・・ふふッ!まァ、知ってたんだけどねェ。その辺の情報は全部、魔王様から聞いているからァ」
「魔王・・・」
ユイズがこの単語を呟く。
魔王。
諸悪の根源であるこの存在だが、ここまでその名を聞くということは実はそこまで多くなかった。
各国を国王・女王として占領している魔物というのは、あくまでも魔王から派遣されたもの。そのため、その魔物達は魔王についていくつか情報を知っているはずなのであるが・・・。
「言っておくけどォ、レヤ王国の国王ゲユユパやドヌ王国の国王ガオノスケは魔王様のことよく知らないわよォ。あそこは魔王様のいる場所からも遠くてそこまで重要視されてない場所だしィ」
「確かにその2体は魔王についてどうのこうの話すことは無かったですね。ま、そんなこと話す暇もなく僕がボコっておいたんですけど」
こんな状況でもパオゴローは動じず、いつものようなトーンでこう話すが、それを聞いたリチェピワは高笑いをする。
「さすがねェ!それぐらいじゃないと勇者とは名乗れないわァ!」
「ちょっと。アタシからアンタに聞きたいことがあるんだけど良いかしら?」
その様子を見たユイズがリチェピワについてこう聞くと、それまでの笑いをピタリと止めたリチェピワはユイズの方を睨む。
「魔法使い。あなたは喋っちゃダメェ。リチェピワが興味あるのはこの勇者だけだからァ」
「・・・分かりました。じゃあ僕の質問には答えてくれますか?ここに前の勇者は来たんですか?一度解放された歴史はあるのですか?」
するとパオゴローがすぐに尋ねる。
「うふふッ。好みの勇者の質問には答えてあげるゥ。そうねェ、この国はァ・・・」
こうして、リチェピワは初代勇者がこのフィル王国に来た時の話をゆっくりと始めた。




