第21話
月夜が照らすフィル王国に滞在をしている勇者一行。
宿泊している屋敷の一室ではパオゴロー、ユイズ、ギムが顔を突き合わせて話し合いを行っている。
「本当に屋敷までの道中では魔物と人間達が仲良くしていましたね。遠目で見ていただけでしたけど不思議な光景でした」
彼らはこの屋敷の主であるケンタウロスのガジジスと、それに仕えている人間のピヤンサムにもてなしを受ける前、道中にて国の様子を探っていた。しかしそこで目にしたものは想像を絶するものであったのだ。
「本当にどうなってんのかしらね?」
「ガウガ・・・」
パオゴロー達はできるだけ小さな声で言葉を交わす。
「で?どうするのパオゴロー?こうなると意外と難しいと言うか、動きづらくない?」
ユイズが不安そうな顔をして尋ねるがこの指摘は正しい。パオゴローにとっては国民が魔物の圧政によって苦しんでいる方が動きやすいのは確かだろう。
それにそもそもどうして人間と魔物が友好的なのかもまだ分からない状況でもあるのだ。
「ピヤンサムさんの話を信じれば、魔物による支配の方がここの人間にとって良い状況なんでしょう。だけど魔物側の本心が分かりません」
そしてパオゴローは「このフィル王国にいる魔物全員がギムさんのように優しいのかどうか・・・。うーん・・・」と言うと頭を悩ませる。
「ギム的にはどんな感じ?ここにいる魔物の雰囲気は?」
ユイズが今度は隣にいるギムにこう質問する。魔物のことに関してはパオゴローやユイズが理解しようとすることにも限界がある。やはりこういう時は同じ魔物のギムに頼ろうと言うのだ。
「ガウガウ・・・」
「。・・・『オレ様にとっても微妙だ。ただ言葉にできない気味悪さを感じるぜ』って言ってんのね」
「ギムさんまでこう言うとなるとお手上げですね」
勇者一行は迷う。現状、この王国における本来の王家にはまだ出会えていないし、そもそもピヤンサム以外の国民とも話せていない。
フィル王国についての情報を得るにはピヤンサムの話を聞くしか無いという状況なのも彼らに手詰まり感を与えているのだ。
そしてさらに動きづらい理由というのが・・・。
「この前のおばあちゃんの話を聞いた感じだと、初代勇者のことを良く思ってないみたいよね」
そう。ピヤンサムは初代勇者のことを“あの女”呼ばわりしていた。
「どうしますかね・・・」
頭を悩ます彼らだが夜は更けていく。次第を眠気を覚えたパオゴロー達は、交代で念のための監視役を務めて体を休ませることにした。
◇
翌日。
パオゴローとユイズは、朝早くからピヤンサムから「せっかくだからフィル王国の様子を見に行っておいで」と言われて素直に屋敷を出た。
「ピヤンサムさん、妙に親切すぎますよね?」
「そうよねえ。でも今は言うことを聞いてあまり変な動きはしない方が良いわね。一応ギムは屋敷に置いておいたんだけど、見方によっては人質だもの・・・」
「何度起こしても起きなかったですもんね、ギムさん。まだ気持ちよさそうに寝てるです」
2人は小声で囁き合いながら歩く。そしてしばらくして大きな街に出たのだが、そこは想像を超えるような景色が広がっていた。
これまでの王国では聞かれなかった賑やかな喧騒。それも、その声は魔物だけでなく、幸せそうな顔をしている人間達のものも含まれている。
「・・・なるほど。こういう風になってたのね・・・」
昨日は遠目で見ていた人間と魔物の姿。しかし近距離で見るとある特徴を目にすることができた。
街にいる人間の腰に縄のようなものをくくり付けられており、魔物達はそれを掴んでいるのだ。
「“友好関係”では無いわよね、これ」
「ペットと飼い主って感じですね」
コソコソ話しながらパオゴローとユイズは引き続き様子を窺う。ただどの人間達の顔も非常に明るく、悩みなど無さそうな表情をしていることにも気づいた。
「何か気味悪いわね・・・」
「みんな目がキラキラしてますね」
「それにしても・・・」と言ってユイズは周囲を見渡すが、この街というのは魔物同士で商売をしている。どうも物々交換のようだが、これは他の王国の魔物には見られなかった行動であり、それにもユイズは言いようのない不気味さを感じていた。
それでもなお、2人は街の中を歩いていると。
「おイ。お前ラ。ちょっと待テ」
パオゴロー達の前に、ぱっと見は人間のような容姿なものの、背中には大きな鳥の翼を生やしたような姿の魔物が立ちふさがった。
「お前達、あまり見ない顔だナ?どこの奴ダ?」
素直に足を止め、その魔物の前で背筋を伸ばすパオゴローとユイズ。するとユイズが一歩前に出て落ち着いた様子で口を開く。
「アタシ達は、この街のそばにあるガジジス様とピヤンサムさんの家に住み込みで働いている使用人です」
そして彼女はパオゴローと共に深く頭を下げる。
これは事前にピヤンサムから言われていたアドバイスを基に、パオゴローとユイズで練った嘘と事前に打ち合わせていた行動の一部。
ピヤンサムからも『魔物様から声をかけられて身元を聞かれたらガジジス様の使用人と答えな』とあらかじめ助言を受けており、さらにいくつかシミュレーションをしていたのだ。
おまけに。
「使用人のユーズラです」
「同じく使用人のゾウタローです。僕らは買い物に来ています。ガジジス様に美味しい食事をふるまうです」
2人は偽名も用意していた。
「・・・何ダ、そうなのカ。ガジジスのところの使用人なのカ。悪かったナ、行って良いゾ」
2人の発言を聞いたその魔物はあっさりとこう答えて簡単に道を開けた。そしてパオゴロー達は再びお辞儀をし、前方へと歩き出す。
「(・・・さすがにちょっとビビったわね)」
「(ユイズさんは堂々としてて良いですね。風格があります)」
「(まあ誉め言葉だとして受け取っておくわ)」
その後も変わらずひそひそ話をしながら街を歩くパオゴローとユイズ。しばらく周辺を見て回ってみたが、しかし分かったことは僅かなことだけだった。
「人間の腰に縄がくくられてて魔物がそれを持ってる。魔物達は物々交換のような形で商売を行っている。それだけしか分からなかったわね」
「そうですね。とりあえず帰りますか」
そろそろ昼になるというので屋敷に帰ろうとする2人だが、段々と街の人間達がせわしなくなっていることにも気づいていた。
するとたまたま横を通りがかった魔物達の言葉が、彼らの耳に届いてくる。
「あの家の人間ガ、ようやく魔物になるそうダ。これから“魂の洗浄”があるらしイ。俺達も見に行こウ」
「そうだナ。もう何年も使用人をしていたのだろウ?ようやくこちらと同じ存在になれル」
多くの魔物や魔物が掴む縄を付けられた人間が進んで行く方向。同じようにそこに向かって進む、先ほどの言葉を口にした魔物が通り過ぎた後、ユイズはパオゴローに声をかける。
「・・・聞いた?今の言葉」
「はい。とんでもないこと言ってましたね」
「どうする?」
こう聞かれたパオゴローはじっと前を見据え、力強くこう口にした。
「行くしかないです。多分、そこにこの王国の本当の姿があります」
◇
パオゴローとユイズは魔物達の後ろをひっそりとついて行く。
「これ、もしかして宮殿?」
足を止めた彼らの目の前に現れたのは綺麗な宮殿。大きさは他国のそれと比べると小さいのだが、手入れはされているようであるし、建物等に使われている素材もかなり優れていると一目で分かるぐらいのもの。
そしてその宮殿の真ん前では木で組み立てられたステージのようなものがあり、その上にいくつか人影が見えた。
「あ。あそこに人がいるです」
人間や魔物といった見物客が密集しているところでパオゴローがその人影のことを指さし、隣にいたユイズもじっとそれを見つめる。
ステージ上で大衆からの注目を受けていたのは、何かを待ちわびているような表情をしている人間の若い男だった。
「な、何をするつもり?」
ユイズが慌ててこう声を漏らすと、にわかに見物客が騒ぎ始めた。そのステージの上に魔物が現れたのだ。
「みんナ!これより今月の“魂の洗浄”を始めル!まずはこの男の魂を女王陛下が取り出し、隣国・クゥア王国にいるディマイラリズ様に送ることで新たな魔物として生まれ変わるのダ!」
その魔物が叫ぶと、ところどころで雄たけびのような声が上がり、見物客はさらに盛り上がる。
するとステージに立たされている男性は何かを焦らされている様子で「早くしてください!じ、自分も早く魔物様になりたい!」と大声を出す。
そして彼が放ったその言葉はパオゴロー達からすれば到底信じられないような内容のものであり、困惑を隠しきれない。
「マ、マジ?これ!?」
「・・・!ユ、ユイズさん。あの魔物は・・・」
パオゴローはステージ上にまた別の魔物が姿を現したことに気がついてユイズの耳元で囁くが、その声はさらに歓声でかき消される。
「みんなァ!今日はわざわざ来てくれてありがとうォ!今からこの人間ちゃんの魂を肉体から取り出してェ、新しい仲間にしてあげるわよォ!」
それは妖艶な雰囲気を醸し出し、盛り上がり続ける魔物と人間達の憧れの的。
背中から黒い翼を生やし、頭からは2本のツノが伸びている、2メートル近い身長の美しい女性。
「それではこれより、リチェピワ女王陛下による“魂の洗浄”を始める!」
フィル王国の女王、リチェピワがその姿を現した。




