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51. 嘘から出た真

大変遅くなりまして、申し訳ありません。

現在リアルのお仕事の多忙さで更新が安定して行えません。

待ってくださっていた方ありがとうございます。



「トーコ、ちょっといいか」

 トーコの部屋の扉が、控えめにノックされたのは、異変を悟られない為にヤマトが先にに隣の自宅に帰宅した直後のことだった。

「うん? どうぞ」

 それにカレーが完成したのかと思いながら体を起こす。

 ドアから顔を出したのはタケル。

 そしてその後ろからエリシアも姿を見せた。

「調子、どうだ?」

「あー。なんかちょっとすっきりした。少し寝たし」

 心配そうな顔のタケルに苦笑する。

 ヤマトにしたように謝罪を口に仕掛けて、こちらを見る二人の表情に言葉をとぎれさせる。

「……ああ。やっぱりお節介だったかぁ」

「いや、うん。腹をくくるいい機会だったよ」

 何かを決めたようなそんな顔をしたタケルと、うっすら頬を染めたエリシアに、トーコは優しく微笑んだ。

「三人にお芝居だったって伝えに行く?」

 強引にやらせた恋人ごっこ。

 それが、取り巻き三人の本気の失恋を見て、罪悪感に揺らいだのは知っていた。

 知っていて目を逸らそうとしていた。

 だけど。

(タケルが、同じ様に目を逸らして状況に甘んじるとは限らないよね)

 タケルは、自分に嘘をつけない人間だから。

 エリシアにとっての最高の勇者であり、トーコにとってのかけがえのない幼なじみなのだから。

 辛いこと、きついことを、困難につまずいても、必ず立ち上がり、自身が傷だらけになろうとも、成したいことを成し遂げる人。

「いや、三人には悪いけど、このままで行く。ただ…」

「うん?」

 神妙な顔で答えて、ちょっと言葉につまり、深呼吸をする。

「お芝居を、本当にすることに、した」

「……」

 背筋を伸ばして、真っ直ぐにトーコを見ながらも、頬を紅潮させ言い切ったタケルに目を瞬く。

 次いで視線をエリシアに移すと、真っ赤な顔で恥ずかしそうに頷き返された。

「つまり、告白して、本当に恋人になった、と」

「うん。まぁ、そういうこと」

 照れながらも嬉しそうなタケルに驚くと同時に片手が枕を掴んでいた。

「国の方にはこれから話したりしないとだし、まだまだ問題が多いんだけドッ!!」

 言い掛けた言葉がぼすっという音と共に不自然に途切れた。

「ぶは、いってぇ! 何すんだ、トーコ!」

 いきなり枕を投げつけられたタケルが声を荒げるのに対し、トーコは呆れかえった顔をしていた。

「この阿呆。朴念仁め!」

「ええ! 何で?」

「え、あ、あの、お、おねえさま?」

 間で困惑しておろおろするエリシアを後目に、ため息をこぼす。

「タイミング的に考えて、告白したのって、うちの台所でしょ」

「うん、そうだけど」

「阿呆」

「だから何で」

 ここに来た時間、二人が今まで過ごしていた場所を思い言ったトーコに、二人はクエスチョンマークを飛ばしくっている。

「エリシアの特異な身分からして、告白とプロポーズが近いものだってことはわかってるでしょうが。それをムードも考えず、一庶民の、カレー臭漂う台所でするか、普通」

「あ…」

「もうちょっとあるでしょうが。せめて外に出るとかさぁ」

 一国の姫のプロボーズの記憶がカレー臭。

 しかも自分ち。

 そのことに気付いた瞬間、片手が枕に延びていた。

 その善し悪しの前に、なんとも言えない申し訳なさが先に立ったトーコは、反射的に枕を投げていたのだった。

 それをやったのが、双子扱いの弟分であったことがますますいたたまれない。

「高級レストランうんぬんは言わないけど、乙女の夢粉砕」

「あう…あの、え、エリシアごめん」

「え、い、いえそんなこと」

「はぁ」

 やっちまったと顔に書いてあるタケルがおたおたと手を振り回すのを見て、エリシアは目を白黒させている。

「私は、そういうことはまったく気にしませんし、う、嬉しかったですから」

「うん多分、エリシアはそうだろうと思った。あんまり気にしないだろうと。悶絶するのはタケルだけ」

「ああぁぁ…」

「ばーか」

 頭を抱えてうずくまり、本当に悶絶するタケルを見て苦笑し、改めてエリシアを見る。

「で?」

「はい?」

「こんなんでいいの?」

 ちょいっと足下を指さしながら聞くと、満面の笑みが返された。

「はい」

 はっきりと返された返答に、トーコも笑う。

「そう。ならいいや。うん。おめでとうね」

「はい! ありがとうございます、お姉さま」

 微笑みあう二人は穏やかな表情だ。

(これは本心、だよな)

 こっそりと観察する。

 またトーコの苦しみを見過ごすことがないように。

 気付かなかった。

 気づけなかった。

 自分だけ先んじて恵まれた再会に、トーコがなんとも思わないわけがなかったのに。

(たぶん、ヤマト兄よりも、ミコトよりも、トーコに近いのは俺だ)

 いや、もっというなら、きっと。

(ずっとトーコが慕い続けるサクヤ兄よりも)

 それなのに、ここ最近の自分はどうだろう?

 トーコのことを見失ってはいなかっただろうか。


 エリシアが好きだ。

 トーコが大切だ。

 それはタケルの中でどちらも重要な感情。

 どちらもけして失えない。


「なあ、トーコ」

「うん?」

 カーペットの上に悶絶で蹲った姿勢から、ごろりと寝転がり、見上げる。

「今度、状況が整ったら、一緒にエリシアの世界に行ってみない?」

「は?」

 唐突な申し出に、トーコの目が瞬いた。

「まぁ!! それはいいアイデアですわ! 是非いらして下さい!」

「え、ちょっと。それできるの?」

 大喜びでトーコの手を握るエリシアに、驚きながら問い返す。

「うん、できるはず。だよな?」

「はい!」

 その答えにきょとんとしたまま、トーコが小首を傾げる。

「別にいいけど。急になんで?」

「うん、あのさ」

 よっと上体を起こして座り直し。

「これから俺さ、あっちとこっちを何度も行き来することになると思うんだ」

 エリシアの相手として認められるためには。

 また、その力となるためには。

「それで、トーコにも向こうを見て、知っていて欲しいなって」

 ぽりぽりと頬を人差し指で掻いて言うタケルを見つめ返す。

「他の仲間も紹介したいしさ」

 タケルが口にしたのは理由の半分。

 三兄弟を護ることを理由に、閉ざされた人間関係がトーコにはあったことをタケルは知っている。

 だからこそ、自分に連なるいくつもの人の縁に、トーコも繋がれないだろうかと思うのだ。

 この感情を、感覚を言葉にするのは難しい。

 タケルは、昔からとても勘が良く、こればかりは他の兄弟より優れている。

 その勘が囁く。

 

 トーコをかの地へ、と。


「どう?」

「つまり、ご挨拶周り?」

「うん?」

「だから、うちの弟をよろしくお願いしますって」

 自分で言葉に迷いながらの誘いに、トーコが何を感じ取ったのか。

 少し茶化すよう言ったトーコに笑みを返す。

「はは、それもいいな」

 きっとみんなびっくりするだろう。

 そして、きっと、自分が信頼した仲間達ならば、この存在を受け入れてくれるに違いないという確信がある。

「状況が整った頃って、いつごろよ」

「今度はもう、リアルタイムで同じ時間が発生するはずだから、夏休みくらいがベストかな」

「タケル、その夏休みとはいつごろですか?」

「ああ、大体一ヶ月後くらい」

「それでしたら、気候的にも最適です」

 ここにいる誰よりも嬉しそうなのはエリシアだった。

 二人の間で交わされる会話に、食い気味で入ってきては、返された言葉に満面の笑み。

「確か、北国なんだっけ?」

「はい。一年の三分の一は雪に包まれる冬の国です。ですが、一ヶ月後なら、ちょうど一番暖かい頃で、緑溢れる季節です」

「それでも、結構涼しいんだって言ってたよな」

「それは避暑に最適だね」

「はい!」

 目をきらきらさせるエリシアに苦笑して、少し考えてから、ふむ、と頷く。

「うん、お邪魔してみようかな」

「本当ですか!? やったぁ」

 笑顔で首肯したトーコにエリシアは諸手をあげて喜び。

「あちらに帰ったら、すぐにでも準備を始めます」

「あー、そんな急がなくていいから」

「でも」

「つか、そうやって興奮しまくって、向こうの人にいらん期待を煽らないように。ハードルあげまくって、来たのが普通の小娘ではがっかりさせるでしょ」

「そんなことは…」

「いや、エリシア、俺からも頼むけど、できるだけ騒ぎにしないでくれ」

「どうして」

「注目させたくはないし、な。あちこちに興味を持たれるのは勘弁」

「そうそう、こちとら普通の女子高生なんだから、身を護る手段もないしね」

「あ……」

 その二人の言葉で、はっとしたエリシアがトーンダウンする。

「ごめんなさい、私」

「ああ、いいからいいから」

 俯くエリシアの頭を無造作に撫で、苦笑する。

「それより、私が行っても迷惑じゃない?」

「そんなことあるはずがないです」

「歓迎してくれる?」

「もちろん」

「ありがとう。だったら、こっそり遊びにいくから、エリシアの大好きな場所に連れて行ってね?」

「大好きな場所?」

「内緒の隠れ場所とか、タケルとの思い出の場所とか?」

「おい待て!」

「っはい!!」

「エリシアも待って!」

「もちろん、エピソード付きで! 恋バナ大歓迎!」

「はぁあっ!?」

「もちろんです! 聞いて下さいね、お姉様!」

「エリシアぁぁ……」

 タケルの焦った声などどこ吹く風で楽しげに笑いあう二人に脱力する。

「さぁ、そろそろご飯にしよう」

「……そうだな」

「そうですね!」

「エリシアの作ったカレー、楽しみだね」

「お口に合うといいんですが」

「大丈夫大丈夫」

 それまでの話を断ち切り、食事を促したトーコの言葉で、キッチンに漂っていた美味しそうな香りを思い出した二人が、空腹をも思い出して立ち上がる。

 それに併せて、トーコもまたベッドから両足を床に下ろす。

 そして三人は階下に向かった。

 美味しい食事でこの波乱含めの一日を終える為に。




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