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毒樹の果実  作者: ヒゲ博士


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逆襲対処

 パソコンに映し出されているのは、駐屯地内にある何処かの倉庫だ。古びたコンクリートの壁とアスファルトの床を、天井の角から撮影しているようだ。

 画面には灰色のコントラストに1点の違和感がある。身体を縄で縛られ、椅子に巻きつけられている男がいるからだ。彼の名前はアララギ。


【貴様ら…わかっているんだろうな。】


 鋭い目つきに憎しみがこもってる。あたりを見回すが、すでに人はいない。それは僕の指示であるからだ。

 勝者の余裕を持ち、僕は接続されたマイクに口元を寄せて会話を試みる。


「お疲れ様です。アララギさん。」

【……真壁3曹。どうせ君だとわかっていた。いつかやり返す。君はそういうタイプの人間だからな。】


 やはり上から目線な言動でうんざりしてしまう。なんなんだ。この胸のザワつきは。

 鬱陶しい心の機微には蓋をして、僕は会話を続ける。


「どんなタイプの人間でも構いませんが、一つ、お伺いしたい事があります。」

【答えると思うのか。】

「ご自由に。答えて頂けなければ、僕が調べるまでです。PZ-731とは何のことでしょう。」


 マヒルを追いかけていた事は予想はついていた。他国のスパイという発想があるのなら、尾行や追跡は妥当な判断だ。


 じゃあなぜ他国のスパイという発想になったのか。


 それはきっとPZ-731と呼ばれる薬品に起因していると、僕は考えたからだ。だがアララギは眉一つ動かさずに、無可動な顔で首を傾げている。


【それが何なのかわからないが…】 


 そうかそうか。なるほど。これは長期的な戦いになりそうだ。


「多分ですけど、あなた、ムタさんに使ったんじゃないですか?」

【どうだろうね。】

「Phobos-Zero。恐怖消失薬ですっけ。こりゃなかなか人道的な薬です。治験しないと成果も表れない法律違反な薬品。こんな戦争準備みたいな薬作っちまえば、そらスパイを疑うのも無理ないね。」

【......。】

「副次的な作用で腰椎椎間板ヘルニアと腰椎変形症は治ったみたいですが、まさかムタさんがあんなに暴れちゃうなんて。」


 アララギは黙り始めた。それどころか力なく頭を垂らし、視線を床から外さない。だから呼びかけてみる。


「わかってますかーアララギさん。巻き込んだのはあなたですよ。」

【……そうだな。確かにそうだ。】


 そしてゆっくりと顔を起こす。彼の目は赤く、血走っている。


【わかっちゃないな。お前は。】


 アララギの肩や腕に力みが入り込んで、筋繊維が膨張を始めた。

 彼の常軌を逸した表情を見て、心臓が締め付けられた。そしてサヤの情報を思い出す。アララギの背筋力は3ケタ台。ベンチプレス200キロを上げる怪物だと言うことを。


【あれほど超人的な力が発露するとは予想外だ。精神的な部分で作用するので、人格者を選んだつもりだが、まさか暴れ回るとは私も考えにはなかったよ。】

「てめぇ…。」

【なによりも、貴様が邪魔だったのだ。】


 突然の指摘に、思い当たる節がある。


【ムタの暴走は謎だったが…まさか、お前が全ての原因だったとはな。】


 やはりバレていた。それはこの事件に巻き込まれた時から思っていたことだったが、改めて指摘されると気が滅入る。


【その理由まではわからなかった。だがそれもあの男を捕まえるまではだがな。】

「…なるほど。それで黒木か。」

【黒木とマヒルの繋がりはこちらも確認している。うまい返しだったなぁ、あの時は。本名である夕里を使わず、マヒルというネットネームを使ってミスリードし、調書を終わらせたんだから。】


 アララギは縄を筋肉膨張だけで千切り、自由を獲得してしまった。

 2つの足で立ち上がり、監視カメラに視線を流す。見ているぞという圧力がモニター越しから溢れていた。


【閉鎖空間に閉じ込めて、ムタの所在を推理させる予定だったが、まぁいい。腹を割ってやる。俺達はムタを追いかけていた。やつの中で恐怖消失薬が正常に効いていたからな。とは言っても人間性を歪めてしまうようだが。それはコンセプトから外れない。それでいい。復讐でもなんでも結構だ。どこへなりといき、くたばってくれて結構。】

「おまえ…。」

【だがアイツの身体は欲しい。警察になど取られて言い訳がない。】


 言葉の締めに指を弾いて音がなる。耳心地のいい音が部屋に響くと、勢いよくドアが開いた。


「中に入れおらぁあ!!」


 竹内と後輩ちゃんずが拘束され、部屋に放り込まれたのだ。その後ろから警務隊腕章を巻いた男たちが入り、ドアの前で壁を作った。


【ふむ…段取り良くできた。まさかスマホを使って仲間を誘い、ここまで組織的な動きにしあげるとはな。】

「泳がされたか。」

【まぁね。予想よりも動きは悪かったが_______あ、変なことしたら全員リンチだからな。】


 やはり幕僚課程のエリート。3曹程度の知能では太刀打ちできなかった。


【しかし謎が残る。まずマヒルの正体だ。探しても探しても敵国との繋がりが見えん。それから復讐の経路だ。神栖連合が襲撃した理由が不明だ。そしてお前がなぜ復讐の最終ターゲットになっている。】


 アララギは俺に質問をぶつけているのだろうが、こちらとしても答えを用意できない部分がある。


「なんていった?」

【二時間前にこの駐屯地付近で、ムタの姿が目撃されたんだ。加えて、お前名義のスマホの復旧が確認された。恐らくだが復讐のターゲットとして狙われている。繋がりを考えれば妥当な答えだろう。】


 後輩ちゃんズも、竹内も、この部屋に入ってきた警務隊すら俺を囲んで視線を流す。そうか。これで黙秘は無理だな。


【それでは吐いてもらおうか。嘘の真実をな!!!】



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