準備体勢
画面の文字が熱を持って目に焼き付く。信じられないような情報量とそれを行える巨大な力を前に、僕は身体が震えてきた。
全ての神経がパソコンの画面へと向いているが、ドアのノックが現実へと無理やり引きはがす。
それは竹内による、緊急事態に見舞われた時の合図だ。
「先輩…めんどくさい人が来ましたよ。」
ドアの向こうからヒソヒソ声が届くと、廊下を突き抜ける怒号が飛ぶ。その瞬間、後輩ちゃんずの口が閉ざされた。
だがうちの竹内は物が違う。恐怖に対してまわれ右をするかのように、態度を180度変えて、猫撫で声を使い、相手を傀儡にしようとした。
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ〜先輩に満足してもらえるように、いつだって綺麗にして置か_______」
「ふん!見え透いた嘘言いおって。」
頭蓋骨が陥没するかのような音と、スリガラスのシルエットが示す。この状況に入り込める度胸があるのは、巨大な山澤2曹だ。
シルエットはドアの前で立ち止まり、囁く声が忍び寄る。
「……聞こえてるな。」
「はい。聞こえてます。」
その声に怒りなど孕んではいない。
「営内は今、アララギ警務官の掌握下にある。お前とムタの居室は立ち入り禁止。そしてニュースを見た。あんな修羅場で動けそうなのはムタくらい。そして居酒屋での珍事。どえらいもんに巻き込まれてるな。」
「いやはや。頭が上がりませんよ。」
「だとしてもだ。お前から話してもらわにゃ動きようもない。」
「……。」
「話せ。聞く耳はある。」
この人の口癖は僕らの心の支えだ。その一つが聞く耳はある。
だから僕は自分の全てをぶちまける意思が固まった。
「_______今から話す事を受け入れてくれるかわかりません。」
「かまわない。」
「…わかりました。その上で、頼み事も聞いてくれませんか。」
僕との会話を、山澤2曹は真摯に受け止めてくれた。無論頼み事も快諾とは行かずとも、すんなりと聞いてくれた。
ドアの向こうから、山澤2曹ではない若々しい声が語りかけてきた。
「真壁3曹のノートパソコンに送りましたアドレスから入りますと、取り付けたカメラの映像を見ることができます。タイムラグもほぼなし。駐屯地のWiFiは性能がいいですね。」
「そうなのか…ハイテク機器はさっぱりだからな。頼むぜ通信陸曹」
「任してくださいよ山澤2曹。幕僚のエリートでも逆ハックされないようにしてやります。」
竹内を使って生活隊舎の内部、そして勤務隊舎の外側に私物の監視カメラを設置した。僕が言い出したことだが、いよいよもって犯罪臭がつよくなる。あと私物の監視カメラってなんだ。
「……真壁。お前の言う通り、サヤにも竹内にも指示を飛ばしてある。あとできることって言ったら。」
「1時間。1時間はアララギ警務官を抑えていてほしいんです。その間に、あの人の目論見とムタさんを止めてみせます。」
やることはわかっていた。やるべきことはわからなかったが、山澤2曹が肉付けしてくれたのだ。しかもこの人は僕の期待を大きく覆してくれる。
「1時間??なめてんなよ。1日くらいよゆーだわ。」
まるで船のように力強い支えに、僕は乗ることにした。
「だが1日が限度だ。それ以上はどうにもならん。」
僕は頭を振って事を進めていく。ドア向こうにいる彼らの士気は高い。信用していいだろう。




