車の買い替え検討中
こんな世界でも、君がいてくれたから———。
僕が自動車の運転免許を取得してから、ずっと付き合って動いてくれたカローラスポーツ。加賀谷や区長も乗せたりした。でも実は中古車で、最初期のハイブリッドモデルなのだ。至る所にガタが表れ始めている。特に…。
「もうバッテリー交換をしないとですね」
通っているディーラーで半年のメンテナンスを受けると、そんなことを言われた。
「そうですか…なんとなく感じていました。燃費が少し下がった気もするし、エンジンがかかっている時間も長くなってきて」
「それはもう完全に兆候ですね」
「買い替えた方がいいのかな…」
「バッテリーの交換もそれなりに費用がかかりますからねぇ。検討はされておいた方がいいかと」
カローラスポーツの代わり、ねえ。あんまり思いつかないんだよなぁ。走行性能は良いし、デザインもカッコイイし。
いっそのこと、521の主電動機とか入らないのかな…冗談ですヨ。
とりあえず、新車購入のことは頭の片隅に置いてディーラーを後にした。そして、家まであと少しの所で。
「えっ」
音もなく、フロントガラスにエンジンオイルが付着した。ワイパーを動かしてもオイルは取れない。そしてメーターにはエンジン警告灯が点灯していた。
まさかバッテリーよりも先にエンジンが逝ってしまうなんて。
「そんなに落ち込まないで。ほら、かなでのカローラスポーツだよ~」
「いや、それGRカローラでしょ」
カローラスポーツは積載車に積まれ、さっきのディーラーまで運ばれることになった。その後はちょうどこっちに帰ってきていた白鷺お姉ちゃんが迎えに来てくれた。
521系と227系の見分けはつく。だからカローラスポーツとGRカローラも見分けがつく。僕の観察眼を舐めないでもらいたい。
「かなで、マニュアル免許持ってるでしょ?私のカローラ使う?」
お姉ちゃんはシフトチェンジの真似をした。
「持ってるよ。持ってるけど教習所以来だから不安で」
「でも仁Dはたま~にマニュアルでしてるでしょ?」
「あれはゲームだから。マニュアルでする時はだいたい愉しむため。オートマの方が集中できる」
「おじいさまのムーヴを使うのではダメなのですか?」
隣でミズハが不必要な広告をビリビリと割きながら言った。
「それだとおじいちゃんの移動手段がなくなる」
「別に構わないぞ?」
「遠慮せずに使って」
おじいちゃんとおばあちゃんはそう言ってくれた。…軽でも別にいいんだけど、事故に遭った時に生きていられるかが心配だ。運転席・助手席のドアを閉めると鉄板が波打つ音がするし。
そんな時、僕のスマホに電話がかかってきた。
「…もしもし」
『よっ、新車検討中なんだって?』
電話の相手は桑元さんだ。…そうだ。車の取材をしているから、いろいろ知っているはず。
「そう。でもカローラスポーツよりも良い車が見つからなくてさ」
『別にそのまんまでもいいんだぞ?世の中には同じ車に乗り換える人がたくさんいるんだし』
めちゃくちゃ愛着を持っている人はそうするのだとか。考えたこともなかった。
『それに、今まで乗っていたカローラスポーツは初期型なんだろ?後期型の中古車を探せばもっと乗り続けられる』
「何か変更点はあるの?」
『そりゃあ燃費だ。パワートレインを変更したことで燃費が向上した。リッター27キロだったかな?それに外観も変更されているし、安全装備もてんこもりだ』
「…口で言われてもね」
『なら、いつか実物を見に行こうぜ。いつ空いてる?』
「ち、ちょっと待ってて」
僕のシフトはいつだったっけ。カレンダーを確認すると今週の金曜日が空いていた。
「今週の金曜日なら空いてるよ」
『ならその日の朝の九時半から行こう。場所は…時計台で。それでいいか?』
「オッケー。じゃあまた」
あっさりと予定が決まった。けど、桑元さんはどうやって現物を用意するのかな?広報車?レンタカー?
「で、かなで。どうやって行くつもり?」
「…あ」
移動手段がないのに、何をしてるんだ僕は、僕は!動揺のせいだろうか。
「はあ。でも安心して。私が送ってあげる」
「あ、ありがとうお姉ちゃん」




