EF81・初仕事
「久々ですね、ホームの掃除なんて。てっきり、入社直後にやるような仕事だと思ってました」
「加賀谷先輩も経験者だったんですね」
森本駅の一番線にて、私(加賀谷)と輪嶋くんはホームの掃除を任されていた。さっき言った通り、私はホーム掃除が久々だった。あの時は東金沢駅を担当していたっけ。
「それにしても来ないですね、金沢行きの電車」
「……そろそろ着いてもいい頃なのにね。どうしたんだろ」
腕時計を確認すると、今の時間は15時15分。ダイヤでは12分にここを発車することになっている。三分遅れとは。
『まもなく、一番線を、列車が通過します。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください』
「お、来そうですよ」
「ち、ちょっと待って。今アナウンスは何て言ってた?」
「え?まもなく列車が通過するって……ん?」
輪嶋くんも違和感に気が付いた。本来なら『通過』ではなく『停車』なのだ。
「貨物なんじゃないですか?ほら、あのヘッドライト、いつもの電車じゃないですし」
輪嶋くんが指を指した先に、天井くらいの高さに前照灯が取り付けられた列車が向かってきていた。
「この時間は貨物なんて走らないはず……」
「え?じゃああれは何なんですか?」
「もしかしたら———」
その時、ピンク色っぽい赤色の塗装が施された機関車が、轟音を立てながら目の前を通過していった。後ろにはAKの521系が四両分連結されていた。
列車はそのまま突き進んでいき、勾配を駆け上がっていった。
「………」
「………なんか、変でしたね」
「……そうだったね」
気のせいだろうか……機関車の運転士に見覚えがあった。
「お疲れさん、ミズハ」
「このEF81は、まだまだ現役ですね」
「そうだね。衰えを感じないというか、ほんとに国鉄時代の車両なのかなって思ってしまうくらいだよ」
無事に521を車両所まで運び込んだ。途中、森本駅で加賀谷と輪嶋くんがいたのは驚いたけど…。水の入ったバケツが近くにあったから掃除でもしていたんだろう。
その後、上からの指示でEF81をバック走させて521を車庫まで運び入れた。
「安心して。ちゃんと走れるようになるからさ。……ここの整備士は優秀だよ?30だって98だって、何なら1次車までやってくるから」
僕は車庫に安置された521に声をかけた。
敦賀からはるばるやってくるのを何度か見たことがある。塗装がAKやIR、HFとは違うから結構目立っていた。
「翫、お前非番だろ?なのにとんでもねえもの持ってきたな」
車庫から出てEF81を見ていると、見上先輩が話しかけてきた。
「どこで見つけたんだ?」
「えっと、自宅の近くで……」
「引退車両をよく見つけるよなぁ……そういうハンターなのか?」
「そんなわけないでしょうw。そういう運命が決まっちゃってるんだと思います」
「運命……そうだな」
さて、このEF81は今後どうなるのやら。あと24系客車も。
「ようやく見つけましたよ、翫さん…!」
夜、富山方面行きの521に乗ろうとしたら、ホーム上で加賀谷に引き留められてしまった。
「あの赤い…赤?の機関車、ミズハと翫さんが乗っていませんでしたか?」
「はい、マスターは助士側、私は運転台にいました」
「やっぱり!運転席に座っている運転士の髪色がなんかミズハっぽいな~、って思ってたら本当にそうだったんだ!」
「ちなみにあの機関車は『EF81』って子。もしかしたらうちで預かることになるかも」
「……蒸気機関車の次は電気機関車ですか」
「デゴイチよりは新しいから」
デゴイチは1945年まで製造され、EF81は1968年から製造が始まった。23年の差だ。
「……?」
加賀谷はいまいち分かっていなかったようだった。
「あ、もう発車だ。ミズハ、乗ろう」
「はい」
「じゃあ加賀谷、おやすみ」
「あ、おやすみなさい~い」
そうして加賀谷と別れた。
「ごめんね、こんな時間に」
「いいっていいって。孫のためだ」
東金沢駅にはおじいちゃんが迎えに来ていた。
「かなでたちが下に入った後すぐに、金石って人が来たんだ」
どうやら区長は来てくれたらしい。
「呆気にとられてたよ……で、移動させるのも難しいからあそこで保存してほしいんだとさ」
「それもそうだね。あの一両だけじゃ寝台列車にはなれないから」
寝台列車は車両が複数あってこそだ。
あそこで保存するということは、一つの観光スポットになるかもしれない。
「これからあそこ、どうなると思う?」
「ん?そりゃあ、町おこしのきっかけだろ」
「町おこしかぁ……確かに」
でも、町おこしに参加したことがないんだよね。百万石まつりとかは見に行く側、今は観客を運ぶ側だし。
数日後、EF81はデゴイチたちと同じ業務、イベント時の展示や故障車の回収にあたることになった。




