EF81・点検
※発車前の点検なので飛ばしてもらって構いません。見たい人だけ見てください。
「右よし、左よし、足元よし」
枕木の上を通って反対側へ。
「移動禁止表示掲出なし。乗車」
ミズハは近くの書類棚からEF81の鍵を取り出した。鍵は一緒に『EF』という文字のキーホルダーと括り付けられていたのですぐに見つかった。
乗務員扉を解錠し、EF81に乗り込んだ。中は前に見た03系と同じで緑色の塗装が施されていた。
「おお、521より若干広い……?助士側は確実に広いよね」
「手ブレーキ使用中札、掲出よし」
「無視ですかそうですか」
ミズハは淡々と点検をこなしていく。
「単弁、緩ブレーキ位置、よし
無線機、在姿状態、よし
汽笛吹鳴」
フィッ!フォーッ!
地下に二種類の汽笛が鳴り響いた。『AW-2』と『AW-5』である。
「吹鳴、よし
各計器、在姿状態、よし
各表示灯、在姿状態、よし
TE、非常パン下げ、引き上げ位置、よし
交直切り替えスイッチ、交側、よし
マスコン、切り、よし
逆転ハンドル、切り位置、よし……」
その後も、ミズハは数分かけて車内のあらゆる設備を確認していった。
その間、僕は何をしていたか……扇風機を見ていた。
「EB、ATS、防護無線、使用中札、掲出よし」
聞きなじみのある単語が出てきてふと我に帰った。
ミズハは助士側寄りにあった戸棚を開き、その中も確認した。
「締め切りコック、開き位置、よし」
そんなところにコックがあるんだ……知らなかった。
「その他各コック、定位、よし」
今度は背後のスイッチ類の方を向いた。
「TE、引き上げ位置、よし
赤旗、手歯止め使用中札、搭載、よし
事故表示灯、在姿状態、よし
空ノッチスイッチ、正常位置、よし
電圧計、0ボルト、よし
各入り定位NFB、定位よし
バッテリーNFB、切り、よし
各グランドスイッチ、入り、よし」
グランドスイッチは腰をかがめて開く扉の中にあった。
「制御空気ダメ、481キロパスカル、供給空気ダメ、812キロパスカル、よし」
『ダメ』は『溜め』のことである。決して『失敗』とか『ノー』の意味ではない。
「機器室内確認」
運転席の真後ろにあるドアから、ミズハは身を乗り出した。
「再粘着装置、在姿状態、よし
フロアー、在姿状態、よし」
ミズハはどんどん機器室内へと入っていく。
「大丈夫かな……」
「ABB、在姿状態、よし
ABBコック、在姿状態、よし
交直切替器、交側、よし
交直切替器操作ハンドル、搭載よし
HB、在姿状態、よし」
何回か扉を開ける音がした。
「各単位スイッチ、継電器、在姿状態、よし
各単位スイッチ、継電器、在姿状態、よし」
え、二回も言った?そんなことある?
後で調べたら、上段と下段で分かれているようだった。
「MMCOS1・4、2・5、3・6、定位、よし
界磁カム軸、WF4位置、よし
コンプレッサー、在姿状態、よし
MG、在姿状態、よし
フロアー、在姿状態、よし」
今度は反対側の運転室でも同じことをしていた。そして通路でバーニア抵抗器、バーニアカム軸、メントラなど諸々を確認しながら、僕がいる運転室に戻ってきた。
「うわ、びっくりした」
助士側のドアから戻ってきて驚いてしまった。そんなことも気にせず、ミズハは窓を閉めた。
そしてまた背後のスイッチ類を確認した。
「パン上昇……81 108パン上昇!」
そう叫んだあと、汽笛を鳴らしてパンタグラフが上がった。
「パン上昇、よし
交流表示灯、点灯、よし
ABB、投入」
ここでまた汽笛を鳴らした。
「ABB表示灯、消灯
架線電圧、20,000ボルト、よし
フロア、入り」
ミズハがスイッチを操作すると、キュイーン……と旋盤を回した時と同じような音が聞こえてきた。
「補機表示灯、消灯
コンプレッサー蓄積状態、よし
MGHB、MMBM、MTOF、消灯、よし」
『MTOF』って何……?
「機器室内確認」
また運転席背後のドアを開けて確認に入った。ドアを開けた瞬間、轟音が轟いてきた。ミズハの声も聞こえないほどに大きかった。
そしてまた助士側から戻ってきた。
「ACMNFB、トリップ、よし
ブロアー、切り、補機表示灯、点灯
両パン試験、両パンスイッチ、両パン位置
両パン表示灯、点灯、パン上昇、よし
両パンスイッチ、片パン位置」
ミズハがレバーを操作すると、空気が抜ける音がした。
「両パン表示灯、消灯
パン降下、よし」
身を乗り出してパンタグラフを確認し、ミズハは運転席についた。
「ブレーキ試験
自弁、運転位置
単弁、運転位置」
EF81のブレーキは空気ブレーキ装置なので、ここでも空気が流れる音がした。十秒ぐらいで音は収まった。
「三針検査
… BP、MR、ER、誤差20キロ以内、よし
非常!」
ブレーキのレバーは時計の針で言えば三時から五時と六時の間まで動かす。非常ブレーキをかける場合は三時の方向まで動かす。十秒間、計器を注視していた。
「BC、419キロパスカル、よし
自弁、重なり位置……指針、振れなし
自弁、保ち位置……BC、171キロパスカル、よし
自弁、運転位置……BC、0キロパスカル、よし」
・三時→非常
・四時→重なり位置
・五時→保ち位置
・五時と六時の間→運転位置
「単弁、急制動及び戻しばね確認」
今度は左上にある小さなレバーを動かした。
「BC、282キロパスカル、よし
単弁、急緩め及び戻しばね確認」
コ―、シュー、コー、シュー……
レバーを行ったり来たりさせていた。
「BC、0キロパスカル、よし
戻しばね、良好
単弁、階段緩制動
BC、100キロパスカル、よし
BC、200キロパスカル、よし
BC、270キロパスカル、よし」
言葉通り、階段のように数値が上がっていった。
「増圧確認
増圧NFB、入り、よし
増圧ボタン、押し
増圧単機、点灯
BC、481キロパスカル
増圧ボタン、離し
増圧単機、消灯
BC、282キロパスカル
単弁、階段緩緩め
BC、200キロパスカル、よし
BC、100キロパスカル、よし
BC、0キロパスカル、よし」
そしてまた、階段のように数値が下がっていった。計器を見て目押しでレバーを動かしているのかな?
「制御弁、感度試験
40キロパスカル減圧……BC、110キロパスカル、よし
制輪子、圧着状態確認」
『制輪子』というのは『ブレーキ摩擦材』のことである。
「右よし、左よし、足元よし、降車。マスターはそこで待っていてください」
そう言ってミズハは運転室から降りた。降りて実際に制輪子が圧着しているか確認しに行ったようだ。521とかとは違って台車が多いから時間がかかるんだろうなぁ……と思っていたら、ものの十秒で帰ってきた。
「早っ……」
「自弁、運転位置……BC、0キロパスカル、よし
制輪子、緩解状態確認
右よし、左よし、足元よし、降車」
二回目の降車である。今度は制輪子が緩解されているか確認しに行った。
例の如く、また素早く戻ってきた。
「漏洩試験、自弁にて60キロパスカル減圧……三十秒間漏れ確認」
そうして三十秒後……。
「BC、360キロパスカル、よし
ストローク確認
右よし、左よし、足元よし、降車」
(ry
今度は助士側から帰ってきた。
「単弁、制動位置
自弁、運転位置
空ノッチ試験、HBリセット
HB表示灯、消灯
HB保ち、切り
HB表示灯、点灯
空ノッチスイッチ、MG位置、よし」
今度は運転台の右側にあるレバーを動かす。時計の針だと七時から十時の間……だと思う。
「逆転ハンドル、前位置
1ノッチ、2、3、4、シリース、カム軸、点灯
……カム軸、消灯
シリースパラ」
ジリリリリリッ!!
「カム軸、点灯
ATS、入り」
キンコン キンコン キンコン……!
やっぱりATSが入った時の音って最高。
「白色灯、点灯
チャイム消し、よし」
それでようやくチャイムが消えた。
「カム軸、消灯
シリーズパラシャント、パラ
(カチ、カチ、カチ)
カム軸、点灯……カム軸、消灯
パラシャント
(カチ、カチ、カチ、カチ)
戻し、パラ
カム軸、点灯、カム軸、消灯
戻し、シリースパラ
カム軸、点灯……カム軸、消灯
戻し、シリース
カム軸、点灯、カム軸、消灯
1ノッチ、切り
逆転ハンドル、後位置
1ノッチ、切り
逆転ハンドル、切り位置
空ノッチスイッチ、正常位置
通電及び撒砂試験」
『撒砂』というのは、車輪とレールの間に砂を撒いて摩擦力を増加させる仕組みのこと。こうしないと、斜面を登れなくなってしまう。
「ブロアー、入り」
ゴウン、グオアアア……!
「HBリセット
HB表示灯、消灯
補機表示灯、消灯
逆転ハンドル、前位置
汽笛吹鳴」
ピイッ!
「1ノッチ、A計、全計、異常なし、撒砂
逆転ハンドル、後位置
汽笛吹鳴」
ピイッ!
「1ノッチ、A計、全計、異常なし、撒砂
逆転ハンドル、切り位置
交直切り替え試験、交直切り替えスイッチ、直側」
そのスイッチを操作した途端、バタンと音が鳴った。
「ABB点灯、補機点灯、架線電圧、0ボルト
交直切り替えスイッチ、交側
…ABB消灯、架線電圧、20,000ボルト、よし」
キュイーン……
「補機、消灯、よし
HB保ち、切り
ブロアー、切り
HB表示灯、点灯
補機表示灯、点灯
前部標識灯、入り、後部標識灯、入り
下回り点検、降車、右よし、左よし、足元よし、降車」
たぶんそろそろ発車できる頃なんじゃないかな?
そしてまた助士側から戻ってくると、そのまま後ろの運転室へ行き、前部表示灯を消灯した。
「手ブレーキ緩解
手ブレーキ指示棒、降下、よし」
手ブレーキが緩解されていることを降りて確認し、また前の運転室に戻ってきた。
「手ブレーキ使用中札、収納、よし
後部表示灯、消灯
ブロアー、入り
補機表示灯、消灯、よし
発車準備完了です」
ここまでおよそ三十分。電気機関車を動かすのにも時間がかかるね。
「マスターは気になりませんか?この先がどこに繋がっているのか」
「……興味はある。だってこの上は公民館だし、もしかしたらそこに出るかもしれないよね」
「どうします?もしも時空を飛んだりしたら」
「フラグ建築やめな~?」
テスト前に何してるんだ、自分……。




