車庫の中身は
「古い車庫ぉ?」
公民館に戻った僕とミズハは事情をおじいちゃんたちに説明した。そうしているうちに仲原さんや他の住民も寄ってきた。
最初は怒られるかと思ったけど、そんなことはなかった。
「あ~、ハトの車庫かもしれないな」
「ハト?」
急に鳥の話?
「『ハト』っていうのはあだ名だ。五年前までは普通に交流していたけどな……」
「認知症で入院、そして一年前に亡くなったんだ」
おじいちゃんと仲原さんが説明してくれた。65歳までは板金屋をしていたらしい。
「そういや仲原、お前なんか鍵もらってなかったか?」
「鍵?……ああ、使い道が分からんあれか」
「かなで、そのシャッターに南京錠とかなかったか?」
「南京錠……」
「はい、確かに南京錠がありました。それを解錠しない限り、シャッターは開かないようになっていました」
代わりにミズハが答えてくれた。そんなものあったんだ。
「そうか……よし、じゃあ今から見に行ってみっか!せっかくならここにいる全員で!」
おじいちゃんはそう提案した。意外と全員が乗り気だった。
「金銀財宝とか入ってるのかな?」
「見つけたもん勝ちか?」
「だったら速攻で見つけ出してやろう!」
「楽しみだな!」
小学生たち、そんなこと言わないで……。
「確かにでかいな……」
車庫を見て全員が驚いていた。これだけ人数がいたからなのか、野生動物に遭遇しなかった。
「よ~し、開けるぞ」
仲原さんが南京錠に鍵を差し込んだ。
しかし、鍵をいくら捻っても南京錠は解錠されなかった。
「あ、あれ……古すぎてダメになってるのかもなぁ」
「任せてください」
ミズハは南京錠を手に取った。ピッキングでも———。
バキッ!
南京錠が握りつぶされた。
「開かないのなら、壊せばいいのです」
知 っ て た 。うちのミズハはそういうところがある。
そしていよいよシャッターを開ける時がやってきた。
「みんな手伝ってくれ!」
もちろん僕も手伝った。この場にいる半数の人と共にシャッターを押し上げた。
『猛烈に虫入ってるぅ〜!!』と叫びたくなったけどグッと堪えた。
開けた瞬間、埃が舞い上がってきて思わず咳をした。長年放置されてきたんだろう。
「なんだこれ?」
車庫の中身を見て仲原さんが呟いた。中には青色に白色か銀色の帯が付いた客車があった。そしてテールサインには『日本海』と書かれていた。
「え、マジで?」
「夢ではありませんよ」
「だってだってこれ、日本海って」
「日本海として運用されていた24系客車ですね。しかも最後尾の車両です」
まさかまさかの『オハネフ25形』だった。
24系客車を見つけてすぐに、僕は区長に電話をかけた。
「もしもし」
『どうした、今日は休み取ってたろ?』
「実は……日本海を見つけました」
やば、言葉足らずだ!
「あ、海の方じゃなくて」
『おいおいおい、悪い冗談はよしてくれよ。日本海は2013年1月6日以来走っていないんだぞ。事実上の完全廃止だ』
「それが、24系客車が目の前にあるんです。時間があれば来てください」
『お、おう……』
場所を伝え、電話を切った。その間に客車の見学が進んでいた。
「懐かしいな。よくこれに乗って青森に行ったもんだ」
『日本海』という寝台特別急行列車はかつて大阪駅-青森駅間を日本海縦貫線経由で運行していた列車だ。その客車がなぜここにあるのか。
「ハトが買ったんじゃねえか?」
その線が一番ありえそうだった。車両を廃車・解体するのには家と同じで解体費がかかってしまう。その費用を浮かせるために個人に売ったのかもしれない。で、書類上は廃車扱いにする。そういうことは探せばあるのかもしれない。
「マスター、ここの下にもぐれそうな場所があります」
客車の下は空洞になっていた。車両所と同じ構造だ。その辺りを探索していたミズハが僕を呼んだ。確かにそこには取っ手付きの鉄板があった。
「上に乗って自由落下しないよね?」
「私が乗っても大丈夫でした」
「試したんだ……おじいちゃん、ちょっと潜ってきていい?」
僕の好奇心には勝てなかった。
「ライトはあるのか?」
「スマホのライトがある。電池もあるし」
「………」
おじいちゃんは迷っているようだった。
「大丈夫です。私がいますから」
「……危なくなったから帰ってこいよ」
「分かってるって」
僕は鉄板をどかし、下に続く階段を下りていった。
階段の先は地下通路だった。スマホのライトで照らすと、上には電線、地面には線路が通っていた。まるで秘密基地みたいでワクワクしてきた。
「僕さ、前にも681系をこんな感じの洞窟を見つけたんだ」
もう一年も前のことになるのか。あそこでは80スープラも一緒に置かれていたけど。
「そんなこともありましたね」
「何かこう、奇妙な縁でもあるのかもしれないね」
そうやってミズハと雑談しながら先へ進んでいった。ヒンヤリとしているものの、湿度が高かった。
「……いますね」
「え、何が?」
「『機関車』が」
その時、僕らを二つの光が照らした。まるで待っていたかのように———いた。
『国鉄EF81形電気機関車』。それが彼の名前。
「はは…………どうなってんの」
「笑うしかないですね」
外装は『赤13号』と呼ばれるローズピンク。ネームプレートは『EF81 108』となっていた。そのネームプレートが僕が呆れた理由だった。
「君さ、2016年に廃車になったんじゃなかったの?」
前に見たウィキではそう書いてあった。なのに目の前にこうして残っている。認知症になる前のハトさん一人でここまで修復できるのだろうか?
「機関車番号『81 108』よし」
すると、ミズハが出区点検を始めた。
「ねえミズハ、まさか動かすつもりでいる?」
「何か問題でも?」
「そもそも運転できるの?国鉄時代の機関車だよ?」
「運転方法は頭の中にあります」
「ええ……」
「移動禁止表示掲出なし」
……しょうがない。ミズハに付き合うしかないようだ。僕は機関車の運転経験なんてないからミズハに任せるしかない。
いつか、かなでを異世界に飛ばしてみましょうかね。その場合は別枠を作りますけど。さすがにジャンルが違ってくるので。
異世界から戻ってきたらこっちのエピソードを書いていく形になると思います。でもまだその時じゃないので、タイミングになったら後書きで知らせます。




