38話 1次車
521系1次車に会いに行くために、98を停めた車庫へ向かった。昨日のうちに話はつけてある。
「早速業務があるので、じっくりとは見られないとは思うのですが……」
「見られるだけで十分です!あとは実費で乗車すればいいので!」
「そ、そうですか……」
98から一つ空けた右隣に521-2が停まっていた。
2007年の頃は転落防止幌が設置されていなかったので、少しだけ印象が変わる。キハ127系に似てるなぁ……と感じたりした。
けれど今は幌が設置されているので、2次車と大差がない。違いが分かる場所といえば、『クモハ521-2』と書かれたネームプレートやつり革の大きさなどだろう。
そういえば、2次車派がいることは言ったけれど、それには1次車は含まれてるのかな?顔つきは同じだから含まれてはいるだろうけど。でもこの感じ……好きになるのはなんとなく分かる気がする。僕だって、尾灯が灯っているときの表情が好きだ。
「すみません、そろそろ……」
どうやらここでお別れのようだ。521-2はそのまま敦賀駅へと向かっていった。
……こうしちゃいられない。僕もそろそろホテルに
ピシャンッ!
「ひょえぇ……」
いきなり雷の音が響き、車庫の中が暗くなった。
そして一気に大雨となった。窓ガラスにすさまじい勢いで当たり、大きな音を響かせていた。
「えぇ、急に天気変わりすぎだって……」
スマホで確認してみると、近くに落ちて辺りが停電しているらしい。ということは、今発車していった521-2も立ち往生しているわけだ。……僕がもう少し粘っていたら。いや、それだと普通に業務妨害じゃないか。
と、ここであることに気が付いた。
「あ……傘持ってきてない」
カバンにも折り畳み式すら入っていない。こんなに急に大雨になるとは思っていなかった。It’s 判断力足らんかった()
BPM137でリズム刻んだろか畜生めぇ!と心の中で叫んでも意味はない。
「これからどうしよっかねぇ……」
僕は98の排障器に背中を預けた。なぜかちょっとだけ温もりが感じられた。
「何してるんですかマスター」
「……んぇ?」
目を開けると、傘を二本持ったミズハがいた。僕はいつの間に寝ていたんだろう。
「膝を抱えて寝るなんて……体が痛くなりますよ」
「そ、そうだね。よっと……ごめんミズハ」
「どうしました?」
「足が……痺れた……」
「はぁ……」
ミズハに支えられながらなんとか立ち上がり、足の痺れは一分くらいで収まった。
何回か足が痺れた状態で立ってコケた経験があるから、若干トラウマになっている。
「すまんね」
体を支えてくれたことと、傘を持ってきてくれたことについてだ。
今は雨脚は弱まっていて、二人で並んで歩いていた。
「礼には及びませんよ」
「それで、停電は?」
「三十分ほど前に解消されました。遅れはありますけど」
復旧できたのなら良かった。その間呑気に僕は眠っていた……。
「マスターの方はどうでしたか?1次車は見られましたか?」
「うん、521-2を見てきた。ほんの十分くらいだったけど」
「所感は?」
「あんまり変わらなかった」
結局、じっくり見てもコレである。
現実でのこと。
デゴイチを見ていると、二人の親子がいた。
すると子供の方がデゴイチの煙室扉(熱い水蒸気などを閉じ込める扉)の前まで登ろうとした。デゴイチに取り付けられた手すりやステップを使って。
親の方は止めようともしない。それどころか、運転室に侵入する方法を探していた。教えはどうなってるんだ。
「こっち入れなかった」
「こっちも無理」
「え~入りたかったのに」
この親子、常識を知らない。と感じた。
まるで『普通なら入れる』と言っているようにも感じ取れた。いやいや、『普通は』入れないものなのだ。ちゃんと保管会社だっているんだし。
僕がいたからか、その親子は炭水車の方向に向かっていった。その後はどうだったかは知らない。変なことをしてなければいいけど。
……なんでこんなに常識を知らない・知っていても破る人が増えてきたんだろうか。




