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33話 金沢駅発

 四月上旬、金沢駅の新幹線ホームでは黒服が大量発生していた。その光景を『つるぎ』に乗る乗客たちは怪訝そうに見つめていた。

『わざわざすまないね。先頭車両を貸し切りだなんて』

「いえいえ、誰にも聞かれたくないお話なのでしょう?」

 お偉いさんたちがそんな会話をしているとは知らずに、僕は在来線の一番線ホームでは521-98の最終確認をしていた。

「不審物なし、HIDも切れてない……よし」

「マスター、走行機器にも異常はありませんでした」

「了解。ホームにいる乗客の誘導頼んでもいい?」

「分かりました」

 既にホームにはスーツケースなどの荷物を持った乗客が列を作っていた。一か月前の予想通りで78人だと伝えられた。

 反応はなぜか好評だった。W7系よりも希少だからかな?

 荷物は上の網棚に乗せてもらうとして……あれ、耐荷重いくつだっけ?もしかしたら場合によっては乗せられないんじゃ……。

「翫さん、網棚に乗せられない荷物はここに固定してもらいましょう」

 金具付きのロープを持った加賀谷が、運転席の真後ろのスペースを指差した。

「手すりにロープを括り付けて固定するってこと?」

「そうです。線路上とは違って左右の力はあまりかかりません。縦方向に動かないように固定することで勝手に移動するのも防げます」

「...念のために車止めも用意してもらおうか」

「分かりました」


 いよいよ発車時刻となった。乗客が全員いることは確認済み。何も問題なし。

「今日もホームは人がいっぱいだね」

 今日は前回よりもメディアの人数が多い気がする…気がするってだけだけど。

「私たちはその期待に応える、もしくは超えないといけませんね」

「…そう思うとプレッシャーがさ」

「大丈夫ですよ。ここではマスターはほとんど無職じゃないですか」

「いや言い方ぁ」

 軽口をたたくくらいは余裕があるのかもしれない。……さあて、そろそろ気を引き締めて。

 主電動機、起動。ブレーキ解放。

 自動でマスコンが動き、98が加速していく。

 ……やっぱりミズハは前回よりも丁寧になっている。多くの経験を積んだからだろうか?

「最高速度や乗り心地は新幹線が上ですが……発車時刻の関係で福井駅には先に着きそうです」

「えっと、直線距離で70キロだから………だいたい四十分で着く計算か」

「そうです」

 なお、時速110キロと仮定。

「そういえば、『新幹線にない体験』という付加価値がこの521にはあります。それで乗客たちからの反応が好評なのでしょうね」

 新幹線にない体験といえば空を駆けることだろう。

「それは僕も思ってた」

 そう話していると、車輪が線路から離れた。つまりは飛んだ。

 今日も無事に走り切れますように。せめて去年みたいなことは起きませんように。

『マジか!』

 新幹線のホームでアメリカからのである来賓のヴァイパーさんが叫んでいた。そして爆弾発言も言った。

『あれに乗りたい!』

「は、はいっ!?」

 国交省大臣の佐納さのは一瞬息をするのを忘れていた。

『飛行機のような小さい窓じゃ満足できないから!』

「で、でも…!」

『お願いだ!この通り!』

 ヴァイパーさんは佐納の肩をゆすった。佐納から見れば、ヴァイパーさんが少年のように見えた。そんなことを言ってしまえば国際問題になってしまうが。

「……福井駅で頼み込んでみます」

『ありがとう!佐納さん!』

「……どーすっかなぁ」

 佐納は誰にも聞かれないくらいくらいの声で呟いた。


 一方、W7系の運転室にいる池戸は。

「本当に、あの人は度肝を抜くのが上手いんだから…ハロウィンの時もそうだったし」

 ちょっとだけ呆れていた。

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