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681系

 681系のグリーン車を考案している時は『高速道路を走っているベンツのお金持ちに乗ってもらう』ということを特に意識していたらしい。この1992年のメルセデス・ベンツといえば『190E』かな?ドイツツーリングカー選手権で年間タイトルを獲得してたし……。

 だけど今、目の前にあるのは三両編成なのでグリーン車はない。全て普通車だ。

「……三十年以上前の個体とは思えませんね」

「あ~……最近レストアしたというか何というか」

 ラナドールさんと体験したあの出来事は語らないでおこう。僕はクハ680形の乗務員用のドアをノックした。

「ごめ~ん!ちょっと中に入らせて!」

 そう声をかけると、すぐ横の乗客用のドアが開いた。

「え……えっ!?」

「こういう子なんですよ」

 僕もラナドールさんに教えてもらうまで知らなかった。この681系には意思があるらしい。

 若干信じてなかったけど、こんなことが起こったら信じるしかないじゃん。


 クハ680形は車体後位に運転台をもつ普通車だ。定員は56名で、主変圧器、主整流器、集電装置を搭載する。車体前位にトイレ、洗面所、公衆電話を設け、連結時に行き来ができるように貫通扉を設けている。

 シートは521と違ってそれぞれ独立している。それに車体の中央に扉がないので、途中でシートの列が途切れていることもない。だから僕が前に『各駅停車として運行できるか』と尋ねると区長は難色を示していた。

「あれ、これシートの色が赤のままじゃないですか?」

「……あっ!!!」

 ここで僕は気付いてしまった。

 2015年に681系・683系に対してリフレッシュ工事をすることが発表された。そのリフレッシュ工事を受けるとトイレに暖房便座がついたり、コンセントが設置されたり……そして『シートの色がブルーに変更』されたり。

 つまりこの個体はその工事を受けていない。コンセントもないから確定だ。

「ということはV編成の……」

「翫さん?」

「あ、何でもないです」

 なんてこった。なんで気付かなかったんだ。確かあの編成は2024年に廃車になったはず……。

「……まあ、後で聞いてみればいいかな」

 とりあえず僕は681系の説明に戻った。


 移動してモハ681形へ。『モハ』なので、ここには主電動機が搭載されている。

「ほお、自販機ですか……」

 車両後方、もともと乗客用ドアがあった場所に自販機が置かれていた。車内設備統一工事によるものだ。

「補充ってどうしてるんですか?」

「おそらく終着駅や車庫に着いたときにされるかと思います。そこしかタイミングはないかと」

 僕はサンダーバードやしらさぎが石川を走らなくなってから入社した。なので当時どのように補充していたかは推測になる。

「確かに、途中の駅で補充してたらその人ごと運ばれますねw」

 その流れでクハ681系へ。これは非貫通型の先頭車両だ。これもまた統一工事で変わった場所がある。

「このトイレの広さ、車いすに対応してますね」

 521と同じ……ちょっと広いくらいのスペースが確保されていた。

「683系もこんな感じの車内なんですか?」

「広さはほぼ一緒です。683系は681系の改良型みたいなものなので」

 そんなとき、客室の端にあった表示板に光が灯った。

『クハへ』

「……来いってことなのかな?」

「貫通扉の開閉でもするんじゃないですか?」

「それはないでしょう。貫通扉は人の手でロックしないと固定できないので……いや、ありえる?ただ見せるだけなら。でもでも、作業員はいないし……」

「ほら翫さん、行きましょう!」

 萩谷さんに引っ張られてクハ680形へ向かった。それの後をつけるようにテレビクルーたちもついてきた。


 クハ680形に向かっても僕たち以外は誰もいなかった。

「ねえ、何しようとしてるの?」

 僕が尋ねたとき、何かの設備のスイッチが入った音がした。

シュー…

「翫さん、見てくださいあれ!」

 ええええええええええっっ!?……と叫べばよかったのかな?

 僕が目を向けた先で、貫通扉から外の光が漏れ出ていた。そして左、右とはけていく……。

「へえ~!作業員さんたちはこんな光景を眺めていたんですか!絶景ですね!」

 と、萩谷さんがコメントしていた。普通に危ないからやめてもらいたい。

 そういえば、681系の貫通扉が開くのを見たのは何十年前だったかな?あの時、金沢駅で眺めていた光景がフラッシュバックしてきた。

「……ありがとうね、思い出させてくれて」

 僕たちが681系を降りたと同時に、貫通扉は閉じていった。


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「……?」

 何か言ったのかな?

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