ハロウィン(同窓会)・4
「翫くんは恋はしないのですか?」
恋愛って面倒くさそうだ。僕は521を運転できるならそれで満足だ。
「ん~、今のところは考えてない。僕はリア充を応援する側だから」
「……んっっ!」
僕は蕎麦をすすっていたのだが、ミズハのその発言でむせてしまった。何だそのキザな言葉はっ!?いつそんな口調で……。
「こらこら、そんなに急いで食べるからだよ。よしよしよし……(僕の背中をさする)」
……この反応、ミズハ楽しんでるな。若干二ヤついてるし。
「あれ……宝田くん、その薬指にはめてるのって」
中条さんが宝田さんの薬指にはめているリングを指さした。
「お、気付かれましたか……そうです、結婚指輪です」
「はあっ!?」
「………!?」
「おめでと~」
これには僕も驚いた。参加者の中だったら一番先に結婚してるだろう。
「又くん、言ったでしょう?『二股はしない』と」
「そういうことだったのかよ……俺より先に……」
桑本さんはテーブルに突っ伏した。漫画なら灰色に燃え尽きてる。
「だいぶショックを受けてるねこれ」
ミズハはその状態の桑本さんを見て苦笑した。
「桑本さん、もう九時を回ってるけど……」
タイミングを見計らってミズハが声をかけた。
「もういい時間だな。よし、そろそろお開きにするか」
「締めの挨拶、してもいいかな?」
「別にいいけど……?」
「じゃあ、先に車の用意しておいて」
僕は頷いて居酒屋から出た。これにより、怪しまれずに脱出できる。
「さあ、いよいよネタバラシですよ!」
人目につかない場所で加賀谷と合流した。実は加賀谷はあの居酒屋にずっといたのだ。
「この服はどうしておく?」
ゴスロリ服の下には僕がいつも着用している普段着がある。これであとはササっとメイクを落として……『僕』の完成である。……何言ってるんだ。
「ゴスロリ服の回収完了……あとは上手くやっちゃってくださいね!」
「……最初はあんまり乗り気じゃなかったけど、加賀谷が手伝ってくれたからいい経験になったよ」
「何言ってるんですか。いつだって『最高のペア』でしょう?」
「……仕事中は、だけどね」
そう言い残して僕は居酒屋へ戻り、加賀谷はあの服を積んで帰っていった。
「え~、最後に皆さんにお知らせがあります」
小村「お、結婚報告ぅ?」
豊沢「!?」
福住「なんだろね~」
池戸「………」
中条「悲しいお知らせじゃないといいけど……」
喜久田「………」
宝田「僕は心の準備が出来ていますよ!」
桑本「………」
藤原「楽しみ楽しみ」
「僕、実は『翫 かなで』ではありません!」
「何で気付かないのかな………」
部屋の入り口で僕が声を出すと、全員が驚きの表情を見せた。
宝田「え、ええっ!?ど、ドドドドッペルゲンガー!?」
小村「……飲み過ぎたかも」
福住「え、え、え、噓でしょ?」
池戸「じゃあアンタは誰なのよっ!?」
豊沢「い、翫さんが二人……!」
喜久田「………、………!?」
中条「確かに、一卵性双生児かも……?」
藤原「ほえ~」
桑本「あ~もうワケ分かんねえ」
そんな中を僕は歩いていき、ミズハの横に立った。
「お疲れ、もう一人の僕……いいや、ミズハ」
「どうでしたか?私の演技は」
「ちょくちょく冷や汗をかかされたよ……でも上手だったね」
「やった……!」
「な、なあ翫……」
桑本さんが恐る恐る寄ってきた。
「それ、誰なんだ……?」
「えっと、アンドロイドのミズハ。運転の補助をしてくれるんだ」
「初めまして、ミズハです。マスターがいつもお世話になっております」
「ど、どうも……」
いつの間にか髪形を戻したミズハが丁寧にあいさつをしたせいで、桑本さんたちは面食らっていた。
「……てことはさ、あのゴスロリ少女って」
「そう、僕だよ」
僕は福住さんの質問に答えた。その瞬間、豊沢さんが膝から崩れ落ちた。小さな声で何か言っていたが、遠すぎて聞こえなかった。
「それじゃあ本当に……最後に一つだけ」
みんなが落ち着きを取り戻した頃、僕は締めの言葉を述べた。
「還暦を迎えたとしても、今日という日はいつか思い出してほしいです。というか思い出せると思います。なぜなら……僕が本当の仮装をしてしまったからです!」
「そこは照れながら言う場面ですよ!」
すかさず宝田さんがツッコんできた。
「……確かに思い出せるよな。ここにいる全員は」
「アンタにしては最後に良いこと言うじゃない」
池戸さんに褒められた……のか?
「じゃあさ、僕らが還暦を迎えた時、もう一回集まろうよ!」
「……(親指を立てる)」
中条さんの考えは名案だった。僕だって提案したかったけど、言う勇気がなかった。
「お、いいね~それ」
「……そうですね」
「よ~し、明日から味噌作り頑張るぞ」
「あれっ、小村さん寝てる!?」
既に小村さんは限界を迎えていたらしい。なので僕はすぐに解散へ流れを変えた。
「昨日はお楽しみでしたね」
同窓会翌日の朝、出勤直後の僕に加賀谷がそう言ってきた。
「いろんな話は聞けたし、たまにはああいう会もいいよね」
「で、次の女装はいつします?」
「もういいです。てか、ここで言わないでよ。変な誤解が広まりそうで……」
誰が聞き耳を立てているか分からないからねぇ。
「加賀谷の方は同窓会とかあるの?」
「私、誘われたとしても断ってるんですよ」
「え、どうして?」
「……男たちの目つきが妙にいやらしくて」
「加賀谷が可愛いから仕方のないことだって」
性格は難あり、ってところだけど。
「翫さんはほんとに人を褒めるのが上手いんですから~!」
あ、なんかウザ絡みされそう。そう思ったので急いで521-28のもとへ向かった。
「あれ、翫さんだったんだ……写真撮っておけばよかった」




