腕のない幽霊・2
どうしてモバイルバッテリーはすぐに発火してしまうんですかね。
「翫さん、昨日は散々でしたね」
「事情聴取に報告書、今も疲れは残ってるよ」
踏切で異常を検知してから一日が経った。僕と加賀谷、ミズハは例の踏切で様子を見ていた。
「あそこに防犯カメラがありますが……」
「残念ながら、顔は映っていなかった」
防犯カメラに写り込んでいたのは下半身だけで、腹から上は見えなかった。
けれど、防犯カメラは不思議な現象を記録していた。
「腕がなかったんですよね?」
「そう。普通に立っていたら手が骨盤の下あたりに置かれる。防犯カメラに写り込むはずなんだ」
「昼に出るなんて……翫さんの肝を冷やしに来てるんじゃ」
「まだ暑いからね~………違う違う」
そんな些細なことで現れるわけがないだろう。
「あの、マスター……」
「どうしたの、ミズハ」
「腕がない理由、分かりました」
一旦家に帰ると、ミズハはタンスから何かを探し始めた。
「何か探してるの?」
「メンズの半袖シャツです。なるべく大きいものがあるといいのですが……」
「私も探しますよ!」
男物の半袖シャツ……僕じゃなくておじいちゃんのものを借りよう。
さっそくおじいちゃんに頼んで用意してもらった。すると、ミズハは今着ている服を脱ごうとした。
「翫さんは出ててください」
「分かってる」
着替えは十秒くらいで終わった。
「単純です。服の中に腕を入れるのですよ」
そのように実践していたミズハの腕は確かに見えなかった。
「でも、近くじゃ案外バレる……」
「マスターたちは遠くから、なおかつ『夜』という条件が重なっていました。なので『腕がない』と勘違いしたのです」
確かに加賀谷たちが見た腕のない幽霊はそれで説明ができる。でも。
「じゃあ僕が見たのは?確かに遠かったけど夜じゃなかったよ」
「『高架』です」
「……北陸新幹線の高架かぁ。確かに陰はあった」
陰に同化するくらいの灰色のシャツでそこに立っていた、ということか。
「でも、動機って結局何なんですかねぇ?」
「私は本人ではないので……」
「業務妨害……または『生からの解放』」
後者の方が可能性は高そう。業務妨害のメリットなんてない。
「ひとまずは、『その人物が誰なのか』が明らかになるまで待とうか」
「そうですね。私たちにはどうしようもないですから」
「ではお茶にしましょうか。マスター、この服はおじいさまに返しておいてくれませんか?」
「分かった。やっておくよ」
翌日、何事もなかったかのように出勤すると、会議室に鍵がかかっていた。
「……重要なことでも話してるのかな」
「あんまり知らないほうがいいかもしれないぞ」
お手洗いから出てきた見上先輩が言った。
「先輩は知っているんですか?」
「俺もよく分からん。『踏切』がどうとか、所々漏れて聞こえてくるんだよ。……翫、そろそろ時間じゃないか?」
「えっ……あ、やべ。福井行きの運転あるんでした」
僕は急いでカバンを手に取り、521-56のもとへ向かった。
それにしても、『踏切』か……。会議室で損害賠償の話でもしてるのかな。
そういえば、521-56の製造番号は『56』なのに、なんで編成番号は『05』なのかな?その次の521-57は『24』なのに……。




