夏休みのイベント・3
イベント二日目。今日のシェルター担当は輪嶋くんと521-40だった。
「大丈夫そう?」
「ま、まあ、子供と話すのは慣れてますから」
「そう?顔色が若干悪そうに見えるけど」
「翫先輩はあの人たちを見てなんとも思わないんですか!?」
輪嶋くんが指さした先には、目をギラつかせながらカメラを持った大人たちがいた。
「あれぐらい普通じゃない?」
「怖いんですよ!特にあの目つき!」
「いやいや、もっとヤバい目つきを知ってるからさ……」
糸目じゃないだけマシだって。
「それじゃあ、落し物渡しに行かないと。運転台に鍵は絶対刺さないこと。オーケー?」
「お、オッケーです」
別に輪嶋くん一人だけってわけじゃないから大丈夫だと思う。
僕は40から降りて金沢駅へ向かった。
改札の横で不正乗車がないか目を光らせながら、あの親子を待った。そうすること十分。
「あ、運転士さん」
東口の方向から親子がやってきた。
「この度はすいません……」
「いえいえ、気にしないでください」
すぐに母親が謝ってきた。すると、女の子が僕に向かって手を伸ばしてきた。
「これ、お詫びの品です」
手のひらには一枚のチョコチップクッキーがあった。しっかりしてる……。
ところで、敬語なのは母親の前だからだろうか。だとしたら……。
「あ、ありがとう……そうだ、これ落し物だよ」
チョコチップクッキーを受け取り、その手のひらに名札を乗せた。
「ところで、あの時まだ質問したかったんじゃないかな?」
37から出ていく直前、『じゃあ……』と言っていたのを僕は聞き逃さなかった。……答えられる質問ならいいんだけど。
「え、でも……」
「星花、聞いちゃいなさい」
「……うん」
母親に促されて、女の子はようやく質問を口にした。
「蒸気機関車って、将来的に規制がかかるんですか?」
「規制って?」
「自動車のような排ガス規制です。もしもそれがかかると、蒸気機関車が走れなくなるのかなと思って……」
『規制がかかる可能性は低い』、と僕は考えている。車みたいに数百万台あるわけじゃないし。でも『可能性は高い』と考える同僚もいる。
それでも、大事な『文化財』だ。僕としてはしっかり残してほしい。明治、大正、昭和の技術を保存することに意味がある。その仕組みを規制の影響で改造するのは好ましくない。
今は燃料を石炭から重油に変えようと技術部が頑張っている。それでもアリだとは思う。ちゃんと走れるのなら。
「あくまでも予想だけど、そんな規制はかからないと思うよ。大事な文化財だから」
「そうなんですね……!」
「だからこの先もこうやってイベントはするだろうし、走る姿も見られるよ」
ここで逆のことを言ったら女の子は悲しむだろう。そんな顔はさせたくない。
「この子ったら、ずっと『おじいちゃんみたいに動かしたい』って言っていたんですよ」
「……もしかして、おじいさまは蒸気機関車の運転士を」
「ええ、一か月前に亡くなりましたが……」
マズい、その質問はノンデリだった。
「す、すいません。辛いことを」
「いいんです。もう過去のことですから。そういうこともあって参加したんです」
「………」
だったら、やっぱり残さないといけない。世の中にはたくさん『家族が運転していた』という人もいるだろう。
後で区長や島さんに聞いてみようかな。
「お疲れさん」
「い、翫先輩……」
輪嶋くんの様子を見に行くと、疲れた様子で運転席に座っていた。
「こんなに質問されるんですか……」
「具体的には?」
「『どれだけのパワーがあるの?』、『アーク溶接って何?』、『好きな音楽は?』……そんな感じで」
うん、最後のやつは疲れないと思うけどなぁ。
「最初の二つは答えられるけど聞く?」
「分かるんですか!?」
「そういう資料は読んだからね」
「すご……」
最大出力は1400 PS、アーク溶接は電気放電による約5,000℃〜20,000℃の熱を利用して、金属同士を溶かして接合する手法だ。
「ちなみに、音楽は何を答えたの?」
もしかしたら気が合うかもしれないので聞いてみた。
「笑わないで聞けます?」
「ものによる」
「非実在……」
「お~い待て待天馬」
今の、誰にも聞かれてないよな?大丈夫だよな?僕は慌てて輪嶋くんの口を押さえた。
「まさかそれで答えたの?」
「一回だけ……」
「何してんの!?」
「で、でも!本命があるんです!wotakuさんの『ヨルムンガンド』です」
「同志だ……」
曲調が輪嶋くんの心を揺さぶってくる、と本人は言っていた。ものすごくわかる。
「翫先輩は逆に何と答えるんですか?」
「その日の気分」
「あ~、そういうのもありかも………」
その後は僕も40の見回りを手伝った。二日目のイベントも無事に終了した。
『あの曲』を知ってる理由?実は……
1. SEGA様のチュウニズムに収録されていた
2. 音MADで知った




