夏休みのイベント・2
「ねえねえ、運転士さん」
37の車内を見回っていると、座席に座って涼んでいる女の子に話しかけられた。
「何かな?」
「質問があるんですけど……」
「何でも聞いて。大体のことは答えられるから」
すると、女の子はデゴイチを指さした。
「あの蒸気機関車は煙を出してるけど、あれって硫黄酸化物?」
「………」
正直、保育園児くらいの幼い女の子からそんな単語が出てくるとは思っていなかった。
さて、どうやって答えるべきか。硫黄酸化物[ SOx ]を知っているのなら、一酸化炭素[ CO ]や窒素酸化物[ NOx ]も知っているはず……でも子供だし。
「ちなみに、あの煙についてどれくらい知っているのかな?」
これで女の子の理解度がわかるはず……!
「ん~、黒い煙が出ている時は『不完全燃焼』を起こしているってことは知ってるよ」
「へぇ、そこまで知ってるんだ~……」
不完全燃焼、これまた難しい単語をご存じで。
そこまで知っているのなら、具体的に答えても大丈夫かな。
「あの煙には硫黄酸化物だけじゃなくて、一酸化炭素や窒素酸化物も含まれているんだよ。白い煙は主に水蒸気が含まれていて、黒い煙はさっき言ってくれた通り不完全燃焼を起こしているんだ。その二つが混ざって灰色の煙を出すようになったら、しっかり燃焼されている証拠なんだよ」
「………」
目の前の女の子は手帳に淡々と僕の言葉を書いていた。要点だけをしっかりと漏らさずに書いていたので、将来有望な子だと感じた。
「じゃあ……」
「セイカ~!順番回ってきたわよ~!」
「は~い!順番が回ってきたみたいだから行くね」
「楽しんできてね」
女の子は笑顔で37から出ていった。出ていく前に聞こうとしていたことは何だったんだろう?
「……あれだけ知っていたということは、それだけ興味があるってことか。大きくなったらウチに来たりして」
「それで、マスターは結局何をしていたんですか?」
「……ちゃんと役目はあったよ。37の見回りとか」
「ただ涼んでいただけでは?」
「ヴッ……」
イベント一日目が終了したその日の夜、家でミズハにそんなことを言われた。見事なまでにクリーンヒット、こうかばつぐん。
「かなで君、これは?」
おばあちゃんが僕の制服のポケットを探っていると、中から名札が出てきた。手のひらサイズの桜の花びらの中に自分の名前を書いた紙を入れるタイプの名札だ。
「あ、落し物として置いてくればよかった」
イベント終了後に37を点検していると、それが床に落ちていたのを見つけた。
『透島 星花』
達筆な字で書かれていた。名前からしてあの時出会った女の子のものだろう。
「その子の母親は電車の外から声をかけていたんでしょう?電車内のマスターはちゃんと聞こえたんですか?」
「そこは音ゲーを長年やってきてるんでね」
「答えになってないですよ……」
高校時代はイヤホンをしょっちゅうつけていたけど、聴力が落ちたことは一回もなかった。
明日になったら、駅に来ていないか探してみよう。




