夏休みのイベント・1
八月上旬、小学生や中学生は夏休みに入った頃だろう。運転士や車掌にはそんな特大の休みなんてあまりないけど。
そんな時期に、僕はとあるイベントの手伝いをしていた。
『蒸気機関車に触れてみよう!』
大人も子供も関係なく参加できるイベントだ。枠は二日でいっぱいになり、第二回も検討されているのだとか。
場所はいつもの車両所。そこで僕はクーリングシェルターとして置かれている521-37の管理を任されていた。蒸気機関車は煙を出すから、車庫でイベントを行うと大変なことになる。換気扇を回したとしても、効果はあまり期待できないし。
そんな理由で、イベントは屋外で行われる。ということは熱中症のリスクが高まる。そこで521の出番というわけだ。
「仕事ができてよかったね」
僕は優しく運転台を撫でた。太陽の光が若干当たっていて熱かった。
ま、まあ、運転台は光を集めやすい黒色だし...。
このイベントの目玉は二台の蒸気機関車。一台は『D51 522』、そしてもう一台が『D51 822』だ。
D51 822は松任駅にある資料によると、合計で150万km走ったそうで、これは地球を約39周したことになる。39……?
そして使用期間は27年……27?
すいませんね、ボカロ好きなもので。
僕が修復されたD51 822を目にしたのは一週間前のことだった。
「ありゃ~、VVVFが……」
七時三十八分頃、松任駅に停車したときだった。
なんとVVVFインバータの警告灯が点いてしまった。10が動けなくなってしまった!
「とりあえず、20だけで走らせるか……」
車掌と共に連結器を切り離し、一分遅れで521-20を発車させた。
「………」
そういえば、と松任駅横の広場に目をやった。
いつも置かれていたはずのD51 822がまだ戻ってきていない。一か月前から姿を消していた。修理でもしてるんだろうな。
司令部から連絡があり、すぐに回収用のデゴイチを向かわせるとのこと。
「522かな……すれ違うかもね」
そう思いながら金沢駅へ走らせた。
すると、西金沢駅にたどり着くと警笛が聞こえた。ミュージックホーンが続いて聞こえなかったからデゴイチだろう。
「お、来た来た」
デゴイチの雄姿をしっかり目に焼き付けよう!
「ネームプレートは……え!?」
まさかのネームプレートが赤色だった。522なら黒色なのに。そしてそこには……。
『D51 822』
予想とはまったく違う数字が書かれていた。
「は、822……!」
驚きすぎて息が詰まりそうだった。こんなところで『ノンブレス』になるんじゃない。もっと先だろう。
今でもあの驚きは忘れられない。
ちなみに、その日に521を引っ張るデゴイチの写真が多く出回った。特定班がすぐに822と特定していて『仕事が早いなぁ』と思ってしまった。
そんなデゴイチが今、目の前にある。
「やっぱりかっこいいな……」
松任駅に置かれていた頃は錆や水垢、落書きで少しひどい状態だった。
けれど今はそれらは落とされ、新品のような輝きを放っていた。ものすごく誇らしい……。
見てよ、あの小学生たちの笑顔。まるで花みたいだ。
「今の時代、蒸気機関車はあまり走ってないからだよね」
今の子供たちからしたら、まったく目にしたことがない『未知のモノ』だもん。そりゃあ興味津々になるよ。
『D51神』という落書きはまだ許せた。ただ、書く場所を選んでほしかった。
けれど、失恋や人の苗字を書くのは許せなかった。明らかに関係ないものだから。
なぜそこに書く?
なぜ個人情報を書く?
なぜそんなダサいことをする?
そんな疑問が絶えない。3qjt"et;w.sdt6m5ue。




