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グラン・ツーリスモ・アレジェリータ・モディフィカータ

 午前零時、送電所の敷地内。そこで、一台のバンが逃げるように走り去っていった。

「こりゃ大量……ウハウハですぜ」

 後部座席に座っている小太りな男が、後ろに積まれた銅線を見て不敵に笑っていた。

「油断するな。変な動きをすれば怪しまれるぞ」

 運転席に座って運転している眼鏡の男が言った。

「今頃、市内……もしかしたら県内は大混乱ですかねぇ?まあ、俺らには関係ないっすけど」

 助手席に座っている金髪の男が頭の後ろで手を組んだ。

 窃盗団たちはこの後、8号線を通って県外へ逃亡。その後、ほとぼりが冷めた頃を見計らってこの銅線を売り払って金を得る。

 それを思い出すと、男たちは笑みが絶えなかった。

「これで借金をチャラに……!」

「アイツらの驚く顔が楽しみだ……」

「女にモッテモテっすねぇ!」

 あとはただ逃げるだけ。そう思っていた。


「おい、後ろのあれ、ずっとついてきてないか?」

 眼鏡の男がミラーを見て気付いた。金沢東インターチェンジを通り過ぎた辺りからずっととある車にビタ付けされていた。

「でもあれ、覆面じゃねえっすよ、赤だし。ただの偶然っしょ」

 金髪の男が言った通り、ボディカラーが赤色のアルファロメオだった。

「おい、あんまりジロジロ見るな」

「す、すいやせん」

 小太りな男がずっと見つめていたので、眼鏡の男が注意した。

ンヴォォォォォッッ!!!

 そのとき、ずっと後ろに張り付いていたアルファロメオが加速して追い越していった。

「ほらね?」

 直後、アルファロメオは後輪をロックさせて向きを180度変えた。

「……!」

 眼鏡の男はすぐにブレーキをかけた。

「ぐえっ」

「ぬおっ」

 バンは車線のど真ん中で停車せざるを得なかった。すぐに男は考えた。

 計画が筒抜けだったのか?どこかで誰かが防犯カメラに写り込んだか?逃走ルートに穴があったか?そもそもコイツは誰なんだ?

 しかし、アルファロメオから運転手が降りてくる気配がない。

「た、ただのバカですかねぇ?」

「無視しましょ~よ」

「ああ………そうだな」

 眼鏡の男はハンドルを切った。


「レディに『バカ』とは失礼だね」


 男たちが声のした方向を向くと、マントを羽織り、仮面を付けた少女が銅線のそばで座り込んでいた。

「どうも」

「だっ、誰だお前は!?」

「ん~、適当に『(PUPA)』と呼んで構わないよ」

「このっ」

 小太りな男がすかさずPUPAに殴りかかった。

「全く、少しは考えなよ?」

「ゴフッ」

 顎にシートベルトの金具部分が叩きつけられた。一瞬で小太りな男は気絶して倒れ込んだ。

「ち、ちょっと待ってほしいっす!俺は無実で……!」

「なら、パーカーの右ポケットに入っているものを見せてくれないかな?」

「あ、いや、それはチョット」

「だろうね……まあいいさ。私自身が取るからね」

「……!消え」

 金髪の男が瞬きをした瞬間、PUPAの姿が見えなくなった。

「どっちを向いているのかな?」

「ガッ」

 (すね)に激痛が走り、金髪の男は丸くなった。

 PUPAはポケットを探り、その中から軍手を取り出した。

「ふむ……酸化銅が付いている。いい証拠だ」

「な、なあ。少し話をしよう」

 眼鏡の男はバンから降り、会話ができないか試していた。後ろに回した手にスパナを添えて。

「それで、話とは何かな?」

「何が欲しいんだ?金か?」

「そんなもの、私には必要ない」

「じ、じゃあ、何が目的なんだ!?」

 PUPAは紺色のシルクハットを手で押さえ、眼鏡の男の目を見た。

「言い方は悪いけど、君たちのような悪党を潰すためさ」

「悪……党……」

「間違ってはいないだろう?自分の利益しか考えず、周りがどうなろうが気にしない。『ド』がつくほどの屑さん?」

「コイツ、言わせてれば……!」

「その手にあるスパナで襲ってもいいんだよ?」

 PUPAは眼鏡の男がスパナを隠し持っていることを見抜いていた。

「チッ………やってやろうじゃねえかよこの野郎っ!!」

 感情を爆発させた眼鏡の男は、スパナを振りかざした。

ゴンッ

 スパナはPUPAではなく、バンの車体にヒットした。

「真っ当に生きていればよかったのにね」

 それが、意識を失う前に聞いた言葉だった。



 最近の日本は物騒になってきた。窃盗、殺害、詐欺……平和とは程遠い。

 だからこそ、(PUPA)は動く。

 遠くでパトカーのサイレンと赤色灯の光が見えた。少し前に私が通報しておいた。

「あとは彼らに任せるとして……帰ろうか、ジュリア」

 私はボディカラーを白色に変化させた『ジュリア GTAm』に乗り込んだ。ラナドール並みに信頼できる相棒だ。

「おっと、忘れないうちに私がいたことの証明をしておかないと」

 ブラウスのポケットから一枚のカードを取り出し、倒れ込んでいる眼鏡の男に添えた。


『by PUPA』


 ジュリアは控えめにエンジンサウンドを響かせながら走り去っていった。

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