4 都落ち
神殿の神官達を細かく調べ、首謀者は処刑されるようだ。能力が無い物は実家に返されるか、地方に移動させられることになり、神殿は縮小することになった。だけど、俺は何となく気持ちが落ち着かない。
俺達がされた事を、大勢の貴族達の集まる場所で証言させられたのだ。
結果、それが決定打となり、直に関わった神官や、その親族達が平民に落されたり、奴隷に落されたりしたようだ。処刑された首謀者は、神殿長を務める王の叔父だったようだ。
人の生き死にに関わってしまうとは、余り気持ちが良い物では無かった。
実際の処は、神殿の権力が余りにも大きくなりすぎたため、今回の召喚の不祥事を利用されたのでは無いのか? 何故なら、以前にも度々召喚は行われていたはずなのだ。その事はおくびにも出さず、今回のことだけがやり玉に挙がった。召喚者に不幸なことはあったけれど、これは可笑しいだろう?
神殿には王族の繋がりが多いという。権力争いに敗れた王族や、貴族達が追いやられる場所だったらしい。
そこで異世界から召喚して、強い戦力を手に入れて、謀反を企んでいたという話だった。魔王の話はどこに行った? 異教徒の話は如何なのだ? いつの間に権力争いの話になったのだ?
神殿には王の叔父や、親戚が多くいた。彼等は王から権力を奪い、自分達が取って代わろうと影で動いていた。彼等の殆どは処刑されたり、奴隷に落されてしまった。
神官達は、一体俺達になにをさせたかったのか? 王殺し? その後は召喚者に総てなすりつけて、俺らをを消すつもりだったのか? 召喚された高校生が、そんな権力争いに巻き込まれないで良かった。
深く考えるのはよそう。彼等は無事に元の世界へ帰って行けたのだから。
今後、召喚を行えば、同じように処罰されてしまうそうだ。俺らの元の世界にとっては良かったけれど、俺やタクミの立場が微妙になった。
新たに神殿長となったのは巫女だという事だ。部位欠損が直せる、治癒が使える希少なスキル持ち、それは勿体なくて地方へは飛ばせないだろう。
「旦那様、王からこの度の褒美として領地を与えると打診がありました」
褒美とは、何に対してだ? これは慎重に考えなければならない問題だ。
「俺はただ証言しただけだ。褒美を貰えるようなことはしていない」
「・・・表向きはそうでしょう。ですが実際は、謀反を起こした者を捕まえるきっかけになったのです。本来ならば、爵位を与えられるほどの功績なのです。でも旦那様は異世界からの召喚者です。軽々に貴族には出来ないとのことでした。これは王が貴方に送る感謝の気持ちです。断っては返って角が立ちます。素直に受取った方が宜しいかと」
そう言うものなのか? 俺には分からん。執事に任せるしかないだろう。
俺が貰った領地は、処刑された男爵が納めていた土地だった。爵位こそ無いが、実質この土地を納める貴族と変わらない。この土地は王領から遠く離れた、隣国との国境に面した土地だった。ここに来るまで馬車で二十日かかった。若しかして俺は追いやられたのか? やっかいな異世界人だからか?
俺の面倒を見てくれていた執事は付いてこなかった。王都にある屋敷を管理する為だそうだ。
「旦那様は、彼方の領が落ち着いたらここへ帰ってこられます。その為に私はここを守ってお待ちしております。私は王にも旦那様の秘密は言っておりません。信用してください」
セバスはそう言っていたが、俺は王都に帰ってきても良いのか? 若しかして知らない間に、王様に煙たがられるような立場になったのかも知れない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
男爵の屋敷には以前からの執事や従者などの家臣がそのまま残っていた。
俺がこの土地に関して何もする必要は無かった。トップが変わっても変わらずに領地は順調に運営されているようだ。
俺はただここにいて、最終決定にサインをする役だ。
「御領主様、文字の読み書きが出来るだけでご立派です。貴族でも計算も出来ず文字が読めない方もいらっしゃるので」
どんな世界だ。文字が読めなくて領主が務まるとは。呆れてしまう。以前の領主であった男爵は、正にその文字の読めない貴族だったらしい。殆ど王都の屋敷にいて、領地は彼等に任せきりのようだった。
だがここは、王都とは違って人は少なく、何となく都落ちの感が否めない。
「寂しい場所だな。俺は王都にいたかったよ」
「そうかな、僕はここの方が好きだな。静かで、自然豊か。魔獣もいるけど」
タクミがなにやら作りながら、俺の工房でお茶をしている。
「そうだよ!それ、今問題なのは。魔獣があり得ないほどいて、近隣の農村が被害を受けているんだ。何とかならないのか」
「僕達は戦力にならないスキルだしね、戦闘力があった召喚者達は帰っちゃたし、困ったね」
古い屋敷なら幾らでも直せるが、魔獣となれば話が変わる。俺達には戦う術はないのだ。一方で、魔獣の素材はここの領地の特産でもあるのだ。
ここには大きな冒険者ギルドがあった。商業ギルドも領地の規模の割りには大きかった。経済はソコソコ良い具合に廻っている。
俺のスキルは戦えるものでは無いが、領地の役には立っていた。実際、古くなった施設や神殿、屋敷などは総て直して廻って領民にはとても感謝された。何と言っても俺のスキルは元手はゼロ。しかも新品に出来るのだ。例え領地に金が足りなくても関係ない。執事や従者達は驚きながらも
「これでこの領地も安泰だ」
と言ってくれたのだ。だが、戦いは畑違いだ。そんな折、王都から客が来た。
ルクセンだ。彼は王都での仕事を切り上げて、こちらに拠点を移すことにしたという。王都の執事、セバスから言づても預かってきていた。今期の売り上げの詳細を書いた帳簿の写しを持ってきたのだ。料理人にはあの屋敷を譲ると言ったが、律儀な彼は「とんでもない!」と言って、受取ってくれなかった。仕方がないのでセバスに管理を任せることにしたのだ。
ルクセンのパーティーは六人だった。彼等は王都では中堅の冒険者だ。
「おいら達は、ここでレベルアップする。ここには腐るほど魔獣がいるんだろ? おいら達に任せておけ」
頼もしいが、大丈夫だろうか。王都の近隣にある森とは段違いに強い魔獣がいると言う噂だ。俺は実際見たわけではないが、危険はこちらの方が高いのだ。兎に角、彼等には領都に家を宛がって、頑張って貰おう。俺は領主だ。それくらいは融通が利くのだ。
「怪我をしたら、遠慮しないで俺の所へ直ぐに来るんだ。生きてさえいれば、直してやるから。分かったか?」
「ああ、分かってるって。心配するな。それにここでは薬師の腕も良いと聞いている。王都よりも冒険者にとっては環境が良いしな」
タクミが、以前作っていた剣をルクセンに差し出した。
「これ、使ってみて。もし具合が悪いようだったら言ってね」
「・・・これって、すげぇ剣じゃないか!良いのか?」
「そうだ。タクミが作る剣はそんじょそこらの剣とはものが違う」
「ありがとう。これでガンガン遣っ付けてくるぞ!」
彼等が出ていって、暫く王都の事を思い出していると、タクミが、
「僕もレベルを上げたい。このままでは匠のスキルが伸びなくて頭打ちになる」
と言い始めた。レベルは、物を作っていればその内に上がるものでは無いのか? 俺がそう言うと、
「死んでしまったけど、僕の担当だった神官は魔獣を倒せば、直ぐにレベルが上がるって。僕は怖くてイヤだと言ったら、そんなことではいつまで経ってもつまらない物しか作れないだろうってさ」
「酷い言い方だ。そいつは君に戦わせたかっただけじゃないのか?」
「そうかも知れないけど、確かに他の仲間はレベルが凄く上がっていた。あの神官は本当の事を言っていたんだと思う」
「ふーん、じゃぁ試してみるか? 初めは簡単な魔獣から。俺も一緒に行ってやるよ」
「本当? 僕、作ってみたんだ。ケンジさんには槍が良いと思って。僕には弓矢が向いていると思って作ったんだ」
俺は槍? 何となく違う気がした。
「俺は剣に憧れがあって、剣を使ってみたいんだ。出来れば剣が良いかなぁ」
「でも、初心者は危ないらしいよ。槍から初めて見て、どうしてもイヤなら剣を作るから」
「分かった。確かに魔獣から離れていた方が少しは安全か」
この事を執事に言うと大反対された。
「御領主様、失礼ですが、魔獣を倒したことはおありですか?」
「・・イヤ、見たこともない」
「では、武術の心得は?」
「・・・まったく無い」
「・・・でしょうね。もし、どうしても行くというのでしたらせめて武術を習って、そして騎士を護衛として連れて行ってください。魔の森の入り口までならご案内いたします。今、御領主様に何かあっては困るのです」
御説ごもっともだ。何も知らないド素人だ。みんなの足を引っ張らないように準備をすべきだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺とタクミは騎士隊長の特訓を受けることになった。
「御領主様はまず、体力をつけなければ話になりません。走り込みをして素振りを毎日一千本してください」
千本!腕が千切れるんじゃぁ無いか? 自分で言い出したことだが、いい加減辞めたくなってきた。だがタクミは頑張っている。保護者を自認している俺としては、無様な姿をさらすわけにも行かず、頑張った。三ヶ月もすると、騎士隊長の言ったノルマが達成できるようになった。次は打ち込みをやるという。俺達は毎日痣だらけになりながら、これもやりきる事が出来た。半年も過ぎると、いっぱしに対人の模擬試合が出来るようになった。身体には良い感じに筋肉が付き、自分の身体を眺めて無駄にポーズを決めてみる。
今では身体を動かさないと気持ちが悪いくらいになってきた。そんな時、騎士隊長が、檻に入った沢山の魔獣を訓練場に連れてきた。
「御領主様、ここに最弱の魔獣を用意しました。このファングタートルを一撃で倒せれば、魔の森までご案内できます」
五十㎝くらいの魔獣で、元の世界の噛み付き亀にそっくりだった。
鋭い牙に噛みつかれれば、手や足はなくなってしまいそうだ。甲羅は堅く、どうすれば一撃で倒すことが出来るのか。全くもって自信が無い。唯一の救いは動きがのろいことだろう。
俺は槍で突き刺そうと躍起になってみたが、なかなか刺さらない。タクミは弓を諦めて同じように槍で突き刺していたが、やはり無理だった。
「領主様、物には弱いところという場所があります。このタートル系は、甲羅のつぎ目と手足、首の場所です。そこを狙えば簡単に突き刺さります。もう一度やってみてください」
言われたとおりにやってみる。でも、細く狭い場所にはなかなか命中しなかった。何度か槍を突き出して、やっと突き刺さったが、一撃では絶命しない。
「難しい。よくこんなのを相手に冒険者達は戦えるものだ。これで最弱だって?」
「はい、堅さは一番の武器です。動きがのろいので最弱の扱いですが、時間が掛かる魔獣です。こいつらは滅多に襲ってきませんが、一度噛みつかれると離してくれません。この魔獣は、甲羅が素材として使えますが値段は安いです。旨みはない魔獣なので余り討伐されずに増えてしまって困るのです」
そう言う物か。旨みがなければ冒険者だって態々苦労して倒そうとは思わないものな。・・・亀か・・・!
「こいつらをひっくり返せばどうだ? 腹甲羅も硬いのか?」
「・・・どうでしょう。試しにやってみましょう」
騎士隊長が亀をひっくり返すと、亀はウゴウゴと手足を蠢かすが、なかなか思うようにひっくり返れないようだ。俺が腹に槍を突き刺すと簡単に突き刺さってしまった。
「これなら簡単に倒せそうだな」
「確かにそうでしょうが、ここにつれて来たファングタートルは一番小さな個体で、大きな物は二メートル以上になります。そうなれば、ひっくり返す戦術は使えませんね」
「・・・・・」
地道に一撃で倒せるように鍛えなければダメな様だ。精神を集中させて、一点に力を入れ、ブスリとやる。その作業を延々と繰り返す事が続いた。
訓練場には、あちこちにファングタートルの死骸が転がっていた。騎士達はそれを集めて荷車に乗せ、解体屋へ持って行くようだった。
「隊長。あの亀は食えないのか?」
「え! 普通、ファングタートルを食べたりはしません。余程腹を空かせた孤児以外は」
食えると言うことでいいのか? 子供が食べて大丈夫なら食べてみる価値はある。俺は大きめの亀を手に取り、解体してくれと料理番に持って行かせた。
気味悪そうに恐る恐る料理番は持って行った。
結果として、食えないことはなかった。が、堅くて不味い。やはり余程腹を空かせた者以外は食わない、というのは本当の事だった。俺には食い物を美味しく加工する知識など無かった、残念。だが、タクミは違った。
「これは調理法が不味かったのではないかな。煮込んで時間を掛ければ行けますよ。確か亀は旨みが強いはず。僕がもう一度やってみます」
タクミが小さめな亀を捕まえてきて、ひっくり返して槍で押さえ、首を伸ばしてきたところを素早く落して血抜きをした。まるごと茹で、甲羅を外して調理し始めた。料理人はじっとタクミの調理方法を見ている。内臓は傷つけないように丁寧に取り除いている。流石、匠の技。スキルを持っていればこんなにも凄いことが出来てしまうのか。
丁寧に捌き、あくを取りながらショウガやネギと一緒に煮込んでいった。柔らかめの肉は別にして、唐揚げにするようだ。
出来上がった亀の料理は、同じ物と思えないほど旨かった。ぷるぷるのゼラチン質が特に旨い。
「タクミ様、この調理法を私が試しても宜しいですか?」
「ああ、良いよ。どんどん作って広めて」
「この領の特産が増えましたな」
執事や騎士達がこぞって食べ始め、今まで捨てていた物でも、調理方法の工夫で見違える旨さに驚いていた。
普通の動物と魔獣との違いが分からない。その事を騎士隊長に聞くと、
「魔獣には魔力が籠もっています。魔力が多ければ魔獣、少なければ動物と言うことですな。まあ、そこら辺は曖昧です。大きな個体になれば魔石が身体に出来て、高い値段で取引されています。人間だって、魔獣のように長生きすればその内魔石が身体に出来ると言う話です。長生きするのは難しいですが」
その論理で考えれば、この世界の人間も魔獣に分類されると言うことか? 口が裂けても言えないが、この世界は魔獣が納めていると言うことにならないか? 若しかすると、本当に魔王はいるんじゃあないのか?
ふと、自分を振り返って考えてみる。俺には大きな魔力がある。
「・・・・・俺も魔獣か? この世界に来て魔獣になってしまったと言うことか!」
これ以上深く考えないことにした。元の世界の人間だって動物だし、ここでは魔獣も変わらないということだ。
ファングタートルを倒したお陰で、タクミも俺も少しレベルが上がった。騎士隊長の許しが出て、俺達は森まで行けることが決まった。




