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3 勇者達との再会

 トマスンの苦肉の策が、歴史学者への打診だった。

 と言う事で、歴史学者と考古学者の二人が、いま俺の目の前にいる。

「で、貴方がリペアーを掛けたらこれが出現したと?」

「はい、てっきり納屋だと思っていたもので。ここを譲り受けて、住居を整えようとしていたんです」

「それにしても・・・余りにも桁外れな力だ。今国内にはリペアーのスキル持ちは、ある程度いるが、精々が剣とか鎧、古美術品を修復するだけですぞ。それを貴方はこの様な大きな物を復元して仕舞うとは。とんでもないことです。この目で見ても信じられない」

「・・・それで、俺の処遇はどうなりますか? 決して王に刃向かう等とは考えていません。偶々こうなって仕舞って・・・」

「ああ、その点は心配なさらずに。これは歴史的に見て価値があるだろうと、王は仰っております。ここを研究した後はそのままにして保存することになります。ただ、国に接収される事になるでしょう」

「・・はぁ」

俺は、また住む処を探さなければならなくなったのか。

「そんなに気を落さずに。王から、代わりの土地をと言われております。貴族街に屋敷を用意してくださいますよ」

 貴族街か。ハッキリ言って行きたくない。あそこにはあの神殿がある。神官達の人を人とも思わない扱いがイヤだった。

 俺がイヤな顔をしているのに気が付いたのだろう。年取った考古学者が、

「貴方、ケンジくんは、異界から召喚されてきた方ですか?」

「・・・はい」

「そうですか。やはり、異界からのスキル持ちは桁外れと言う事なんでしょうな。しかし、よく神殿が貴方を解放してくれましたな。今まで何度か秘密裏に召喚術をして、力ある召喚者を秘匿していたようですが、それほど力が無い召喚者は度々市井に放たれていたようです。彼等は今も街にいるのか、他所の国へ行ってしまったか・・・定かではないのです。貴方のような方を手放してしまうとは。神殿が変わったと言うことかな?」

「神官の話では、何時も一人のはずが十人も召喚されてしまって事故が起きてしまったそうです。俺は、その時の召喚の失敗で、片足が不自由になったので、役に立たないと言われまして・・・お陰様で戦いに行かなくても良くなりました」

「戦いですと? 誰と何の戦いをするというのですか?」

「・・え? なんか、他の大陸に行って魔王とやらを倒す、と言うことでしたが」

「・・っ!神官どもめ。まだつまらん迷信に振り回されているようだ。彼奴らは異教徒を滅ぼさなければ、この世界は滅びるなどと世迷い言を信じておる。異教徒は何部族もいるではないか。それを滅ぼしてどうしようというのか」

「いかんな。本当に他国と戦争になるやも知れない。もう一度王に面会して何とか対応をして貰わねば」

「ケンジくん済まないが、今日はこれで失礼する。詳しい話はまた落ち着いてからする事にしよう」

 彼等はそう言って慌てて帰って行ってしまった。一体、何だったのだ?


 後日召喚に携わった神官(俺に薬を振り掛けた神官)は捕らえられ、高校生達は保護された。王に仕える神官達によって、精神に施された術を解かれて、今王宮で心と体を癒やしているという。余りにもショックが大きく、その後の心のケアが大変だと言うことだった。彼等が健康になれば、以前の世界に帰れることになった。 その中に一人だけ帰りたくないという若者がいた。彼はあの時犠牲になった老人の家族で、元の世界に帰っても天涯孤独だという。

 彼は俺の所に挨拶に来た。俺は王様から貴族街の外れに、家を貰って今はそこに住んでいる。

「僕は、葉山巧(はやまたくみ)と言います。僕をここに置いてくれませんか?」

「良いけど、帰りたくないって、どう言うこと?」

「貴方も帰りたくないんですよね。僕もあっちには良い思い出がないんです。じっちゃんは死んでしまったし。帰っても十七歳では碌な仕事がないでしょう。一人で生きていくのは無理だと思います。こっちにいればスキルが有るから生きていけると思って」

「そうか、タクミのスキルは?」

「『(たくみ)』です。あ、名前ではなくて。物を作るとなんでもよく出来ちゃう方の匠です。神官達には剣や防具を作らされていました。意外に面白くって、この仕事をしていきたいなって・・・思っていて・・・」

 タクミに、神殿での詳しい話を聞くことが出来た。彼等はやはり精神を操作されていたようだった。あの時、俺の部屋に入ってきた神官は、俺に術を仕掛けていたことになる。それが効かなかったため、操れない俺は神殿を追い出されたと言うことなのか。

 勇者や聖者などの戦闘系のスキルを持っていた若者達は、神官が側にいなくなった途端に不安に襲われてパニックに陥ったらしい。タクミから彼等の生活を聞いて、可哀想だったなと思った。

 人や動物を殺すことに罪悪感を持てなくされ、沢山殺してレベルを上げるように強要されていたらしい。それを、術が解けた途端に思い出して仕舞ったようだった。タクミの場合、物作りだった為、酷い行いを強要されることがなくトラウマは少ないようだが、それでも術で操られて、何も考えずに武器を作らされていたようだ。精神まで操るなんて鬼畜な奴らだ。

 あっちの世界に帰っても覚えているのだろうか? スキルが無くなるのと同じように記憶もなくなっていた方が、彼等のためかも知れない。

「ケンジさん。足、まだ治っていなかったんですね。僕らはケンジさんは魔王と戦いたくないから出ていったと聞かされていました。足を治して貰えたのに戦わないケンジさんは酷く馬鹿にされていたんです。弱虫の卑怯者だって。本当は違ったんですね」

「いや、それは違う。本当に戦いたくなかった。俺の場合は術が効かなかっただけだ。俺は精神操作されにくい体質なんだろう。君らだって術を掛けられていなかったら、戦いたいだなんて思わなかっただろうさ」

 王の側近に話された真実をタクミに話して聞かせると、

「そうだったんですね。術に耐性があったんだ。ケンジさん、彼等が帰る前に、ケンジさんの足、直して貰いましょうよ」

「・・・?どう言うこと」

「聖者の片山くんが、レベルが上がって、部位欠損を修復出来るようになっています。彼等が帰ってしまう前にやって貰った方がいいですよ」

 次の日、王宮へ出向いて、召喚者に面会を求めた。直ぐに通されて彼等と再会した。彼等は俺を見ると皆近寄ってきて泣き始めた。

 一年経って、十七歳から十九歳になったが、彼方に帰ればまだ高校生だ。今まで自分がしてきた恐ろしい所業に心が潰れそうだと言っている。

「動物も人間までも殺してしまいました。私、あっちへ帰って生きていけない!」聖騎士のスキル持ちの少女だ。ガタガタ震えて顔が青くなっている。

「大丈夫さ。スキルと共に君の今までやったことは消えて仕舞う。君のせいではないんだ。安心して帰れば良い」

そう言って慰めた。勇者のスキル持ちもまだ16歳の子供だった。彼も同じように泣きじゃくっている。

 俺は彼等の背中をさすり、大丈夫だを連発するしかなかった。

「もし怖かったら、帰らなくても良いんだ。俺もタクミもここに残ることにしたから」

「「「「・・・・・」」」」

 だが誰も、ここに残りたくないようだった。

「オイ、片山。ケンジさんの足直してくれないか?」

「え?足って、ケンジさん若しかしてあのままだったんですか? 酷いなぁ、神殿には部位欠損を直せる巫女がいたのに。彼奴ら本当に嘘つきのクソだな」

 片山くんに一時間かけて足を治して貰い、久し振りに普通に歩けるようになった。

 片山くんが俺の足に呪文を唱えている間、俺は不思議な声を聞いていた。

――どこの世界の言葉だ?

【オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ・・・・・】

その言葉が頭の中に刻み込まれていくのが分かった。片山くんの呪文とは違う言葉だった。

 彼は、「やっと人の役に立った」と言って、魔力が無くなってふらふらになりながらも、表情は穏やかだった。

 彼等はそれから暫くして元の世界へ帰って行った。俺とタクミだけがこの世界に残った。

「タクミ、真言って知っているか?」

「ああ、密教の真言って事ですか? そう言えば、じっちゃんが詳しかったな。僕は全く知らないけど。あ、そうだ、これ」

タクミは彼の祖父の形見だという経本を出して見せてくれた。黒く血に塗れて殆どが読み取れないが、俺が聞いた言葉と似ている。これを書き写したいが、貸してくれるだろうか。

「良いよ」

タクミは気持ちよく貸してくれた。

「これにリペアーを掛けても良いか?」

「え、綺麗になるの?」

「多分な」

俺はリペアーを掛けると経本は新品になってしまった。タクミが少し残念そうだった。そうだよな、おじいさんの使っていた痕跡まで無くなって、思い出も無くなってしまったように感じるのだろう。

 このスキルはあの老人の物だったのだ。本当ならタクミに受け継いで貰った方が良かったのだ。意味不明の言葉は、お経のような物なのだろう。俺はこれから老人の代わりに、タクミを一人前にするまで見守っていこう。

        

          ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 あの真言のスキルを試してみたくなった。俺の唱えた真言は薬師如来の真言らしい。これを唱えれば、俺でも部位欠損が治せるようになるのか?

他の真言を唱えてみても何に効果があるか分からなかった。唯一、薬師如来の真言だけが分かっている。

 俺は今、冒険者の下宿屋へ来て、料理人と話をしている。

「俺の足を?」

「ああ、チョットだけ見せてくれないか?」

「こんな物見てどうするんだか。まあ、ご主人様が見たいと言うんなら見せますが、余り気持ちのいいもんじゃあないですよ」

 彼は保護のために巻いていた包帯を外して見せてくれた。俺はその足に、あの呪文を心で唱えながら魔力を流していった。

【オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ・・・・・】

 何度も唱え魔力を流していくと光が料理人の足を包み込み、暫くすると足が再生していた。

「う?おおおーーーーっ!おおーーーっ!」

「貴方!どうしたんですか!」

 家政婦の奥さんが部屋に飛び込んで来た。料理人は驚異の顔をして固まったままだ。

 俺は魔力が枯渇しそうになって倒れてしまった。

「ああ、気が付かれましたか。ご主人様!」

・・・ああ、気を失っていたのか。そうだ!俺はやったぞ!人の体の直しを。

 ぱっと飛び起きて、料理人が二本の足で立っているのを確認して満足した。

「よかったな、足が治って」

「は、はい!!!ありがとうございました。で、支払いは・・・・」

「何を言っている。俺が勝手に実験台になって貰っただけだ。気にするな。それより調子はどうだ?痛むところはあるか?」

「いえ、本当に、夢のようです。ここ十年この足のために色んな苦労をしてきました。これからはもっと働けます」

「ま、まぁ余り無理をしないで、ぼちぼちやってくれ。では俺は帰るとするか」

「あのー、すいません。ルクセンさんが待っておりまして・・・その」

「ああ、ルクセンか。彼の腕も治してやるか。だが魔力が限界だ、今日は無理だ。明日俺の家に来いと伝えてくれ・・・後、暫くはこの事は秘密な。誰かに聞かれたら、神殿で直して貰ったとでも言っておけ。ルクセンにもそう伝えておいてくれ」

「はい」

 俺の今の住まいは貴族の為の店が建ち並んでいる地域にある。貴族街は平民は普通は立ち入れない地域だが、俺の住んでいるのは貴族街と言っても地位が低い物ばかりの場所だ。

 爵位を持っていない貴族の五男とかが商売をしていたり、武器を作る工房があったり、騎士達が大勢住む宿舎等がある。比較的庶民的な雰囲気の場所だ。神殿もこの地区にある。

 貴族街と一般の地域とは明確な区分けはないが、ここが境目と言える場所だろう。その為、ここにはブルジョアジーや大店の商店主などが店舗を持っていて平民の中でも地位が高い人達が出入りしている。礼儀作法など知らない一般の平民が貴族に対して万が一至らない態度を取れば、たちどころに処罰されてしまうからだ。貴族の権威は平民では太刀打ちできないほどに高い。

 ルクセンがここへ来るときは、普段着た事が無いような服を着て、めかし込んでくるだろう。彼には申し訳ないが、あの場所で治して仕舞えば、人が押しかけてきてしまう。俺一人では捌ききれなくなるだろう。

 それに、俺が部位欠損を治せると分かれば、また神殿へ取り込まれてしまうかも知れない。それは絶対に避けたい。いくら元凶だった神官がいなくなった神殿だったとしても、あそこには二度と行きたくなかった。

 俺の家の前に馬車が止った。そこからめかし込んだルクセンが出てきた。執事が招き入れ、俺の工房にルクセンが入ってくる。

「ケンジ、来たぞ!さあやってくれ」

 ルクセンが期待に目を輝かせ義手を外して、俺の目の前に左手を差し出した。

 俺は、ソファーに座ってルクセンに術を掛けた。魔力が切れて気を失っても良いように用意した長椅子だ。

 今回は魔力がもって、気を失うことはなかった。若しかすると、部位欠損の期間が長くなれば、魔力を多く取られるのではないだろうか。ルクセンの場合一年くらいだった。料理人は十年越しの欠損だった。

「ケンジ。これにいくら払えば良い? 神殿と同じで良いか?」

「いや、金は要らない。まだまだ実験段階なんだ。もっと研鑽を積まなければ、ハッキリ出来るとは言えない。もしかすれば出来ない欠損もあるかも知れないんだ。だから、絶対に口外しないでくれ。もし仕方がないときは、神殿で行ったことにして欲しい。神殿でも、部位欠損の施術が出来る神官がいるらしいから」

「本当か? 初めて聞いたぞ。若しかして貴族にしかしない施術なのか? 俺が聞いたのは、くっつけることが出来るだけだったぞ」

 貴族の場合、部位欠損などと言う事態には滅多に起こらない事だろう。冒険者のような危険な仕事はそう無いだろうし。

「もし、また誰かが治して欲しかったら・・・つれて来ても良いか?」

「・・・・・それは・・・まだ考えていない。暫くは黙っていて欲しい」

 ルクセンは、分かったと言って馬車に乗り帰って行った。彼が帰った後、椅子の上に金貨が三十枚置いてあるのを見付けた。

 執事が見付けて報告してくれたが、これを貰って良いのだろうか? 貰ってしまって、後でまた誰かを治してやるときの、値段の指標になって仕舞わないか? 

「旦那様、この金額は神殿で行う施術額の半額でございます。それも、欠損再現術ではなく再接着の金額の、です。決して高額ではありません」

この執事は、王様から付けられた執事だった。彼には事情を話して協力して貰って居る。セバスと言う名の彼は王様から召喚者の為に尽くせと言われているようだった。

「そうだったのか。だったら良いのか? 取り敢えずこれを君に管理して貰う。これから暫く無いから。万が一バレたときの対応は頼んでも良いか?」

「もちろんでございます。こう言う事はデリケートな問題になります。神殿にはこの施術を隠している節があります。王やその派閥に知られないように立ち回っているようです。今回の召喚者達の処遇に対して、神殿と王の間に微妙な緊張があるのです」

 知らなかった。そういう事態になって居たのか。

「俺は、王に迷惑を掛けているのか?」

「とんでもございません。むしろ良い機会を貰ったと王は喜んでおります。神殿には色々と良くない噂があります。只、今までは神殿に対して強く出ることが出来ませんでした。何かあれば、直ぐに神に対して不敬だと言われれば、言い返すことが出来なかったのです。今回のことで王は心を決められました。神殿を解体するか、縮小するか、今考えている処です」

 解体だって!俺達のせいで神殿がなくなってしまうと言うのか? 大変な事になってしまった。



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