7-2話 カメラマンと昭和29年の物語部について千鳥紋が知っていること
「カメラマンは、監督がイメージしたものを映像化する人で、物語を作る能力のある作者とはまた別の次元の創造者ね」と、私は言った。
物語部員のみんなは私の話を聞いている。
「監督が映像化されるための物語、つまり脚本を作る場合もあるわ。脚本の段階では、それは映像としては不完全な物語なんだけど、絵コンテまで行けば、ほぼ完成ね。あとは時間と金の問題。監督は「こういう映像は撮れるかな」とカメラマンに聞き、「そのためにはこういうラインとこういう照明が必要で、カメラテストにこれだけの時間が欲しい。時間と金を節約する方法はいくつかあるが、選ぶのは監督だ」とカメラマンは言う。アニメの場合なら原画・動画スタッフの人力ね。いずれにしても、時間と金をかければいいっていうものじゃなくて、いいシナリオが重要なの。いいシナリオといい監督といい役者を見つけて、金を出すのがプロデューサーだけど、いいシナリオを見つけられないプロデューサーは、それを見つけられる人を雇えばいい。その人が毎日毎日、山のようなプロットやほぼ完成されたシナリオを読んで、プロデューサーと相談する」
「だいたいわかりました」と、作者を一番熱心に探している割には根気のない立花備は言った。
「とりあえず、昔の卒業アルバムとか見て、物語部の歴史を調べてみよう。昭和29年だっけ? えらく古いな。そんなのガラスつきスチール本棚には並んでないぞ。昭和の終わりから去年のぐらいまでだ」と、鍵をがしゃがしゃさせながら、部長の樋浦遊久は言った。
「それはその下の、ガラスがなくて鍵がかかっているほうの本棚にあるわ。もうひとつの鍵を使えば開けられます」
「とりあえず、全部出してみよう」と、遊久が言ったので、60冊以上の卒業アルバムが部室の机の上に並べられて、部員はみんな埃まみれの汗まみれになった。
「おお、この時代はうちの高校も制服あったんだな。なんか男子より女子のほうが多くない?」
「戦後、新制高校になる前は、この高校は女子校だったのよ。卒業生は学校の先生になったり、女性議員になったりした人も多いわ。要するに女子で4年制の大学に行きたい人は、戦前も戦後もこの高校に入ってたの」
「なるほど…あるね、昭和29年のアルバム…しかしこれはアルバム全部ちゃんと調べて物語部の歴史を考えるとなると埃がひどいな。醍醐、窓を開けてくれ。清、悪いんだけど近くのドラッグストアで部員分のマスクと軍手買ってきてくれ。本格的に調べるのはそれからだ。立花、勝手にアルバム見るな。順番がわからなくなっちゃうじゃないか」と、樋浦姉さんは指令を出した。
冷蔵庫にあったペットボトルの日本茶を、安物のプラスチックのコップに入れて飲みながら、樋浦姉さんは昭和29年の卒業アルバムをめくりはじめた。
「ふーむ…卒業アルバムだからその年の卒業生のクラス写真しかなくて、1・2年生のはないんだな。うわあ、巻末に住所とか載ってるやん。先生とかの住所も。この頃はまだ電話とか持ってる家のほうが少ないんで、電話を持ってる先生のしか電話番号書いてない、と」
「昭和30年代後半ぐらいから、多分卒業生の電話連絡先も書いてあるはずよ。今は名前が50音順で載ってるだけで、住所も電話番号も掲載されてないわ」
「まあ、どうしても連絡を取りたければ、ネットで検索すればいい時代だ。しかし女子高生の場合は、結婚して苗字も住所も変わると面倒くさいな」
「そういうのは女子ネットワークを頼るしかないわね。それから部活動の記録写真だと、3年生以外のメンバーもわかるはずよ」
「物語部は…そんな変な名前の部活動、昭和の時代にあるわけないか。文芸部はちょっと違うな。いやちょっと待て、創作文芸&映画研究会なんて妙なものがあるんだけど」
「昭和29年は映画『ゴジラ』と『七人の侍』が公開された年ね」
「当時は不良が映画見るもんじゃなかったのか?」と、今の不良っぽい立花くんは言った。
「そういう映画もあったけど、ていうか大多数だったけど、洋画だと『ローマの休日』とか『オズの魔法使』とか、普通の家庭が一家で見る映画もけっこう公開されてるのよ。映画と不良が関連づけられるのは、1955年、『狂った果実』その他、いわゆる太陽族映画が問題になって、映画倫理委員会、いわゆる映倫が設けられて以降の話だわ」
「ややっ、こ、この写真に写っているのは、どう見てもお前じゃないのか、千鳥。そしてヤマダも」と、樋浦姉さんは漫画のような驚きかたをした。
「その写真に写っているのは私の祖母。今日はこんなこともあろうかと、その時代の制服を借りてきました。祖母の名前は立花昭子って言って、立花くんの祖父の姉になります。ヤマダは生徒じゃなくてその部の顧問よね」と、私はごまかすついでに嘘もついてみて、さらに本当のことも言ってみた。
「うちのクラスの、面倒見がよくて美人で優等生の後藤景子、通称ケイちゃんは、私の祖母の妹のひとりの孫で、私たちは薄い血縁関係にあるのよよね」
「本当かよ! 苗字違ってるんで全然知らなかったよ! 今度そのケイちゃんって人紹介してください」と、ずうずうしい立花くんは言った。
「ああ、でもケイちゃんには公認のカレがいて、それは今、生徒会の副部長やってる番長みたいな人、本名岡本鬼八って人なの」
作者、絶対適当に物語を作ってるだろう、と、私は思った。




