25 『目覚めて、ヒロシ』
「ん…?」
真っ白い天井が見える。
「ひ、ひろし!!!」
途端、鼓膜を破るような大声が響き渡る。
光に反射して眩しいが、そこには一週間ぶりにあう両親の姿が。
二人は信じられないものを見たというように、目を見開き固まっていた。
「「広志!!!」」
なに。
声を出したつもりが、一言も音が出なかった。
口に違和感を感じた。何かがとりつけられている。
周りからは機械音が響いていた。
目だけで周りを見ると、そこは病院の個室だった。
「母さん!俺は先生を呼びにいってくるから広志を頼んだ!」
父さんは駆け足で病室から出て行った。母さんは泣いている。
母さんは涙ながらに話す。
「広志あなたは交通事故に巻き込まれて一週間意識不明だったのよ。ずっと....ずっと目を覚まさないからもうこのままかと.....」
「…」
そうだった。思い出した…。
交通事故だった気がするし、あの時死のうとした気もする。信号無視して向かってくる車に、逃げようとするどころか、足が止まった。これで楽になれる…そうよぎったことを思い出した。
「頭はいいのに、とにかく不器用なんだから…。生きててよかったよ…ほんとに…死んじゃったらどうしようかと…」
初めて見る母親の泣いている顔に、戸惑う。
そして戸惑いながらもヒロシが思ったのは、ピコもアンナもエラもレイラも夢だったのか…という事だった。
そして、リンも……
ギルはもしかしてこのことを言いたかったのではないか。
ヒロシは不思議な気持ちになった。
ーーコン、コン
突然病院の扉から突然ノックの音が鳴り響く。
父さんかな?
お母さんは涙を拭い。扉のほうに歩き出す。
カラカラと開けると、そこには、小柄な女の子がいた。
俺はその子を知っていた。
"凛"
広志の言葉にならなかった空気音がぽつり、と病室に響く。
「広志?この子はあなたが入院してから毎日きてくれたのよ?」
"え"
彼女の容姿は、あっちの世界で出会った、リンそのものだった。
さすがに耳はとんがってはいないが、それでも瓜二つだった。
ヒロシは声を出せなかったが、それでも彼女と話したかった。
「お母さんお父さん遅いから見てくるわ。凛ちゃんちょっとそばにいてくれる?」
凜はヒロシの姿を凝視して、信じられないというような表情をしていた。
「広志くん目を覚ましたんですね。本当によかった!!」
しかし、少しして状況を飲み込めたのか、目を覚ましたヒロシをみて涙を浮かべ、広志の横に近づいてくる。
「広志くんは覚えていないかも知れないけれど、小さい頃よく一緒に遊んでいたんだよ」
「私は弱虫で近所の子に虐められたときヒロシくんは、助けてくれた」
「そのあとも家が近いこともあって、遊んでくれてたんだけど、そのあと私は引っ越しちゃってそれっきりだったの」
ヒロシは古い記憶を遡る。
いつのまにか嫌な記憶で上書きされて忘れていたようだった。
「高校になってまたこの街に帰ってこれたんだよ!隣のクラスにいたのに、いつも人を避けてるし!なかなか気づいてもらえなくて困ってたの。ねえねえ、ヒロシくんこの本覚えている?」
凜は鞄から一冊の絵本を取り出した。
「私たちこの本が大好きでふたりで読んでたよね。登場人物の健気なピコや美人姉妹のレイラとエラが活躍するこの話が好きだった」
"どうして…"
広志は目を大きく見開き驚いた。
「何だか持ってこなきゃって思ったの!」
そして納得した。ギルの言葉やあっちの世界の住人が伝えたかったことを....
広志は涙が止まらなかった。
きっと生死を彷徨っていた俺を見かねて、生きること、そして強さを教えてくれたのだと。
俺が泣いてる間、凜はずっと俺の手を握っていてくれた。
気付いたら俺も握り返していた....
手を離し、俺は口元についてる器具をはずす。
涙のあとを残しながらも自然と笑みがこぼれる。
「凜!ただいま!」
「うん、おかえりなさい!ヒロ!」




