23 ギルとヒロシ-(2)
「そうか。本気なんだな、それなら俺はお前の命を刈ってやろう」
ギルは右手を伸ばすとそこに死神特有の大きな鎌がでてくる。
「さぁヒロシ気がすむまで殺りあおうか。肉体強化しないとすぐに決着つくぞ?」
ギルは禍々しい鎌をくるくるとまわしながらニヤリと笑う。
「どうして…」
いままで見てきたギルの姿とはあまりにも違う雰囲気にヒロシは戸惑う。
だがここでやらなければ、みんなを守ることが出来ない。
刀を持つ手もギュッと力が入る。
ヒロシは深く呼吸をして、精神を落ち着ける。
魔力を頭のてっぺんまで纏わせ、肉体強化する。
よしっと小さく呟き、先手必勝とばかりに地面を蹴り出す。
「ヒロシ?エラで学んだだろ?不用意に飛び込んでお前は返り討ちにあってただろ?」
「ギルは本当に全部みてたんだね。そうだよ、学んだよ。だからちゃんと用意した」
ヒロシは刀を左手でもち、右手で火の玉をつくる。
作った火の玉をギルに放つ。
「甘い!」
ギルは片手で火の玉を凪ぎ払う。
「どこだ!」
目の前にいたヒロシはいなくなっていた。
「ギル一撃もらった!!」
ヒロシは目眩ましで火の玉をつかい、ギルの死角に潜り込んだ。
両手で力強く刀を握りしめ、斬りあげた。
刀が当たる感覚はあったが、ギルは鎌の持ち手で受け、無情にもカンっと金属音が聞こえた。
「クソっ!まだだよ!」
斬りあげた刀を今度は降り下ろした。
「クソっ!まだいける!」
ヒロシは刀を前に押し出し、ギルの体勢を崩しにかかる。
「残念だな、それも悪手だ!お前じゃ俺の力に勝てない」
ギルは押し返し逆にヒロシ体勢を崩した。
ヒロシは飛ばされ、地面に転ぶ。
急いでギルがいたところに目をやるが、すでにそこには誰もいなかった。
「ヒロシこれでさよならだ」
「!」
ギルの声は上から聞こえる。
ヒロシはすぐに横に転がる。
ヒロシがいたところを見ると、頭があったところの地面に鎌が刺さっていた。
「すぐに楽になれたのに、残念だよ」
ギルは小さく舌打ちをして鎌を抜く。
ヒロシは急いで立ち上がり体勢を立て直した。そのまま様子を伺う。
ヒロシの頭の中では、どう攻めてもギルに勝てる要素がなかった。
「なんだ?ヒロシ諦めるのか?また逃げるのか?大事な人じゃなかったのか?」
「ギル?俺は諦めないよ!あの人たちは必ず守る!」
「そうか。考えずに身体で感じてかかってこい。俺にせこい手段はきかないぞ?」
「クソっ!言われなくてもそうするよ。」
ヒロシはまた走りだし、刀を強く握る。
ヒロシはがむしゃらにギルに刀を振るう。
それをすべてギルは鎌の持ち手の部分でいなしていく。
そのたびに金属音が鳴る。
「ヒロシやればできるじゃないか。がむしゃらに大切なものを守るため刀を振るえるじゃないか」
「ギルの言ってることがわからないよ!」
「ヒロシ?お前を思っている人はこの世界の人だけか?」
「何が言いたいんだ!」
「元の世界でもいたはずだ。その人たちをお前は見捨てここに残るのか?」
ヒロシ攻撃はそこで止まる。
「それは....」
ヒロシな言葉もそこで止まってしまう。
「それはなんだ?仕方ないか?こっちの世界が居心地いいからこっちの人のほうが大事といいたいのか?」
「そんなことないよ....」
「声が小さくて聞こえないぞ?図星か?」
「そんなこと比べられないよ!元の世界もこっちの世界の人も俺にとっては大事だよ!」
「そうか、こっちには1週間しかいなかったのにこっちの世界に残ることを選ぶのか?」
「ヒロシ?それが逃げだっていってんだよ!」
ギルはヒロシの頬を殴る。
ヒロシはいきなりの衝撃で転がりこんだ。
肉体強化されているため、たいしたダメージではなかったが初めて心を殴られてる気がした。
「ヒロシにはな、腹痛めてまで生んでくれた母親がいる、こんなに大きくなるまで身を粉にして稼いでくれた父親がいる。お前には全く見えてないがなァ、陰ながらでも応援してくれている人がいる」
「お前はその人達から逃げようとしてるんだぞ?」
ヒロシは刀を捨てて立ち上がり、ギルに殴りかかる。
「そんなこといっても俺が必要とされたのも、認められたのも初めてだったんだ」
ヒロシは声を震わせ殴る。
ギルはヒロシの拳を何もせず食らう。
「俺は嬉しかったんだよ!心から嬉しかったんだ。初めて自分はいてもいいんだって思えたんだよ」
ヒロシはギルを殴り、心から言葉を紡ぎ出す。
「それは嬉しかったな、良かったな。でもお前の居るところはここじゃない」
「ここがいいんだよ!」
「都合の良い選択肢ばかり選ぶな。それが自分で選んだことなのか、現実逃避にすら気づかない!」
「現実逃避じゃないよ!」
「ここに残ったところでお前は自分に優しいかどうかだけで物事を選ぶんだ。なあ、お前はちゃんと考えたことがあるのか?」
「何をだよ!」
「レイアたちが優しいのは、強者だからだよ。自分を理解している。お前の存在が脅威にならないから公平でいられる」
「…」
「お前はクラスメイトの何を知っている?お前は自分の何を知っている?」
「……いやだよ…辛いのは…ひとりも嫌なんだ…優しくしくれる人たちと居たいと思って何が悪いんだ…」
「どれだけ喚こうがここはお前の居場所じゃない」
「怖い…嫌だ…また失敗する…」
「冷静になって現実を見ろ。教室がお前の世界全てなのか?視野が狭すぎる。たった一度のうまく行かなかったことに、そうこだわるな」
「…酷い…」
「必要とされたり、誰かに感謝されるのは嬉しかったんだろう」
「…そうだよ…みんなに関われて、すごく嬉しかった…」
「だったら元の世界で、そんな自分になれるようにあがけ」
ギルはヒロシ頭を撫でながら優しく諭した。
「ギルが見ててくれるなら…」
「それは無理だ。俺は死神だ。お前の命を刈りにきた。生きたいのなら俺を殺してみろ」
「そんな....そんなことできないよ!」
「なら死ぬか?」
「…嫌だ…嫌だよ…楽しい時間を知って、死にたいなんて思えないよ…!」
「なら答えは一つだろ?」
「ギルの言ってることはずっとめちゃくちゃだよ!!」
「悪いな、これが死神なんだ。お前には合わせる道理はない!」
「そんな…」
「ヒロシ?やるしかないぞ?生きたいだろ?幸せに暮らしたいだろ?」
「そうだけど....でもギルを殺すなんて...」
「うじうじすんな、お前が殺らないなら俺がお前を殺る」
ギルは鎌をもちヒロシに向ける。
「さぁ決断の時だ、殺るか殺られるか!二つに一つだ!」
「わかった…俺は…俺はまだ、死にたくない…!」




