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#69、巧妙な罠




不敵な笑みと共に立ち上がったシャツキフさんが、絵筆型ステッキを頭上に振りかざす。


「…ムフフフ、サンドリオンちゃん。

確かに君の作ったその人型魔害獣は、大した作品だよ♪

でもね、芸術っていうのは生き物と一緒なの♪

作者が自分の作品を制する事が出来てこそ、乗りこなせてこそ、初めて一人前の芸術家と言えるんだよ♪」


「う、うぐゥ〜ッ!」


その理論、やっぱり芸術家ではない私達にはよく分からないけれども、肝心のサンドリオンさんのハートにはかなり響いているみたいだ。


「作品があんな風に好き勝手に暴れ回ってちゃあ、本来の価値を引き出しきれてないって事だよね♪

そんなんじゃ、芸術家としてはまだまだ三流なんじゃないかな?」


いや、そもそも作品が暴れ出すっていうシチュエーション自体が色々おかしいと思うんですけど、空気を読んで黙っておこう。

多分、コロちゃん達も同じ事を考えてる。

ポネラちゃんは案の定、眠たそうにしている。


「三流…ッ!?

…ふ、フフフフ、そんな、馬鹿な事を…。」


同業者であるシャツキフさんにボロクソに言われて、なんかプライド的な物とかがボロボロになっているのか、サンドリオンさんは立っているのもやっとみたいな状態だ。

気の毒だけど、高慢な性格の彼女には良い薬になりそうだし、何より戦闘意欲も既に無さそうなので、魔害獣との戦いには専念出来る。


「さあ、彼女が元気を取り戻す前に、さっさと厄介な問題を片付けるとしましょうか。」


「そうだねー♪

人の作品を壊すのはちょっと気が引けるけど、これもあの子の為だと思えば♪」


「サンドリオンさんは一応敵なのに、そこのところ肩を持つんですね。」


「そりゃそうだよー♪同じ芸術家同士、本来は敵も味方も無いんだから♪

お互いに刺激を与え合って切磋琢磨していくのが、同じ芸術を愛する者同士の、正しい姿なんだから♪」


白い騎士と黒い拳士が、今にも飛び掛かって来そうな雰囲気で、身構えている。

なかなか踏み出してこないあたり、多分私達が奴らに強敵認定されているのだろう。光栄な話だ。


「だから、彼女の成長の為にも、あの作品は木っ端微塵に破壊しよう♪」



相変わらず、芸術家としてのシャツキフさんの意見は、一般人である私には完全には理解出来ない。

でも、たとえ理解する事が出来なくとも、仲間である彼女の手伝いをするくらいの事は、私達でも可能だ。


「ええ、どっちみち彼女をどうにかしない限り、帝都に行けませんからね。」


「アタシも、同感。」


「ギッシシシ、ウチは早くシーザーをぶっ殺せればどうでもいいけど、ママがやるってんならウチもとことん付き合うぞ。」


「ワンワン!」


皆の決意が固まったところで、まずは敵方から仕掛けてきた。

騎士の縦一文字の一閃が、砂浜を裂く巨大な剣風に。

拳士の殴打が、潮風を穿つ巨大な拳圧となって、私達に襲い掛かる。


「『割り箸殺法・雪柳ゆきやなぎ』!」


「『海色の鎧魚ブルー・ファントム』!」


前に出たのは、私とシャツキフさん。

私の方は、全身全霊振動数増し増しの必殺の割り箸で、死の剣風を受け止める。

シャツキフは、いつもの貝殻アート……ではなく、貝殻や珊瑚など海の美術品の集合体である巨大魚を作り出し、体当たりで拳圧を打ち消した。

勿論、強烈な衝撃で巨大魚の頭部は大きく破損するも、そんな事など意に介せずに敵の元へ宙を泳ぎながら突進していく。

私も、明後日の方向に剣風を弾き飛ばしてから、純白の騎士目指してダッシュした。

騎士は私との一騎打ちを望んでいるのか、豪奢な大剣を両の手で構え直し、私が来るのを待ち構えている。


「良い度胸ですね、回避行動をとらないとは、私も随分とナメられたものです!

では、『割り箸殺法・渦紫陽花うずあじさい』!」


「……ッ!」


何一つ言葉を発さないまま、白の騎士は大剣を振り、避けずに私の技を正面から受け止める。

騎士道精神というのか、意思が無いように見えてそういう所は騎士っぽい魔害獣だ。

だったら後は、純粋に力と力のぶつかり合い、膂力が上回った方の勝利だ。


「ぐうゥゥゥッ!」


「……ッッ!」


私の全力と、白の騎士の全力とが拮抗している。

互角。いや、そんな事はない。砂で出来た人形なんかよりも、私の方が上の筈だ!


「もう一度、『割り箸殺法・雪柳』!」


再び繰り出す大技が、騎士の大剣に食い込む。

大層な見た目と硬度をしていようと、この剣は所詮は金属製ではなくただの砂!

私の割り箸の振動を直接受けて、砂の大剣が徐々に分解されていく。


やがて、大剣の刀身を断ち切った!



「終わりです!」


断ち切った勢いそのまま、騎士の胴体を真っ二つに両断する。


「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」


白い騎士は、声にならない奇妙な断末魔の悲鳴を上げながら、その鎧の体を崩壊させ、元の砂と化して爆裂した。

周囲に大量の砂が舞い散る。


私は無事に倒せたけど、シャツキフさんの方は?



「いっけー♪」


シャツキフさんは貝殻アートの巨大魚に跨りながら、黒い拳士と戦っている。

戦っているとは言っても、見た感じ一方的なシャツキフさんの蹂躙にも見える。

何度か殴られて所々ボロボロになっているものの、一向に怯まない巨大魚が拳士を口に咥え、海へと一直線に向かっている。


「シャツキフさん、何をする気ですか?」


「ほら、サンドアートってよく波に呑まれて台無しになっちゃうじゃん♪

だからドーン!」


そのまま海に突っ込んだ。

シャツキフさんは、海にダイブする直前にジャンプして、砂浜に着地。

巨大魚と共に波に呑まれた拳士が必死にもがいている様子が見えるけど、白い騎士同様にその体はすぐに崩れ去り、海の中へと溶けてしまった。


「弱点は水だったのね。

いくら強くても、砂は砂って事ね。」


「とは言っても、思ってたより強くなかったですね。

それだけ、私達が成長したという事でしょうか。」


「まあ、それもあるとは思うけど、サンドリオンちゃんがちゃんとに制御出来てなかったから、魔害獣も実力を100%発揮出来てなかったっぽいねー♪」


そして、そんな未熟なサンドアート使いご本人はというと、既に戦意を喪失しているのか、砂浜に尻餅をつきながら俯いていた。



「…何故、高貴な筈のこのボクが…!

…サンドアートを極め、もはやシャツキフ嬢をも上回る程の芸術家と目されていたこのボクが…ッ!

何故、どうしてこうも歯が立たないんだッ!」


心の底から悔しがり、握り拳を砂浜に叩きつけるサンドリオンさんの元に、シャツキフさんが笑顔のまま歩み寄った。


「ん〜、確かに芸術家としての勝負は、私の方が圧倒的に上だったねー♪」


「…なんだい?敗者を馬鹿にでもしに来たか?

良い性格してるね、シャツキフ嬢。」


サンドリオンさんが、不快そうに睨みつけている。


「でも、君のサンドアートは、とっても素敵だったよ♪」


シャツキフさんの花咲くような笑顔に一瞬怯むも、すぐに怪訝そうな顔つきに戻る。


「…そんな事言って…ッ!」


「ムフフ、だから、私達が帝都に辿り着いて、ひと通り用事が済んだらさ、その時はサンドアートについて色々教えて欲しいな♪」


「…教…えて?」


「うん♪私もまだまだ、知らない事がいっぱいあるからさ♪

サンドアート歴は、君の方が先輩だしねー♪」


シャツキフさんが、サンドリオンさんに手を差し伸べる。

サンドリオンさんは一瞬戸惑うような表情を見せつつも、クスリと微笑みを浮かべてからその手を取り、立ち上がる。

そんな彼女の顔を見てみると、先程までの負の感情はとうに消え去り、どこか清々しささえ感じられる。


「フフフフ、いやなに、少々見苦しい場面をお見せしてしまったね。

高貴で打たれ強く、常に冷静沈着たるこのボクとした事が、ついつい感情的になって取り乱してしまったようだ。」


立ち直った様子のサンドリオンさんが、自身の髪をファサァ…と優雅に掻き分けながら、そう言ってのけた。

少なくとも私視点では随分と簡単に取り乱してたようにも見えたけど、やはりここは空気を読んで黙っておこう。


「フフフ、こんな調子じゃあ、このボクもまだまだだ。一度山籠りでもして、修行し直すとしよう。」


「オススメの山、紹介するよ♪」


「フフ、ありがとう。」


シャツキフさんは、サンドリオンさんに地図らしき紙切れを手渡した。

もうどこから突っ込めばいいのやら分からないけど、そろそろ終わりそうなので見守ってよう。




「そうだねぇ、シャツキフ嬢。貴女には世話になったから、一つ良い事を教えるとしよう。

シーザーの奴は、君達を嵌める為に巧妙な罠を仕掛けている筈だ。

具体的にどんな罠かは、一応味方であるこのボクでも知らされていないが、この先の桟橋にある、クルーズ船乗り場が怪しいと、高貴なるこのボクは睨んでいる。

実際、君達が来るのを待っている間、奴が何度か出入りしているのを目撃したからね。」


サンドリオンさんが指差す先には、海岸の向こうにポツンと小さく見える建物と、船らしきものが確認出来る。

ここからだと、結構歩く事になりそうだ。


「もう知っていると思うけど、シーザーは帝国軍きってのクズ野郎だ。

本来なら、あんな人でなしと一緒に仕事する事自体が御免だったんだけどね。

だから、どんな悪辣な手を使ってくるか、このボクにも検討が付かない。くれぐれも気を付けたまえよ。フフフフ。」


「ご忠告、ありがとうございます。」


サンドリオンさんはそのまま私達に背を向け、それ以上何も言わずに去ってしまった。


「ふ〜ん、クルーズ船乗り場、ねぇ。

どうやら罠っぽいけど、どうするのアディーナ?」


「帝都に向かう以上、シーザーさんとの衝突は避けられない道です。

最大限警戒しつつ、行きましょう。」


「ギッシシシ、ようやくアイツを血祭りにあげられるなぁ!」


一人物騒な事を言ってる気がするけど、取り敢えず私達の意志は固まった。

罠でもなんでも上等だ。こっちにだって優秀な実力者が揃い踏みなんだ。負ける気がしない!












◆◆



砂浜を徒歩で進むこと、十数分。

私達は、クルーズ船乗り場とやらに辿り着いた。

砂浜から海に向かって木製の桟橋が伸び、その先の海上に事務所らしき簡素な建物が顔を出している。

そして事務所の向かいには、まあ大きくも小さくもないそこそこ無難なサイズのクルーズ船が停泊していた。


「なかなか悪くない船ね!うん、悪くない!」


コロちゃんの興奮タイムが、若干戻ってきたようだ。

こうなったコロちゃんは非常にチョロくなってしまうので、敵の罠に掛からないよう気を付けて見守らないと。


「すっごいねー、この船♪乗組員が一人もいない、ランカーシス技研の最先端技術を駆使した、無人の完全自動クルーズ船なんだって♪」


「す、スゴイッ!」


わざとかどうか知らないけど、シャツキフさんがコロちゃんの興奮を煽っている。

確かに自動なのは凄いけど、このままじゃ無警戒のコロちゃん達が船に乗ってしまう。


「ギッシシシ、ねぇ、アディーナ。別にそこまで警戒しなくても、どうせシーザーの奴とは戦う事になるんだから、罠に掛かってやろうぜぇ。

ウチらなら、アイツ如き余裕で返り討ちに出来るだろ。」


「う〜ん、そうは言ってもですねぇ。」


私は悩む。

もう少しクルーズ船の調査をしてから、シーザーさんに挑むべきか。


「取り敢えず、クルーズ船の内部を調べてみましょうか。」


「うん!そうよね!まずは調査よね!安全かどうか、調べないといけないものね!」


コロちゃんが鼻息を荒くして、我先にとクルーズ船に乗り込んで行く。

それを追うように、ポチノスケ君とポネラちゃんも後に続いた。


「私もこういう船って初めてだから、ワクワクするなー♪」


シャツキフさんも嬉しそうだし、実は私も内心ちょっとドキドキしていたりする。

そんなこんなで船に乗ろうとした私は、乗船口で看板が幾つも立っているのを目にした。


『絶対に怪しくない、クルーズ船!健全で夢のような至福のひと時をお届けします!』


『代金は、本日に限りなんとタダ!一切怪しくない、超絶お得なキャンペーン実施中!』


『帝国軍のシーザーという人とは無関係な、全く怪しくないクリーンな海の旅へ!』




その看板を見た私達は、しばらく唖然としていた。




いや、罠張るの下手かッ!

あんなゲスキャラなら、やたらと嘘が上手かったりするのが定石なのに、なんでここにきて無駄なギャップを発揮してしまうのか!

〝怪しくない〟という言葉を連呼している辺り、どう考えても怪しさが全開ダダ漏れだ。



「こんな罠で、シーザーさんはバレてないとでも思ってるんでしょうか…?」


それとも、私達が相当にナメられているかの、どっちかだ。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



混沌ノ白砂騎士(カオスナイト)



害悪指数11000KC。

大量の砂を圧縮した塊に魔害ガスを浴びせて生み出された、サンドリオン特製の魔害獣ね。

私達と戦った時は上手く制御出来てなかった所為で、本来の力を発揮出来なかったみたい。

とは言え、結構強かったけどね。

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