#68、二対の戦士
「敵は散開した!各自、班ごとに対応して、各個撃破するんだ!」
リーダー格のクローン兵が叫ぶ。
私達は兎に角、縦横無尽ひたすらに走り回った。
少しでも休めば砂の城の砲台に捕捉され、格好の餌食になってしまうからだ。
ましてやここは、遮蔽物などほぼ皆無の砂浜。簡単に的にされてしまう。
…いや、遮蔽物なら無いこともないか!
(クローン兵が入っていた、砂の家ならッ!)
他の皆もそれに気付いたのか、断続的な砲撃による轟音と粉塵、更にクローン兵達の追撃に追われながらも、それぞれ砂の家に回り込んで砲撃だけでも一時凌ぎでやり過ごす。
「逃がすな、こっちだ!」
同じように回り込んで来たクローン兵。
まずは、盾となる砂の家が砲撃で破壊される前に、彼女らを迎撃しなければ。
「『割り箸殺法・渦紫陽花』!」
「ぎゃーーッ!?」
躊躇わず大技で、一気に決める。
攻撃を逃れた敵を更に倒しながら、今度は別の砂の家へ。
流石に砂で出来た家だけあって脆く、たった数発の砲撃であっという間に破壊されてしまった。
遠目にコロちゃん達を見やるも、どうやら上手く立ち回っているみたいだ。
私達4人がそれぞれ分散して動いている以上、砂の砲台も集中砲火する事が出来ず、どうしても攻撃の手が五分割になる。
それを狙った散開だ。
あとは、皆が何とかしてくれるのを願うのみ。
「全く、姑息な手段を使ってくれるね君達は。
フフフ、でも、火力が足りないのならその分、プラスすればいいだけだよ。」
どこからかサンドリオンさんの声が響くと同時に、砂の城から新たな砲台が幾つもボコボコと生えてくる。
予想はしてたけど、マズい事態だ。
「フッフフフ、ここは砂浜!砂ならそこらに無限にある!
君達は自らの芸術センスの無さを後悔しながら、ここで灰塵と化すのだ!」
「いや、シャツキフさんはともかく、私達は貴女のサンドアートに対して何も意見してませんけどッ!?」
砲台が増加した分、当然ながら火力もえげつなくなる。
襲い来るクローン兵を倒す事もままならず、みんな防戦一方だ。
しかも、一見出鱈目に撃っているように見える砲撃も、意外と精密なもので、味方のクローン兵へのフレンドリーファイアーを避けながら、器用に私達だけを狙い撃ちをしている。
「くッ、せめてあの砲撃の嵐さえどうにか出来れば…ッ!」
「みんなー、私に任せてー♪」
そう叫んでいるシャツキフさんの手には何故か、片手で持てるサイズのシャベルが握られていた。
「シャベル…。
それは、神聖なる砂を掻き分け、新たなる作品を作り上げる為に必要不可欠な神器。
それを持ち出して、一体何の真似だい?シャツキフ嬢。」
「私もサンドアート、挑戦してみるー♪」
「はあ?」
サンドリオンさん本人の姿は砂の城の中で確認出来ないけど、恐らくは呆気に取られているのだろうか。
砲撃の手が少し緩んだ。
今が好機と、少しでもクローン兵の数を減らす為、私達は一気に反撃に転じた。
「馬鹿な!いくら貴女が芸術の達人とはいえ、まだ手を出した事がない分野で上手く作品が作れる筈がない!」
「ムッフッフ、それはどうかなー♪」
シャツキフさんは砂浜を駆け回りながら、驚異的な速度でシャベルを操り、一瞬で見事なサンドアートを完成させる。
その作品は、サンドリオンさんのものよりも一回り大きく、派手で凝った意匠の施された砂の砲台だった。
「う、嘘だッ!そんなッ!?」
サンドリオンさんは、明らかに動揺している。
その隙にもシャツキフさんは次々と同じような砲台を作り上げていく。
「いっけー♪」
シャツキフさんの砲台が一斉に砲音を上げ、砂の城の砲台を破壊していった。
これはありがたい!
しかも、威力もサンドリオンさんのを上回っている。
お陰で、私達の脅威になる砲撃はほぼゼロに近くなった。
「よし、反撃開始です!」
そこからは、一気に形勢が逆転した。
十分な強者揃いの私達の猛攻に、クローン兵達は成す術もなく倒れていく。
最後のクローン兵を倒し終わった時、巨大な砂の城もシャツキフさんの砲撃を浴びまくったからか、ボロボロの荒城みたいになっている。
これで、あとは敵の本丸である城を攻めればフィニッシュだ。
各自クローン兵を殲滅し終えたコロちゃん、シャツキフさん、ポネラちゃん、ポチノスケ君と、砂の城の門の前で合流する。
「フフフ、そう易々と入れると思わないでくれたまえよ。
『砂塵ノ殺人鬼』、出撃!」
壊れかけた城の門が開き、中から人の形をした何かがぞろぞろと出て来る。
6本の腕を持ち、それぞれの手に剣や斧、金棒に銃火器などなど、多種多様な武器を携えている。
そんな砂で出来た魔人が、何体も城の中から出て来たのだ。
「な、何なのよこれ!」
「やっぱり伏兵がいたかー♪
私と似たような力の持ち主だから、もしかしてとは思ってたけど♪」
折角クローン兵を倒したばっかりなのにとウンザリする暇もなく、砂の魔人達は一斉に襲い掛かってきた。
「来ます!」
「グラットンワームッ!」
ポネラちゃんの号令に合わせて、砂の魔人の足元の砂の中から、グラットンワームが何体も飛び出し、砂の魔人を噛み砕き、体当たりで薙ぎ払っていく。
砂の魔人部隊も負けじと応戦するも、凶悪なグラットンワーム相手に押され気味のようだ。
味方になると、途端に頼もしくなるなぁ、この子は。
「フフ、その程度で勝ったなんて思わないでくれ!
『砂塵ノ狙撃手』、迎撃!」
今度は、城の城壁の上の部分。確か、鋸壁とかいう部分だったか。
その隙間から、複数人の砂人間が、砂で出来た大型の狙撃銃を構えて、私達に照準を定めている。
「皆さん、気を付けて下さい!城の上にスナイパーがいます!」
「了解〜♪」
気の抜けた返事とは裏腹に、シャツキフさんは素早い対応を見せる。
またもや神業と言えるシャベル捌きを披露して、今度は巨大な丸太のような、見た事のない装置めいた物を作ってしまった。
「何ですかそのデカいの!?」
「昔、どっかの国で戦の時に使われてた、破城槌とかいう攻城兵器だよー♪」
ああ、そう言われてみれば、以前読んだ時代物の漫画か何かで、見た事あるような無いような…。
「ゴーゴー♪」
破城槌は、下部に付いたキャタピラで砂の城に向かって自走し(意外と速い)、巨大丸太の一撃を城の扉に叩き込んだ!
頑丈そうな扉は大きく軋み、砂の城は大地震でも遭ったかのようにグワングワンと大きく揺れる。
「ムッフフフ、こんなにお城が揺れちゃったら、狙撃なんてロクに出来ないでしょー♪」
「ぐぬぬぅ、そんな凶悪兵器をポンポンと作れるなんて、聞いてないぞ!」
「そいつぁ、勉強不足ってもんだよ旦那ぁ♪
アディーナちゃん達と旅して前より強くなった私に、簡単に勝てると思ったのが運の尽きだねー♪」
二発、三発と連続で破城槌が叩き込まれ、そろそろ扉が限界を迎えようとしている。
「ぐぬぬぬぬぅ、こうなったら、仕方がない!奥の手を使わざるを得ない!」
「奥の手?」
「カショク海岸の砂達よ、高貴なるボクの元へ集まれ!」
カショク海岸に、異変が生じる。
周囲の砂が流砂となって、サンドリオンさんの砂の城へと集まっていく。
「うわわ♪」
「ちょっと、何よこれ!」
人間が流されてしまう程の勢いではないけど、その異様な光景に嫌な胸騒ぎを覚える。
「星の根源たる偉大なる砂よ、収束し、二対の戦士となりて敵を打ち払え!」
流砂の収束点は、壊れかけの砂の城。
掻き集められた砂はどんどん城に吸収されていき、シャツキフさんの作ったサンドアートや、クローン兵が隠れていた砂の家をも巻き込んでいく。
大量の砂を取り込んだ砂の城は、不恰好にデカくなったかと思うと、突如としてその姿を変質させる。
急に弾け飛ぶかのようにパンと音を立てて消滅したかと思うと、城の中に潜んでいたサンドリオンさんがふわりと着地し、その足元には白い球体と黒い球体、二つの手のひらサイズの球体が転がっていた。
「フフフ、これなるは、高貴なるこのボクが編み出した究極のサンドアート。
この球体は、大量の砂を極限まで圧縮し、その反動で球体周囲の時空を歪ませる事により、混沌の力を与えた物。」
……?
いや、ちょっと言ってる事の意味が分からない。
でも確かに、二つの球体からは、空間が歪んでいるかのような黒いオーラめいたものがモワモワと発せられている。
本能的に察する。これはヤバいものだ。
「何なんですか?あれは一体…!」
「ギッシシシ、あれ、高濃度の魔害ガスだなぁ。」
「なッ!?まさかあの人、今から魔害獣を作ろうとしてるんですかッ!?」
…魔害ガス。
地中から稀に噴き出す有害な毒素がそう呼ばれていて、生物がそれを体内に取り込む事で肉体が変質し、魔害獣となる。
唯一人間には無害なのだけれど、以前会ったバンシーのように死者を魔害獣化させたり、非生物をも魔害獣に変えたりと、現代では最新鋭の技術を有するランカーシス技研の頭脳を以ってしても、未だに魔害ガスについては詳しい事は殆ど分かっていない。
ポネラちゃんがすぐに気付いたのは、彼女が魔害獣使いのエキスパートだからだろう。
「ギシシ、あれほど強烈な魔害ガスだと、結構ヤバめのが生まれるぞぉ。」
「それはいけません!今すぐあれを破壊しましょう!」
「フフフフ、もう遅い!現れろ、『混沌ノ白砂騎士』!」
二つの球体のうちの片方が、白い閃光を放ちながらその形状を変化させる。
純白の鎧を纏い、神聖さを感じさせるような意匠が施された大剣を持つその姿は、まさに高潔な騎士そのものと言ったところか。
「『混沌ノ黒砂拳士』!」
残ったもう片方の球体は黒い閃光を放ち、白い騎士と同様に人の形に変貌していく。
今度は騎士とは対照的に真っ黒な影人間になり、武器は持たずに拳を威圧的に構えている。
どちらも明らかに一筋縄ではいかなそうな雰囲気。
私は自分の眼鏡の装置を使って、二体の砂人間魔害獣の害悪指数を計測する。
「…どちらも、害悪指数11000KC。成る程、これが貴女の言う切り札ですか。」
片方だけでもウィンドル君の鳳凰王をも上回っている、脅威的な数値。
魔害獣使いでもないのに、これだけのレベルの魔害獣を従えられるなんて大したものだ。
「フフフフ、さあ我が華麗なる双翼の使徒よ、無知蒙昧たるあの連中に、砂というものの素晴らしさを教えてやブッッ!?」
黒い拳士の神速のアッパーが、綺麗にサンドリオンさんの顎に入った。
吹っ飛んだサンドリオンさんは放物線を描いて地面に激突するも、すぐに起き上がる。
その表情は、口から血を垂らしながら驚愕の色に染まっていた。
というか、驚いたのは彼女だけじゃなくて、私達もだ。
「…な、何でだ!?何で創造主たるこのボクを攻撃するんだ!不具合か!?
確かにああやって魔害獣を生み出したのは初めての事だけど、理論上は作ったボクの言う事を聞かなきゃおかしい筈だぞ!」
慌てふためくサンドリオンさんの様子を見る限り、これはもしかして…
「まさか、制御出来てないんですか?」
「ギッシシシ、無理もないわな。魔害獣使いでもないのに、無闇にあんな強力な魔害獣生み出すからだよ。」
飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこの事。
勝ちを急ぎすぎたのだろう。少し哀れにも思えてくる。
「このッ!敵は奴らだ!高貴なるこのボクではないッ!ほら、あっちだ!」
必死で二対の魔害獣を説得するサンドリオンさん。
効き目があったのがどうかは分からないけど、魔害獣がこっちを向いて、私達に標的を定めたようだ。
「く、来るわよ!」
「ええ!」
二体が襲って来たのは、コンマ数秒単位で同時だった。
騎士も拳士も、双方息が合いすぎていると言える程のタイミングで、左右からの挟撃を仕掛けてくる。
その速度は、常人ならばまず目で捉える事すら不可能だろう。
私でも、結構ギリギリだった。
「……ッ!」
私の割り箸が、純白の騎士の一閃を防ぎ、シャツキフさんの絵筆型ステッキが、漆黒の拳士の殴打を防ぐ。
物凄い衝撃で、今にも吹き飛ばされそうだ。
「ギッシシシ、囮役おつかれェッ!」
私の頭上を飛び越えたポネラちゃんの両腕に絡み付いていたのは、飢えたグラットンワーム。
獲物である騎士を喰らおうと地上に向かって勢い良く飛び付いた。
しかし、純白の騎士は咄嗟に反応。
私への追撃を瞬時に諦め、素早い状況判断で飛び退いた。
「チッ、逃したか。」
「あぐッ!」
「シャツキフさん!?」
私の方はポネラちゃんが援護してくれたから良かったものの、シャツキフさんの方はコロちゃんとポチノスケ君の助けが間に合わず、重いボディーブローを腹部に貰って吹き飛ばされていた。
「がっふ…、い、いったぁ〜♪
やってくれるね、キミぃ♪」
あれ、シャツキフさん、怒ってる?
⚪︎コロちゃんのメモ帳
サンドリオン・メルーサル
帝国軍の主役の一人、『砂場遊びの達人』ね。
シャツキフと似たような能力の持ち主で、自分が作った砂の芸術品を、意のままに操れるらしいわね。
強力な反面、砂が無いと力を発揮出来ないから、活躍出来る場面が限定されるのが欠点ね。
余談だけど、彼女は中性的な容姿と振る舞いの所為で、帝都に住む女性達を中心に大規模なファンクラブが存在するらしいわよ。




