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#67、サンドアート




「アハハハハ!」


「ママー、こっちこっちー!」


「ナマコかーわいー♪」


「ワンワン!」


コロちゃんとポネラちゃんが追いかけっこをし、シャツキフさんがナマコを手掴みしながら、ポチノスケ君がじゃれつき、その様子をビーチパラソルの日陰の下、ビーチベッドに仰向けに寝そべり、トロピカルジュースをストローで飲みながら優雅に眺めているのがこの私。

うーん、実にトロピカル。



「アディーナ!アンタも寝転んでないで来なさいよー!」


「ええ、後で行きまーす!」


行くとは言ったものの、まだしばらく動くつもりはない。

ゆったりくつろいでいるように見えてその実、私は未だに警戒を緩めたつもりは無いからだ。

この怪しさ満点のリゾートビーチで、警戒役である私が気を抜く訳にはいかないのだ。




「へいナマコー♪」


「うひゃあッ!?」


いつの間にか私の背後に回り込んでいたシャツキフさんが、肩に真っ黒なナマコを乗せてきた。

不意を突かれた私は、ひんやりヌルヌルの奇妙な新触感に、思わず変な悲鳴を上げながら飛び起きた。


「ちょっと、いきなり何するんですかシャツキフさん!」


「アハハごめんごめん♪

それよりもさ、アディーナちゃんも一緒に遊んできなよー♪

ずっと警戒してても疲れるでしょ?私が交代してあげるからさー♪」


「…は、はぁ、良いんですか?」


「いーのいーの♪

それに、アディーナちゃんがコロちゃんと、ビーチでイチャイチャ戯れてるところも見たいし♪」


「あぁ、それが目的ですか…。」


若干苦笑いしつつも、私はシャツキフさんの厚意に甘んじる事にした。









という訳で、みんなと一緒になって遊んでいた訳なんですが…。




「凄いですねぇ、シャツキフさん。こんな立派なお城を、短時間で作り上げてしまうなんて。」


私達が海でワイワイはしゃいでいる間に、シャツキフさんが私の代わりに待機していたビーチパラソルの後ろに、巨大な砂のお城が出来上がっていた。

多分、シャツキフさんが暇潰しに作った芸術作品なのだろうと思い、私達は海から上がって近くまで見に行く事にしたのだ。


「ギッシシシ、確かにこれはヤバい。デカくてヤバい。」


近くで見てみると本当に、凄いと言うより、もうヤバい。

本物のお城に匹敵する程のサイズで、常識的に考えてとても一人で作ったものとは思えない。


「細かいディテールにも拘ってて、匠の技が活かされてるわね。」


「ワオーン!」


私達が絶賛するなか、横に立っていたシャツキフさんは何故か眉を顰めながら首を傾げている。




「え?何このお城?私、こんなの作った覚えないよー♪」


「へ?いやでも、こんなの作れるのシャツキフさん以外に考えられないんですけど。」


「いやいや、いくら私でも、こんな馬鹿でかいお城作るとなると、もうちょっと時間が必要だってー♪

それこそ、『砂場遊びの達人』みたいな達人がいないと…」


「ハッハッハー!」


噂をするや否や、砂の城の最上階から変な笑い声が聞こえた。

うん、嫌な予感がプンプンする。



「誰ッ!?」


「フフ、高貴なるこのボクを捕まえて、誰ッ!?とはまたご挨拶だねぇ。

グラットン帝国の超名門貴族であるこのボクを、まさか知らない筈もあるまい?」


最上階からこちらを見下ろしているのは、見るからに高貴なオーラをダダ漏れにしている、何かそんな感じの人だった。




「…誰ですか?」


まあ、ベタな返しだった。


「おおっと、こいつは参ったな。フフフフ。

とんだご挨拶で無礼極まるが、知らない者には教えてあげるのが貴族の道理というもの!

我が名はサンドリオン・メルーサル!グラットン帝国三大名家の一つ、メルーサル家の長女にして、帝国軍の主役メインディッシュに名を連ねる、『砂場遊びの達人』なり!」


腰に差したレイピアを抜き、それを高らかに掲げながら名乗りを上げている。

レイピアの先端に太陽が重なり、無駄に眩しい。


「あらら、本当に来ちゃったねー、砂場遊びの達人♪」


「凄く高貴なお方っぽいのに、砂場遊びなんですね。」


サンドリオンと名乗った人は、黒に金色の装飾がいくつも付いた夜会服のような服を着込み、つばの広いレース状のウエディングハットを被った、まさに男装の麗人といった見た目の人だ。

長女って言ってたから、多分女性なんだろう。


「君ィ、まさか砂場遊びという、高尚にして神聖なる貴族の遊びを、まさか馬鹿にしているのかな?」


サンドリオンさんが、高所から見下しながら聞いてくる。

その不遜極まる態度からは、意外と感情が読み取りづらい。


「…いえ、別にそんなつもりは…。」


「砂とは、この世で最も身近に感じやすい、この星からの大事な贈り物。

それを用いて万物を表現し、戦闘にも活用する。

フフフ、その美しさと力強さを併合した究極の戦闘美こそが、我が真骨頂!」


「ふ〜む、なるほどなるほど〜♪」


「いや、シャツキフさん。なにを頷いてるんですか。」


「アハハ、表現とか美しさとかいう単語を聞いちゃったら、芸術家として黙っていられないからねー♪」


成る程、どことなく近い感覚の持ち主同士、何か感じるものがあったと。


「フフフ、『芸術の達人』であるシャツキフ・ラピルーク嬢。

帝国軍では同格ながら、こうして直接お会いするのは初めてだね。

お噂はかねがね、貴女の個展にも以前、足を運んだものだよ。」


「おお、ありがとー♪」


「貴女の作品は、どれも魂と情熱がこもっており、まるで今にも動き出しそうなくらい、筆舌に尽くしがたく素晴らしい作品ばかりだったと記憶しているよ。」


まあ、実際に動くんですけどね。物理的に。



「しかし、ある一点だけ貴女に足りないものが存在するッ!」


「ええッ!?」


シャツキフさんが、わざとらしい身振りと共に驚く。



このやり取り、関係無い私達にとっては凄く退屈なんですけど。



「…い、一体何が私に足りないの?」


「いいでしょう!知りたいのなら教えてあげよう!

貴女に足りないもの、それこそがズバリ!〝砂〟なのだ!」


「す、砂ァ!?」


まあ、そんな事だろうと思っていたけど。



「砂の芸術、すなわちサンドアート。

母なる大地からのきめ細やかな贈り物が織り成す、感動!星の躍動!

それらを余すことなく表現出来るサンドアートこそ、今の貴女に足りないラストピース!」


「…さ、サンドアート…!」


シャツキフさんは、結構衝撃を受けているみたいだ。

いつものおちゃらけた態度が、鳴りを潜めている。

目を見開きながら膝を突いて、俯いたまま砂浜の砂を握り締めている。





「ねえアディーナ、これってまだ終わらないの?」


コロちゃんが、ヒソヒソと小さな声で聞いてきた。


「…その、私に聞かれても困るんですけど。」


「そうよね。」





「…確かに、私は今まで色んな芸術作品に手を出して来たけど、唯一サンドアートにだけは手を出してなかった…♪」


「フフフ、貴女程の人物が、この素晴らしきサンドアートの世界に触れていない。

どうやらそこには、相応に並々ならぬ理由がありそうだ。」


「ごめん、単純に忘れてた♪」


「そうか、忘れてた、と。なるほどなるほど…




って、うええッ!?」


サンドリオンさんが、驚きのあまりレイピアを落としてしまう。

私達にはいまいちピンと来ない驚きポイントだ。


「忘れてたし、他の分野に手を出し過ぎて時間が無かったってのもあるかな♪

いつかはやるつもりだったんだけどね♪」


シャツキフさんの飄々とした態度がいけなかったのか、ワナワナと震えるサンドリオンさんは、唇を噛みしめながら実に悔しそうな表情をしている。


「…そうか、あのシャツキフ・ラピルークともあろう人が…!

独尊たるこのボクが珍しく敬意を示す、数少ない人物の一人。

まさか稀代の天才芸術家である貴女が、サンドアートの事をそんなに軽く思っていたとは…!」


今度は、サンドリオンさんの方が膝を突いた。

ポネラちゃんがポチノスケ君を抱っこしながら大きめの欠伸をかましていたけど、みんなスルーした。



「そんなショック受けないでー♪

君の砂のお城見たら、私もインスピレーションが湧いてきて、興味持っちゃったからさ♪」


「…いや、それだけじゃ駄目だ。」


サンドリオンさんは落としたレイピアを拾いつつ、ゆらりと立ち上がる。


「…今回、気に喰わないシーザーの奴との合同任務だから乗り気じゃなかったんだけどね、この際利用するとしようか。

シャツキフ嬢、貴女の目を覚まさせるという目的の為にねッ!」


「ッ!?囲まれてる!」


気付けば、いつの間にか私達の周りを取り囲むように、砂で出来た家が大量に建てられていた。

油断した、まさか会話している最中に?



「みんな、カモン!」


サンドリオンさんが指を鳴らすと、砂の家の扉を突き破って大勢のクローン兵が姿を現す。

その全員が水着を着ているあたり、私達が来るまでリゾートを満喫でもしていたのだろうか。



「サンドアートこそが、芸術の最たる地位に位置し、そして無二の真理である。

にも関わらず、昨今の芸術家達は揃いも揃ってサンドアートを軽く見過ぎだ!

フフフ、帝国を代表する芸術の達人である貴女を打ち負かし、サンドアートの素晴らしさを世に知らしめるのだ!」


サンドリオンさんの号令と共に、クローン兵達がしっかり訓練された動きで布陣を組み、前衛が距離を詰めつつ後衛は弓や銃を構える。

どの動きも無駄が無く、浮かれた格好をしてる割には、田舎に配備されてるクローン兵よりも洗練された、精鋭部隊のようだ。


「あ、これは危ないね。『海色の盾(ブループルーフ)』!」


私達の周囲を取り囲むように、沢山の貝殻を組み合わせて作られた芸術的な壁が出現。

初手の牽制混じりの矢や銃弾を、全て弾いた。


「ギッシシシ、便利だな。」


「便利且つ芸術的、でしょー♪」


シャツキフさんの貝殻アートの壁を見たサンドリオンさんが、顔をしかめながら睨んでいる。

最初は攻撃を防がれたのが不満だったのかとも思ったけど、どうやらその読みは違ったみたいだ。



「貝殻アートとは、なんとも邪道で無粋ッ!

元から一定の美しさを持つ貝殻で作品を作ったところで、ただ綺麗なだけの作品しか生まれない!

そんな、ハンバーグにチーズを入れただけみたいな短絡的で脳死な発想じゃあ、真の芸術とは程遠いじゃないか!

やはり、ゼロから無限の可能性を生み出す事が可能な砂こそが!サンドアートこそがッ!

この世界で最も尊く、完璧な芸術なのだよ!」


自身の顔半分を、片手で鷲掴みながら喚いている。

なんか、変なスイッチが入ってしまったようだ。


「んー、どうやら偏った思考で頭が凝り固まってるみたいだねー♪

芸術は柔軟性が大事なんだから、そんな調子じゃきっと良い作品は作れないよー♪」


「五月蝿いッ!

芸術とは砂に始まり、砂に終わるもの!

シャツキフ嬢、貴女のその砂に対する認識を、このボクが見事矯正してみせよう!」


サンドリオンさんが、踵を返して砂城の中へと姿を消す。

その直後、城の壁からボコボコと音を立てて、複数の何かが生えてくる。


あれは、砂で出来た砲台だ。



「これはまた物騒な!」


ドォン!ドォン!と、本物の大砲さながらの轟音を響かせながら、何発もの砲弾が断続的に貝殻の防壁へと撃ち込まれる。

威力も勿論本物同然で、どういう原理だとツッコみたくなるも、身近に芸術品を自在に動かせる人がいる以上、その辺を詮索するのはやめておいた方がいいのかもしれない。


一方、鉄壁の防御力を誇る貝殻の壁も、流石に罅が入り軋み始めている。


「フッフフフ、所詮邪道芸術など、この程度の脆さ!

偉大なるサンドアートの前では、海の藻屑に他ならない!」


「シャツキフさん、なんかボロクソに言われてますけど?」


「う〜ん、でも芸術っていうのは結局、時代や見る人それぞれによって評価はコロコロと変わるものだからねー♪

そりゃあ自分の作品を貶されたら、ちょっとムッとはするけど、あながち間違った意見という訳でもないんだよねー、これが♪」


「…それは、また立派な考えですね。」


ただただ、ちゃらんぽらんな天才肌って訳じゃあない。

シャツキフさんの、達観しつつも芯の通った意見につい感心してしまった。


そして、あのサンドリオンさんという人物には、そういった部分が完全に足りていないのだろう。


「ムフフフ、だからこそこの戦い、絶対に勝って分からせてあげないとねー♪

この世界には色んな芸術があって、千差万別の良さがあるって♪」


シャツキフさん、やる気は十分なようだ。


「それじゃ、行きましょう!」


「ギッシシシ、せいぜいあの大砲には気を付けろよ。」


貝殻の壁が、遂に耐久力の限界を迎えて崩壊する。

それと同時に、私達も四方に散った。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



カショク海


私達が今いる大陸と、帝都があるダスク大陸を隔てる海域ね。

綺麗な海岸、透き通る海、多くの人々が憧れる、帝国の一大観光地よ。

ダスク大陸との交通手段は、実質エンパイアブリッジという名の大橋のみ。

海は沖の方になると強力な魔害獣が見張りとして遊泳しているから、誰も泳いで行こうなんて思わないわ。

ある意味、帝都を守る〝城壁〟の一つなのかもね。

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