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#65、ママ




カリュウ姫皇帝の変貌ぶりに一頻り驚いた後、カネツグが平静を取り戻してから話は本題へと戻る。



「んでねぇ、まずはどっから話そっかぁ。」


んー、と小さく唸りながら考えるカリュウ。


「でしたら、あの星には名前はあるんですか?」


「あー、それならあるよぉ。『ゴールデンテーブル』っていうの、コレ。」


「…ゴールデンテーブル、ですか?」


もし名前が無ければ、あわよくば第一発見者の自分が名付け親になってやろうという密かな野心は静かに崩れ去った。



「そそ、ゴールデンテーブル。ニヒヒ。

この星ねぇ、まだ距離があるから分かりにくいけども、実際には円盤に近い形してる星なのぉ。

で、見た通り黄金に光り輝いてるから、ゴールデンテーブル。安直でしょぉ?」


「…は、はぁ。

でも、何故この星が国家機密事項なのか、いまいち理解出来ません。

それに、カリュウ様が何故ゴールデンテーブルという星の事を知っているのかも!」


幼い頃から星について興味を持っていたカネツグは、子供の時分から毎日の日課として望遠鏡で星の観察をしていた。

そんな彼でもゴールデンテーブルなどという名前の星は勿論初耳だし、こんな輝き方をする星など過去の記録を思い返しても見た事も聞いた事もない。

今日この日になって突然空に出現した、謎に満ちた新種の天体なのだ。


普通に考えてそんな星の事を、恐らく天文学にそこまで精通してはいないであろうカリュウが知る由など無い筈なのである。


「クヒヒヒ、まあまあ落ち着いてぇ。ゆっくり順を追って説明するからぁ。

君はあれだねぇ、結構熱っぽい人なんだねぇ。

学者っぽくないけど、学者に向いてると思うよぉ。」


「ど、どうもです。」


「ニヒヒ、勿論、このゴールデンテーブルは、ただ黄金に輝いてるだけの星じゃない。

この星が急に見えるようになったのにも、ちゃんと理由があるからねぇ。

君なら頭も良いんだろうし、すぐに分かるんじゃないかなぁ?」


今まで存在しなかった筈の星が、今になって突然姿を現した理由。

それを問われたカネツグは、最も予想したくなかった答えを口にする。




「……この星が、接近してきている。

そういう事ですか?」


「うん、正解。それも、あたし達の住んでるこの星目掛けて、ね。」


考えたくもなかった、最悪の可能性。

それを目の前の少女は、当たり前のようにあっさりと言ってのけた。



「…そんな…馬鹿な事…!

カリュウ様、貴女は何故そんな事を断言出来るのですか!?

何故、この星の事を知っているのですかッ!?」


「…ニヒヒ、まあ、仕方がないんだよぉ。

この星は、〝そういうもの〟だからさぁ。」


「そういうものって…!」


カリュウの適当にも聞こえる返事に、カネツグは当然ながら納得いく訳がない。



「クヒヒヒ、ちょっと言い方が悪かったかなぁ。

ゴールデンテーブルという星はね、そもそも〝そういうシステム〟になってるんだよぉ。

一定の周期であたし達の星に衝突しては、当時の文明も生命も、全てを跡形も無く消し飛ばしてリセットしてきた。

これは、そういう悪魔の星なの。」


「……ッ!」


あまりにも受け入れがたい言葉に、カネツグは分かりやすく絶句する。

ヒルゲン教授もマゼンタも、事前に知っていたとはいえ沈痛な表情を浮かべている。


「私も正直言うと、最初はカリュウ様の言う事がとても信じられなかった。

そんな星など存在しない。世迷言だと思っていた。

だが、カネツグ君。君がゴールデンテーブルを見つけてしまったから、私は信じざるを得なくなったのだ。」


「この星の観察と研究をしてみれば、すぐにあたし達の星に向かってるって分かるよぉ。

まあ、そんな悠長な事をしてる暇も、あんまり無いんだけどねぇ。」




「…カリュウ様、もう一つの質問にもお答え出来ますか?」


「なんで、あたしがこの星の事を知ってるかって質問?」


「ええ、そうです。貴女の言う事が事実だとしたら、あらゆる文明も生命も滅んでいる以上、何故貴女だけが知っているのかが不自然です。」


「ニヒヒ、それなら答えは簡単。あたしは当事者だからぁ。」


「と、当事者…?」


カリュウの返答に、カネツグはますます混乱する。



「クヒヒヒ、歴史の生き証人って言えばいいのかなぁ。

あたし、不老不死だからさぁ。もうずっと昔から生きてる人間なのぉ。」


「な、なんですって?不老不死ぃ?

いやちょっと、常識外れな情報が多過ぎて、俺の脳じゃ処理しきれませんって…。」


「えぇ〜、グラドポリス大学の成績優秀者なんだから、これくらい処理してくれないと、なぁ〜んて。」


カリュウ本人に代わってマゼンタが、一通り簡潔に説明してみせた。

カリュウがあらゆるものを食糧に変えてしまう、『暴食の達人』だという事。

その力を使い、自分自身の寿命を食べている為、実質的に不老不死だという事。

必要最低限の情報を掻い摘んでカネツグに与えた。






「そんな…、ゴールデンテーブルとかいう星の事といい、カリュウ様の秘密といい、何もかもあり得ない事が起こりすぎている…。」


「でも全部事実で、あり得ない事じゃないんだよねぇ。

ただ単に、君が知らなかっただけぇ。ウヒヒヒ。」


「…今ほど、自らの無知を恥じた瞬間はありません。

ところで、カリュウ様は昔から生きてるとは仰ってましたけど、具体的にどの位前の時代から生きてるんですか?」


「えッ!?それ聞いちゃう〜?あたしも一応は女の子だから、あんまり年齢の話はなぁ…。」


「あっ、すみません!気分を害したのなら謝罪します。」


「ニヒヒ、冗談冗談。そうだねぇ、ちょっと古代史の話になっちゃうけど大丈夫?」


「専門外ですが、それなりに知識はある方だと思います。」


「オッケー、それじゃあ質問。人類の起源は何年くらい前だったでしょう?」


「…え?えと、800万年前の原初の人類、フォルク原人でしょうか?」


カネツグはおずおずと答える。


「正解正解!でも、フォルク原人には未だに解明されてない、不自然な点が幾つかあるよねぇ?ニヒヒ。」


「ええ、確か、人類へと進化する前の生物が一体何だったのか、未だ判明していない点です。

まるで何もない場所から、完成された人類が突然現れた、みたいな。」


「うんうん、すっごく不思議だけど、現場を見てきたあたしに言わせたら、実はかなり単純な事なんだよねぇ。ニヒヒヒ。」


「…単純、と言いますと?」




「あれねぇ、前の文明の人類だからぁ。

800万年以上前にも、今のグラットン帝国並みに栄えてた文明があったんだけどねぇ、ゴールデンテーブルが衝突した所為で、全部滅んじゃったんだぁ。

で、フォルク原人っていうのは、前文明のごく僅かな生き残りの事になる訳。

ニヒヒ、あたしは自分の死でさえ食べれちゃうから、無事だったんだけどねぇ。」


「そ、そんな…!」


衝撃的過ぎる歴史の真実。

それを初めて知ったカネツグの精神は、今日一番の衝撃を受けた。

もしかしたら、人生で一番なのかもしれない。


「それだけじゃないよぉ。前文明だけじゃなくて、その前の文明も、そのまた更に前の文明も、同じようにゴールデンテーブルによって滅ぼされてきた。

クヒヒ、あの黄金の星は、人類の文明が栄えると決まってこの星を滅ぼしにやってくるんだぁ。

この現象の事を通称、『ゴールデンテーブルマナー』と呼んでるんだよぉ。」


「……。」


重い沈黙が流れる。

カネツグはまだカリュウの話を完全に鵜呑みにはしていないのだが、マゼンタもヒルゲン教授も真剣な表情で聞いているのを見ると、まるで周囲の空気がカリュウの話を全て真実だと肯定しているように感じてしまう。


カネツグは、一番気になる事を聞いた。



「ゴールデンテーブルマナー…、防ぐ手立てはあるんですか?」


「ニヒヒ、本来なら、無いねぇ。」


「…本来なら?」


「クヒヒヒ、あたしも今までねぇ、散々頑張って、ゴールデンテーブルマナーを防ぐ手段が無いものか、必死になって探したんだよぉ。

でも、どう頑張っても空振りに終わって、結果何度も人間の文明の終わりを見せられてきた。」


「…それは、なんと…。」


カリュウが大昔から、何度も失われてきた歴史の裏で、どれだけ努力し、どれだけ苦悩してきたのか、今の会話でその片鱗を察した。



「でもねぇ、今のこの時代は違う。

あたしはようやく、忌まわしいゴールデンテーブルマナーを終わらせる方法を見つけたんだぁ。

ニヒヒヒ、頼れる〝仲間達〟のお陰でねぇ。」


「教えて下さい、是非!」


「ん〜、教えてあげたい気持ちはやまやまだけどぉ、それもまたトップシークレットだからねぇ。

ま、時が来たら教えてあげるよぉ。ニヒヒヒ。」


それだけ言うと、カリュウはおもむろに立ち上がり、思い切り体を伸ばしながら欠伸をした。



「ふあぁ〜あ、ん〜、今日はもう話し過ぎて疲れちゃったから、終わりでいい?」


「そ、そんな!もっと詳しい話を他にも…」


「いやいや、もうあたしの今日の仕事量、余裕でオーバーしちゃってるからさぁ。

詳細については、ヒルゲン教授に聞いといてぇ。ウヒヒ。」


カリュウはのそのそと気怠そうに、玉座の裏側にある謁見の間の出口へ向かっていく。


「あ、分かってるとは思うけどぉ、今の話は絶対に口外禁止だからねぇ。

喋ったら捕まっちゃうかもよぉ。ニヒヒヒ。」


「…肝に銘じておきます。」


これ以上話を継続する事が出来ないと悟ったカネツグは、お預けを食らった飼い犬のように、去って行くカリュウの背中を名残惜しそうに見送るしかなかった。




「カネツグ君、今日はもう帰ろう。」


「ええ、はい。」


重く複雑な空気が流れる中、カネツグとヒルゲン教授はマゼンタに連れられて、饕餮城を後にした。




人類を終わらせる黄金の凶星は、今も宇宙の何処かで輝きを放っている。













◆◆



「いったあぁぁぁァァァッッ!?」


静かな森の中に、悲痛な少女の叫びがこだました。

叫び声の主は、コロちゃんによって全身の傷に薬を塗られている、ポネラちゃんだ。


「薬痛い!やめて!」


「いいから、我慢しなさいよ!強い子なんでしょ。

いくら魔害獣の力で再生力が高いって言っても、傷口から悪いバイ菌が入っちゃうかもしれないんだからね。」


「うぐぅぅ…!」


コロちゃんの塗り薬が相当キツいのか、ポネラちゃんはさっきからずっと涙目で痛みに悶え苦しんでいる。

我蝕孤皇蟲を解放した時は、触手が体を突き破って血塗れになっても平気そうだったのに、何故ただの傷薬に屈してしまうのかは謎だ。


「確かにこの傷薬は刺激は強いけど、その分効果もちゃんと高い物なのよ。」


「…本当かよぉ?ウチへの腹いせで、わざと痛くて効果の無い薬でも塗りたくってるんじゃないのかぁ?」


「お馬鹿!そんな趣味の悪い事する訳ないでしょ!」


「いったァッ!?」


ポネラちゃんはコロちゃんに頭を引っ叩かれ、もう何度目か分からない回数の悲鳴を上げている。



「全く、コロちゃんを怒らせたら駄目ですよ。

私達の中で一番、怒ったら怖い人なんですから。」


「ええ、そうね、アディーナ。

一番怒られてるアンタが、一番よく知ってるものねぇ。」


「ゔッ!?あ、アハハハ…。」


おっとっと、余計なことは軽々しく口にしないようにしないと。

コロちゃんから滲み出る赤黒い怒気が引っ込むのを見計らって、今度は近くの木に腰掛けながらスケッチをしていたシャツキフさんが口を開いた。




「ところでさー♪ポネラちゃんはこれからどうするのー?」


「……?」


意外にもシャツキフさんが、ポネラちゃんを嗾けるように声を掛けた。



「シャツキフさん、どういう事ですか?」


「いやねぇ、あの負けず嫌いなポネラちゃんの事だし、このまま終わるなんて事無いんじゃないかなー、と思って♪」


「……ッ!」


シャツキフさんの言葉を聞いて、ポネラちゃんの顔つきが変わった。




「…ポネラちゃん?」


「…ギッシシシ、ああ、確かにお前の言う通りだなぁ。

あのシーザーの野郎は、刺し違えてでも絶対的に百万回ぶっ殺してやるよ…!ギシシシ。」


怒りと憎しみ、そして危うさを含んだポネラちゃんの負の感情が溢れ出す。

これは良くない傾向だと思った瞬間、意外な展開でその憎悪は霧散する事になった。






「……え?」


「え?」


私もシャツキフさんも、目を疑った。


コロちゃんが、怒れるポネラちゃんを優しく抱擁していたのだ。

突然の事態に、ポネラちゃんも一転、唖然としている。



「…何して…!」


「刺し違えるなんて、言っちゃ駄目でしょ。

アンタが死んだら、悲しむ人がいるんだから。」


「そんな奴いる訳ない!」


「少なくとも、アタシはちょっと悲しくなるわよ。」


「…へ?」


ポネラちゃんが、それこそナイフで刺されたみたいに目を丸くして驚いている。



「だから、無茶な事はしちゃ駄目。分かった?」


コロちゃんに諭され、ポネラちゃんはトロンとした目つきになってコロちゃんの胸に顔を埋める。











「……うん、ママ。」


そのまま、ポネラちゃんは眠ってしまった。









「……え?」


「ママ…?」



⚪︎コロちゃんのメモ帳



ヒルゲン教授


グラットン帝国の最高学府、グラドポリス大学の名誉教授ね。

世界的に有名な、天文学の第一人者で、テレビにも時々出てる有名人よ。

教え方が丁寧で分かりやすいんだけど、若干偉そうなのが玉にきず、ね。

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