表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/70

#64、黄金の星





グラットン帝国立、グラドポリス大学。

帝都グラドポリスの1番街に位置する、グラットン帝国における最高学府と称される大学校。

帝都中から選りすぐりの頭脳を持つエリート学生達が集う、巨大で荘厳な学び舎である。


アディーナ達がポネラと戦っていたのとほぼ同時刻、この大学の天文学科の研究棟にて、異変は起こっていた。




「教授ー!ヒルゲン教授ー!」


一人の若い学生の青年が研究室の扉を勢いよく開き、中で椅子に座りながら書類に目を通していた老人に駆け寄った。


「むぅん、どうしたのかね、カネツグ君。

君はいつも騒々しいが、今日はまた一段と賑やかなようだねぇ。ほら、少し落ち着くといい。」


カネツグと呼ばれた白衣の青年は、息を切らしながら老人に一枚の紙切れを握り締めている。

でっぷりと沢山の脂肪を蓄えたヒルゲン教授と呼ばれし金髪の老人は、ゆっくりと上体を動かしてカネツグ青年に視線を向けると、呆れがちにため息を吐いた。


「あぁ、すみません。

いや、それよりも!教授!遂にやりましたよ!遂にッ!

落ち着いてる場合じゃありませんって!」


満面の笑顔でガッツポーズをしているカネツグの顔を、ヒルゲン教授は怪訝そうな目付きで見つめている。


「ハァ…、君の事だ、どうせまたしょうもない事だろう。

当ててみせようか。食玩付きのお菓子で、シークレットレアでも出たのだろう?」


「ちッ、違いますよ!流石の俺でも、その程度の事で教授にまで報告に来ませんって!」


「ほほう、それじゃあ遂に、君がずっと片想いしていた、食堂の女の子と付き合う事にでもなったのかね?」


「いやいや、違いますって!…まぁ、それも嬉しいけど。」


ヒルゲン教授は、ますます疑うような目を強める。



「…じゃあ、何なのかね?私は今、書類の整理で忙しいのだが。」


「そ、そんな目しないで下さいって…。

これ、これ見て下さい!これこれ!」


そう言って、カネツグは興奮気味に、手に持っていた紙切れをヒルゲン教授の前へと突き出す。

紙切れと思われていたそれは、実際には一枚の写真だった。



「…これは?

見たところ、ただのアルパカザリガニ座を写した写真のようだが?」


写真には、真っ暗な宇宙と思われる空間に、点々と光り輝く星が写されていた。

ヒルゲン教授はグラットン帝国の天文学における第一人者でもあり、星に関する知識においては彼の右に出る者はいないと言われる程である。


「これが一体どうしたのかね?」


「違います違います!重要なのはそっちじゃないんです!

ほら、ここ見て下さい、ここ!右側の方!」


カネツグが必死になって指差しているのは、写真のアルパカザリガニ座の右側。

そこに、薄っすらと黄色く光っている天体が視認出来る。


「この星は…!」


「これを拡大した写真が、こちらになります!」


カネツグが、白衣のポケットからもう一枚の写真を取り出す。

そこには、黄金の輝きを放つ星がはっきりとアップで写っていた。


「…こ、これは…ッ!」


ヒルゲン教授の顔色が一気に変わった。

両目をカッと見開き、全身から脂汗が一気に噴き出す。


「凄いでしょう!こんなハッキリと黄金に輝く星、見た事も聞いた事もないでしょう!

明らかに新発見の天体ですよ!俺が発見したんです!遂にやってやりましたよッ!」


黄金の星の写真を手に取ったまま、ヒルゲン教授はワナワナと体を震わせ、明るいカネツグとは対照的にどんどん顔色が悪くなっていく。



「…まさか、これは…!あの…ッ!」


「フフーン、どうしたんですか?俺の発見でそんなに震える程感動してくれるなんて、教え子冥利に尽きるってもんですねぇ。」


「……やめておきなさい。」


「はい?」


ヒルゲン教授は再び大きな溜め息を吐きながら、心底頭を悩ませているように眉間を指で揉む仕草をしている。


「この星の事を公表するのは、今はまだやめておきなさい。」


「え?いやいや、何でですかッ!?

こんな大発見、発表しない手はないでしょう!意味が分かりませんよ!

もしかして、俺の発見に嫉妬でもしてるんですか!?」


「そんな訳ないだろう!

教え子が成果を挙げてくれるのは、私にとっては何よりの喜びだ!」


「では何故!?」


「……この星だけは…!

この星だけは、別なのだよ。」


あまりにも深刻そうな表情を浮かべているヒルゲン教授の様子を見て、先程まではしゃいでいたカネツグ青年も流石に空気を読んで大人しくなる。


「この星の事、何か知ってるんですか?」


「…ああ、知っている。

とは言っても、私も話に聞いていただけで、こうして写真を見るまで、実在するのかどうかすら疑っていたのだがね。」


「話に聞いてたって…、未発見の星の話なんて、一体誰から聞いたってんですか!?」


ヒルゲン教授の言葉を聞いて、カネツグは腑に落ちないと言ったばかりに声を荒げる。


「まあまあ、落ち着きたまえ。とは言っても、君の折角の発見を無下にするような事を言っているのだから、仕方ないのかもねぇ。

…私がこの星の話を聞いたのは、あのカリュウ姫皇帝本人からだ。」


「…か、カリュウ様、ですか…!?」


予想外のビッグネームが飛び出し、カネツグは鳩が豆鉄砲を食ったように狼狽している。


「うむ、そしてこれ以上の話は私の口から話す事は出来ない。

この帝国の、最重要機密事項なのだよ。」


「…この星が、グラットン帝国のトップシークレットなんて…!

そんな馬鹿な話があってたまりますか!

さては教授、俺の成果を横取りしようってんじゃないでしょうね!?」


あまりの理不尽に、ますますヒートアップするカネツグ。


「そんな事、私がする筈無いだろう!馬鹿にするのも大概にしたまえ!」


ヒルゲン教授もプライドを刺激されるような事を言われ、立ち上がって怒鳴りつける。


「私の言う事が嘘だと言うのなら、学会にでも提出してみなさい!

きっと、こんなものは眉唾だと否定され、揉み消されるのがオチだろう!」


「だから!俺が納得出来るような理由と証拠を今すぐ見せて下さいよ!

じゃないと、俺はもう一生教授を信用出来ませんよ!」


お互いに荒い息を吐きながら睨み合った後、一旦冷静になって二人とも椅子に座った。




「分かった。分かったよ、カネツグ君。

君が納得出来ればいいんだろう?」


「…ええ、まあ。」


ヒルゲン教授は諦めたような口調で立ち上がると、近くのテーブルの上に置いてあった黒電話の受話器を手に取り、ダイヤルを回して何処かへと電話を掛けた。



「……?」


カネツグは訝しげにヒルゲン教授を見つめるも、結果的に大人しく待つ事にした。

彼はまだ若く熱しやすい性格だが、エリートだらけのグラドポリス大学でもトップを争う程の成績優秀者であり、有名なヒルゲン教授とも最も親しい間柄の生徒なのである。

ヒルゲン教授の事だから、きっと自分を納得させる〝何か〟を用意しているのだろうと、直感で理解したのだ。



「…はい、もしもし。私です、グラドポリス大学の…ええ、ヒルゲンです。お久しぶりです。

実は、例の件についてなんですが…ええ、あの星についてです。

…そうです、そのまさかです。私の教え子の一人が、発見してしまったみたいなので。

今からお伺いになっても宜しいでしょうか?

…ああ、はい、そうですか。すみません、どうもありがとうございます。では、準備してすぐに向かいますので。失礼しました。」


いつも威厳たっぷりなヒルゲン教授が、相当気を遣っている様子を見て、カネツグは固唾を呑み込んだ。

それと同時に、電話の相手にも何となく察しがつく。




「もしかして、電話の相手ってまさか…!」


「そのまさかだよ、カネツグ君。少し出掛けるから、着替えてからついてきなさい。」


「…は、はいッ!」


ヒルゲン教授に急かされて、カネツグは大慌てで準備を整え、ヒルゲン教授の後を追った。











帝都グラドポリス、饕餮城前。

威圧感山盛りの巨城を前に、カネツグ青年の足は武者振るいをしていた。



「やっぱり、ここに来るんですね。」


「聡明な君の事だ。私の電話の相手には気付いていたんだろう?」


「ええ。ですけど、こうして改めてお城の前まで来ると、どうしても緊張します。」


「フッフフ、私も同じだよ。帝都に住んでいれば見慣れた建物の筈なのに、近付いた時の威圧感は他に類を見ないからねぇ。」


二人の研究者が入り口である巨大な門の前で立ち尽くしているのは、門番であるクローン兵に待っててくれと指示されたからである。

数分後、扉を開けて一人の女性が姿を現した。



「お待たせしました、ヒルゲン教授。

こちらの方が、例の…?」


「うむ、私の教え子の一人、カネツグ君です。」


「は、はい、カネツグです。どうもです。」


カネツグは緊張に次ぐ緊張で、若干カタコト気味に挨拶をする。

眼鏡にスーツ姿の女性は、値踏みするような視線でカネツグを見つめる。

美人に見つめられた所為で、更に緊張している。


「こちらこそ、よろしくお願いします。

私は、カリュウ姫皇帝様の秘書を務めております、名をマゼンタといいます。以後、お見知り置きを。」


マゼンタは一揖すると、クルリと体を反転させて極めて事務的に言い放つ。


「カリュウ様がお待ちです。私の後にどうかついて来て下さい。」


「うむ。」


「…はい。」


淡々としたマゼンタの指示に従い、ヒルゲン教授とカネツグの二人は、饕餮城の門を潜った。











「そうですか、貴方はあの星の事を知ってしまったのですね。」


謁見の間に着くと、玉座には立派なドレスと冠を装着した、かの有名なカリュウ姫皇帝が鎮座していた。

今まで彼女をテレビの画面越しでしか見た事のなかったカネツグは、想像以上の可憐さ、そして溢れ出る威厳を感じ取り、唇を横一文字に引き締める。

つまり、ガッチガチに緊張しまくっている。


「…は、はい。まだよく話が見えてこないんですが、多分そうなんだと思います、はい。」


緊張のあまり曖昧な返事をしてしまうカネツグを見て、カリュウ姫皇帝は優雅にクスリと笑う。


「フフフ、そう固くならないで下さい。

いつも通り、普段の貴方のまま冷静に、ありのまま見た事を話して下さい。」


そう言われてもと、カネツグがますます萎縮する様を、カリュウは〝表向きの〟柔和な笑顔で見つめたまま、カネツグの緊張を解こうとする。



「…分かりました、努力します。

まあ、見た事と言っても、そんな大層な事じゃありませんよ。

ただ、普段と同じように星の観察をしていたんですが、その際にこんなものを見つけまして。」


カネツグが例の黄金に輝く星の写真を取り出すと、カリュウに近くに寄るよう促され、直接その写真を見せる。

カリュウが覗き込むと、その綺麗な顔は眉根を寄せ、険しいものになる。



「…そうですか。もう望遠鏡で見えてしまう距離まで近付いていたとは。」


「事態は、想像以上に深刻という訳ですね。」


隣で聞いていたマゼンタも、より真剣な顔つきで言い足す。



「いや、だからこれはどういう物なんですか!?

自分にも知る権利が有るのなら、是非とも教えて下さい!」


第一発見者なのにも関わらず、ずっと蚊帳の外のような扱いのカネツグが、不満そうに訴える。


「あ、すみません、出過ぎた真似をしました。」


「いえ、いいのです。こちらこそ、功労者である貴方の事を無下に扱ってしまい、申し訳ありませんでした。」


「そ、そんな!何か偉そうな事言ってすいません!」




カリュウは顎に指を当てて少しだけ考えた後…


「…そうですね、確かに貴方にも知る権利くらいはあります。

放っておいても、いずれ誰もが知る事になるでしょうし。」


「いずれ…?」


「あと、もう今日はこの話し方するの疲れたので、元に戻してもいいですか?」


「ええ?仕方ないですね…。」


カリュウはそう聞かれて、ウンザリとした様子でマゼンタは許可を出す。

すると、カリュウは突如として着ていたドレスをポポイと脱ぎ捨てた。


「は、ハァッ!?」


あまりにも唐突な出来事に、カネツグは目を丸くする。


ドレスが無くなったカリュウの姿は、いつものだらしない格好に変貌していた。

〝策士〟と書かれたダボダボのTシャツに、傾いた王冠、所々寝癖が生えた髪。

先程までの真っ直ぐな姿勢は何処へやら、玉座にぐでっと寝そべっている。



「ウヒヒヒ、今日はもう疲れたからさぁ、やっぱこのスタイルの方が百兆倍楽だねぇ。」


「…あの、えと…カリュウ、様?」


目の前の出来事が信じられないのか、カネツグは口を開けて驚愕したまま静止してしまい、瞬きだけを繰り返している。

その肩を、ヒルゲン教授がポンと叩く。


「カネツグ君、君が驚くのも無理は無い。

私もあの姿を初めて見た時は、だいぶショックを受けたものだよ。」


⚪︎コロちゃんのメモ帳



我蝕孤皇蟲


害悪指数12000KC。

強靭な肉体を持つ人間にのみ寄生する、強力な寄生虫型の魔害獣ね。

高い知能を持っていて、寄生主から多量のエネルギーを分けてもらってる代わりに、強大な力と生命力を与えてるのね。

寄生虫とは言ってるけど、どっちかと言うと共生関係に近いのかもね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ