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#61、虫型魔害獣




「シャツキフ!アディーナがッ!」


「うん、早く助けないと…♪」


コロちゃんが私の体にしがみつきながら、アディーナちゃんを心配そうに見ている。

何とかしてあげたいけど、今は私も自分の事で精一杯だ。


「コロちゃん、アディーナちゃんは後で必ず助けに行くから、今は現状を打破するのに集中しよ♪」


「確かに、そうよね。アディーナなら、一人でも大丈夫な筈だし。間違いない。」


うんうん、コロちゃんはしっかりアディーナちゃんの事を信頼しているみたいだね。

とっても素晴らしい事だけれど、今はまず木の上に避難しないと。

地上はデカいアリジゴクと、とりもちに引っ掛かっているゴキブリと、そうでないゴキブリとで溢れかえっている。

私は頭上の木の枝に引っ掛けたフック付きロープを手繰り、上へ上へと移動する。



それを妨害しようと、樹上を移動する巨影が迫ってくる。


オービットスパイダー。厄介な蜘蛛の魔害獣が、私のロープのフックを外そうとでも考えているのか、木の上をガサガサと移動してフックに近付いている。

マズいねこれは。


「ポチノスケッ!」


「ワンッ!」


ちゃっかりとコロちゃんの体にしがみ付いていたポチノスケちゃんが、コロちゃん、そして私の体を伝い、そこから近くの木の枝へ飛び移る。

目にも留まらぬ速度と瞬発力で木の枝と木の枝を飛び移り、巨大化してオービットスパイダーに噛み付くポチノスケちゃん。

意表を突かれた巨大蜘蛛は、ポチノスケちゃんと一緒に地上へと落下。

そのまま落ちた先で揉み合いになる。



「ああッ、ポチノスケまで!」


「でも、お陰でアリジゴクに叩き落とされずに済んだね♪」


ポチノスケちゃんの身を呈した行動に感謝しつつ、私は急いでロープを手繰る手繰る。

これまで芸術に関係無いからと軽く見てたけど、今ほど自分の身体能力の高さに感謝した事は無い。

コロちゃんを抱えたままだけど、すぐに目的の太めの木の枝まで辿り着き、よじ登って立つと同時に眼下の戦況を俯瞰する。


アディーナちゃんはアリジゴクからの脱出には成功したみたいだけど、とりもちを逃れたゴキブリの群れに苦戦しているみたいだ。

ポチノスケちゃんは地上でオービットスパイダーとの激闘を繰り広げている。


「アタシはアディーナに加勢しに行くから、シャツキフはポチノスケをお願い!」


「合点承知♪あ、これ使うといいよ♪」


私はスケッチブックを取り出し、白くて丸い物体を描き上げ、実体化させる。



「何これ?」


「エアバッグだよ♪そのまま飛び降りる訳にもいかないでしょー、ムフフ♪」


「あぁ、ありがと。」


私は簡潔に使い方を教えて、そのままコロちゃんは迷う事なくジャンプ!

狙い通りアディーナちゃんの側に着地出来たみたいだ。



「さてと、私は私でこっちをどうにかしなきゃねー♪」


ポチノスケちゃんの援護に行く前に、片付けなくちゃならない問題が一つ。

木々の間からゆっくりと優雅に姿を現したのは、羽根を広げると大の大人5人分くらいの大きさはありそうな、巨大な蛾だった。

不可思議な模様がその羽根に刻まれていて、催眠効果でもあるのか見ているだけで頭がおかしくなりそうだ。


あの羽根の模様、私には見覚えがある。

前に芸術的な模様だと感じて興味を持って調べたんだよね、うん。

インターラプトモス、害悪指数は確か7000KCだったかな。


一度捕獲してみたいなーと思ってたんだけど、その害悪指数と稀少度の高さに諦めかけてたのに、まさかこんな形でチャンスが巡ってくるとは!

この魔害獣の羽根の模様は、私の芸術に新たな閃きを与えてくれるかもしれない。

あと、標本にして私の美術館に飾っておきたい。


「ムッフッフ、生け捕りにさせて貰うからねー♪」


私、シャツキフ・ラピルークの芸術家としての意地を賭けた戦いが、今始まるッ!









◆◆



コロちゃんが、降ってきた。

一瞬我が目を疑ったけど、どうやらシャツキフさんとアリジゴクを脱出して木の上に登った後、エアバッグを使って飛び降りてきたみたいだ。

しかし、エアバッグなんてどうやって用意したんだろう。シャツキフさんが描いたのかな?


「アディーナ、加勢に来たわよ!」


「助太刀感謝します。ただ、アリジゴクの罠には気を付けて下さい。地面が砂っぽくなる前兆がありますから。」


「うん、あれはヤバいからね。」


「っと、早速ですよ!」


噂をすれば何とやら、足元の感触に違和感を感じる。


「アディーナ、逃げ…」


「いえ、このまま中央に寄って、2人で返り討ちにします。」


「えっ!?わ、分かった!」


コロちゃんは私の提案した無謀とも取れる作戦に一瞬戸惑いを見せるも、すぐに呑み込んで理解を示してくれたのか、私と背中合わせに武器を構えた。

さすが、話が早くて助かる。


ボゴッと、大きな陥没音と共に、地面が一瞬でアリジゴク状の砂の穴と化す。

逆さ円錐状のアリジゴクの中心にいた私とコロちゃんは、当たり前の事ながら落下と同時に恐ろしいヘルアリジゴクが待ち受ける巣の中央部に真っ逆さまだ。

普通なら、このまま私とコロちゃんは、あの大顎で噛み砕かれるのを待つだけの哀れな獲物に過ぎないのだろう。



だけど!



「あの大顎に攻撃です!」


「了解!」


ヘルアリジゴクから見て、私は割り箸で左の、コロちゃんは手槍で右の大顎に、落下の勢いも加算された強烈な一撃を叩き込んだ。

大顎は硬く、破壊するには至らなかったものの、どうやら衝撃が伝わりやすい弱点でもあったみたいだ。

敏感な部位を攻撃されたお陰で、ヘルアリジゴクはひっくり返って伸びてしまった。



「よっと。」


「うわっと。」


私とコロちゃんは、気絶したヘルアリジゴクの体の上に着地する。


「さて、脅威は排除出来ましたが、このアリジゴクからどう脱出しましょうか。」


私達の現在地は、深いすり鉢状のアリジゴクの底。

地上まではちょっと高めのビルディング位の高さがあって、超人的なジャンプ力でも持ってない限りはとても脱出は不可能だ。

かといって、あのサラサラの流砂をよじ登るのも不可能。


「どうしよっか、アディーナ。」


「う〜ん、ここにきて詰んじゃいましたねぇ。」


「うへぇ、マジで?」


まぁ、元々脱出不可能を売りにしているのがアリジゴクというものだ。

つまり、そういう事だ。





うん、本当どうしよう。困った。



「こうなったら、一か八かまた衝撃波を使って…」


「アディーナちゃん、コロちゃん、お待たせー♪」


聞き慣れた声と共に、見慣れない虫型魔害獣が頭上からこちらへやって来た。

インターラプトモス、害悪指数7000KCの強大にして巨大な蛾が、優雅に羽ばたきながらアリジゴクの底へ向かって来たのだ。

こんな戦いにくい場所に新手の魔害獣がやって来るなんて、実に厄介と思いながら臨戦態勢に移るも、その巨大蛾の背に乗っているシャツキフさんが笑顔で手を振っているのを見て、一気に力が抜けてしまった。


「シ、シャツキフさん!?何でそんな所に?」


「さっきまでこの子と戦ってたんだけど、戦いの中でこの子も芸術家気質の性格の魔害獣だって分かっちゃってねー♪

そっから話が盛り上がって、仲良くなっちゃった♪」


「えぇ〜。」


いやいや、仲良くなっちゃった♪って…

そう簡単に言葉が伝わる訳でもあるまいに、何故そんな事が分かったのか。

もしかしたら、芸術家にしか分からない、独特のシンパシーみたいなのが2人の間にあるのかもしれない。


何にせよ、シャツキフさんのコミュニケーション能力の高さのお陰で、ここから脱出する事が出来る。

あとは、ポチノスケ君を助けに行かなければ。


「アディーナ、ポチノスケはアタシとシャツキフで助けに行きたいんだけど。」


インターラプトモスの背に乗りながら、コロちゃんがそう提案してきた。


「ええ、そうしてくれると助かりますが、シャツキフさんもそれで大丈夫ですか?」


「オッケー♪超速攻で済ましてくるよ♪」


「フフ、心強いですね。お陰で、私は心置きなく親玉であるポネラちゃんと戦えます。」


アリジゴクから脱出するも、彼女の姿は今のところ見えない。

代わりに、木々の向こうでポチノスケ君が、オービットスパイダーとゴキブリの群れに傷だらけで悪戦苦闘している姿が見える。


これは、一刻も早い救援が必要だ。


「それじゃ、コロちゃん、シャツキフさん、頼みましたよ。」


「ムッフッフ、大船に乗ったつもりで頼まれた♪」


「ポチノスケ、一匹で戦わせてごめんね。今そっちに行くから。」


地上に降りて、コロちゃんとシャツキフさんの2人はすぐさまポチノスケ君の方へ走って行く。

インターラプトモスも、私達を降ろしてからどこかへ飛び去ってしまった。

まあ、ご主人様に内緒で協力して貰ってる以上、これ以上一緒にいるのはマズいと判断したのだろう。仕方ない。


一人残された私は、ポネラちゃんの捜索を開始する。




「さてと、探しますか。」


「その必要はないから。」


唐突な奇襲。

頭上から突如として現れたポネラちゃんが、凶悪な見た目をした虫取り網を私目掛けて振り降ろしてきた。

即座に反応した私はバックステップで回避するも、その虫取り網を見て戦慄する。

先端の輪っかの部分が鋭い刃になっていて、その部分で切断した相手の部位がそのまま網の中へ入っていく構造になっているみたいだ。

何て物騒な武器なんだ。


「あーもー、最ッ悪だな、本当!

ゴキブリさんやらアリジゴクさんやら、私達が用意した罠を尽く抜け出しやがって、挙げ句の果てにはインターラプトモスさんにも裏切られてさぁ、最悪としか言いようがないでしょぉ。」


明らかに不機嫌さマックスといった様子で、何度も何度も舌打ちをしては私を睨んでくる。


「裏切られたのは、貴女に人望が無いからでは?」


人質がいない以上、私は積極的に相手を挑発していく。



「…ギシシ、分かってるよ、そんくらい。

ウチみたいなゴミカスみたいな女には、人望も何も無いんだよ。

無いなりに一生懸命頑張ってるのに、いつもこの有り様なんだよ。」



あぁ〜、これはまた面倒臭くなりそうなパターンだ。

さっきまでの攻撃的な態度と打って変わって、今度はかなりネガティブな雰囲気を纏っているようだ。


「くっ、なんかやりづらいですね。」


「あーもう、どいつもこいつもいっつもいっつもいっつもいっつもォ!

ウチの事を見下しやがってぇ!もういいから死ねよォ!」


突然ヤケになったポネラちゃんの右腕の袖の中から、何かが飛び出す。

細長く平たい胴体に、無数の足。大きなムカデだ!


「づッ!」


私へと狙いを定め、まるで鞭のように器用に空中で軌道を変えながら飛びついてくるムカデの牙に、私の左腕が浅く切り裂かれた。

グラットンワーム、害悪指数5880KCの魔害獣。

高害悪指数の魔害獣の中では、ポネラちゃんの袖に収まる程には比較的小柄ながらも、その牙の鋭さと装甲の頑強さ、そして何より人里に降りてきては暴れ回って家畜を食い荒らす凶暴性も相まって、世界中に存在する魔害獣の中でも特に有名な魔害獣の一体だ。

こんなヤバいのまで手懐けているなんて、死育委員デーモンビーストテイマーズは伊達じゃないという事か。


しかも一旦攻撃を終えたグラットンワームは、深追いする事なくヒットアンドアウェイ戦法でポネラちゃんの袖の中に戻って行く。

野生の種ではまず考えられない、慎重で賢明な行動。


「…よく調教されてますね、感心しますよ。」


「ギッシッシ、当たり前だろ。ウチが手塩にかけて教育したんだぞ。特にこのグラットンワームはなかなか懐かなくて苦労したからなぁ。ギシシシ。」


お世辞一つで、一気に上機嫌になったみたいだ。

あんな褒め言葉もどきで気を良くするなんて、死育委員と言えどもまだまだ子供という事なのかな。


「それにこの子は、一匹だけじゃないんだよなぁ。ギシシシシ。」


ポネラちゃんが先程とは逆、左腕の袖を振り翳すと、二匹目のグラットンワームが飛び出し、ターゲットである私目掛けて、その牙が迫る。


「おっと。」


割り箸で牙を摘み、グラットンワームの突撃を止める。

かなりの力だけど、まだ私の方が膂力りょりょくは上だ。


「ん?」


グラットンワームの口がモゴモゴと動き、私の顔に視点を合わせてきた。

嫌な予感がしたので横に跳んで避けると、グラットンワームの口から灰色のヘドロめいた液体が吐き出された!

その液体が地面に落ちると、グズグズと不快な音を立てながら、液を浴びた木の根っこが溶けてしまった。


「…溶解液ッ!」


危ない。実に危ない。

こんなものまで出せるなんて。

暗い笑みを浮かべるポネラちゃんに向き直ると、彼女の両袖の影の中から、無数にギラつく瞳が私を見つめていた。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



シークレットスカベンジャー


害悪指数360KC。

一言で言うと、デカいゴキブリの姿をした魔害獣ね。

デカいと言っても魔害獣の中ではかなり小さい方で、大きさも十数センチ程。

でも、牙の鋭利さはピカイチで、お腹が減ると大型の動物を襲って食い殺してしまう事もしばしば。

ただし普段は臆病な性格なので、基本的には動物の死骸を漁っているんだとか。


……ゴキブリは苦手よ。

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