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#57、大切な思い出





結局、私はカレーライスを食べた後、同じテーブルにあった牛丼とデザートのアイスクリームを食べただけでお腹いっぱいになった。

いや、〝食べただけ〟というのは語弊があるかな。

カリュウちゃんの無限の食欲を前にしたら、感覚がおかしくなってくる。

8歳児の女の子がカレーと牛丼を完食しただけでも、年相応以上の食欲の筈だ。うん。

カリュウちゃんがおかしいだけだから。


肝心のカリュウちゃんはと言うと、私が食べ終わるのを高さ3メートルはある特大パフェをパクパク食べながら、にんまりと面白そうに眺めていた。

そして、私が食べ終わるよりも早く、パフェの容器はすっからかんになった。



「あうぅ、お腹いっぱい…」


「フヒヒ、どうだった?美味しかったぁ?」


「うん、すっごく美味しかった!」


「それは良かったぁ。ウチの選りすぐりのシェフ達が作った、最高の料理だからねぇ。ニヒヒ。」


カリュウちゃんも満足そうだ。

勿論、私も満足。こんなに美味しい料理、帝都のレストランでもなかなか食べられるものじゃない。

味付けも見栄えも何もかもが、超一級だった。


「でもカリュウちゃん、毎日こんなに食べてたら、食べ物無くなっちゃうんじゃないの?」


「クヒヒ、大丈夫大丈夫。あたしがいる限り、グラットン帝国が食べ物に困る事は無いから。」


「?」


まあ、そりゃそうだ。

当時は知らなかったけど、カリュウちゃんの能力があれば食料など永遠に困る事はない。



「そう言えば、これからどうしよっかぁ?ご飯食べる事以外、何もプラン考えてなかったなぁ。ニヒヒ。」


オイオイ、と心の中で突っ込む。


「だったら、カリュウちゃんの部屋に行きたい!」


「う〜ん、そうだねぇ。何も無いけど、他にする事も無いしねぇ。そうしよっかぁ。」


カリュウちゃんの部屋、何もない訳がない!

子供ながらに妙な期待に勝手に胸を膨らませ、私達はカリュウちゃんの私室へと向かったのだった。













◆◆




「…え?なにこれ?」


あのカリュウちゃんの部屋なんだから、何か色々あるに違いない!

そんな曖昧な予想は、一応は当たっていた。

でもそれは、何と言うか、私が思っていたものと違った。


私の理想としては、世界中の珍しい奇品珍品が棚に並び、お洒落な家具や調度品が揃い、それでいて女の子っぽい可愛らしさも兼ね備えた、グラットン帝国の姫様らしい豪勢な部屋を想像していた。

しかし、現実は勿論、そううまくはいかない。

読み掛けの漫画に食べ掛けのお菓子の袋、脱ぎ散らかされた下着や服が床に散乱し、棚には色んなアニメ作品のフィギュアが並んでいて、薄汚れた〝元〟お洒落な家具も確認出来る。

壁には大量のアニメのポスターやタペストリーが飾られていて、中には以前、カリュウちゃんの一日の生活に密着取材したドキュメント番組、『カリュウ姫様の華麗なる一日』の番宣ポスターもあった。

私も見た事あるけど、高価そうなドレスを着たカリュウちゃんが、優雅にティータイムを嗜んだり、丁寧な言葉遣いと柔和な愛想で各界の著名人と社交パーティーを楽しんだりと、彼女の真の姿を知ってからは全てが欺瞞だったんだなと理解出来る。



良い意味でも悪い意味でも、生活感丸出しのだらしない汚部屋だった。

いやまあ、普段のカリュウちゃんがあんなんだから、部屋が汚くても不思議じゃない、か。

何故私はあんな意味不明な期待をしてしまっていたのか、夢を打ち砕かれた子供の私は、カリュウちゃんの部屋の中で呆然と立ち尽くしていた。



「ようこそぉ、ちょっと散らかってるままだけど、あたしの部屋だよぉ。ニヒヒ。」


「すっごい汚い。」


「うわ直球ぅ!」


カリュウちゃんがわざとらしく、衝撃を受けたみたいなポーズを取る。

多分、そう言われると予測していての演技だろう。


「でもまあ、カリュウちゃんらしくて、何かこう、安心した。」


「でしょぉ?あたしもさぁ、小綺麗にしてるより、こうやって多少汚い方が落ち着くんだよねぇ。クヒヒ。」


片付けられない人というのは、大体落ち着く的な事を理由にしてる気がする。


「一応言っとくけど、褒めてないからね。」


「そうなのッ!?」


あ、ちなみに言っておくと、こんな偉そうに言ってる私も数年後には、似たような汚部屋の主になります。

当時は片付けられる子供だったのに、成長するにつれて片付けられなくなるんですよねぇ。不思議なものですよ、全く。

目の前のだらしないお姫様から、何か悪影響でも受けたんでしょうか。




それからというもの、しばらくはカリュウちゃんの部屋でトランプやボードゲームなどをして遊び、ひと段落してからは饕餮城の中を案内して貰った。

流石に全域を案内して貰うには、あまりに広過ぎて半分くらい回っただけで日が暮れそうだったので、一部の場所をピックアップして、そこだけ回るようにした。


城の目玉スポットでもある謁見の間では、玉座に腰掛けたアオギリ皇帝陛下が、威厳たっぷりに私の事を待っていて驚いた。

威厳は凄かったけど、私の事を優しく歓迎してくれたのにも驚いた。とても良い人だ。


その後はカリュウちゃん達の胃袋を支える大厨房を見学した。

食堂があの広さなだけあって、厨房の規模も埒外な広さ。

恐らく昼食の準備に取り掛かっている真っ最中なのか、多くのシェフ達が忙しなく駆け回りながら仕事をしている。

他にも少し城内を回ってから昼食もご馳走になって(カリュウちゃんは朝食の時と同じくらいの量を食べた)、また少し見て回ってから、最後に大浴場に案内された。

今まで食堂やら謁見の間やら玄関ホールやら、色々と凄い場所を沢山見て来たけども、大浴場は特に凄かった。

密林を模した本物の樹木が鬱蒼と茂り、その中を川のような湯船が流れている。

途中には滝が上層部から川の開けた箇所へ落ちていたり、実物はいないけど鳥や虫の鳴き声などの環境音が流れていたり、川以外にも様々な種類のお風呂が周囲に点在していたりと、私の想像を遥かに凌駕するようなとんでもないお風呂が目の前にあった。


「…これ、本当にお風呂なの?」


「うん、お風呂だよぉ。あたし、食事と同じくらいお風呂が好きでねぇ。ついついこだわっちゃうんだよねぇ。ニヒヒ。

ちなみに、他にも色んな種類のお風呂がこのお城にいくつもあるよぉ。」


「…へぇ。」


う、嘘でしょ。

こんな常識外れのとんでもお風呂がいくつも…?

これで、全体のお風呂のほんの一部なの?



そんな…





そんなのって…








「私も入りたいッ!」


「オッケー、貸し切らせたげるぅ。ウヒヒヒ。きっと気に入ってくれると思うなぁ。」


そういう訳で、私はカリュウちゃんと一緒にお風呂に入った。

ひたすらに色んなお風呂が楽しめるので、私はそれぞれのお風呂を入り比べしたり、密林の川風の流れるお風呂ではしゃいだりと、心ゆくまでカリュウちゃんプレゼンツのお風呂巡りを楽しんだ。

これは、今日一日で満喫出来る量じゃないぞと思っていた矢先に、調子に乗り過ぎた私は長風呂していたのか、途中で朦朧としていた意識がプツリと途切れた。



気付いた時には、裸の上に長タオル一枚被せられた状態で、更衣室の長椅子の上で寝かせられていた。


「…あれ?私、どうなって…?」


「あ、アディーナちゃん、良かったぁ。目が覚めたんだねぇ。」


薄っすら開いた視界に天井と照明が入ってきたかと思うと、にゅうっと真横からカリュウちゃんの顔面が割り込んできた。

いつも飄々としているカリュウちゃんにしては珍しく、私の事を心配しているような表情だ。



「…どういう事?」


「アディーナちゃん、途中でのぼせちゃって、お風呂上がった直後に気絶しちゃったんだよぉ。ニヒヒ。」


「え、ウソ!?」


そう言われて、気付く。

やけに全身が猛烈に気怠く、吐き気や眩暈もガンガン襲ってくる。

頭の中がシェイクされたかのように気持ち悪く、立ち上がる気力も湧かない。



一つ分かるのは、私が調子に乗ってお馬鹿な結末になったという事だけだ。



「…カリュウちゃん。」


「ん、どうしたのぉ?取り敢えず、水飲みなよ。」


「ん。」


カリュウちゃんにコップ一杯の水を手渡され、それを口に含んで一息で飲み干す。

…少しはマシになった気がするけど、そうでも無い気もする。


「すっごい気持ち悪い。」


「う〜ん、じゃあ特別サービスで、その気持ち悪さだけ消すおまじないをしてあげるぅ。クヒヒ。」


「おまじない?」


「うんうん、じっとしててねぇ。」


カリュウちゃんが私の胸に手を添えると、同時に今まで猛威を奮っていた悪魔みたいな気持ち悪さが、まるで初めから存在しなかったかのように消え去った。


「…え?え?どういう事これ!?」


「フッフッフ、これぞカリュウ姫様の最強のおまじないの効力なりぃ。

はい、お水二杯目あげるぅ。」


どこから取り出したのか、カリュウちゃんは透明なコップに入った二杯目の水を私に差し出す。


「あ、ありがと。」


この時、私の目にはカリュウちゃんが、どうしてか凄くカッコ良く見えた。

おまじないの正体は、例によってカリュウちゃんの達人能力によって、私の気持ち悪さを、水に変えたのだろう。

でも、当時の私はカリュウちゃんの不思議さに、そして優しさに、グングン惹かれていったのだ。

あと、顔も凄く可愛いし、好みだった。



「アディーナちゃん、今日はもう帰ろっかぁ。気持ち悪いのは消えたけど、まだあんまり無理はしない方が良いしさ。ニヒヒ。」


「…うん、そうする。カリュウちゃん、ありがとう。」


「ウヘヘへ、良いって事よぉ。また今度遊びに行くねぇ。」


「うん、私もまた、遊びに来る。」


帰りもまた、あの豪華な馬車で自宅まで送って貰って、私はゆっくりと休む事にした。

この日以降、私の家とカリュウちゃんの饕餮城を、毎回交互に遊びに行く事になった。

私の家の時は卓上ゲームなんかで遊んで、カリュウちゃんの家の場合は、子供にとってはテーマパークのような饕餮城で遊び回った。

ちなみに饕餮城は、浴場が一般開放されている日もあるみたいで、たまに沢山の人が押し寄せて来る事がある。


それからの数年、私が帝都から追い出されるその日まで、カリュウちゃんとは非常に良好な関係だった筈だ。

喧嘩をした事も無いし、疎遠だった事も無い。

私は次第に友情だけじゃなく、カリュウちゃんの事が一人の女の子として好きになっていった。

だからあの日、私は彼女に思いの丈を打ち明けて、好きだという気持ちをダイレクトに伝えたのだ。


なのに、その挙げ句が帝都からの追放だった。








◆◆



「まあ、私の過去話はこんなところですかね。」


ざっとカリュウちゃんとの出会いを話し終え、私は感傷に浸るように目を閉じた。



「ほえー♪」


「思ってたより仲良かったのね、アンタ達。」


シャツキフさんは面白そうに終始笑顔で聞いていて、コロちゃんは腕を組みながら、何か考えるように聞いていた。

まあ、私にとっては大切な思い出ですけど、二人にとってはそんなに聞き入る程、楽しいお話なんですかね、これ。


「正直、お二人にはあんまり面白くなかったでしょう?

私とカリュウちゃんが一緒に遊んでるだけで、オチは私の気絶ですし。」


「ん〜ん、すっごく面白かったよ♪」


「確かに、色々と興味深い話だったわね。」


「あ、そうですか。」


シャツキフさんは純粋に楽しんでるみたいだけど、コロちゃんはさっきからずっと難しい顔をしながら考え込んでいる。


「あの〜、コロちゃん?さっきからどうしたんですか?考え事?」


「今ちょっと話し掛けないで。頑張って幼女時代のアディーナを、私の全妄想力を駆使して脳内に再現してるから。」


「え、何それ怖い。」


「妄想は芸術の基本!頑張れー♪」


「シャツキフさん、煽らないで。」


コロちゃんが己が欲望の為に脳味噌をフル回転させるなんて、私の話がそれ程までにとんでもない代物だったとは、知らなかった。

仕方ない、〝あれ〟を見せて落ち着かせよう。


「コロちゃん、少し待ってて下さいね。」


私は馬車の中の荷物入れの中から、私の私物を漁ってある物を手に取った。

それを未だに妄想中のコロちゃんの目の前に差し出すと、コロちゃんの瞳が一気にカッと見開かれた!


「…こ、これは…ッ!?」


ワナワナと震えるコロちゃん。

それもその筈、これは今、コロちゃんが最も求めている物と言っても過言ではないアイテムなのだ。




「私が昔撮った、カリュウちゃんとのツーショット写真です。

ちょうどカリュウちゃんと知り合って間もない頃ですから、まだ8歳の時の写真ですね。」


私の手にある一枚の写真には、私の自宅をバックに、元気そうにニカッと歯を剥き出しにして笑いながら、カリュウちゃんと手を繋いで、もう片方の手でピースをしている幼い私が写っていた。

カリュウちゃんも、二ヘラと笑いながらピースしている。




「ッッ!?」


コロちゃんが、白目を剥いて倒れた。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



セバスチャン


8年前、カリュウ姫皇帝の元で執事として働いていた、お爺さんね。

実は執事歴1年のアルバイトで、今は転職してラーメン屋の店長をやってるって噂よ。

執事の仕事も悪くなかったみたいだけど、セバスチャンといういかにも執事っぽい名前で執事やってると、ベテランと勘違いされてしまうのが悩みだったらしくて、転職を決意したのだとか。

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