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#51、炎の化身




意外なまでに、ウィンドル君はトドマツさんの提案に素直に従ってくれた。

ウィンドル君は出世意欲が高そうなきらいがあるし、トドマツさんはそこを突いたのだろう。


ウィンドル君率いる怪鳥軍団はぞろぞろと町の外へと移動し、私達も後を追うように町から出て行く。


その移動の合間に、私は思考した。

あの時、ラフレシアを切断した黒い影は、一体何だったのか。

向こうのエースと思しき3体の魔害獣が姿を現したけど、あちらも他に奥の手を隠しているのかもしれない。

これ以上強力な魔害獣が出て来たら、今の私達に対処出来るのだろうか。


いや、ここまで来たらやるしかない、か。

それに、死育委員デーモンビーストテイマーズは彼一人じゃないらしいから、これを機に私達も一段階強くならなきゃいけない。




「キャッハハ、確かにあんな狭い町の中じゃあ、ウチの鳥さん達もさぞかし戦いにくかっただろうからなー。

ここなら、存分に暴れられる。」


町から少し離れた平原のど真ん中。

ウィンドル君の軍勢を見て、平原を陣取っていた野牛の群れが、蜘蛛の子を散らすように走り去った。


ウィンドル君を乗せるマンタバードが可能な限りの低空飛行で地面スレスレに滞空し、そのすぐ上と隣に、ソニックカイザー、ナイトエンペラー、鳥鬼族が威圧的に佇んでいる。

そして、それらに対峙するようにして、私達も平原の土を踏みしめていた。




「よし、3分で片付けろ。」


ウィンドル君がニヤリと笑いながらそう指示を出した瞬間、エースの三怪鳥が一斉に仕掛けてくる!

ソニックカイザーは放物線を描きながら途轍も無いスピードでこちらに急接近。

ナイトエンペラーは両目からレーザーのようなものを照射。

鳥鬼族は地を駆け、ハイジャンプで上空に舞い上がってからのボディプレス攻撃。


「ぬうッ!」


ソニックカイザーの軌道を見越しての、ククノチさんの防御行動が功を奏した。

両腕から大量の蔦を生やし、それらを絡み合わせて防壁と化し、突進してきたソニックカイザーに巻き付けて動きを封じたのだ。

しかし、蔦の壁があるのはあくまでもククノチさんの正面でしかない。

隙だらけの狙い所である上空から強襲してくるのが、恐るべき身体能力と害悪指数を誇る、鳥鬼族である。


「トドマツさん!」


「おうッ!」


私とトドマツさんは、ククノチさんを守護する為に行動を起こす。

破壊的なボディプレスで急速落下する鳥鬼族を、直前で迎撃!


「『割り箸殺法・渦紫陽花うずあじさい』」


「『鋏討はさみうち』」


鳥鬼族の両側からダブルで攻撃を当て、弾き飛ばす事に成功。

恐るべきは弾かれたのにも関わらず、滅茶苦茶な体勢からボディプレスを続行する鳥鬼族。

そのままあらぬ方向へ落下したというのに、衝撃で鳥鬼族を中心に地面に蜘蛛の巣状の巨大な裂罅が入り、大地が震えた。


その間、コロちゃんとシャツキフさんがナイトエンペラーの気を惹きつけ、私達の戦いを妨害させないように必死に応戦していた。


「ぬうぉぁあ!」


ソニックカイザーの動きを封じるククノチさんは、力を振り絞り、巻き付く蔦の量を更に増量する。

完全に全身の自由を奪われたソニックカイザーは暴れるようにもがき、脱出を計る。

絡まる蔦は次々と断裂するも、増量された蔦が上から再び絡まる事で何とか止めているけど、このままじゃジリ貧なのは明らか。

なので、ククノチさんは一転、攻勢に移る。


「全く、我が輩のこの力は、だいぶ燃費が悪いのでね。

なるべく早く終わらせて貰おうか。」


ククノチさんは現在進行形で立っている場所を軸に、ハンマー投げめいてグルグルと自身の体全体で回転し始める。

大量の蔦が絡まり合い巨大な塊と化したソニックカイザーは、まるで鎖の先に繋がれた鉄球を彷彿とさせる。

ソニックカイザーの抵抗は激しくなるも、流石にもう間に合わないだろう。

近くで援護しようとしていたナイトエンペラー諸共、ククノチさんは全力で蔦の塊を地面に叩き付けたのだ!


「ギュオォォォ!」


「ギャアァァァ!」


凄まじい轟音と怪鳥の断末魔が響き渡り、叩きつけられた衝撃も相まって再び大地を震わす。

ソニックカイザーとナイトエンペラーは見事に気を失い、戦闘不能状態になっていた。


「凄い威力ですね。」


「へっ、実質反乱軍で一番強いのは、オイラじゃなくてククノチだからな。」


まあ、何となくそうなんだろうな、という気はしていた。

ククノチさんの実力はやはり、達人の中でも結構上位に食い込む程のものだ。


「そうこう考えてる暇は無いですね。敵はまだ残っています。」


変な方向に飛ばされた鳥鬼族が、平原の小高い丘からこちらに向かって、ゆっくりと歩いて来ているのが確認出来る。

筋骨隆々のその肉体と、無表情で冷徹そうなその鳥顔の相乗効果で、私達は本能的に戦慄する。


さっきは何とかカウンター出来たけど、もう同じ手は通用しないだろう。


鳥鬼族は腰を深く落とし、正拳突きを放った。

距離はだいぶ離れているのに、素振りでもしているのかと思いきや、それは愚考だとすぐに思い知った。

超速で放たれた正拳突きの衝撃は空間を伝い、遠距離の私達の元まで届いて来る!


「がふッ!」


不意を突かれた私は、その攻撃を正面からモロに貰ってしまい、後方へ吹き飛ぶ。


「アディーナ!」


まるで、自分の身長と同じくらいの大きさの拳で思い切り全身を殴られたような感覚だ。

凄まじい衝撃に為す術も無く、後方にあった巨岩へ全身を打ち付けてしまった。


「だ、大丈夫!?一旦休んで…」


「ゴホッ!」


コロちゃんが心配そうに駆け寄って来る。

私は咳と共に吐血し、骨の一本か二本はイカれたかなと思いつつ、同時に油断した所為でカッコ悪い所を見せてしまったなと後悔もしていた。


「大丈夫です、私の事は、心配しないで…。

それよりも、あっちを対処するのが先決です。」


シャツキフさん、ククノチさん、トドマツさんの三人は、鳥鬼族の連続遠距離殴打を頑張って躱している。

あれだけの脅威的な正拳突きは、放つだけでも相当な体力を消耗しそうなものだけれど、鳥鬼族は一向に疲れを見せずに何度も何度も無感情に淡々と打ってくる。

まるで、相手を殴り壊す事しか考えていない殺戮マシーンのようだ。


「怪我をしたからといって、休んでいる暇なんてありません。

ここはもう、戦場なんですから。」


「…ぅ、でも…!」


「心配してくれる気持ちは、素直に嬉しいですよ。

でも、行かせて下さい。見た目より酷い怪我でもないですから。」


「…分かった。アタシも援護するから。」


「是非お願いします。」


休んでる暇も、痛がってる暇も無い。

今は強がってでも一刻も早く戦場に復帰して、皆と共に戦わなくては。






「フンッ!」


鳥鬼族の猛攻を掻い潜り、トドマツさんの一撃が炸裂する。

紙一重で回避されるも、シャツキフさんとククノチさんが追撃するのに十分な隙を作る事は出来た。


「『音斬草おときりそう』」


「『土色の剣(イエローソード)』」


ククノチさんの腕から生える刃のように鋭い花弁の花と、シャツキフさんの土で出来た剣が、怯む鳥鬼族を捉える。

回避行動を取ろうとするも間に合わず、強烈な連撃が命中し、大きなダメージを与えた。



「ギイイィィィアアァァァァッッ!!」


ダメージを受けた所為か、鳥鬼族が怒り狂ったように奇声を上げる。

まるで至近距離に爆弾でも落ちたかのような轟音の如き奇声に、シャツキフさん達は一瞬だけ行動不能になる。

その隙を狙い澄ました鳥鬼族が高速でシャツキフさんに接近し、その首を刎ね飛ばそうと、右足の回し蹴りからの延髄斬りを仕掛けてきた!


「させませんッ!」


そんなの、この私が許す訳がない。

凶器に等しい鳥鬼族の蹴りがシャツキフさんの華奢な首筋にヒットする直前に、私の割り箸がそれを妨害し、止める。


「間に合って良かったです。」


「ありがと♪避けれたけどー♪」


「あ、そうですか。」


私の攻撃で弾かれた鳥鬼族は、アクロバティックな動きですぐさま体勢を整えるも、既に私達の反撃準備は整っていた。


ククノチさんの蔦が鳥鬼族に絡まり動きを封じ、そこを私の割り箸、コロちゃんの槍、シャツキフさんの土の剣、トドマツさんの鋏、四人の獲物で一斉攻撃を仕掛ける!

私達の総攻撃はククノチさんの蔦ごと鳥鬼族を斬り刻み、ついに恐ろしい鳥の魔人は白目を剥いて大の字に四肢を開きながら、仰向けに倒れた。


「やった!」


「いえ、まだ油断してはいけません!」


コロちゃんがガッツポーズするけど、戦いはまだ終わっていない。

エースである三体の怪鳥が倒されたのを見ていたウィンドル君は、明らかに不機嫌そうにイライラしている。

イライラし過ぎて、親指の爪を噛んでいる。


「クッソ、まさかここまでやられるとはなぁ…。

もうアッタマきた!もういい、切り札だ切り札!僕の最強の魔害獣で粉微塵になるまで粉砕してやるよ!キャッハッハッハ!」


…やはり、あの三体は真の切り札ではなかった。

ククノチさんのメガラフレシアを切断した魔害獣、そいつの正体を私達はまだ見ていない。


「行けェ!出番だ!」


ウィンドル君の合図と共に、私達の頭上を巨大な影が横切った。

たったそれだけで、キツめのサウナに入っているような熱気が私達を襲う。

上空で静止してこちらを見据えるその大鳥は、まるで炎の化身のような、異形の怪鳥だった。

大きく広げた翼は焔を纏い神々しく、羽ばたく度に熱風を撒き散らす。



「キャハハ、こいつこそが僕の本当の切り札!鳳凰王!」




鳳凰王ほうおうおう、害悪指数10000KC。



ついにと言うか、害悪指数10000が出て来てしまった。

これこそが、ウィンドル君の隠し持つ最強の真打ちとも言うべき魔害獣。


「うわー、ヤバいのが出て来たねー♪」


「でも、やるしかありません!」


「おい、来るぞ!構えろ!」


巨大な火の鳥が双翼を広げ、滑空するようにこちらへ飛んで来る!

しかも、体をドリルのように回転させながら、翼の炎を四方八方に撒き散らしている。


「くそ、避けろ!」


私、コロちゃん、トドマツさんは、雨のように降り注ぐ獄炎をギリギリで回避し、シャツキフさんとククノチさんはそれぞれ、貝殻の盾と複雑に絡まった蔦の壁で防御する。


しかし、

「あっつ!?」


「ぬぉあッ!?」



「なっ!大丈夫ですか!?」


シャツキフさんとククノチさんは防御しきれず、鳳凰王の炎を真正面から喰らってしまった。


いや、防御しきれなかったと言うより、防壁を炎が透過したようにも見える。

そのあまりに不自然な様子を見て、トドマツさんが大きく舌打ちしていた。


「チッ!よりによってあの魔害獣、〝無効水〟を飲んでやがんのか!」


「無効水?何ですかそれ?」


「魔害獣にしか効能を発揮しない特別な水で、飲んだらとどのつまり、こっちの防御や遠距離攻撃なんかを無効化する特殊体質になっちまう!

メチャクチャ希少な代物だが、死育委員デーモンビーストテイマーズの切り札だけあって、流石に飲ませてやがったか。

気を付けろ、奴には直接的な物理攻撃しか通用しねぇぞ!」


確かに、それはかなりの脅威だ。

でも、それよりまずは、あの灼熱の炎をマトモに喰らってしまった2人が心配だ。


「あの2人が心配なら、大丈夫だ。ククノチが何とかする。」


トドマツさんの言葉通り、ククノチさんとシャツキフさんは少なからず火傷はしているものの、無事だった。

その理由は、2人の側で咲いている水色の花から、シャワーのように噴き出ている綺麗な水を浴びているからっぽい。


「あれは?」


「ありゃあ、『療水花』ってんだ。名前の通り生物の怪我を治せる水を出してんだ。

ただ、無効水程じゃあないが、あれも貴重なんでな。とどのつまりホイホイと使う事は出来んぜ。」


成る程、ダメージを受けると同時に、咄嗟にあの花を使ったという訳か。

2人は取り敢えず心配は要らなそうだけど、あの魔害獣は相当な強敵だ。

特に無効水とかいうチートアイテムを使っている所為で、実際の厄介さは害悪指数10000KCという数値以上になっているだろう。

ていうかズルい、そんなの!


「でも、あんなの相手に接近戦なんて出来るの?メッチャ熱そうなんだけど。」


「ええ、それが一番の問題点ですね。あの炎の翼をどうにかしないと、近付く事すらままならないです。」


「ならば、我が輩に任せるがいい。」


ククノチさんが自信有り気に目に出た。


「何か策があるんですか?」


「我が輩が、あの鳥の元へアディーナ、お前を導こう。

懐に潜り込んだら、大技を叩き込んで一撃で決めるのだ。失敗は許されんぞ。」




皆の期待の眼差しが、私に向けられる。


いや、プレッシャーがエグいんですけど。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



鳥鬼族


害悪指数8200KC。

鳥の顔面とゴリゴリマッチョな肉体を併せ持つ、強力な格闘技の使い手の魔害獣よ。

その身体能力は並外れてて、下手な達人じゃ為す術もなくやられてしまう程よ。

ちなみに、好きな食べ物は焼き鳥らしいわ。ギリギリね。

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