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#50、死育委員



「帝国軍所属、死育委員デーモンビーストテイマーズの一人、ウィンドル・ナイトアモン。

自己紹介はこれでいいかい?キャハハ。」


ウィンドルと名乗った少年は、本当に拡声器を持っていた。

お陰で必要以上に声が大きく、キンキンと頭に響く。



「まずは挨拶代わりだ。」


「来るぞ、上だッ!」


ククノチさんの警告通り頭上を見上げると、上空を飛んでいた怪鳥が二羽、こちらに向けて急降下して来る!


チツツキ、害悪指数3990KC。

首が異様に長いその鳥は、まるで槍のように真っ直ぐに下降し、その細長い鋭利な嘴を私達に突き刺そうと迫って来る。

だけど、来ると分かっていれば躱すのは容易い。

チツツキの軌道を読み、私達がひらりと身を躱すと、突撃槍のような嘴は町に敷かれた石畳に突き刺さった。


「隙あ……りッ!?」


動けなくなったと思い反撃に転じようとするも、チツツキは素早く嘴を引き抜いて体勢を整え、今度は狂ったように高速で連続突っつき攻撃を仕掛けてきた。




「『松陣屏風しょうじんびょうぶ』」


ククノチさんの腕から植物の幹が生えたかと思うと、それが一瞬で成長し、巨大な松の木となってチツツキの攻撃を防ぐ盾になった。


「『松矢似まつやに』!」


続いてトドマツさんが、二つの大型剪定鋏を両手に持ち、ククノチさんから生える松の木の葉を目にも止まらぬ速度で剪定していく。

すると、切られた松の葉が、まるで弾丸のように撃ち出され、二羽のチツツキに突き刺さる。

致命傷となる前に、チツツキは堪らず退散した。




「強い…!」


初見で感じた通りの強さだった。

ククノチさんもトドマツさんも、主役メインディッシュの達人に引けを取らないレベルの実力者だ。

あの帝国に反旗を翻すだけはある。


「おお、やるねぇ。流石は『盆栽の達人』と『園芸の達人』!

腕は衰えていないみたいだ。」


「衰えてないって、お前と最後に戦ったのはほんの数ヶ月前だろうが!」


「あれー、そうだったっけ?キャッハハ!」


「野郎、ナメやがって。」


一連の会話から察するに、トドマツさん達はウィンドル君と戦った事があるみたいだ。



「だがまぁ、ここまで本格的に攻めて来たのは初めてだな!」


「うん、そうかもね。こっちも色々事情があってね。反乱軍をちゃんととっちめる事にしたんだ。」


マンタバードの大きな口がガパッと開く。

そこから放たれるのは、触れるだけで黒焦げになりそうな高熱のガス!


「皆、避けろ!」


防御力の高い松の木の盾とは言え、結局のところ植物には相違ない。

高熱ガスに晒された松の木はあっという間に燃え盛り、ククノチさんの体に移る前にトドマツさんに切り落とされ、事なきを得る。

でも、このままだと燃える松が民家に燃え移ってしまう。


「あっと、これヤバいね。」


ここで動いたのが、まさかのウィンドル君だった。

彼が指を鳴らすと巨大なペリカンが飛んで来て、民家一つ分は入りそうな喉袋から大量の水を吐き出して、鎮火してくれた。

グラットンペリカン、害悪指数4300KC。


「…どうして鎮火を?」


「いや、一般人に被害が出ると、僕の出世コースが遠のいちゃうからさ。

ウチの姫皇帝、そういうの嫌がるから。」


「あ、そうですか。可愛くない子供ですね。」


「キャハハ、よく言われる。」


ウィンドル君は、年相応の笑顔を見せた後、それを邪悪に歪ませた。



「んで、アンタ達をやっつければ逆に出世が近づいちゃうからさぁ。

とっととやられて僕のポイントになってよ!」


ウィンドル君の乗っているマンタバードが急上昇し、入れ替わりに別の怪鳥が襲って来る。

以前戦った事のあるバードオブプレイに、ボールみたいに丸くて巨大なスズメ、白い体に禍々しい黒い紋様が刻まれた鶴。


スズメの方は、エクスプロシブ・スパロー。害悪指数4020KC。

鶴の方は、デスクレインという名前の魔害獣で、害悪指数は3790KC。


どれも強敵だけど、一点気になるところがある。



「エクスプロシブ…?」


名は体を表す、という言葉はまさに言い得て妙。

巨大なスズメは勢い良く落下してきては、1秒前まで私が立っていた場所に激突した。

直後、爆弾が爆発したかのような音が炸裂し、実際爆発していた。


「うわっ、ちょっ!?」


まん丸なスズメは爆風で高く舞い上がり、再び落下。

激突して爆発しては舞い上がり、激突しては舞い上がりを、私達目掛けて繰り返す。

まるで、延々と跳ね続けるスーパーボールみたいだ。

しかも、自身の起こした爆風に見舞われている筈のスズメには、傷一つ無い。ズルくない?



「キャハッ、建物は極力壊さないようにね!」


だったら、この爆撃をやめて欲しい!


「『海色のブループルーフ』」


シャツキフさんが、便利な貝殻の盾を爆発スズメの落下予測地点に出してくれた。

でも、何だかいつもより平べったく見える。


「柔らかバージョン♪」


爆発スズメが貝殻の盾に当たると、まるでトランポリンのように柔らかい盾に沈み、その反動でボイーンという間の抜けた音と共に、爆発すらさせずに上空へと跳ね返した。

しかも、その跳ね返った先にはウィンドル君の乗るマンタバードが!

ここまで計算してたとは、流石はシャツキフさんだ。


「キャハ、やるじゃんさ。

でも、止まれ!」


ウィンドル君が指示を出すと、飛んでいったスズメは空中で急ブレーキを掛けたみたいに止まって、そのまま上空へ飛び去る。

まあ、そう簡単にはいかないか。


「ん〜、面倒臭くなってきたし、数で攻めて一気に終わらすか。」


ウィンドル君が指を鳴らすと、今度は嘴が異様に長い小型の鳥が、大量に押し寄せてくる。

クシザシギ、害悪指数780KC。

今までのに比べたら弱めだけど、ざっと見ただけでも100羽はいる。ヤバい数だ。

しかも、それに混じってバードオブプレイとデスクレインも攻めてくる。


「くっそ、キリがねえな!」


次々と特攻してくるクシザシギを、私、シャツキフさん、ククノチさん、トドマツさんは、各々冷静に対処して、着実に敵の数を減らしている。

コロちゃんはというと、なんとクシザシギの素早い動きに柔軟に対応して、私達みたいな達人程ではないけど、的確に攻撃を当てては追い払っている。

コロちゃんも強くなったものだ。

子の成長を喜ぶ親とは、こんな気持ちなのだろうか。子でも親でもないけど。



敵を倒している上でふと気になったのが、敵の魔害獣の動きだ。

どの鳥達も致命傷になる前に退散し、自分の命を優先して程々に攻撃してくる。

闘争本能剥き出しの野生の魔害獣では、殆ど見られないような動きだ。


「ウィンドル君は、なかなか面白い子だねー♪

自分達の兵力を減らさない為に、使役する魔害獣達に無理しないよう、ちゃんと訓練してるんだ♪」


「うん、そうそう。

玉砕覚悟で死ぬまで特攻させるなんて、時代錯誤で古臭いやり方はナンセンス。

ウチは、何事も程々主義のホワイトな職場なのよ。キャハハ。」


マンタバードの上で、ウィンドル君がケタケタと笑っている。

多少は自分の魔害獣に愛情があるようで、そこまでヤバい子ではないのだろうか。


とは言え、私達の状況がヤバいのは、変えようのない事実だ。

倒しても追い払っても、次から次へと後続が現れる。



「ぬん!」


「オラァ!」


ククノチさんが植物の蔦で絡めとり、そこをトドマツさんが追撃する連携攻撃で、バードオブプレイを撃破!


それとほぼ同時に、私の割り箸殺法とシャツキフさんの土の剣の連撃で、デスクレインも撃退した。

群れの中核を担っていた二羽を倒したのなら、後は小鳥を残すのみ。

全て撃退するのに、さほど時間は掛からなかった。

残りが少なくなって不利と見たからか、向こうが勝手に撤退してくれたからだ。


「何とか一波は越えられたけど…。」


一波越えたら、次に来るのは二波目。

次に飛来して来たのは、赤、青、黄の三色混交の小型怪鳥の群れ。

炎鳥、氷鳥、雷鳥、どれも害悪指数は800KC。

この群れも、さっきのクシザシギの群れと同規模位の数だ。


炎鳥は炎の塊を。

氷鳥は氷の刃を。

雷鳥は雷の球を。

それぞれがその名の通りの遠距離攻撃を、口から吐き出して攻撃してくる。

三色の雨霰あめあられが降り注ぎ、避けるだけでも精一杯だ。


「ククノチ、奥の手を使え!」


「了解!」


奥の手とは?と問う間もなく、ククノチさんとトドマツさんから、小さな何かを投げ渡される。


「何ですかこれ?」


「鼻栓だ。強烈だから付けとけ。」


その台詞を聞いて嫌な予感がしたので、私達は大人しくその指示に従う。

しかもこの鼻栓、ちゃんと見た目に配慮したお洒落でカラフルなやつだ。



「『超激臭花メガラフレシア』」


ククノチさんの体から大量の蔦が発生し、ギュルギュルと物凄い勢いで絡まり合い、名状し難いオブジェクトのような塊になったかと思いきや、その頂部から巨大な蕾が生えて、そのまますぐに開花する。

直径数十メートルはありそうな大き過ぎるその花は、もう見た目だけでも極彩色で毒々しさ全開!

そして極め付けは、この猛烈な悪臭だ。

鼻栓をしていても顔をしかめてしまうレベルの激臭に、当然ながら鼻をガードしていない怪鳥達はたまったものじゃない。

慌てふためいて逃げ出す鳥、耐え切れずに気絶する鳥。


「くっさぁ…!」


私達も、何とか耐えている。

鼻だけじゃなくて目も痛い。刺激が強過ぎる。


「ふん!」


ラフレシアの蔦が急成長し、グングンと上空へ向けて伸びていく。

害悪指数の高そうな大型の鳥型魔害獣でさえも、その地獄の激臭から一目散に逃げ出している。


ラフレシアの目指す先は勿論、怪鳥の親玉であるウィンドル君だ。



「うぉわッ!?くっさ!やめッ、こっち来るな!クソ、マンタバード言う事聞けッ!」


どんどん近付いてくるラフレシアに、鼻を押さえて悶絶するウィンドル君。

流石のマンタバードも嫌がっているようで、主人の命令と悪臭との板挟みで混乱している。


「よし、このまま行けば!」


このままラフレシアを直接ウィンドル君にアタックさせれば、多分耐え切れずに失神でもする筈だ。

あともう少しという所で、〝それ〟は来た。




「何!?」


一瞬の出来事だった。


ウィンドル君の前に黒い影の様な物が物凄い速さで横切ったかと思ったら、ラフレシアの蔦が綺麗に切断され、巨大な花が町の大通りへと落下した。

落ちて動かなくなった花にマンタバードが高熱のガスを吐き出し、焼き払われてしまった。

ククノチさんの奥の手が破られてしまったのは残念だけれど、あの悪臭から解放された喜びも半分位ある。


それにしても、あの黒い影は一体?


「くっそー、危なかった。ギリギリ間に合ったけど、あんな臭いやつ二度と御免だ。キャハ。」


マンタバードも平常心を取り戻し、こちらへ向き直る。

押し切る事は出来なかったけど、相手の小型の怪鳥部隊を殆ど機能を停止させる事には成功したようだ。

それだけでも良しとしよう。


「ククノチさん、今の技もう一回使えませんか?」


「無理だな。我が輩は自身の肉体に植物の種子を植え付け、特異体質により急成長させている。

メガラフレシアの種は非常に希少な為、今使用した一つしか持っていないのでな。故に奥の手。」


「あ、そうなんですか。」


話している間にも、敵は攻めて来る。

悪臭を嗅がせてしまった分、なんか怒ってるようにも見える。




「もういい、あんな攻撃がまた来たら面倒だからな。一気に終わらせるぞ。」


そう言うウィンドル君の乗っているマンタバードが、こっちに来る。

両側には、何か強そうな怪鳥が2体。

私から見て左側に大きな隼のような見た目の魔害獣、ソニックカイザー。害悪指数7000KC。

右側には紫色のデカいフクロウの魔害獣、ナイトエンペラー。害悪指数6760KC。


「あそこからもヤバいのが来てるぞ!」


トドマツさんの指差す先には、民家の屋根で腰に手を当てこちらを見下ろす鳥人間が立っていた。

黒光りするマッチョな人間の胴体に、鳥の顔面と翼を持つ魔害獣の名は、鳥鬼族。害悪指数は8200KC。


どれもマンタバードを優に超える、超一級にヤバいインフレ魔害獣のオンパレード。

こんなのに暴れられたら、この町もただじゃ済まないのは明らかだ。


「おーい!ウィンドルや!」


「うん?」


トドマツさんが声を張り上げて、臨戦態勢のウィンドル君に声を掛ける。

ウィンドル君は空気を読んで、一旦停止する。


「まさか、お前がこんなとんでもない魔害獣を隠し持ってたとはな!とどのつまり、驚いたぜ!

だが、こんな奴らをこの町で戦わせたら、被害も半端ない事になんのは分かるだろ!

そしたら、お前も上司に怒られちまうし、こっちも町を壊されるのは普通に困る。

そこでだ!」


トドマツさんは右手の親指をサムズアップして、背後を指差す。



「続きは、町の外でやろうぜ。」


⚪︎コロちゃんのメモ帳



マンタバード


害悪指数6450KC。

ウィンドルが操る、強力な魔害獣の一体ね。

空を飛ぶ巨大なマンタに見えるけど、実際には魚類の要素は全く無い、純粋な鳥類みたいよ。

魔害獣の割に普段は温厚で、人を襲う事は滅多に無いんだけど、一度怒らすとヤバいみたい。

口から高熱ガスを吐き出したり、高速で飛んで暴れ回ったり、相当危険な魔害獣として賞金稼ぎから認知されているわ。

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