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#52、ぶつかり合う!




ククノチさんが提案した作戦の内容は、どう考えても危険で無茶苦茶だった。


「安心しろ、療水花の水さえ全身に被れば、一時的に奴の炎を浴びても無事な筈だ。多分。」


「いや、多分て。」


ククノチさんの作戦を簡単に説明すると、まずはシャツキフさん達4人のサポートで鳳凰王の隙を作り、そこに療水花の水をバシャーッと全身に浴びて濡れ鼠になった私が特効を仕掛ける。

療水花の治癒効果で炎の翼と熱を突破しつつ、渾身の一撃を叩き込んで倒すという、私の負担がハンパなさそうな作戦だ。

しかも、単純に私の割り箸殺法が一番攻撃力が高そうだという理由で、私が代表選手として選出された。理不尽だ!


「ちなみに、療水花は別に炎をガードする訳じゃなくて、既に負った怪我を治すものだからな。

痛みは普通に感じるから、気合いと根性で頑張って我慢してくれや。」


「えぇ〜。」


トドマツさんに笑顔で無茶苦茶な事を言われて、外れクジ引いたなぁとしみじみ思う。


「お喋りはここまでだな、来るぞ!」


私達が作戦会議をしている間、ちゃんと律儀に待ってくれていた鳳凰王がいい加減痺れを切らしたのか、大口を開けて炎のエネルギーみたいなのを収束させている。

これはヤバいのが来そうだ。



「防御しても意味が無い以上、避けるしかありません!皆さん、気合いと根性で避けて散らばって下さい!」


鳳凰王の口から、巨大な炎の塊が放出される。

あまりにも大きくて、塊というよりは壁と形容した方が良いんじゃないかと思える程だ。


「うへー♪」


「きゃあァァッ!」


私達は全員、炎が吐き出されるよりも早く散開する事により直撃は免れていたのだけれど、爆風の余波に巻き込まれて軽く吹っ飛んだ。

直撃した大地は大きく抉れ、黒煙が晴れると同時に姿を現した焼け焦げたクレーターが、その威力の程を如実に物語っていた。


しかし、こちらは5人で鳳凰王を囲むように、布陣を作る事が出来た。


「よし、こっから一気に攻めるぞ!」


トドマツさんの号令と共に、まずはシャツキフさんが動く。


「『芸術的黒幕アーティスティック・フィクサー』」




ん?確かあの技は、シャツキフさんが自身の作品に意思を与えて、敵と戦わせる技では?

でも、当然ながらこの平原には、彼女の作品などどこにも見当たらない。


とか思ってたら、小さめの地震と共に、シャツキフさんが用意していた驚くべき作品が動き出した。



「え?デカ…、ち、地上絵ッ!?」



そう、シャツキフさんは私達も気付かない間にここら一帯に地上絵を描いていたらしく、古代人が遺したような巨人の絵が大地から剥がれるように立ち上がり、鳳凰王と対峙した。


無効水を飲んだ鳳凰王に通用するかどうかは分からないけど、あの鳥の気を引く事には今のところ成功しているようだ。



「…フッ、流石はシャツキフ・ラピルーク。相当に有能だな。」


「どもどもー♪」


「アディーナなんかの仲間にしておくには勿体無い人材だ。良かったら反乱軍ウチに来ないか?」


「ちょっと、失礼な事言いながら勝手にスカウトしないで下さい。

そんな事より、あの作戦を実行するんでしょう?さっさとして下さいよ。」


「全く、危険な策であるから、お前が緊張していると見越して、それを和らげる目的のジョークだったのだが、ノリの悪い女め。」


「へぇ、ジョークだったんですか。下手っぴ過ぎて気付きませんでしたよ。」


「ちょっと2人とも、アンタ達のチームワークが鍵になる作戦なんだから、もうちょっと仲良くしてよ。」


コロちゃんに諭された。

仕方ない、全くもって不本意だけど、ククノチさんとの連携で戦いの行く末が決まる以上、我が儘なんて言ってられない。


「ククノチさん、お願いします。」


「うむ、まずは療水花であるな。」


ククノチさんの腕から、先程彼自身とシャツキフさんの怪我を修復した水色の花が咲き、中心からシャワーのように、光を反射して輝きを放つ綺麗な水が噴き出した。

何この水、今まで感じた事のないような癒し効果と言うのか、浴びるだけで全身の疲れが一瞬で吹っ飛び、身体中の血液の循環がフル加速しているかのように、みるみる活力が漲ってくる!


なんだこれ、なんなんだこれェ!



「嗚呼、気持ち良いィ!」


全身ずぶ濡れなのも気にならなくなる程、この気持ち良さに身を委ねたくなってしまう。


「ちょっとアディーナ、涎垂らして目が変になってるけど、大丈夫なの!?」


「あまり怪我をしていない状態で療水花の水を大量に浴びると、軽い酩酊状態に陥るのだ。

安心しろ、一時的なもので中毒にはならぬので、少しすれば治るし、人体には悪影響は無い。」


「…それならいいけど。」


「ちなみに、療水花は希少アイテム故、これでラストだ。

つまり、あの魔害獣を倒すチャンスは一度きりである。分かったな?」


「…はい。」


着ている服やローブどころか、下着まで満遍なくグッショリ濡れてて気持ち悪いけど、今のところは気持ち良いの感情の方が圧倒的に勝っている。

今なら何だって出来そうな、そんな気さえする。

字面だけ見ると変態チックだけど、そんな些細な羞恥心すら塗り潰される。


「それでは、我が輩の力で今からお前を、あの憎き鳳凰王の元まで送り届けようではないか。」


ククノチさんの腕から伸びる蔦が、シュルシュルと太めの蛇みたいに私の胴体に巻き付き、ガッチリとハーネスのように固定する。少し苦しい。


「では、行くぞ。」


あれ?これってまさか…と、嫌な予感を感じつつも、その予感は的中した。

帝都で人気のスポーツ、『野球』のポジションの一つであるピッチャーの投球フォームの如く、大きく振りかぶって…



「ちょっ、うぎゃアァァァッ!?」



思いっきり全力投球された。

蔦で投げられたとは思えない程、見事な直線の軌道を描くドストレート!

…まあ、下手に暴投しなかっただけ良かったのかもしれない。そう考えよう。


とか考えてる間に、鳳凰王にどんどん接近していく。

向こうも気付いたらしく、私を迎撃せんと炎の球を吐き出した。

シャツキフさんの地上絵は、既に倒されている。



「その程度ッ!」


私は体を上へと捻り、炎球の上部スレスレを通り抜けて回避する。

触れてないのに、熱気だけで悲鳴を上げそうな位に熱い!

療水花の効果で火傷は免れているものの、炎で出来た布団にでも包まれているかのように熱い!


だからと言って泣き言を言っている訳にもいかないので、私は質量を持った炎球を足場に、すれ違いざま全力で蹴り飛び加速する。

足が死ぬ程熱い!やらなきゃ良かった。


でも、予想外の行動をとった私に、鳳凰王が一瞬ギョッとしていたので、相手の虚を衝く事は出来たのかもしれない。




「があァッ!あっつッ!」


懐に潜り込み、鳳凰王の腹部にしがみ付くのに成功したけど、本体は炎球よりも更に熱い。

療水花の効果込みでも、全身が焼け爛れて身体中の水分が蒸発してしまいそうだ。

持ってあと15秒くらいか。すぐに勝負を決めないと、こんな所で死ぬのは勘弁だ。



「ちょっと、オイオイふざけんなよぉ!何だよあの自殺行為は!

アイツが死んじゃったら、僕がカリュウ様に何されるか…ッ!」


遠くでウィンドル君が狼狽して喚いている声が聞こえるけど、どうでもいいや。

意識が朦朧としつつも、私は手早く鳳凰王の体をよじ登り、頭頂部へ達する。



「ギィァァァッ!」


鳳凰王は私を振り解こうと、全身を震わせ、頭を振り上げる。



そう、頭を振り上げた。

この行動こそが、私の狙いそのものだった!


鳳凰王の頭上に放り捨てられた私は、右手の割り箸に全ての力を収束させて、真下で身構える鳳凰王を睨み付ける。

鳳凰王は再び私を迎え撃つ為に、体を回転させて炎のドリルと化した。


今、私の全力の割り箸殺法と、害悪指数10000KCの怪物の全力が、ここにぶつかり合う!



「私の全力の、『割り箸殺法・雪柳』!」


限界まで超振動を発生させた右手の割り箸が、周辺の大気を、私の肉体を、そして心臓を、激しく振動させる。

更に落下の勢いのGの力も加わり、私の必殺技は今、最大のパフォーマンスを発揮出来る状態にある。


「おおおオオォォォォッ!!」


叫び、灼熱の殺人兵器と化した鳳凰王に、真っ正面から全力を叩き込む!

もはや、熱いのも痛いのも気にならなくなる程、私の力は高まり、昂っている。


「ギイィィィッ!」


鳳凰王の嘴と、私の割り箸とが重なり合い、強烈な衝撃波が発生する。

お互いに一歩も引く事は出来ず、それでも私の方がパワーは上回っていた!


私の割り箸が、鳳凰王の嘴を砕き、勢いそのままに落下しながら全身を切り刻んだ。


「おぉッ!」


「馬鹿なッ!?」


固唾を呑んで見守っていたコロちゃん、シャツキフさん、トドマツさん、ククノチさんが歓声を上げ、逆に主人であるウィンドル君は悲鳴を上げた。


地上に上手く着地した後、数秒遅れてゆっくりと鳳凰王が墜落して来た。

地に堕ちた炎鳥の王は、完全に戦闘力を喪失していた。



「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿なアアァァァァッッ!!」


真の切り札を失い、マンタバードの上で地団駄を踏むウィンドル君は、駄々を捏ねる年相応の子供に見える。


「ふざけんなよ、調子に乗るなよォ!まだマンタバードが残ってる!」


コロちゃん達の元へ高速で飛んで行き、襲撃を仕掛けるウィンドル君とマンタバード。

しまった、私は全力で鳳凰王とぶつかりあった所為で、体力を限界ギリギリまで消耗している。

今から皆の元へ急いでも、間に合うかどうか。



「あ?まだやんのか?」


トドマツさんのメンチ切り、ククノチさんの冷たい眼力、コロちゃんの勇猛な視線、シャツキフさんの不適な笑み。

それらは総じてただの視線だけど、マンタバードの生物的本能に訴えかけるには十分なものだった。

今、この4人と戦っても、絶対に勝てないという確定的な未来が、マンタバードの脳裏にハッキリと浮かんでしまったのだ。



「はぁ?」


マンタバードは、止まった。

そのまま、背を向けずに後退りする。


「おいおい、何ビビってんだよぉ!クソ、覚えてやがれ!このままじゃ済まされないからな!

僕に勝ったからって、調子に乗るなよ!死育委員デーモンビーストテイマーズはあと2人いるんだ!まだ地獄は終わってないんだからなァァァ!!」


典型的な悪役の台詞を吐きながら、一目散に逃げ出すマンタバードに乗せられ、強制離脱させられるウィンドル君は、実に滑稽だった。


何はともあれ、ひとまずこの戦いは終わったようだ。













◆◆



ウィンドル君がいなくなった影響で、ベリオーンの町に跋扈していた魔害獣達は一羽足りとも消え去っていた。

町では早速、破壊された建物や道などの修繕作業が始まっていたけど、トドマツさんが機転を利かせて後半街の外で戦ったお陰で、被害はそれ程でもないようだ。


「ウィンドルの野郎は今までも何度か、反乱軍の牽制役としてこの町にちょっかいを出して来たんだが、今回は手柄の為に本格的に襲って来たみたいだな。」


「あのレベルの魔害獣使いがまだ2人いて、更にその上司の『魔害獣使いの達人』もいる。

そしてそれと同格の達人も何人もいて、それすらも上回るカリュウ姫皇帝がいる。

まだまだ先は長いわね。」


コロちゃんがやれやれと肩をすくめる。


「いやまあ、別に全員と戦う訳ではないですし、今回はたまたま運悪く出会してしまっただけで、無駄な戦いはできれば避けていきたいですね。」


「それ、言っちゃうと避けれなくなるやつじゃん。」


ウィンドル君との戦いから一夜明け、私達は反乱軍地下アジトの定食屋みたいな所で、昼食を振る舞われていた。

どうやら厨房には腕の良い料理人がいるらしく、まるで高級料亭で出るような豪華懐石料理のコース料理が出てきて、私達の胃袋を目一杯満たしてくれた。

美味しい、実に美味しい。



「いやー悪いねー♪こんなに豪華な料理食べさせて貰っちゃってー♪」


シャツキフさんは案外大食漢なのか、既に出された料理を米粒一つ残さず綺麗に平らげていた。


「いや、お前さん達はこの町を守る為に、体張って尽力してくれたからなぁ。

これはその礼だ、満足いくまで食っちまってくれ。」


「了解しました。でしたらもっと追加で頼んじゃいましょう!」


「オッケー!食べ切れない分はタッパーに詰めて食糧にするわよ!」


「おい、流石にタッパーは禁止だ!とどのつまり、この場で食い切れるだけにしろ。」


私とコロちゃんが食事のアクセルを全開にしようとしたところを、トドマツさんに止められる。




「チッ、食費が節約出来ると思ったのに。」


コロちゃんが小声で毒づいてたのは、多分私にだけ聞こえていた。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



鳳凰王


害悪指数10000KC。

死育委員のウィンドルが使役する鳥系魔害獣の中でも、最強の魔害獣よ。

炎の翼、高熱の体で、近づくだけでも命取りだけど、その姿は神々しくて立派だからか、一部の地域や国では神格化されてるみたいね。魔害獣なのに。

性格は普通に荒っぽくて凶暴だから、立派なのは見た目だけね。

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