#48、原初の文明
あの温厚なカリュウちゃんが、そんな大掛かりな兵器を造っているだなんて、とてもじゃないけど考えられない。
そもそも、カリュウちゃんや千両役者をはじめとした多くの常人離れした達人、そして帝国の魔害獣といった、国を守るには十分過ぎる程の戦力が揃っているのに、これ以上強力な兵器を開発する必要があるのだろうか。
どんな強国でもグラットン帝国の名を聞いただけで震え上がるようなこの現状で、どう考えてもおかしい気がする。
「だとすると間違いなく、カリュウちゃんにはその兵器を造らなければならない、特別な理由がある筈ですね。」
「うむ、余もそう考え、その兵器についてバレぬようこっそりと調べていたのだ。
先程も言った通り兵器についての詳細は殆ど掴めなかったが、唯一得られた情報が〝原動力〟についてだ。」
「原動力、ですか?」
つまり、その謎の兵器が何を糧に動くかという話だ。
「これは、余の持てる力を最大限に使い、関係者であるランカーシス技研の社員から聞き出した、確かな情報だ。
その兵器は、使用者の達人としての全エネルギー、そして全生命力を糧としている。」
「…はい?それってつまり…」
「カリュウは、己が命を人柱として、その兵器を稼働させようとしているらしいのだ。」
…己が、命?
「…そっか、私達がカリュウ姫皇帝を止めに行くだろうって言ってたのは、こういう事だったんだねー♪」
「つまり、アタシ達がその兵器の使用を止めに行くって事ね。」
そう、カリュウちゃんの命を散らさせない為に。
「知っての通り、カリュウの生命エネルギー、そして達人としてのエネルギーは、この世界でも群を抜いて最高の水準だ。
そのエネルギーを全て使わなければならない程の脅威こそが、ゴールデン・テーブルマナーという災害なのだ。」
一体ゴールデン・テーブルマナーとは。
その謎に包まれた災厄についても、私達は知る必要がある。
「陛下、ゴールデン・テーブルマナーとはどういった類いの災厄なんですか?」
「うむ、そうだったな。
説明したいのはやまやまなのだが、生憎余も具体的な事は知らぬのだ。力になれずすまないな。」
「いえ、滅相もないです!
そしたら、知っている範囲でも全然構いません。」
「分かった、少しでも君達の力になれるのなら、余の知る限りの知識を話すとしよう。」
陛下は、一旦テーブル上のお茶を一口飲み、再び語り始めた。
「余がゴールデン・テーブルマナーという言葉を初めて聞いたのは、カリュウが余の前に姿を現した数日後の事だ。彼女から直接聞いた。
その内容については断片的なものだが、確定的な事実としては、このまま放っておけばゴールデン・テーブルマナーがこの世界を跡形も無く消し滅ぼすという事。
人類は未曾有の危機に見舞われ、その歴史に終止符を打つ。」
「あの、そもそもの話、ゴールデン・テーブルマナーが訪れるという根拠はあるんですか?」
コロちゃんが挙手して聞いた。
「根拠、か。確かにそうだな。余もカリュウから伝え聞いただけであって、その災厄が本当であるかどうかすら分からぬ。
カリュウ自身はゴールデン・テーブルマナーが必ず来ると信じ切った上で行動を起こしているようだがな。」
確たる証拠も無いのに、こんな眉唾物みたいな人類終末論を信じているなんて、あまりカリュウちゃんらしくはない。
だからこそ、ある一つの仮説が私の脳裏に浮かんだ。
「もしかして、カリュウちゃん。一度経験した事があるんじゃ…」
「む…?」
この場に会した全員の視線が、私に集中した。
何かちょっと恥ずかしくなる。
「あ、いや、ちょっと思った事をつい口走っただけで。」
「いや、確かにその考え方は一理あるかもしれないぞ。」
「え?」
陛下が目を丸くしながら、そう言った。
「カリュウは、余の前に姿を現す以前の過去を話す事は殆ど無かった。
余よりも長く生きているとは言っていたが、それが何年、何十年、はたまた何百年だったか、言ってはいなかったな。」
「まさか…」
私は、新たに浮上したとんでもない仮説に行き着いた。
「いや、何百年などという単位では生温いな。
数千、数万年というレベルの太古の時代からあいつは生きているのかもしれん。」
寿命を食べるという事は、つまりはそういう事なのだろう。
不老不死の肉体を手に入れ、生と死の輪廻から逸脱した存在に成り果てているのだ、カリュウちゃんは。
「カリュウは、帝国に来る前は長い間世界中を旅していたと語っていた。
その道中で出会い、共に旅の道連れとなったのが、現在の千両役者だとも言っていた。」
そうか。だとすると千両役者は、カリュウちゃんにとってただの部下ではないのだろう。
苦楽を共にした、互いに信頼の置ける仲間なのかもしれない。
「…一つ、発言をお赦し願えますかな?」
不意に、ククノチさんが手を挙げ、陛下に発言した。
「うむ。むしろ博識なククノチ君がずっとだんまりだったので、余としては少し不安だったくらいだ。」
小さな冗談を交え、ククノチさんの意見を聞く事になった。
「では、僭越ながら。
ボスや陛下はご存知の通り、我が輩は元々は帝都の某大学で教鞭を取る立場にありました。
その当時、専攻していた学術分野の一つが、この世界の歴史学でした。」
雰囲気で何となく察してはいたけど、やっぱり頭良いんだ、この人。
「古代イールファ文明、ネメガ文明。世界各地に赴き、そこに残る古代文明の研究を続けておりましたが、我が輩の研究の最たるものとしてはやはり、歴史の謎を紐解く事で人類原初の文明を探る事にありました。」
「人類原初の文明ですか。凄いスケールですね。」
「うむ、そうだろう。」
私の一言で気を良くしたのか、ククノチさんは更に饒舌になる。
「当然ながらその研究は容易な道ではなく、丹念に丹念を重ねた研究の末、ようやくの事我が輩は、その文明の跡地となる遺跡を某国にて発見したのです。」
「えッ、そうだったんですか!?」
まさか、もう発見済みだったとは!
でもそれが事実なら、少しおかしい。
今までそんなビッグニュース、一度たりとも聞いた事が無いし、学校で習った事もない。どう考えても不自然だ。
「アディーナ君、コロちゃん、シャツキフ君、この話を初めて聞いた君達は、やはりこう思った筈だ。
『そんな話、今まで聞いた事が無いぞ。』と。
うむ、それも無理はない話だ。
何故ならこの歴史的大発見を学会で発表しようとした前日、我が輩の血と汗と涙の結晶である研究成果は、メモ紙一枚残さずに全ての資料を何者かに根刮ぎ盗難されたからである。」
「そんな…」
盗まれたなんて、これはまた穏やかじゃない話だ。
「今から、数年前の出来事である。
原初の文明に関する全ての証拠は完全に消え去り、我が輩の研究は全て詭弁だと他の研究員からも尽く否定された。
あの時の筆舌に尽くし難き屈辱は、今もなお忘れはせん。」
淡々と話しているククノチさんだけど、その言葉の端々から微かに滲み出ている怒りだけは、どうにも隠しきれていないようだ。
「あの事件の犯人は恐らく、カリュウだと余は睨んでいる。
この世界の歴史の真実を隠蔽する為、ククノチ君の研究資料を奪ったのだろう。」
カリュウちゃん…
今の陛下の言う事が本当なら、目的の為には手段を選ばないという事か。
「帝国は関係無くて、他の学者とかが犯人って可能性はないの?」
「その線は薄いだろう。あの研究は同じ分野を研究する者からしたら、喉から手が出る程に我が物にしたいものではある。
我が輩がもしも何の障害も無く全てを発表していれば、我が輩の名は後世まで語り継がれる程の偉人となり、教科書や学術書にも永く名を残せていただろうからな。
これは、学者にとってこの上ない名誉だ。我が輩はそこまで興味は無かったがな。
だがしかし、犯人は盗むなり我が物顔で発表するでもなく、ただずっと沈黙したままである。
これはつまり、発表されては困る者の犯行という事実を如実に示しているのだ!」
コロちゃんの疑問を、怒りが昂ってヒートアップしたククノチさんが否定する。
初めて見せるククノチさんの表情に、コロちゃんは若干引いてる。
「おっと失礼、当時を思い出してつい熱くなってしまった。」
「…あ、うん、仕方ないわよね。あんな事されたんだもの。アハハ…」
「でもさー、ククノチ君って相当強い筈だよねー♪
そんな人からあっさり資料を盗んじゃうなんて、犯人もかなりの手練れっぽいよねー♪」
「うむ、その通りだシャツキフ君。ククノチ君から盗むだけでなく、保管していた金庫も相当頑丈だったと聞く。
それだけのセキュリティを敷いている中で盗み出せるのは、恐らく達人以外にいないだろう。
これも、カリュウを疑う根拠の一つだ。」
確かに、数多くの達人を擁する帝国軍なら、盗む事が得意な達人がいても不思議ではない。
「さて、ここまで我が輩の話を聞いて、諸君はやはり気になるのではないかな?
我が輩の研究していた原初の文明。それが一体何だったのかを。
資料は盗まれはしたが、研究データは全て我が輩の脳内に記憶されているのだからな。」
うん、確かに気になる。
気にはなるけど、何か聞き方が腹立つ。
「はい、すっごく気になります。」
棒読みで答えてやった。
「そうだろうそうだろう、ならば仕方がない、特別に講釈してやろう。感謝するが良い。」
何なんだこの恩着せがましい態度は。
自分の得意分野だからなのか、どうもククノチさんが上機嫌になっている。
その所為で、先程まで以上に上から目線なのが腹立つ。我慢だ我慢。
「グラットン帝国よりも遥か西方に位置する小国、ライダー王国。
その国で近年発見された正体不明の遺跡に我が輩が赴いたところ、これが恐らく推定300万年以上昔の遺跡であり、それまでに発見された最古の遺跡である古代イールファ文明の遺跡、東ケンドーラ国のイールファ遺跡の最古記録を上回るものであった。
これはつまり歴史的大発見であり、我が輩は更に詳しく調べる為、秘密裏に単独で遺跡に泊まり込み、調査を続行した。
その上で、我が輩は幾つもの不可解な点を発見したのだ。」
手を広げながら、劇場型の政治家の演説めいて自身の研究話をしているククノチさんは、昔の勘が戻ったかのように生き生きとしている。
大袈裟だし長そうだとは思うけど、話している内容は重要且つ興味深いものなので、調子を合わせてしっかりと聞いておこう。
「その中でも特に理解に苦しんだのは、明らかに当時の技術では実現不可能な筈のオーパーツの数々である。
用途不明な機械製品のような物体、手持ちサイズの無線通信機器のような物体、様々な物が悠久の時を経て出土したのだ。
これ程古い遺跡から原型を留めた状態で見つかるだけでも有り得ない出来事だというのに、その技術は現在のランカーシス技研に勝るとも劣らない程のものと推察される。」
…まるで、小説か何かのような、創作物めいた話だ。
ククノチさんの話が全て真実ならば、確かに不可解極まりない。
人類初の文明の筈なのに、何でそんなに高い技術を有していたのか。
「このあまりにも奇妙奇天烈な謎を解明する為、我が輩が着目したのは、世界で2番目に古い遺跡となった、東ケンドーラ国のイールファ遺跡である。
この遺跡からは特にオーバーテクノロジーなオーパーツは発見されておらず、古代人らしい石器や陶器などが多く出土している。
ここまでくれば、我が輩の言いたい事は分かるね?」
うん、分かる。
まるで都市伝説を鵜呑みに信じてしまうような、信じ難い話だけど。
「大昔に、今の私達。
…いえ、それ以上に高度な文明を築いた人類が、〝何らかの原因〟によって一度滅び、リセットされた。そう言いたいんですか?」
「うむ、その通りだ。その矮小な脳味噌でよくぞ考えたな。」
「ムカッ!」
我慢、我慢。
「その原因、というのは?」
「…ゴールデン・テーブルマナー。」
「そう、正解だ。」
世界が一回リセットされているなんて、とてもじゃないけど信じられない。
そう、通常なら。
今の話し合いに参加して、ここまでの結論が出てしまった以上、信じざるを得ない。
ククノチさんの研究資料が失われた以上、どうにも確証は無いんだけども。
「以上が、我が輩の研究の最も重要な成果である。
恐らく、カリュウ姫皇帝はこの原初の文明の時代から生きていたのやもしれん。
世界の破滅をその目で見届け、生き残ったからこそ、その災厄の危険性を誰よりも理解している。
成る程、可能性としては十分有り得るな。」
⚪︎コロちゃんのメモ帳
赫のゲヘナ
ベリオーンの町で、一番大きくて、ちゃんとした宿屋ね。
大層な名前の割には店員さんの接客は丁寧で、セキュリティもしっかりしてるし、この治安の悪い町の中ではかなり安全な場所ね。
実は地下が反乱軍のアジトになってて、入る為の手順は定期的に変わるらしいわよ。
いかにも秘密基地って雰囲気が出てて、何か良いわね。




