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#46、反乱軍のアジト



一度目の悪漢に絡まれてから、ぶらぶら町を歩く事1分経過。



「ヒャッハー!お前ら大人しくしなぁ!」


「おらおらぁ、ビビってチビっちゃったかぁ?」



やっぱり速攻で釣れた。

いくらなんでもエンカウント率高過ぎでしょう。

もしかして、この町の住人の殆どがこんな感じなのだろうか。


襲って来た悪漢を楽々倒して、さっきと同じように情報を聞こうとする。しかし口を割らないのですぐに逃がす。

以降もこの流れを何度も繰り返し、あまりにも絡まれるので段々と作業化してきた。


淡々と返り討ちにしては逃がし、返り討ちにしては逃がしを繰り返す。





「それにしても、小悪党が多い割には、誰も反乱軍の情報を吐かないですね。」


「確かにね。もしかしたら、本当に反乱軍なんて存在しないんじゃない?」


コロちゃんが冗談めかして言った台詞だけど、次第に本当にそうなんじゃないかと思えてくる程、誰も口を割らない。



「いや、セファイド大臣からの情報だから、間違いは無いと思うなー♪

あの人、反乱軍と裏で繋がってるって、専らの噂だから♪」


「えッ!?そうなんですか?」


割と衝撃的なスキャンダルをさらっと話されて、ビックリした。(噂だけど。)

いや、あの人の底知れなさなら、どんな繋がりがあってもおかしくは無い気がするけど。





「そんな反乱軍に、君達は一体何の用があるのかね?」


突如、背中にひりつくような強い気配を感じ、私達3人はほぼ同時に後ろを振り向く。

そこに立っていたのは、1人の人間。

恐らくは男性だろうか、背が高く、中性的な顔立ちに、妖しげな黒い口紅。

まるで樹木の根っこのような濃い緑色の長髪、気怠そうな表情、服装はタキシードの上に茶色いエプロンを着用している、奇妙な出立ちの人物。

顔に少しばかり皺が刻まれているので、若くはないのだろう。

左の胸元には、薔薇のコサージュを付けている。



このいかにも怪しい人は、明らかに今までの悪漢とは別格だった。

恐らくは何らかの達人。それもかなり強い。

そんな事が、対峙しているだけでひしひしと伝わってくる。


「貴方、もしかして反乱軍の方ですか?」


「うむ、如何にも。いや、そんな事より、まずは我が輩の質問に答えて貰おうか。

君達は何故この町に来た?

何故、この町で暴れていた?」


全てを見透かすような妖異な視線を受け、私達は一瞬たじろぎかける。

でも、こんなところで気圧されてたら駄目だ。


「貴方達反乱軍に会う為に、です。」


「ほほう、見たところ、帝国軍の達人というのも嘘臭い。我らの同志にでもなりに来たか?

それにしては、随分とやり方が乱暴だな。己の力を誇示でもしたいのかね?

他所ならともかく、この町ではそのやり方はまかり通るぞ。」


私達の嘘を、いとも容易く見破っている。

ヤバそうな雰囲気は、伊達ではないようだ。


「いいえ、仲間に加わりたい訳でも、力を見せたい訳でもありません。

反乱軍を誘い出す為に、少しばかり暴れさせて頂きました。」


私の返事を聞いて、怪しい男はその端正な顔に微笑を刻む。




「成る程、ならば我が輩にここで消されても、文句は言えまいな?」


怪しい男の殺気が、一気に膨れ上がる。

この町の悪漢が小物過ぎた所為か、正直油断していた。

まさか、こんな大物を呼び寄せてしまうとは。海老で鯛を釣るとはこの事か。


私、コロちゃん、シャツキフさんは、すぐさま臨戦態勢に移る。






その時だった。




「ククノチ様。」


「…何だね?」


突然、怪しい男の隣に、忍者めいた黒装束の人物が現れた。

真っ白な仮面で顔を隠し、年齢も性別も判別出来ない。

そんな人物が、建物の屋根にでも潜んでいたのだろうか。頭上から音も無く怪しい男の横に降り立ち、コソコソと耳打ちしている。



「な、何なんですか。」


私達も虚をつかれたけれど、一旦空気を読んで待つ事にした。



黒装束の人物が話を終えると、怪しい男は表情を変えないまま、殺気を収める。

敵意は無くなったと見て良さそうだけど、決して油断は出来ない




「ボスがお呼びだ、ついて来たまえ。所望の場所へ連れて行ってあげよう。」


黒装束の人物は一瞬にして路地裏に消え去り、怪しい男は踵を返すように背中を見せ、歩き出す。

私達も戦闘の構えを解いて、黙ってついて行く事にした。














◆◆



さっき黒装束の人物が呼んでいたように、怪しい男の名前はククノチという名前らしい。

彼がボスと呼ぶ人物の元へ道案内されている最中、思い出したように自己紹介された。

私達も、簡単に名乗る。


「そうか、お前達があの、指名手配されている帝国への反逆者か。

我らと似た事をしているではないか。」


「ええまあ、そうかもしれませんね。」


「……。」


「……。」





…会話が続かない。


何となく嫌な地獄の沈黙が続きつつも、町を歩いて行く。

ククノチさんが一緒にいる所為か、先程まで際限無く湧いてきていた悪漢達が、誰一人として絡んで来ない。

それだけでも、この人がこの町の住人に十分畏れられているという証拠になる。



「そら、着いたぞ。」


「え?ここですか?」


私達が辿り着いた場所は、本日のスタート地点でもある宿屋、『赫のゲヘナ』の前だった。


「いや、ここ私達が今朝まで泊まってた宿屋なんですけど。」


「ほう、そうだったのかね。なら、ここまで道案内する道理も無かったではないか。」


ククノチさんは、相変わらず表情も声色も一切変えない完璧なポーカーフェイスのまま、赫のゲヘナへと入っていく。

この人とカードゲームとかしても、まるで勝てる気がしないなぁとか思いつつ、私達も続いて宿屋へと入っていった。




「あ、お疲れ様ですククノチさん。

あれ、そちらの方々は確か、今朝チェックアウトされたお客さん達では?」


「ああ、どうやらボスに用があるらしくてな。

ボスが直接話がしたいと言うもので、これから会わせるところだ。」


「ふむぅ、成る程、そうなんですか。」


フロントのおじさんが、私達を値踏みするように一瞥してから、ククノチさんにそっと鍵を手渡した。

普通の店員さん、普通の宿屋だと思っていたのに、まさかここが反乱軍のアジトだったとは。



「灯台下暗しってやつだねー♪」


「反乱軍の主要メンバー以外は誰も知らない、秘密の場所だ。」


「でも、そんな大事なアジトに、私達みたいなどこの馬の骨とも知れない、ポッと出の人間を招き入れても大丈夫なんですか?

まあ、こちらとしては有り難いんですけども。」


「ボスの意向だ。我が輩はただ、お前達を客人として案内しているだけ。

それに、下手な動きを見せたら直ちに相応の対処をさせて貰う。」


ククノチさんの脅し文句がハッタリなんかじゃないって事は、先程感じた強烈な殺気が顕著に物語っている。

下手な動きとやらをするつもりは無いけど、無用な争いを避ける為にも、自らの行動には細心の注意を払った方が良さそうだ。





何より、この人の雰囲気ってガチっぽいし。



「こっちだ、来たまえ。」


ククノチさんに促され、私達はその背中を追いながら宿屋の廊下を歩いた。





宿屋1階の廊下、一番奥の客室の前で、ククノチさんは立ち止まった。


「ここだ。」


ククノチさんは、先程フロントで受け取った鍵でその客室の扉を開け、私達を招き入れる。

扉は他の部屋と変わりなく、部屋の中も私達が泊まった部屋と同じ内装で、特に妙な箇所は見当たらない。

けど、こういう何の変哲も無い所にこそ、秘密の場所への入り口が隠されているのだろう。

よくある話だ。


ククノチさんは、部屋の隅に置かれた貴重品用の金庫の前に立ち、慣れた手付きでダイアルロックの錠前を回して解除する。

金庫の中には引き出しが三つ存在し、真ん中の段を開いてから中に手を差し込み、奥にあるスイッチを押す。

すると、部屋のどこかでカチッと何かの音が聞こえた。


「今の音は?」


「これだ。」


ククノチさんが部屋の中央でしゃがみ込み、床の一部分を手のひらで押し込むと、そのすぐ側の床が、ガガガガと機械的な音を出しながら、口を開くかのように地下室への入り口を露わにしたのだ。

何という厳重さ。

こんなの、漫画や映画でしか見た事無い。


「この先にボスがいる。」


「……。」


地下室、というよりは地下通路と言った方が正しいかな。

細く伸びる人工の通路を進むと、すぐに物々しい雰囲気の鉄扉が現れた。


ククノチさんがその鉄扉をコンコンとノックすると、鉄扉の鉄格子付き小窓から男の人の声が聞こえた。



「…マジカルファンシー?」


「ムーンスター。」


「…ククノチさんですね、どうぞお入り下さい。」


部屋に入る為の暗号だろうか、謎めいた単語にこれまた謎の単語で返し、扉からガチャッと音がする。

恐らく鍵が外され、中に入れるようになったのだろう。



いやでも、今のやり取りにどこか妙な感覚を覚えた。

今の暗号、どこかで聞いた事があるような…。


いや、今はそんな事より反乱軍のボスだ。




部屋の中に入ると、まずその内装に私達は驚かされた。

足元は土間、一段上がった所に襖で仕切られた畳の座敷が広がり、奥には木製のカウンター。

壁には『天ぷら蕎麦』や『牛丼』、『カレーライス』に『ラーメン』などと様々な料理名が書かれた木札がいくつも並び、鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いがプンプン漂ってくる。


どこからどう見ても、和風の小料理屋そのものだった。




「ククノチさん、お疲れ様です。」


「うむ、ご苦労。」


私達がポカンとしていると、先程暗号を問い掛けてきたと思しき若い男性が、ククノチさんに声を掛ける。


「そちらの3人が、例の?」


男性が、私達を凝視しながら聞く。


「ああそうだ。」


「話は伺っております、ボスはあちらの席に。」


「うむ。」


男性が顎で示した先は、この部屋の座敷で一番奥の方の席。

そこに、一人の巨漢が堂々とした居住まいで座している。


私達は靴を脱いで座敷へ上がり、ククノチさんに誘導されながらその大男の前に正座した。


「おおう、ククノチ、お疲れさん。あぁ、その子らがねぇ、ふ〜ん。」


ボスと呼ばれる人物は、上半身裸で恰幅の良い、大きな初老の男性だった。

剥き出しの胴体にはビッシリと松の柄の刺青が彫られていて、髪型も松の木を模した盆栽みたいなちょんまげ、顔は脂肪で皮膚が弛み、二対の牙めいた犬歯も相まってまるでトドのようだ。

どう見ても、堅気の人間には見えない恐ろしい風貌だけど、クールなククノチさんとは違ってケラケラと笑顔を見せている。


「まあ、よく来てくれたな。話はセファイドの奴から聞いてるよ。

真ん中の眼鏡の嬢ちゃんがアディーナちゃん、クローンの嬢ちゃんがコロちゃん、そんでそっちのお洒落な嬢ちゃんがシャツキフちゃんだろ?

オイラはだ、反乱軍のボスやらせて貰ってる、トドマツってもんだ。以後よろしくなぁ。」


トドマツさんが握手の手を差し伸べてきたので、私もそれに応じる。

握った手に力を入れたりする事も無く、普通に握手を交わしたあたり、正直拍子抜けな感じもする。

ククノチさんみたいな曲者の上司というだけあって、もっとヤバい人というようなイメージを持っていたから。

まさか、こんなにも歓迎ムードだったとは思ってもみなかった。


いや、でもこうやって友好ムードで人当たりの良さそうな人ほど、油断ならない手合いの可能性もある。

決して気を抜かず、こちらの弱みを見せないようにするのが、こういう時の常套手段だ。


それと、セファイド大臣の話は本当だった。


「ハッハッハ、そう警戒するなって。とどのつまり、オイラ達ぁ目的は近いもん同士なんだ。

打倒帝国、だろ?」


「いえ、私の目的はあくまで、カリュウ姫皇帝との対話です。

その為には帝国軍を相手取る事にはなりますが、別に帝国をどうこうしたい訳ではありません。」


「お、そうだったかぁ?まあでも、帝国の中枢にカチコミに行くにしちゃあ、3人でってのは流石にお粗末ってもんだ。

それが分かってるから、オイラ達の力を借りにここまで来たんだろう?」


「はい、そうですね。見ての通りです。私達はまだ、圧倒的に多勢に無勢の状態です。」


「あぁ、だがそりゃあウチも同じ事だ。帝国との兵力差はとどのつまり絶望的。

反乱軍にとってオイラやククノチみたいな達人という戦力は希少だが、向こうにゃ腐る程いやがる。しかも、千両役者フルコースっつう化け物と、それを上回るカリュウ姫皇帝がな。

正面からやりあっても勝ち目はゼロどころか、マイナスに振り切ってると言っても過言じゃねぇ。」


トドマツさんは深い溜め息と共に、テーブルの上に置いてあった漬物を箸で摘み、パリパリと頬張る。

その台詞からは、トドマツさん達反乱軍の苦労が滲み出ていた。



「というより、私達の本当の目的は、反乱軍の〝力〟を借りに来た訳じゃないんです。

〝知識〟を賜りに来たのです、私達は。」


「ん?そうか。とどのつまり、どういう事だ?

こうして会ったのも一つの縁だ、協力出来る事なら言ってみな。」





「…それじゃあ、早速お聞きします。

私達は、ゴールデン・テーブルマナーについての情報を聞きに来ました。」


⚪︎コロちゃんのメモ帳



無窮荒原



帝都グラドポリスの周囲に広がる、非常に広大な荒原。

そこには信じられない位強力な帝国の魔害獣が沢山放し飼いにされてて、今までこの荒原を直接経由して帝国に侵入出来た人間は、一人もいないそうよ。

帝国に出入りするには、専用の通路であるグラットン大回廊を通るしかないわ。

勿論この大回廊には、無許可で侵入しようとする不埒者を弾く為、厳重な検問が敷かれてるわ。

アディーナは、この関門をどうやって突破するのかしらね。

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