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#45、久々のお風呂

「はぁぁ〜、久々のお風呂は最高ですねぇ。」


「コウシン村を出てから、一度も入ってなかったものね。アカシさんの事務所にも戻ってないし。」


「出来るだけ戻らずに、旅してるんだぞ感を味わいたいじゃないですか、折角ですし。

あの事務所に頼りっきりも、あまり良くないですから。」


「気持ちは分かるけど、流石に臭うのはね。うら若き乙女として、どうかと思うわよ。」


「ムッフッフ、でもこの臭さが剥がれ落ちていく快感は、普段なかなか味わえないものだよねー♪」


アタシとアディーナとシャツキフは、『赫のゲヘナ』自慢の温泉に浸かってリラックスしていた。

宿屋の名前からして、高温の地獄温泉でもあるのかと思いきや、至って普通の大浴場で、期待してたシャツキフとアディーナがガッカリしてた。

全く、一応二人ともアタシより年上なのに、中身は全然子供なんだから。



「まあ、確かに最近色々あって疲れたし、こうやって息抜きするのも大切よね。」


アタシは鏡の前の椅子に座り、宿屋特製のシャンプーで頭を洗う。

ついつい強がったような素振りで喋っちゃうけど、アタシも正直言うとお風呂に入れるのは滅茶苦茶に嬉しい。

いっそお風呂付きの馬車とかないのだろうか。うん、無いか。



「ふぅ、充分リラックス出来ましたし、私は先に上がってますね。」


「お、アディーナちゃん上がるの早いねー♪」


「私はのぼせやすいので、割と早風呂なんです。」


アディーナが湯船から上がり、ペタペタと歩きながら更衣室へ向かう。


そう言えば、裸の姿のアディーナは久し振りに見たような気がする。

ラスコフ村で一緒に暮らしてた頃は、しょっちゅう裸族状態で家で過ごすアディーナに手を焼いたけど、旅に出てからはその頻度が目に見えて減った。

前に本人に聞いたら、「いつも服の中に武器である割り箸を隠し持ってるので、裸の時に敵に襲われたら大変じゃないですか。」と言われた。


改めて見ると、胸以外はかなりスタイルが良い方だと思う。

脚も長くスラリと伸びてて、薄緑色で普段は三つ編みのセミロングの髪が、ストレートに解けてて更に水も滴り何だか色っぽい。

おまけに、普段付けてる眼鏡を外してる所為で、妙なギャップも感じられる。


身体を洗おうとする手を止め、アタシは思わず、ゴクリと生唾を呑んだ。




「コロちゃん、どうかしたんですか?」


「ごぇッ!?」


ボーッとしていて気付いたら、アディーナがアタシの目の前で不思議そうにアタシの顔面を覗き込んでいた。

おまけに変な声も出してしまった。


ダメだ、変に意識した所為で、見慣れた筈のアディーナの顔と身体が、何だか別次元のものに見えてくる。

アタシの脳よ、このおかしな煩悩と下心をフルパワーで抑え込め!


「あ、いやいやいや、別に何でもないから!早く上がって休んでて!」


「そうですか?調子悪くなったら、すぐに言って下さいね。」


「う、うん、言う!言うから早く!」


「?」


怪訝そうな表情を見せたまま、アディーナは更衣室へと歩き去ってしまった。

それまでの間、アディーナが更衣室の扉を開けて姿を消すまで、アタシはその全身をガン見していたらしい。後でシャツキフが言ってた。







「いやー、青春だねー♪」


「どこがよ。」


気を取り直して自分の身体を洗おうとしたら、満面の笑顔を浮かべながらシャツキフが近寄って来た。

温泉のお陰なのか、はたまたさっきのやり取りを見てた所為なのか、妙に血色が良い。

逆にアタシは、顔色が悪いのかもしれない。そんな気がする。


「まあまあ、まだ身体洗ってないんでしょ?お背中流しますよー♪」


「え?あー、うん。」


シャツキフがアタシの後ろに椅子を持って来て、アタシの背中をゴシゴシとタオルで擦ってくれる。

多少は気が利く一面もあるんだな、と少しだけ関心する。



「あのさ。」


「んー?どしたの?」


「今更だけど、シャツキフって、どうしてアタシ達の仲間になったの?」


「そりゃあ、コロちゃんとアディーナちゃんのラブラブな瞬間を、私のキャンバスに収めたいからだよー♪」


「いや、絶対にそれだけじゃないでしょ。

それだけの理由で帝国軍の幹部っていうポストをあっさりと蹴るなんて、どう考えても有り得ないから。」


「あらら、もしかして信用されてない?」


「……すんなり信用しろっていう方が無理あるでしょ。

いやまあ、アディーナはどう思ってるのか知らないけど。」


「う〜ん、確かに疑われちゃうのも無理ないかもねー♪

自分で言うのもなんだけど、私って怪しいからねー♪」


「あ、自覚はあったんだ。」


アタシからの疑いの眼差しを受けてもなお、シャツキフはいつもと変わらず笑顔のまま。

この子が仲間になりたいと言い出した時、アタシはつい判断をアディーナに委ねちゃったけど、未だにこの子の事を完全には信用出来ていない。

何より、いつも肌身離さずその顔に取り付けているこの笑顔が、アタシにとっては不信感をより一層煽ってくる。


「帝国にいれば、もっとこう権力や財力を駆使してもっと色んな作品を作れただろうに、アタシとアディーナを描く為だけにその地位を捨てて旅に出るなんて、どうも考えられなくてさ。」


「あー、そっか♪それはそうだねー♪」


アタシは、シャツキフに向き直る。






「それだけさ、2人の幸せそうな姿を見てみたいって事かなー♪」



お風呂の水が絡まって、さも光り輝く金糸のような長い金髪を、掻き分けながらそう言うシャツキフは、まあ世界中の芸術家が取り合いしそうなくらい絵になる。お世辞抜きで。

そう言えばこの子、尋常じゃないレベルの美少女だったなと、今更ながらに思い出した。

一糸纏わぬ姿で無意識にポーズを決めているであろう彼女は、まるで世界最高峰の芸術作品のようだ。

本人に、その自覚はあるのだろうか。



「…ハァ、アンタのそういうところ、本当よく分かんない。」


溜め息混じりにそう呟く。


「ムフフ、私はミステリアスな女だからねー♪」


「いや、自分で言っちゃ台無しだから。」


少しシリアスな話をしようにも、おちゃらけた態度で有耶無耶にしてしまう女の子。

いつもマイペースで、好奇心旺盛。そして自分の好きなものをとことん追求する芯の強さも併せ持つ女の子。

それが、今のところアタシが、シャツキフ・ラピルークという少女に対して抱いている掛け値なしの印象だ。



「ま、アンタは少なくとも、芸術に対して嘘を吐くような人間じゃないわよね。

ヒャクゴウ大昇人の時も一緒に戦ってくれてアタシの事助けてくれたし、そこは素直に感謝してるしね。

少しは信じてあげてもいいわよ。」


「お、デレた?デレちゃった〜?ムッフッフ〜♪」


ニヤニヤ笑いながら、アタシの顔を覗き込んでくるシャツキフ。


「ったく、そういうところよ、そういうところ。」


その後は適当に雑談しながら、シャツキフとお互いに背中を流し合い、隣り合って湯舟に入った。

何度見ても顔面偏差値の高過ぎる女が横にいると少し心が落ち着かないけど、いざ喋ってみると、その底無しの明るさにどことなく癒される感じがする。

きっと、それがこの子の良いところなんだろう。















◆◆



「…あ〜、のぼせたかも。」


「ムッフッフ、コロちゃんはだらしないねー♪私はまだまだいけるよー♪」


「あーもう、うっさいなぁ。アンタの身体がおかしいだけでしょ。」


随分と長風呂していたコロちゃんとシャツキフさんが、ようやく部屋へと戻って来た。

なんだか、私のいない間に若干だけど、2人の距離感が縮んでるように見える。


うん、仲良くなってくれたのなら、私としては嬉しい限りだ。


「2人とも、なんかあったんですか?」


「え?なんかも何も、2人で仲良くガールズトークしてただけだってー♪」


「うん、そう。アディーナには関係無いから、気にしないで。」


「えー?何ですかそれ。ていうか、私も女子なんですけど!ガールズなんですけど!」


「まあまあ、そうカッカしないでー♪」


「ぐぬぬ…!」


ヘラヘラ笑っているシャツキフさんとコロちゃんを見ると、怒る気も失せてしまう。

私は溜め息を吐きながら、部屋の隅に設置されている椅子にドサリと腰掛け、お風呂上がりに自販機で買って来たバナナ牛乳を一息で飲み干す。

お風呂上がりには最高の一杯!



「それにしても、この部屋ってどこか殺風景よね。」


コロちゃんの言う通りだ。

多分そう感じるのが、この部屋の窓が大きな原因なんだと思う。

灰色一色の味気ない壁に、天井ギリギリの高さに鉄格子付きの小窓が一つ有るだけ。

防犯対策なのだろうが、まるで牢屋のようだ。

それ以外は普通の宿屋っぽいんだけど、外の景色が見れないのは少し残念かも。


「まあ、外は治安が悪いので仕方ないでしょう。

私達ももう、何度かこの町の人達に〝ご挨拶〟されたじゃないですか。」


この町に入る前に、私とコロちゃんをキスさせようとした集団に加え、普通の山賊や野盗に数度襲撃された。

そして町に入ってからも当然の如く絡まれた。

どれも大した相手じゃなく、私達にとっては肩慣らし程度の良い運動になったけど、一般の人からしたらたまったもんじゃないだろう。

旅人や商人のような外部の人は殆ど近寄らないだろうから、宿屋の人は経営に難儀している事だろう。


明日は反乱軍のアジトを探さないといけないし、それまでにどれだけの回数悪漢に絡まれるのだろうか。




「…いや、もしかしたら、それを逆に利用出来るかも…!」


「ん?どうしたの?」


「あ、いや、ちょっと反乱軍を見つけだすナイスなアイディアが浮かんだので。」


「ナイスなアイディア?へ〜、アタシにも聞かせてよ。」


「まあ、ふと思いついたんですけど…」


私は、2人に考えついた案を話してみた。


そして、明日を迎える。














◆◆



明朝、私の策に賛同してくれたコロちゃんとシャツキフさんと共に、宿屋をチェックアウトした。

そして、早速私の策を実行に移す為、ベリオーンの町を適当にぶらつき始めたのだ。





「ウフフフ、シャツキフさん。今日も一段とお上品なお洋服ですわね。」


「ムフフフ、そう言うアディーナさんこそ、そのお眼鏡はどちらのブランドですこと♪」


「オホホホ、アタクシもお二人のお上品さに負けないように精進しないといけませんわね。」




出来る限り、人畜無害なお嬢様っぽい雰囲気を演じた。

自分でやっといてなんだけど、私達皆お嬢様演技が下手過ぎて、もはや台詞が字面だけだと誰が誰だか判別しづらい状況になっている。


シャツキフさんは楽しそうだけど、コロちゃんは「本当にこれで大丈夫なの?」とでも言いたげな不安に満ちた視線を、時折私に投げかけてくる。

私はそれを華麗にスルーしつつ、町の往来を堂々とお嬢様しながら歩き続ける。





私の思いついた策は、こうだ。

まず、このようにどう見ても悪漢が絡んできそうなお嬢様を演じる事で、悪い奴等を誘い出す。




「ヒャッハー!こいつぁ金になりそうなお嬢様だぜー!」


「この町にゃ場違いな連中だが、俺らに目を付けられたのが運の尽きぃ!」


面白い程早く釣れた。

まだ宿屋を出て1分位なのに、予想以上の早さだ。

こんな怪しさ満点のバレバレ演技なのに、この人達は簡単に引っ掛かってくれた。

流石にもう少し怪しむべきだと思う。



「まあいいや、取り敢えずは釣れたので良しとしましょう。」


「はァ?」


「私達は、帝国から派遣された達人です!この町の悪の根源である反乱軍を炙り出す為、貴方達にインタビューさせて頂きます。」


次に、帝国の人間を装って、悪漢を返り討ちにする。ここ重要。


「はあァァァッ!?帝国の達人だと!?

いや、こんなお嬢様が達人な訳ないだろ!嘘に決まってる!やっちまえ!」


いや、疑うポイントが違うから!

と、ツッコんだとしも多分意味は無いと思うので、まずボコボコにするとしよう。










「はい、ボコボコにされました。」


ボコボコにした悪漢達が、並んで私達の前に正座している。


「それじゃ、改めて教えてもらいましょうか。

反乱軍の情報、アジトや所属している人物についてなど、何でも構いません。教えてくれますか?」


「いや、本当に知らないんだ。反乱軍なんて、この町じゃ聞いた事も見た事もない!」


「ほほう成る程、一筋縄には口を割りそうにありませんね。」


「ほ、本当に知らない!拷問とかしても無意味だぞ!」


「分かりました、貴方の言葉を信じましょう。

それじゃあ、他を当たってみますので。」


「え?」


あっさりと諦めた私を見て、悪漢はポカンと口を開けている。

当然ながら、簡単に口を割らないのは想定済みの事態。

だからこそ、時間を無駄にしない為にも手早く次を当たる。

そして、反乱軍の情報を得られなくとも、逃げていった悪漢が「帝国の達人がこの町で暴れている」といった噂を流してくれれば、反乱軍の耳にもすぐに届く筈だ。

そうすれば、私達を排除する為に反乱軍の人間が出張って来るので、そこで彼らとの接触を図る。

多少強引だけど、きっと成功する筈だ。






だって、この町の人達って、簡単に罠に引っ掛かってくれるし。


リチャード



帝都在住の元商人の男性ね。

かつては帝都のお土産屋さんを経営する社長さんだったらしいけど、別の事業にも手を出そうとして見事に失敗。

多額の借金を背負った上、奥さんと子供にも逃げられたらしいわ。

ありがちな話だけど、可哀想な人ね。

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