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#44、ベリオーンの町



ゴトーチ族の里を去ってから、馬車に揺られる事丸一日。

ようやく鬱屈としたジャングルを抜けて、なだらかな平原地帯が顔を見せた。


気候は穏やか、魔害獣も今のところは出ないので、私達はすっかりリラックスして気を抜いていた。



その所為か、これから向かうベリオーンの町という場所が、治安の悪いならず者達の巣窟だという事を、完全に失念していた。




「ヒャッハー!テメェら止まりなぁ!ここから先は、俺達〝ベッターナ強盗団〟がベタに通さねぇぜぇ!」


治安が悪い町があるという事は、当然ながらその周囲にも不届きな輩が跋扈していても不思議ではない。

早速、ベタな小悪党達に絡まれていた。


見渡すと、ガラの悪そうな男女が20人程、私達の馬車を取り囲んでいる。

あれ、つい最近も同じようなシチュエーションがあったような気がする。デジャヴ?


取り敢えず馬車を攻撃されても面倒なので、私達は渋々大人しく馬車を降りた。



「何なんですか、貴方達は。迷惑です、通して下さい。」


「クックック、強気な女だ。いいぜぇ、実に俺好みだぁ。」


「貴方の、悪党にありがちなベタなフェチはどうでもいいです。急いでるので道を空けて下さい。」


「フン、そんなに通して欲しいなら、大人しく俺らの言う事を聞いて貰おうかぁ。」


「全く、いたいけな女の子3人相手にこんな人数で束になって、恥ずかしくないんですか?」


「ヒャッハー!残念だったなぁ!生憎、俺らは女しか狙わない紳士淑女な強盗団なのよぉ!」


「うわぁ、断言しちゃうんですね。」


「全然紳士淑女じゃないし。」


最低だな、この人達は。

でも、私達をナメてもらっちゃあ困る。

まずは一通りボコボコにして、その歪んだ認識を真っ直ぐに矯正してあげよう。



「ちょっと待って♪」


私が割り箸に手を伸ばす直前、シャツキフさんが私とコロちゃんにしか聞こえないように小声で話しかけてきた。


「私に考えがあるから、ちょっとだけ相手のペースに合わせてあげて♪」


「へ?」


いやいやいや、何かまた覚えのある展開なんですけど。

ロクな事にならなそうなんですけど。



まあでも、一応はシャツキフさんの意を汲んで、両手を挙げて降参のポーズをとってあげた。


「ヒャッハー!どうやら俺らにビビって、大人しく従う道を選んだようだなぁ!」


「はいはい、それで私達はどうすればいいんですか?」


「クックック、そうだなぁ。まずは…」


強盗団の男は、下卑た表情で私達を睨め回すように見つめる。気持ち悪い。

一体、何を要求されるというのか。






「…そうだな、まずはキスをしろ。」


「はぁ?ふざけるのもいい加減にして下さいよ!

誰が貴方なんかとッ!」


「いやいや待った待った、勘違いすんなよ。俺とする訳ないだろぉ。

お前がキスする相手はなぁ、そこの女だぁ!」


強盗団の男がそう言って指差したのは、私の隣で立っていたコロちゃんだった。

彼女の顔面は直前まで強盗団の男に対して嫌悪感を抱いた、ゴミを見るような表情だったけど、指を差された瞬間から一気に驚愕へと塗り替えられた。


「は、はぁァ!?キキキキキキスゥ!?

アタシとアディーナが!?うえェェッ!?何でッ!?」


分かりやすく動揺しているコロちゃん。

それはそれで面白いけど、指示する強盗団の意図が全く分からない。

何故そんな意味不明な要求をしてくるのか。


「ヒャッハー!理由を知りたいのなら教えてやる!

俺らは、複数人の女の子を襲撃しては、その女の子達同士でイチャイチャラブラブしているシチュエーションを強要している、素晴らしき強盗団なのだ!

分かったなら、早くチューしろ!」


な、何という傲慢さ!

そして、破廉恥極まりない謎の要求!


「何でそんな事を要求するんですか!何が狙いなんですか?」


「何が狙いって、お前…。そんなん決まってんだろ!

俺らはなぁ、女の子と女の子が幸せそうにチュッチュしてる所を見るのが、三度の飯よりも好きな強盗団なんだぜぇ!」


「お頭の言う通りだ!お前達の尊い姿をとっとと晒せー!」


「そーだそーだ♪早くチューしろー♪」


いつの間にか、シャツキフさんが強盗団側についていた。

よく考えたらシャツキフさんの目的も、この人達と似たようなものだったか。

というか、この強盗団が女性しか襲わない理由は、これなのか。


「う、ううゥゥゥ…!何で、何で私がぁ…?」


コロちゃんは、顔を真っ赤にして蹲っている。

私とチューする場面でも想像しているんだろうか、若干嬉しそうにも見えるのは気の所為だと思う事にした。


「どどど、どうしようアディーナ…


……するの?」


「する必要ないでしょう。

手早くボコボコにして、先を急ぎますよ。」


「…え?

そ、そうよね。女の子に無理矢理キスさせるような輩は、成敗しないとだよね。」


明らかに、残念そうに感じているのが分かる。


「コロちゃんには悪いですけど、私はまだ、ここにいる誰ともチューする事は出来ません。」


「え?それってどういう意味…?」


「帝都に行き、カリュウちゃんに会って、2年前の告白の返事を聞き、それから初めて、私は自分の唇を彼女に明け渡します。

申し訳ありませんが、今はそう決めてますから。」


「…そう、なんだ。」


コロちゃんが、今度はしょげてしまった。

可哀想だし、後で機嫌を取る方法でも考えとこう。



「ヒャッハー!よく分からんけど尊いー!」


「うをー!尊さの波動を感じるー!」


「最高ー!ありがとうございますー!」


不本意にも、強盗団の方を喜ばせてしまった。


「ムッフッフー♪良いね良い良いー♪もっと頂戴ッ♪」


連鎖して、寝返った芸術家も喜ばせてしまった。

もう何なんだこの状況。カオス過ぎる。




「はいはい、じゃあ満足したのなら、通して下さいね。」


「ヒャッハー!素晴らしい尊さをありがとう!

でも通す訳にはいかねぇなぁ!お次はお前達の持ち物全部頂くぜぇ!大人しく馬車ごと荷物を置いてきなぁ!」


あ、普通に強盗もするんだ。


「それなら、もう遠慮する必要はありませんね。」


「へ?」












1分後。



「…あの、素晴らしい、尊さをもう一度ぉ…!」


最後に残った強盗団の頭が、それだけ言い残してドサッと倒れた。

ものの1分で、私達の周囲にはベッターナ強盗団の死屍累々が築かれていた。


いやまあ、死んでないけど。

取り敢えずは、もう悪さをする気が起きなくなる程度には、ボコボコにしておいた。


ついでに、シャツキフさんにも拳骨を一発お見舞いしといた。


「痛ーい♪」


「いいから、改めてベリオーンの町に向かいますよ。」


シャツキフさんの服を引っ張って馬車の中に放り込み、気を取り直してベリオーンの町へと馬車を進ませた。

何だか、とても無駄な時間を過ごしたような気がする。

でも、悪い強盗団をお仕置き出来たから、それは良しとしておこう。



「……はぁぁ。」


さっきから憂鬱そうに溜め息を吐いているコロちゃんも馬車に乗せて、私達は再び東へと向けて走り出したのであった。















◆◆



ベリオーンの町。

平原を長時間移動してようやく辿り着いたその町は、私の想像以上に治安が悪く、荒廃した町のようだった。

まず、前に訪れたガイラの街と同じように、周囲を頂部に有刺鉄線が付いた外壁がグルリと囲んでいるんだけども、その外壁という外壁に、ビッシリと派手な落書きが描かれている。

所々破損していたり穴が空いてたりするし、門の前には門番すらいない上に常時開けっ放しっぽいので、門の役割をほぼ果たせていない。

しかももう夜だというのに、門の向こうからはどんちゃん騒ぎする若者の笑い声や、明らかに近所迷惑なレベルの騒音が聞こえてくる。


「…うわぁ、もう入る前から入る気失せるんだけど。」


「そこはもう我慢するしかありませんよ。

出来るだけ長居しないよう、さっさと宿を見つけて手早く反乱軍とやらに接触しましょう。」


「そだねー♪でも、あの落書きなんか結構芸術センスあるよー♪」


「ったく、いいから行くわよ!」


シャツキフさんが外壁の落書きに吸い寄せられそうになるのを、コロちゃんが襟首を掴んで引き戻す。

彼女の悪癖に付き合っていたら時間が幾らあっても足りなくなるので、面倒を見ているコロちゃんには感謝しなければならない。










町の中に入ると、大方予想通りの町並みだった。

立ち並ぶ家々には片っ端からセンスがあるのか無いのかよく分からない落書きが施されていて、割られた窓や壊された壁を修復している家、そう言った被害を未然に防ぐ為なのか、窓の無い頑丈な鉄製の家まであったりする。

門から入るとすぐに町の大通りに入るのだけれど、早速往来のど真ん中で馬鹿騒ぎしている若者が十数人、手持ちのロケット花火の打ち合い合戦に興じている。

どっからどう見ても通行の邪魔で近所迷惑極まりないけど、注意する者は誰一人としていない。


「よし、取り敢えずあの人達に宿屋の場所を聞いてみましょうか。」


「えッ!?あいつらに聞くの?」


「仕方ないじゃないですか。そこの地図が載ってる掲示板は壊されてますし。」


「…まあ、確かにそうだけど…」


町に入ってすぐの所に大きな掲示板らしき物があるけど、落書きだらけな上に損傷が激しくて読むのはまず不可能。

それにもう夜なので、外を出歩いてるのは危ない輩が殆どだろう。

だから、そういう連中に聞かざるを得ない。


正直言って早く宿屋で休みたい私は、躊躇う事なくやんちゃな若者集団の輪の中に入って行った。



「あのー、突然すみません。この町の事についてお聞きしたいんですけど。」


「あぁ〜ん?何だお嬢ちゃん!グヘヘ、俺らと一緒に遊びたいってかぁ?

お前みたいな貧相な体型の女は本来興味無いが、顔は良いな、顔は。特に眼鏡なのが良いポイントで……」





10秒後。





「あのー、突然すみません。この町の事についてお聞きしたいんですけど。」


「は、はい!喜んでお聞きしますともぉ!この町は私どもの庭も同然なので、何でもお答えさせて貰いますです、はい!」


一瞬でボコボコにされた強面の若者達が全員、私の目の前で礼儀正しく並んで正座していた。

まあ、私の逆鱗に触れてしまった以上、この程度は当然の報いだ。


「それじゃ、ここから一番近い宿屋ってどこですか?」


「はいはい、それならこの通りのすぐ先に、『あかのゲヘナ』って名前の大きめの宿屋があります、はい!

鉄製の建物でセキュリティもしっかりしてるので、この町の中では一番安全な宿屋かと。」


「成る程、親切にどうも、ありがとうございます。」


ヘコヘコとお辞儀をする若者を尻目に、私達はその宿屋へと向かった。





「あ、あと町の入り口の掲示板も直しといて下さいね。

私達みたいな外部の人間には、壊れてると不便で仕方ないですから。」


「は、はいぃ!承知致しましたぁ!」


うん、素直でよろしい。やっぱり若者は素直が一番。

まあ、私はこの人達よりも多分若輩だけど。










◆◆



宿屋『赫のゲヘナ』。

その10代半ば位の学生が付けたような何とも言えない名前の宿屋は、その名前やこの町の雰囲気とは裏腹に、かなりちゃんとした普通の宿屋だった。

確かに外観は鉄製で窓も無く、味も素気も無い重厚な見た目だったけど、中に入ったら愛想の良い店主のおばさんが出迎えてくれて、掃除の行き届いた綺麗な廊下を通り、宿泊する部屋まで案内された。

てっきりまた一悶着あるかな、と身構えてたけど、杞憂で済んでひとまず安心した。


あと店主のおばさんから聞いた話だけど、どうやらこの町では犯罪者が町を堂々と歩いていても住人に通報されないらしく、一応お尋ね者である私達は変装する必要が無さそうだ。

理由を聞いてみたら、この町は全体的に反帝国の気風が強いようで、賞金稼ぎギルドは勿論、帝国の植民地にも関わらず帝国兵も監督官も存在しない、稀有な場所なのだそう。

だからこそ、反乱軍が身を隠すにはうってつけなのだろう。


あと、厄介ごとには極力関わりたくないというのも、もう一つの理由なんだそうな。



「それにしても、ちゃんとした宿屋があって良かったですね。セキュリティもしっかりしてますし。」


「むしろ、こういう町だからこそ、ある程度防犯対策が完備されてないとお客が来ないんでしょ。」


「こんな物騒な町でも、商売人達は強かなのかもねー♪」


まあ、別に私達はいつでもアカシさんの事務所に戻れるから、そこまで気にする必要は無いんだけれども。

そんな他愛の無い会話をしながら、部屋に荷物を置き、外もすっかり夜の闇に包まれている時間帯なので、各々お風呂に入る事にした。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



マサカーマンモス



害悪指数???KC

遥か古代の文献にその姿が確認されている、伝説の魔害獣の一体ね。

皮膚が硬質化して出来たトゲが全身に無数に生えてて、かなりゴツくて物騒な見た目をしてるわね。

そして何より、その圧倒的な戦闘力も特徴的で、巨体に見合わず身軽なのも活かして、あらゆるものを破壊し尽くす破壊者としても恐れられてるの。

もしこいつに狙われたら、逃げても無駄だからひたすら祈るしかないって言われてるわ。怖い。

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