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#42、1億ポイント




正解者に1億ポイントを与える最終問題。

この展開を予測していたからこそ、オルガさんは余裕な態度を貫いていた。

そんな無茶苦茶な予測を容易に出来るのが、クイズの達人の真骨頂だった訳か。


小賢しいと言ったらそれまでだけど、ルールに従う事を誓った以上、私達は万事休すだ。

しかも、逆転のチャンスが巡ってきたという事は、オルガさんはクイズの達人としての実力を、ここから遺憾無く発揮してくる筈だ。

今までみたいに、ふざけた解答はもうしてこないだろう。


リィランさんが、3つの席(謎のお爺さんは未だに帰って来ないので。)にそれぞれ早押しクイズ用のボタンを置いていく。



「…コロちゃん、ボタンの早押しは私に任せて下さい。」


「うん、お願い。」


私の身体能力を活かし、ほんの少しでもボタンを早く押せるようにしておく。

念には念を、という事だ。


オルガさんを見ると、彼の顔からは先程までの嘲笑の色は消え去り、双眸を閉じて精神統一をしている。



「アイツも、ようやく本気みたいね。」


「ええ、決して油断出来ませんよ。」



「ゴヤーチャーンプッルー、ジッマミードッフー!」


「『なお、最終問題に関しましては、画面に表示された瞬間から両チームに解答権が与えられます!』だって♪早押し頑張ってねー♪」



私は、全神経を手のひらと問題を見る両目に集中する。

コロちゃんも、穴が空くほど画面を凝視している。


後はもう、なるようにしかならない、か。





「ナッラヅケー!」


「『では、行きます!』」









【「あ】

ピンポーン!






えッ、早…ッ!?


問題の1文字目が表示された瞬間に、稲妻の如き速さでオルガさんの右手がボタンを叩いた。



「ジェームズ・マッキンリー!」


「せ、正解!」


しかも、なんか正解しちゃったし!


これには、流石のシャツキフさんも面食らったのか、驚きを隠せないでいる。




「なんと…!これは一体、どういう絡繰からくりですか?八百長?」


私がオルガさんに問い質すと、再びあの人を食ったような偃蹇えんけんな表情が帰ってくる。



「チーバラッカセー!」


「『簡単な話だ。貴様らの仲間であり通訳でもある、そのシルクハットの女、シャツキフ。そして我らがアイドルであるアルティメットプリティー、リィランちゃん。その2人が今回の問題を作ったのであれば、芸術関係の問題である可能性は非常に高い。シャツキフ・ラピルークは有名人な芸術家だからな、知識の収集を生業としている俺は、実は詳しく存じている。リィランちゃんも、昔から絵を描いたりするのが好きで、以前から芸術の分野に興味を持っていたからな。そして芸術関係の問題が出題されるという前提を踏まえた上で、あの問題の1文字目を見た瞬間、その仮定は確信へと変わった。問題の全文は恐らく〝「あの夏の日へ」という絵画作品の作者は?フルネームで答えろ〟ってところか。括弧が付いている時点で、それは確実に作品名が続く事を如実に示している。そして1文字目が〝あ〟の時点で一気に候補は絞られ、その中からリィランちゃんが知っていそうな作品を符号させれば、出てきたのは「あの夏の日へ」という作品。そして、画面に表示される文字の大きさ、配置のバランスからして、〝ですが〟と続く引っ掛け問題の線は限りなく薄い。以上の考察から、作品の作者名であるジェームズ・マッキンリー氏の名前が容易に導き出せたのさ。ちなみにジェームズ氏はこの作品が注目を浴びたのをきっかけにウンタラカンタラ…』」



な、何という圧倒的考察力…!

これには、私もコロちゃんもシャツキフさんも、絶句してしまった。


あと、あんな短い言葉に、こんな無駄に長い意味が込められていたなんて。

しかも、余計な知識を補足するように延々と喋っている。

こういった知識量に関しては、どうやら嘘ではなかったようだ。



これが、オルガさんの真の狙い。

これこそが、クイズの達人の真の恐ろしさだったという訳か…!


そして何より、私達が何を言おうが、結果は結果。

最終問題を解いたオルガさんの元に、1億ポイントを示す木札を、リィランさんが半ば呆れ顔で手渡した。

すると、もう本日何度目かも覚えてない、オルガさんの見下し顔を見せられる。



「ハッチノーヘ?センべジール?」


「『で、どうする?最終問題は既に終わり、俺は1億ポイントをゲットした訳だが?』」




ムカつく。

ただただムカつく。

今まで会ったどの人間よりもムカつく。

私達が必死で挑んだクイズ大会、それは結局、ただの時間の浪費だった。



「…コロちゃん。」


「…うん、分かってる。」


ムカついているとは言え、私とコロちゃんはあくまでも冷静に。

周囲を凍てつかせるような怒りを込めた視線をオルガさんに向けつつ、それぞれ武器を構える。


それに気付いたオルガさんが、急に焦り出す。



「セーンダイッ、ズーンダモッチー!」


「『おい、貴様ら何をしている!武器を収めろ、これは神聖なる儀式にして、知のスポーツだぞ!暴力は御法度だ!おい、やめろ!』だって♪

なになに、乱闘始めるのー?楽しそうだし、私も混ぜてー♪」


シャツキフさんも絵筆型ステッキを構えた。

ジリジリとにじり寄る私達3人。

非戦闘を訴えながら、後退するオルガさん。

他のゴトーチ族の人達は、誰一人として止めようとしていない。

皆、内心ではオルガさんのやり方に不満でも持っていたのだろう。



「じゃあ、思う存分鬱憤を晴らさせて貰いましょうか。」


「うん、思う存分ね。」



「ヒ、ヒイイィィィィッ!?」


「『ヒ、ヒイイィィィィッ!?』だって♪」



知ってる。

















◆◆



所変わって、ここは帝都グラドポリス近郊の荒野。

通称、『無窮荒原むきゅうこうげん』。


その名の通り、地平線まで延々と広がる、まさにこの世の果てのような荒野。

緑はほぼ無く、所々に剥き出しの岩山が立ち並び、死に果てた荒原のど真ん中で、ドーム状の巨大な帝都がその存在感を示している。

この荒原はただの不毛の地ではなく、天候さえも不安定。

快適な天候かと思えば数分後には風速100メートルを超える信じられない規模の台風が吹き荒れ、60度近い超酷暑になり、収まったかと思ったら今度は猛吹雪になる。

当然ながら帝都を行き来する人間はそんな場所を移動出来る筈もないので、通常は帝都から荒野の外へと一直線に伸びる頑丈なチューブ状の通路、安全な『グラットン大回廊』を通るのが常識である。


一見、こんなあまりにも過酷な荒野で生存している生物など皆無だと思えるが、実際のところはそうでもない。

この死を振り撒く無窮荒原を、何食わぬ顔で闊歩している怪物達が、実は結構いたりするのだ。


それ即ち、帝国本領の魔害獣に他ならない。

あまりにも凶暴、あまりにも苛烈、あまりにも頑強な為、他の国々はそれを恐れ、とても帝都に攻め入る事は出来ない。

そんな凶悪な魔害獣達だが、不思議な事に帝都を襲う事はまず無いという。

帝都民は「魔害獣がカリュウ姫皇帝を恐れているのだ。」「帝都は聖なる力で守られていて、魔害獣が近付けない。」などと様々な憶測をしているが、真の理由を知る者は一般人の中には存在しない。

帝国の上層部の中の、更に一部の人間のみが、その事実を知っているのだ。

この件はそれ程までに帝国のトップシークレットであり、デリケートな部分である。




さて、そんな無窮荒原だが、この日は珍しい事に人の影が確認出来る。

しかも、達人でも何でもない普通の人間が、必死になって走り回り、恐ろしい何かから逃げるように帝都の方角へ向かっている。

逃げているのは小太りの中年男性で、服はボロボロ、靴も右足が脱げて片ちんばとなり、息も絶え絶え這々の体で、最早体力の限界なのは明らかだった。


彼の名はリチャード。

しがない商人だったが、事業に失敗して多額の借金をこさえ、その返済の日々から脱却する為、この無窮荒原へと足を踏み入れた。

彼の狙いは、無窮荒原の何処かにあると言われるお宝で、それには自身の借金を返済してもなお余る程の価値が有ると言われている。



「ハァ…ハァ…ッ!くそ、無窮荒原の魔害獣は全て、帝国の管理下だったんじゃないのかッ!?」


彼の言う通り、帝国所属の魔害獣は基本的に、帝国の人間は襲わないように調教されている。

無窮荒原に生息している魔害獣は軒並み帝国に使役されているので、本来は立派な帝都民であるリチャードを襲う事は有り得ないのだが…。



「ハァ…、まさかあいつら、野生なのか?」


元商人リチャードの体力は限界を迎え、近場の岩陰に隠れ、荒ぶる鼓動を必死に抑えながら息を潜める。

彼を追っている魔害獣は2体。

どちらも非常に強力な個体で、リチャードのような中年太りの一般男性など、本来ならば1秒も掛からずに瞬殺されてしまう。

そうならないのは、単純に彼が弄ばれているだけなのだろう。


リチャードは考える。自分が何故襲われているのかを。

いや、考えたところで可能性は一つしかない。

あの2体の魔害獣は、この荒原で自然発生したばかりの個体で、まだ帝国の支配下にない野生の魔害獣なのだ。


つまり、それに遭遇した彼は絶望的に運が悪かった。



「くそくそクソッ、どうにかしてあいつらを撒いて…」


直後、雷でも落ちたかのような轟音と共に、隠れていた大岩が粉砕された。

巨大な岩が一瞬にして跡形も無くなり、砕け散った破片の小石がコツンとリチャードの頭頂部にバウンドする。



「…あ…あぁ…!」


リチャードは恐る恐る、伏せていた顔を上げた。






「……あぁ?」


しかし、恐怖と共に目にした光景は、彼の思っていたものと若干異なっていた。


確かに、魔害獣はいる。

ビル並みに大きい巨象の魔害獣に、赤い宝珠のような物を浮遊させながら空を飛ぶ巨大な怪鳥。

確かに、それらは彼を追ってきた魔害獣だ。


ただ、リチャードと魔害獣の間に割って入るように立っている大男がいた。

大男は溜め息を吐きながら魔害獣を見据えている。



「…あ、貴方は、まさか…!?」


リチャードは、この大男を知っている。

いや、帝都に住んでいる者ならば、まず知らない人はいないだろう。


ボロボロの白衣に、無数のシルバーアクセサリーを全身に身に付けた、痩躯の巨漢。





「…まさか…ランカーシス…博士…ッ!」


「…おう、そうだが。」


ランカーシス博士は、振り向かずに答える。

リチャードは、安堵するよりも先に自らの正気を疑った。

極限まで運の悪い自分のピンチに、こんなにも都合良く、帝国の英雄が現れるものかと。

目の前のランカーシス博士は、自分の脳が勝手に生み出した幻覚なのではないかと、そんな事すら考えていた。



「…まあ、勘違いはすんなよ。

俺ァ、まだ帝国のペットになってねぇ魔害獣が出現したから、捕まえて来いって言われただけだ。

お前はたまたまそこに居合わせただけ。運が良かったなァ!

ま、無断で無窮荒原に侵入した件については、後で咎められるがなァ。」


「…あ、はい。」


後で無断侵入の罪を問われるのは、もはや一向に構わない。

命あっての物種。目の前の危機から逃れられるならば、その後の事はどうでもいい。

リチャードは、そう思っていた。



「それにしても、マサカーマンモスに、大怪鳥クピドゥスかァ…。

またお前、厄介な奴らに目を付けられたなァ、オイ。」


「はい、そうなんです!お願いします、どうにかして下さい!

もう頼れるのは貴方しかいないんです!」


「あァ、任せとけェ。ちょっとした運動にゃァちょうどいい。」


ランカーシス博士は腕をコキコキと鳴らし、一歩踏み出す。


「離れてなァ。」


「は、はいぃぃぃ!」


リチャードが逃げ出し、別の岩陰に隠れるのと同時に、最初に行動を起こしたのは巨大な鳥、その名も大怪鳥クピドゥス。

ランカーシス博士の3倍以上の大きさを誇り、赤と黒の警告色のような派手な翼を持ち、その周囲には淡く発光する赤い宝珠のような物体が5個程、衛星めいてクピドゥスの周りをグルグルと回っている。


もう一方は、山のような巨体を誇る、黄土色の巨象、マサカーマンモス。

湾曲した黒く巨大な牙には、更に細かく鋭利な刺がビッシリと生え、体躯の至る所にも痛々しいまでの無数の黒い刺が生えている。


これら2体は非常に高い戦闘能力を誇り、単体でも一国の軍隊が総動員しても歯が立たない程の強さを誇っている。



先に仕掛けたのはクピドゥスなのだが、その攻撃は常人には視認出来るものではない。

ノーモーションからの赤い宝珠がランカーシス博士目掛けて飛び出し、その速度は第一宇宙速度に匹敵する。


発射された宝珠は着弾と同時に爆発!

その威力も凄まじく、轟音と爆風を撒き散らしながら、着弾箇所の周辺は灰塵と化したのであった。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



オルガ



ゴトーチ族族長の息子で、若衆のリーダー的存在にして、クイズの達人ね。

クイズの達人の名に恥じない程、知識の収集には貪欲で、暇な時はずっと本を読んだり、有益そうな場所に出掛けたりしてるらしいわ。

ただ、正確には難があって、他人を見下したりする傾向が強いのね。ウザかったわ。

その為、ゴトーチ族内でも疎まれてるみたい。

リィランちゃんに片想いしてるらしいけど、本人からは当然のように嫌われてるわ。

筋肉モリモリだけど、喧嘩はあまり強くない見せかけだけの筋肉なんだって。

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