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#40、連行

鋼害ビル、害悪指数3190KC。

私達の馬車について来ていたのは、大きめの民家位の大きさを誇る、巨大なヒルだった。

体色が薄い灰色な点以外は、普通の蛭をそのまま拡大表示したような、いわば巨大お化け蛭とでも言ったところか。

害悪指数を測ったら、帝都に近づいているからかバードオブプレイよりも若干高かった。


「いやー、流石にここまで規格外な蛭じゃさあ、さしもの虫除けスプレーも形無しだねー♪」


「ええ、今度ランカーシス技研にクレーム入れときましょうか。」


そんな軽口を叩きながらも、決して油断はせずに戦闘態勢に入る。

すると私達の敵意を感じ取ったのか、早速巨大ヒルの方から仕掛けて来た。


直線的な突進だけど、あの巨体だ。

回避したら私達の側に停めてある馬車が巻き添え喰らって壊されてしまう可能性がある。




「よっ♪」



そこでカウンターを決めたのは、シャツキフさんの粘土剣の一閃。

左下から右上への逆袈裟の斬り上げが突っ込んできた鋼害ビルの頭部を捉え、力任せに軌道を逸らして背の高い木へと激突させる。



「いや、硬っ!」


何故か、斬った側のシャツキフさんが手のひらにダメージを受けている。

まるで鉄の塊をハンマーで思い切り叩いた時みたいに、手がジンジンと痺れているようだ。


「え、硬いんですか?」


「うん、まさか私でも斬れないとは、なかなか♪」


あんなにウネウネしてていかにも柔らかそうなのに、実際はアイアンボディの持ち主のようだ。

見た目詐欺の鋼害ビルに殆どダメージは通っていないようで、怯む事なく継続して私達に攻撃を仕掛ける。


「アディーナ、馬車は任せて!アタシが安全な場所に避難させとくから!」


「コロちゃん、任せました。」


コロちゃんが馬二頭に手早く指示を出し、戦場から撤退するように一目散に逃げ去った。

これで馬車に気兼ねなく戦えるようにはなったけど、さて、あのお硬い体をどう攻略したものか。



「そしたらこれだね♪『爆弾魔デビルボンバー』」


シャツキフさんが絵筆型ステッキで描き、生み出したのは、バードオブプレイ戦の時に出したスイカ位の大きさの爆発する小悪魔。

それを爆破させたところで、あの硬い体に大したダメージは見込めないのでは?と一瞬思ったけど、シャツキフさんはあろう事か、その小悪魔を鷲掴み、鋼害ビルの大きな口目掛けて思い切り投げ飛ばしたのだ!



「ええッ!?」



頭の弱い鋼害ビルは餌付けでもされたと思ったのか、迷わずそれを口でキャッチして、飲み込んでしまう。


飲み込んだ数秒後にくぐもった爆発音が聞こえ、それと同時に鋼害ビルが悶絶し、のたうち回る。

口からは黒煙を吐き散らし、結構なダメージが入ったのを如実に示している。


「やっぱり、こういう硬いヤツは内側から攻めるのが一番だよね♪」



「アハハ…、流石はシャツキフさん。」



「そんじゃあ、トドメはアディーナちゃんに譲ったげる♪」


「承知しました。」


見せ場を貰った私は、静かに気合を入れて右手の割り箸に意識を集中する。






「『割り箸殺法…』」




敵が、迫る…!

大口を開けて、今日の昼食に人間一人喰らおうと、私目掛けて鋼鉄の異形が突進してくる。



「『…雪柳!』」



私の割り箸殺法は、割り箸に超振動を起こし、高周波ブレードめいた刃と化して敵を斬り裂く戦い方だ。

当然振動による体への負担は大きいので、普段は出来る限り振動を先端の方に集中させ、振動数も抑えている。


しかし、今回使う技は、それらリミッターを外して極限まで攻撃力を高めた、限りなく禁じ手に近い絶技。



「ぐッ、うぅ…ッ!」


振動を割り箸全体に行き渡らせ、尚且つ振動数もギリギリまで増加させる。

まるで、圧縮した大嵐を手に持っているかのように、荒れ狂う割り箸を全力で抑え付ける。


要は、単なる力押し。

されど、あの鋼鉄の装甲を斬り裂く為には、これこそが最善手。



「はァッ!」


地を踏み締め、割り箸を持つ手に全神経を集中、そして力を込める。

その体勢から横に大きく斬り抜くと、万物を斬り裂く剛の刃が、魔害獣を真っ二つに両断した。

凄まじい斬撃は勢いそのまま、鋼害ビルの背後の木を幾つも巻き込み、切り裂いていく。







「…す、凄い威力…」


馬車と共に戻って来たコロちゃんが、口をポカンと開けながら傍観していた。

シャツキフさんも感心したように、目を丸くしている。


「…確かに威力は凄いけどさ、まだ使い慣れてない技なのか、上手く制御出来てないよねー♪」


シャツキフさんの言う通りだ。

割り箸を持っている手は今にも千切れそうな程痛く、しばらくは痛みが引きそうにない。

連続して使用するのは控えるべきだと、嫌でも分かる。


取り敢えず、上と下とで綺麗に二つに切り分けられた鋼害ビルから討伐の証でもある魔核を手に入れ、馬車に戻って旅を再開する。



「ムッフッフ、こっから魔害獣もどんどん強くなっていくから、気を抜けないねー♪」


「あんなのより強いのがウジャウジャ出て来るなんて、気が滅入るわね。」


「まあでも、強くなるにはもってこいじゃないですか。」


「…ま、アタシも置いてかれないよう、頑張るとするわね。」
















◆◆



それからしばらく進むも、特にトラブルが起こる事もなく、平穏無事に密林地帯の半分程まで進んでこれた。

何故半分なのか分かったのかと言うと、シャツキフさんが教えてくれた。



「二人とも、あれ見て♪

地図にもちっちゃく載ってるけど、あのでっかい石像、見える?

あれさ、このジャングルに住んでる部族が作った石像で、彼らの神様を象ってるんだって♪

で、あれがあるのがちょうどこのジャングルの中間地点って訳♪」


シャツキフさんに言われた方向を馬車の中から見てみると、木々の間のその先に、筋肉質で雄々しい男神のような石像が見える。


「でも、そんなのがあるって事は、宿屋で会議した時に言ってた、危険な部族のテリトリーなんじゃないの?」


「うん、そうだね♪っていうか多分もう狙われてるよ♪」


「は?」


シャツキフさんの物騒な発言の直後、ガチで物騒な事が起こった。




「ウオオォォォォォッ!!」




どこからともなく雄叫びが聞こえたかと思うと、突然馬車の進路が塞がれた。

道の両側に立っていた木が前方に倒れ、馬車が通れなくなってしまったのだ!



「しまった、罠でしたか!」


「ちょっと、これじゃ通れないじゃない!」


「あちゃー、囲まれちゃってるねー♪」



前に進めなくなりまごまごしていると、計ったかのように部族らしき人達が密林の中から続々と姿を現し、私達の馬車はあっという間に取り囲まれてしまった。


ざっと見て十数人程の男達だ。

全員が日焼けしたような褐色の肌で、筋骨隆々、鳥の羽根や動物の皮、植物などを使って作った衣服を見に纏い、興奮した様子で私達には理解出来ない言葉で会話をしている。



「ウオッ、ウオッ、カッツウラタンタンーメン、ウツーノミッヤギョザー!」


「ウオー、オーキナッワソッバ!オーキナッワソッバ!」





「えぇ、なんて言ってるのあの人達?」


「さあ?私に聞かれても…」


コロちゃんにそう聞かれるも、私が未知の部族の言葉なんて分かる筈がない。




「『こいつら間抜けだなー、簡単に捕まりやがって!』『取り敢えず、いつも通り里に連れてくぞ!』って言ってるよ♪」


「何で分かるんですかッ!?」


「何となくだねー♪」


いや何となくって…。

そんなのは翻訳とは言わない。

シャツキフさんはこんな危機的状況でもマイペースな人だ。



「ウオ!ハッカターノトンコーツラメン、バリカータバッリカタ!」


「『いいから黙ってついて来い!お前らは捕虜だからな!』だって♪」


「えぇ、本当にそう言ってるんですか?」


「コナオトシ!」


「痛ッ!?」


眉間に皺を寄せた部族のリーダー格の男に、頭を殴られた。

普通に痛い。


「『黙れ馬鹿!』だって♪」


「……ッ!」


……取り敢えずここは、シャツキフさんの翻訳を信じるとしよう。




「アディーナちゃん、ここは大人しく彼らについて行ってあげて♪

私に考えがあるからさ♪」


部族の人達にバレないよう、小声で私に耳打ちしてきたシャツキフさん。

彼女の提案に疑問を抱くも、一応乗ってあげることにした。











◆◆



謎の部族に連行された先は、彼らの住んでいるであろう小さな集落だった。

彼らの衣服同様、家屋も何もかもが自然由来のもので、恐らく外部とは一切関わらずに完全に自給自足の生活なのだろう。

そこへ紛れ込んだ異分子である私達は、里の住人の格好の見せ物みたいになった。

数十人の老若男女が、興味深そうにこちらを見ている。



「アディーナ、これヤバいって。アンタ達なら、こっから脱出するなんて訳ないでしょ?どうして無抵抗なのよ?」


「シャツキフさんが何か考えがあるみたいです。彼女の…」


「コナオトシ!」


「痛い!」


また殴られた。しかも私だけ。


部族の男連中に連れられて、里の中心の大きな半円状の舞台みたいな所に辿り着き、ようやく行進は止まった。

何なんだ、ここで公開処刑でもする気か?

流石にそんな流れになったら、力づくで脱出するけども。




「オーノミチラメーン、キッタカッタラメーン♪」


シャツキフさんが突然、部族の言語らしき言葉を喋り出した。

私とコロちゃんは呆気に取られ、部族の人達も自分達の言葉を突然話されたからか、非常に驚いている。


「お、適当に喋ってみたら通じたっぽい♪」


「適当だったのッ!?」




「サッヌキウッドン、ミーズサワーウードン、イナーニーワーウッドン!」


リーダー格の男が、ざわついている仲間達を鎮めつつ、私達に向かって何か叫んでいる。


「えっと、『これから貴様らには我らが里の名物である〝儀式〟を受けて貰う。その儀式を乗り越えられたら、貴様らを解放してやろう。』だって♪」


「儀式、ですか?」


既に目の前の舞台では部族の人達が大勢で何かの準備をしているようで、舞台を囲むように立っている松明には火が灯っている。


「アディーナ、マズいって。これ、ひょっとして生贄にされるパターンのやつじゃ…!」


「大丈夫です。いざとなったら逃げ出しますから。」


周囲の異様な雰囲気に怯えるコロちゃんを、私は宥める。

シャツキフさんはいつも通り笑顔でヘラヘラしてるけど。








「ナーガサッキチャーンポンッ!」


「『準備完了だ、舞台に上がれ!』だってさ♪」


言われるがままに、私達は列になって舞台上へと上がっていく。

そこには、簡素な作りの机と椅子のセットが、計4セット。横並びに配置されていた。

舞台の下、客席に当たると思われるスペースでは、もう既に里のほぼ全員の人達が集まり、地べたに座りながらこれから起こる事を楽しみに待っていると言った様子である。


「フージノミッヤ、ヤッキソバー!」


「『この席にアディーナちゃん、その隣にコロちゃんが座れ!』だって♪」


指示された通りに、私は客席から見て一番左側の席に着席し、隣にコロちゃんが座る。



「あれ、シャツキフさんは座らないんですか?」


「あーうん、私は通訳に専念しろって♪」


まあ確かに、何故か部族の言葉を翻訳出来るシャツキフさんは、お互いにとって重要な存在ではある。


それからコロちゃんの更に隣にリーダー格の男、もう一人この部族の長老っぽい雰囲気の、長い髭を貯えた偉そうなお爺さんが一番右の席に座った。

一体何が始まるのか、全く見当も付かない。



「シャツキフさん、一体何が始まるのか、聞いて貰っていいですか?」


「オッケー♪ちょいちょい、ヨーネザワギュー?」


シャツキフさんがリーダー格の男に聞いてくれる。

何度聞いても、本当に通じてるのか不安になる。適当らしいし。



「アッキータノ、キーリタンポー。」


「『黙って待ってろ、すぐに始まる。』だって♪」


すぐに始まるって、だから何が?

と思ったら、他の人達よりも一際派手な格好をした綺麗な女性が舞台に上がり、客席に向かって大きな声を張り上げた。



「モッリオーカーレーメーン!キョートオッバンザーイ!」


「『さあ始まりました!第36回、ゴトーチ族VS通りすがりの旅人クイズ大会〜!』だって♪楽しそー♪」











「……はい?」


何だって?

……クイズ?


あと、ゴトーチ族って名前の部族だったんだ、この人達。


「カーナガッワ、ショーナンシッラスードン!」


「『特別に名乗ってやるが、俺はゴトーチ族若衆のリーダーにして、『クイズの達人』!族長の息子のオルガ様だ!』だって♪」


族長の息子?

というと、一番端っこの席に座ってるお爺さんのことだろうか。


いや、ていうかそんな事よりも、この人、達人だったの!?

しかも、クイズの達人て…!


よく見たら私達の席には白い板とペンのような物がある。

これに答えを書けって事か、成る程。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



鋼害ビル



害悪指数3190KC。

とても大きな蛭の魔害獣で、主に牛とか馬なんかの大型動物の血が主食みたい。

一度吸血すると獲物がカラッカラのミイラになるまで離さないらしいわ。怖い。

ただ、人間の血は好みじゃないらしく、人間を襲う事は無いらしいわよ。

私達の時は多分、馬車の馬を狙ってたのね。

あと何よりの特徴が、見かけに反する体の硬さね。

体表の殆どが柔らかい鉄で構成されてるらしくて、ランカーシス技研がその素材を応用してるとかしてないとか…。

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