#39、お世話になりました
「いやー、どうもどうもお世話になりました!
貴女達が来てくれなかったら今頃、ヒャクゴウの奴に骨の髄までしゃぶり尽くされてましたよ、いや本当に。」
宿屋に戻るなり、懇切丁寧だった宿屋の主人が、気を良くしたのか一層丁寧に出迎えてくれた。
村の人達は皆、ヒャクゴウ大昇人の洗脳が解けたからか、あの張り付いたような笑顔は消え去り、普通の自然な笑顔を取り戻していたのだ。
「という訳で、本日は最上級のおもてなしコースを、皆様に無料で提供させて頂きます、はい。
当宿自慢の、豪華懐石料理をどうぞご堪能下さい!」
「やったー♪」
「本当!?」
「えぇッ!?」
シャツキフさんとコロちゃんはお腹が空いてるからか喜んでいるけど、私にとっては大きな誤算!
さっき、ヒャクゴウ大昇人の神殿で炒飯食べちゃったんですけどッ!
「もうアタシお腹ペコペコ!」
「私もー♪」
「わ、私も…」
どうしよう。
◆◆
「こちら、ウシール村産の一等級牛肉のしゃぶしゃぶと、コウシン村の畑で採れた大豆を使ったお豆腐になります。」
部屋に戻ると、宿屋の主人が手早く夕飯の準備をしてくれていて、私とコロちゃんとシャツキフさんは、テーブルを囲むように畳の上に並んで座った。
宿屋の料理人が沢山の高級料理を運んできて、テーブルの上に所狭しと並べていく。
料理人に既視感を感じたと思ったら、ヒャクゴウ大昇人の神殿の厨房で、炒飯を作ってた人だった。
「あ、どうもご丁寧に。」
「うっわ〜、美味し〜♪」
「うんもう、最ッ高よね!結果的にこんな美味しい料理食べれるんなら、誘拐されて正解だったかも!」
遅めの夕飯でお腹が空き過ぎていたのか、コロちゃんが妙な事を言い出した。
でも、確かにここの懐石料理は最高だ。
炒飯食べた後だったけど、余裕で完食出来そう。
「それじゃあ、ご飯食べ終わったら早速会議ですね。」
「うん、セファイド大臣の言ってた所に行くんだよねー♪」
「あ、それって確か、反乱軍とかいうのが潜んでる町、なのよね?」
「ええ、そうですけど、コロちゃん。まずは食べ終わってから話をしましょうか。」
しゃぶしゃぶした牛肉にがっつきながら聞いてくるコロちゃんに、私は冷静にそう言っておいた。
◆◆
美味しさ百点満点の高級料理を心ゆくまで堪能した私達は、食事を終了し次第、話し合いを始める。
議題は勿論、次の目的地についてだ。
「セファイド大臣が言う事には、反乱軍のボスこそがゴールデン・テーブルマナーという謎の言葉の意味を知っているとの事です。」
「反乱軍の町と言えば、間違いなくベリオーンの町だね♪」
「ベリオーンの町?」
コロちゃんが頭上にクエスチョンマークを浮かべているのと同様に、私も聞き慣れない町の名前に首を傾げる。
「反乱軍が拠点にしてる町って意味じゃ、一部で結構有名な町だよー♪
あと、治安の悪い町としてもね♪」
「うえッ、治安悪いの?」
コロちゃんが、露骨に嫌そうな顔をしている。
まあそれは、私も治安の悪い場所よりも、良い場所の方が良いに決まっている、と思う。
でも、行かねばならないのだ。
「大丈夫、私達3人いれば、どんなに治安の悪い物騒な場所でもへっちゃらですよ。」
「…うん、そうよね!」
私の言葉に、コロちゃんは安堵してくれたようだ。
そんな私とコロちゃんを見て、シャツキフさんはニマニマと微笑んでいる。
今度はそんなシャツキフさんが話を進めた。
「それじゃあ、このコウシン村からベリオーンまで、この街道を真っ直ぐだねー♪」
シャツキフさんがテーブルの下から大きめの地図を取り出し、テーブルの上に広げて見せた。
現在地であるコウシン村を中心に描かれた広域の地図で、端の方にベリオーンの町も確認出来る。
「シャツキフさん、いつの間にこんな物ゲットしてたんですか?」
「ムッフッフ、さっきこっそり宿屋の人に頼んだら、是非協力させてくれって喜んでくれたよー♪」
やっぱり抜け目無いな、この子は。
「まあ、ベリオーンの町まで結構距離があるから、長旅は覚悟しとかないとね♪
この村を出て、大草原の街道をしばらく進むのが、最短ルートだよ♪」
「どうやら、道は二つあるみたいですね。」
地図を見てみると、コウシン村からベリオーンの町まで帝都方面の東へ真っ直ぐ伸びる、シャツキフさんの言う街道ルート。
もう一つは、街道ルートの途中から分岐した道で、森のような場所を通り抜け、大きく南側から迂回するように進むルート。
その二つが確認出来る。
「そうだね♪この迂回するルートは、どうやら旧街道みたいだね♪
地図貰った時に聞いたんだけど、真っ直ぐルートは20年位前に工事して出来た新しい道らしくてね、それが開通するまではこの旧道が利用されてたみたい♪」
「へぇ、そんなんですね。」
「でも、見ての通りかなり遠回りだし、途中の密林に妙な部族が住み着いてるらしくて、危険地帯に指定されてるらしいよ♪」
「ま、そんな道は通らずに真っ直ぐベリオーンの町に向かう私達には、関係の無い話ですね。」
「そうよね、そんなおっかない道、アタシ達は通る必要無いわね!」
「ムッフフフー、何かフラグっぽい台詞だねー♪」
「フラグ?」
「気にしないでー、こっちの話だから♪」
◆◆
翌朝、私達は荷物を纏めてお世話になった宿屋を後にした。
去り際、宿屋の人達に何度も頭を下げられ、何度もお礼を言われ、流石にこっちが恐縮してしまう程だった。
どうやら私がヒャクゴウ大昇人と戦った時、あの神殿に村人の半数以上がいたらしく、当然その人達は全員あの死闘を観戦していたので、ヒャクゴウ大昇人を打ち倒した私達に行き合う村人達が尽く声を掛けて来て、英雄扱いしてくる。
「おお、アディーナさん方、昨日は本当に助かりました!」
「貴女達が来なければ、我々はずっとヒャクゴウの言いなりでした。」
「良かったら、ウチでゆっくり旅の話を聞かせてくれー!」
正直言って悪い気はしないけど、ここまで大勢の人に言い寄られると、出発するのに支障をきたす。
しかも、散々煽てられたシャツキフさんが気を良くして、村人一人一人とお喋りし始めた。
「ほら、行くよシャツキフ。」
ウンザリ顔のコロちゃんが、シャツキフさんの腕を引っ張る。
「うえ〜、もう?もう少しお話したい…」
「行 く よ。」
「……はい…」
コロちゃんの威圧感溢れる一言には、流石のマイペース大王シャツキフさんも黙らざるを得ない。
目を離すとどっか行ってしまいそうなシャツキフさんをコロちゃんが馬車の中にぶち込み、バードオブプレイの魔核を賞金稼ぎギルドのコウシン村支部で手早く換金してから、コウシン村の村人達を振り切るように別れを告げた。
◆◆
「ふ〜ん、それでアディーナちゃんに何する訳でもなく、ヒャクゴウ君だけ連れて帰って来ちゃったんだぁ?」
グラットン帝国帝都グラドポリス、饕餮城謁見の間。
その奥に位置する豪奢な玉座に、城の主である姫皇帝、カリュウ・ラヒメが座していた。
彼女の玉座の横にはテーブルと、その上に天井まで届かんばかりの大量のハンバーガーが皿の上に器用に山積みにされていて、カリュウはそれを無造作に鷲掴みにしては一定のペースで平らげている。
しかもよく見ると、ハンバーガーはフリスビー並みの大きさがある特大サイズだ。
ちなみに、今日のカリュウのダボダボ白Tシャツには、〝斥力〟と書かれている。
「ホッホッホ、ええ、その通りです。
このワタクシの仕事は、あくまでもコウシン村の視察でしたからな。」
相対するのは、セファイド大臣。
コウシン村から帝都まで、あの高速飛行する魔害獣に乗って、ものの数分である。
「ニヒヒ、確かにそうだけどさぁ。
もうちょっとこう、気を利かしてくれても良かったんじゃなぁい?」
「ホホホ、昔から、融通がきかないと評判なもので。」
「いやいや、それ絶対嘘でしょぉ。」
やれやれと言わんばかりに、カリュウは溜め息を吐く。
呆れているようだが、もうそれ以上糾弾するつもりも無さそうだ。
「ただ、何もしないというのもアレなので、一応妨害工作はしておきましたぞ。」
「妨害工作ぅ?」
「ええ、彼女らが、少々厄介な連中と当たるように仕向けときました。ホッホッホ。」
「……?まぁ、よく分かんないけど、大臣に任せるよぉ。
あたしはもう眠いし寝るからぁ。クヒヒ。」
「ホッホッホッホッホ。」
最後のハンバーガーをあっという間に食べ尽くし、カリュウは自室に向かって欠伸混じりにのそのそと歩いて行った。
◆◆
「う〜ん、これは厳しいね〜♪」
「……。」
「どうするの、アディーナ?」
コウシン村を出てから半日程街道を進んだ辺りで、一つの厄介な問題に直面していた。
道の途中で帝国軍が簡易的な検問所を設置していて、道行く人全員の人相や荷物を全てチェックしているのだ。
その規模は結構大きく、多数のテントが張られ、クローン兵が大人数で見張り、いつ私達が現れても対処出来るように準備している。
私達の手配書も貼り出されてて、相当な気合いの入り様だ。
そんな検問所の様子を、私達は離れた場所の巨岩に身を隠しながら伺っている。
「クローン兵だけなら強引に突破出来るので問題無いのですが、問題はどう見ても〝あれ〟ですよね。」
私が指差す先には、遠くからでも嫌でも目立つ、巨大な魔害獣の存在が確認出来る。
遠目からでもすぐ分かる、今まで戦った魔害獣とは明らかに次元の違う実力と凶暴性を持っている。
シャツキフさん曰く、帝国本領に生息している災害クラスの魔害獣。
巨大な翼竜のようなもの、鰐のようなもの、ゴリラのようなものと、最低でも三体の存在は視認出来る。
「あれは流石にヤバいねー♪
一体相手にするだけでも、私達三人掛かりでギリギリいけるかどうかって感じだろうねー♪」
「それだけ帝国も、本気でアタシ達を止めようとしてるのね。」
「あれだけ凶悪な魔害獣を使役しているとは、いよいよ魔害獣使いの達人さんの存在も、真実味を帯びてきましたね。」
あのセファイド大臣と同格に位置すると言われる、帝国軍千両役者の魔害獣使いの達人(噂)。
あの強さの魔害獣を当然のように使役出来るとあっては、私達もそれ相応に強くならなくてはいけない。
でも、今は…
「今はまだ、あのレベルの魔害獣と正面切って戦う段階ではありません。
ここは大人しく、少し戻って迂回ルートを使いましょう。」
「迂回ルートって言うと、あの危険地帯の密林を通る旧道の事!?」
「うん、そうなるね♪まあ、今はあの検問所の方が遥かに危険地帯だけどね♪」
「はぁ…、密林かぁ…。」
明らかに元気がなくなるコロちゃん。
まあ確かに密林は危険な生物や細菌がウヨウヨしてるイメージがあるし、正直私も気乗りしない。
しかも、昨日のシャツキフさんの話によると、ヤバい部族も潜んでいるみたいだし、もうヤバい事尽くめな気がする。
ああ、シャツキフさんが言っていたフラグって、この事か。
◆◆
しばらく馬車で来た道を引き返し、旧道に繋がる分岐点を進み、旧道に入る。
そこからまたしばらく進んでいくと、段々と草原の景色が薄れていき、木々が増え、気が付いたら既に密林と呼べるレベルの場所へと足を踏み入れていた。
植生も今までとは打って変わって異なり、毒々しい見た目の草やキノコがそこかしこに生え、木もやたらと背が高い。
全体的に空気が蒸し蒸ししてて、不快指数も高めだ。
遠くの方で、聞いた事もないような獣、虫、鳥の鳴き声が聞こえる。
まさか、ここまで気合いの入った本格的なジャングルだったとは。
一応、道はちゃんと残っているので、迷う事なく進めてはいる。
「あ、蚊とか蛭とか気を付けてね♪この辺のは、危険な病原菌を持ってるのもいるから♪」
「あ、はい。これ買っといて良かったですね。」
コウシン村の雑貨屋で、虫除けスプレーを買っといて正解だった。
シャツキフさんが買っとけ買っとけと執拗に勧めるから何なんだと思ったけど、この為だったのか。
彼女は、私達が旧道を進む可能性をきちんと考慮していたのだ。
「凄いですね、このスプレー。虫だけじゃなくて、蛭なんかにも効果が有るんですね。」
「ランカーシス技研の商品だから、効果も段違いみたい。」
「うん、そうだね♪これが魔害獣にも効果があれば、もっと楽出来るんだけどね〜♪」
「ええ、全くもってそうですね。
そうすれば、今この時も〝こんなの〟に絡まれないで済んだんですけどねぇ。」
「は?」
「馬車の外を見れば分かりますよ。」
馬車の中にいても分かる程、さっきからずっと感じていた殺気。
私とシャツキフさんは気付いていたけど、コロちゃんはまだだったみたいだ。
まあ、どんな相手が私達を狙っているにしろ、喧嘩を売ってくるのなら返り討ちにするだけだ。
私とシャツキフさんは腰を上げて外に出て馬車を止め、後方へと視線を向けた。
⚪︎コロちゃんのメモ帳
ベリオーンの町への街道
コウシン村からベリオーンの町までを繋いでる、街道。
私達は検問所の所為で途中引き返したけど、あの検問所の先には、岩山をくり抜いて作った長いトンネルがあるそうよ。
何でも世界2位の長さを誇るトンネルらしくて、実はちょっと楽しみにしてたのよね。
ちなみに、街道の正式名称はコウシン街道らしいわよ。まんまね。




