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#38、帝国の最高幹部




「ヒャクゴウおじさんは、自身の細胞を自由に発光させて、特殊な電気信号を相手の脳に叩き込む事によって他の生物を洗脳する、特異体質の持ち主って訳だね♪

私も科学には疎いから詳しい原理は知らないけど、本体であるヒャクゴウおじさんの輝きによって洗脳は保たれてるみたいで、それが失われた今、皆は正気に戻れたんだよ♪」


成る程、それがあの光のメカニズムという訳か。

結局は科学的に説明出来るやつだったか。


どうやら洗脳されてた人達に、洗脳されてた期間の記憶は薄っすらと残っているらしく、それを補完する為に、シャツキフさんが村人達に現状の説明をする役を引き受けてくれた。

コロちゃんも今しがた自分の言動を思い出し、恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。


説明を聞き、モヤが掛かった記憶が晴れるかのように、村人達は納得したような表情を浮かべた後、庭園で倒れるヒャクゴウ大昇人を始め、平和の導き手という虚構の組織への怒りを燃やしていた。



「何だってこんな意味不明な宗教に嵌めやがって!」


「私達の時間とお金返してよ!」


「全財産叩いて払ったお布施は、全額返金して貰いますからね!」




「ファッファ、信徒達よ、一旦落ち着くのです。まずは冷静になっブフゥッ!?」


倒れながら説得しようとするヒャクゴウ大昇人の顔面を、村人の一人が怒りに任せて蹴飛ばした。


「うっせーこの野郎!今まで散々騙しやがって!」


「貴様には地獄すら生温い!」


それからしばらくヒャクゴウ大昇人は村人達にタコ殴りにされ、気が済んだ頃には全身ボロボロの落ち武者みたいになってた。

因果応報、これで少しは懲りただろう。



「さて、村の人達も正気に戻ったようですし、私達も宿屋に戻ってゆっくり休みましょうか。」


コロちゃん奪還まで凄く長く感じたけど、まだ夜は明けていない。

達人相手の三連戦は流石に堪えたのか、もう立って歩くのもしんどい位に疲れている。







「ホッホッホ、もう帰ってしまうのですかな?」


「ええ、もう疲労がピークで…ッ!?」


突然耳慣れない声が背後から聞こえ、私、コロちゃん、シャツキフさんの三人は同時に振り返る。



そこに立っていたのは、地面に付くほど長くて白い髪と髭が特徴的な、ヒャクゴウ大昇人に匹敵する巨体の持ち主であるお爺さんだった。


それだけでも驚く要素としては十分だろうけど、もう一つ私が驚いたのは、その老人を見てシャツキフさんが明らかに動揺した顔をしている事だ。

普段からマイペースで冷静な彼女にしては、実際かなり珍しいと言える表情でもある。






「いきなり誰ですか?シャツキフさん、知ってるんですか?」


「…知ってるも何も、この人だよ♪」


「へ?」


シャツキフさんは冷や汗を垂らしながら、続ける。


「セファイド大臣だよ♪帝国の千両役者フルコースの一人で、私の元上司♪」



「……え?

セファイド…大臣?」


「ホッホッ、こうして君と話すのは初めてですねぇ。」


巨大な老人は、私の顔を覗き込むように見てくる。

たったそれだけの動作でも、私は心臓を掴まれたかのように身動き出来なくなる。


全身の皮膚がピリピリと焼け付くような感覚に襲われ、嫌な汗が額を伝う。

それは私だけじゃなくて、コロちゃんとシャツキフさんも同じようだ。



これが、千両役者フルコースの称号を持つ達人。

戦わずとも、圧倒的な実力の差を文字通り肌で感じる。



私が目指すカリュウちゃんは、これ以上の化け物なのか。

いや、好きな女の子を化け物呼ばわりは良くないな、うん。




「まずはシャツキフ君。

君は帝国を裏切り、そちらのアディーナ君の側についたと、そういう解釈で間違い無いですね?」


「うん♪元々そんなに長く帝国軍にいるつもりは無かったから♪

私は、私の求める芸術を追い続ける為に、アディーナちゃんと組んでるの♪」


気圧されながらも、素直に自分の気持ちを言ってのけるシャツキフさんは、割と格好良いのかもしれない。



「カリュウ姫皇帝も、貴女の話を聞いて寂しがっていましたよ。」


「カリュウちゃんが?ないない、私そんなにカリュウちゃんと話した事無いし♪

大方、私一人いなくなっても、グラットン帝国は揺らがないーとか言ってたんじゃないの〜?」


シャツキフさんにそう言われて、セファイド大臣は目を丸くして少し驚いたかと思ったら、ニヤリと白い歯を覗かせながら笑っていた。


「貴女はやはり、勘が鋭いお嬢さんですね。ホッホッホ。

貴女のそういうところ、嫌いじゃないですよ。」


「ムッフッフ、元上司のお年寄りに好かれてもなー♪」


「ホホホホホ、まあそれはいいとして、折角こうして会えたので是非、アディーナ君ともお話してみたいですね。」


そう言って、セファイド大臣は私に向き直る。



何でグラットン帝国の大臣様がこんな場所にいるのか、何故私の家族を公開処刑したのか、沢山聞きたい事はあるけど、今一番聞きたいのは、これだ。



「セファイド大臣、単刀直入に聞きます。貴方の目的は何なんですか?」


「ホホホ、これはまた予想していた通りの質問。

その様子では、シャツキフ君から色々と聞いているみたいですね。」


「ええ、まあ。」


「ふむゥ…」


セファイド大臣は少しの間、沈思黙考しながら自慢の髭をさする。











「〝ゴールデン・テーブルマナー〟という言葉は、ご存知ですかな?」



「…はい?いや、初耳ですけど。」



ここに来て突然、謎の単語が出てきた。

何なんだそのネーミングセンスのカケラも無い、物語のタイトルにするにもチープ過ぎる単語は。



「おや、そうですか。

ホッホッホ、まあ知らなくて当然なんですけども。」


セファイド大臣は、一人で納得したように笑っている。

一体何なんだ。そのゴールデン・何ちゃらが、カリュウちゃんに関係しているのか?



「ホッホ、ゴールデン・テーブルマナーは、世界最後の災厄。

あの人は、それを何としても阻止する為に動いている。」


「え?」




世界最後の、災厄…?

話のスケールが、一気に大きくなったぞ。





「カリュウ姫皇帝は、ずっとずっと昔からその為だけに生きてきて、腐心し、人生を捧げてきた。

彼女が皇帝の座に就いたのも、貴女を帝都から追放したのも、全てはその為です。」



私達は息を呑み、静かにセファイド大臣の話を聞き続ける。



「我々も彼女の考えに賛同し、これまで協力していたのですがねぇ。

その中で、このワタクシは少々都合が変わりましてね。ホッホッホ。」


そこからは言わずもがな、とでも言うように、セファイド大臣は言葉を切った。


ゴールデン・テーブルマナーが何なのかはよく分からないけど、つまりはこういう事か。

カリュウちゃんに今まで協力してはいたけど、方向性の違いから彼女を妨害する側に回ったと。



「それで、私の力が必要になったという訳ですか?」


「ご名答ですな。貴女も勘が鋭くて助かります。ホホホホ。」


「だったら、貴方が直接止めた方が早いのでは?

実力的にも、私なんかよりずっと上でしょうし。」


「ホッホッホ、今のところは、ねぇ。

ですが、貴女の強さは今後更に成長し、このワタクシをも上回る程になる。

それこそが、割り箸の達人である貴女に定められし、運命。

カリュウ姫皇帝を唯一止める事が出来る人間の、宿命なのです。」


セファイド大臣の言葉を聞いて、今まで心の奥底にしまい込んできた疑問が、一気に表層へと浮き出てくる。

この人は一体、そしてカリュウちゃんは一体何者なのか?

私は今まで何も知らなかった。知らな過ぎた。



「ゴールデン・テーブルマナーとやらを知れば、貴方達の正体が分かるんですか?」


「そうですな、まあ多少は。」


「ヒントは?」


「ふむふむ、教えてもいいんですがねぇ。

そうだ、ここから更に帝都に向けて進めば、反乱軍の潜む町があるのですが、彼らのボスに話を聞けば、力になってくれるかもしれませんよ。」


「あー、反乱軍かぁ♪」


「反乱軍、ですか?」


そんなものがあったなんて、またまた初耳だ。

反乱軍のボスとやらが、ゴールデン・テーブルマナーについて何か知っているのか?


「まあ、反乱すべき帝国軍との戦力差があり過ぎて、今や殆ど活動しているのかどうかも怪しい、形だけの反乱軍ですがね。ホッホッホ。」


そう笑ってから、私に飽きたかのように唐突に、今度は庭園の方へ目を向けた。

セファイド大臣の興味が向いた先は、その先で倒れているヒャクゴウ大昇人だ。


「ところで今回は、別にアディーナ君やシャツキフ君に会いに来た訳ではないのですよ。

このワタクシの部下の、視察という名目で出向いたのですから、本来の目的を果たさないといけませんのでねぇ。ホホホホ。」


セファイド大臣は、ゆらりと地面を滑るように庭園へと歩いていく。

ヒャクゴウ大昇人は既に目を覚ましているのに、実の上司を前に恐怖で巨体を震わし、身動き一つ取れないでいる。



「セセセ、セ、セファイド大臣ッ!?

なな、何故突然いらしたのですか!?」


「ホッホッホ、なに、大した事ではありませんよ。

君は優秀で、このワタクシからの信頼も厚く、折角このコウシン村の発展計画の責任者として君を任命し、監督官を任せたというのに。

計画は遅々として進まず、悪い噂まで飛び交うようになり、挙げ句こうして重い腰を上げて視察に来てみれば、村人を洗脳して村を私物化。

呆れてものも言えませんねぇ。ホッホッホ。」


「あ、いえ、これは、その…!

村の発展にあたって、村人の心を一つにするのが重要だと判断し、功を焦って少々強引な手段を使ってしまいました!申し訳ありません!」


「そうですか。

では、先程の村人が叫んでいた、全財産お布施した、というのは?」


「うぐ、その、やはり計画には先立つものが必要だと思い、後で返すつもりで…!」


「はて、帝国からは、十分な額の資金を出していたつもりなのですが。」


「それは、えっとですね、ちょこっと足りなく…」


「そもそも、この神殿めいた建物は何なんですかな?相当お金が掛かっているように見えるのですがねぇ。

貴方には、きちんと事務所も用意したと、ワタクシの記憶にはあるのですがね。」


「ふぐうゥゥ…!そ、それは!」


どうやら、ヒャクゴウ大昇人が村人を操っていたのは、彼の独断と私利私欲によるものだったようだ。


「まあ、ヒャクゴウ君。君がいくら誤魔化そうと、このワタクシが少し調べれば、全てが白日の元に晒される事でしょう。

ですが、何も悪いのは君だけではありません。

君に計画を一任し、多忙にかまけ進捗の確認を怠っていたこのワタクシにも、責任はあります。」


「は、はァ…」


「ですので、まず君は帝都に連行させて貰います。

そして、今回は帝国軍内部で発生した問題なので、法律に則り裁判所ではなく、カリュウ姫皇帝に直々に裁きを下して頂く流れとなります。」


「ヒィッ!?」


ヒャクゴウ大昇人が、声にならないような悲鳴を上げる。

そんなにカリュウちゃんの裁きというのは恐ろしいものなのか?


「…ど、どうかご勘弁を…!

…か、かか、カリュウ様の裁きだけは、何卒ォ!」


「ホッホホホ、そんなに嫌なら、初めからしなければ良かったでしょう、こんな愚かな事は。」


「その事に関しましては、深く、深ぁく猛省しておりますからしてェ!」


「反省しているのならば、尚更潔く裁きを受けなければねぇ。」


「そんなぁ…!」


「いいから、〝このワタクシの言う事を聞いて下さい〟。」


その言葉を聞いた瞬間、ヒャクゴウ大昇人の顔色が変わった。



「…はい。」


直前まで怯えていたヒャクゴウ大昇人は急にその表情を消し、無表情のまますっと立ち上がり、セファイド大臣の前に跪く。



「ホッホッホ、良い子ですねぇ。それでこそ、このワタクシの部下です。

ではアディーナ君、ワタクシはこれにて。」


セファイド大臣は用は済んだとばかりに私達に背を向け、右手を上げて指を鳴らす。

すると、空から妙な音が聞こえてきた。

音のする方向を見上げると、何か鳥のような生物が、こちらに向かって急接近しているのが見えたのだ。



「あ、あれは!?」


「ああ、魔害獣だねー♪」


そこからは一瞬だった。

キィィンという耳をつんざくような飛行音と共に、巨大な鳥の怪物が低空飛行で迫り、セファイド大臣とヒャクゴウ大昇人がその背に飛び乗った。

あまりにも早過ぎて、視認するのもやっとと言ったところか。

勿論、害悪指数も測る事は不可能だった。

恐らく、かなり高い数値だったのは、容易に想像出来る。







「あれが、帝国の最高幹部…。」


セファイド大臣らが突風のように去った後、私は一人呟いた。

肌で感じただけで、主役メインディッシュの達人とは更に別格の強さだというのが分かる。

シャツキフさんやヒャクゴウ大昇人が、尻込みしていたのが何よりの証拠だ。


「アディーナちゃん、ビビっちゃった?」


「いえ、むしろ目指すべき目標が明確化したので、ありがたいくらいです。

カリュウちゃんに挑むには、あれ以上の力を付けないといけないんですね。」


「ムフフ、心強いねー♪」


武者震いする足を止めて、私は一度だけ深呼吸した。



⚪︎コロちゃんのメモ帳



ヒャクゴウ大昇人



『平和の導き手』の教祖であり、現人神でもある大昇人、そしてグラットン帝国幹部の主役メインディッシュの一角でもある、『平和の達人』ね。

体から特殊な光を発して、人を操るのが得意なヤバいオッサンよ。

洗脳して信徒になった人から、多額のお布施を貢がせたりしてたみたいで、一言で言うとただの悪人よ。

護衛で来てたマキナとダンジョウの二人は、ヒャクゴウ大昇人の事を怪しいとは思いながらも、深入りするのは危険だと思ってスルーしてたみたい。


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