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#37、あのさ



あともう一歩で、ヒャクゴウ大昇人様のご加護が受け取れる。

私とヒャクゴウ大昇人様との間に、無粋な邪魔者の影が飛び込んで来たのは、その時だった。




「アディーナちゃん、お待たせ♪

あ、それって大分ヤバい感じ?」


修練場の扉を破壊して現れたのは、私のかつての仲間、シャツキフさんだった。

最悪のタイミングだ。折角の祝福タイムに水を差さないで欲しい。



「どういうつもりですか、シャツキフさん。私はこれから、究極の平和を手に入れるところだったんですよ。」


「う〜ん、こりゃかなりやられちゃってるみたいだね、アディーナちゃん♪

これはもう、荒療治っきゃないかー♪」


「はい?」


私の頭上に、シャツキフさんの絵筆型ステッキが振り下ろされた。




ガァン!


「痛ァッ!?」


という鈍い音が、私の頭骨内に響き渡り、修練場の景色が、ヒャクゴウ大昇人様が、信徒の皆が、コロちゃんが、シャツキフさんが、目に見える全てが幾重にも歪み、痛みで涙が出てくる。




それと同時に、失くしかけていた大切なものも、ごっそり全部戻ってきた。



「…シャツキフさん、すみません助かりました。

私、あともう少しで戻れなくなってたかもしれません。」


実際、かなり際どいタイミングだった。

もしシャツキフさんの助けが入らず、あのままヒャクゴウ大昇人の元へ行っていたらと思うと、ゾッとする。



「ファッファッファ、貴女はシャツキフさんではないですか。

話には聞いていますぞ。帝国軍に反旗を翻し、そこな叛逆者と共に帝国に仇を為していると。」


「うん、久し振りだね、ヒャクゴウおじさん♪

相変わらずデカいしピカピカだねー♪

でもちょっと悪趣味が過ぎるかなー♪悪趣味だから芸術点もマイナスだし、そんなんじゃ女の子にモテないよ♪」


ヒャクゴウ大昇人の他を圧倒する威容を歯牙にもかけず、シャツキフさんは友達感覚でマイペースに話し掛ける。

ちょっと普段より毒舌だけど。



「ファッファッ、貴女こそ変わりませんねぇ。変わらずの減らず口だ。

おっと、我とした事が、汚い言葉を口にしてしまった。猛省せねば。」


「アハハ、ドンマイドンマイ♪」


「シャツキフさん、ヒャクゴウ大昇人とも知り合いだったんですね。」


「うん、まあね♪

と言っても、何年も前だけどさ♪」


成る程、知り合いだったとは。

という事はもしかして、ヒャクゴウ大昇人の弱点とか知っているのでは?



「あ、でも弱点とかは知らないよ♪

別に仲良かった訳でもないし、あの人謎が多いから♪」



…残念。




「…まあ、弱点かどうかは分からないけど、あの光の〝メカニズム〟なら知ってるよ♪」


「…メカニズム、ですか?」


あの光、と言うと、私の脳をおかしくした、ヒャクゴウ大昇人の体から漏れ出ている金色の光の事だろう。

今まで色んなトンデモビックリな技を持つ達人と戦ってきたから感覚が麻痺してたけど、確かにあの不自然な光にトリックがあってもおかしくはない。


まあ、シャツキフさんの実体化する作品みたいに、科学的に説明出来ないような荒唐無稽なスキルも有るんだけれども。

そう考えると、彼女の言葉に説得力を感じなくなってくるけど、今は気にしないでおこう。


「兎に角、まずはヒャクゴウおじさん倒そう♪

そうすれば、メカニズムとやらの正体が分かるよ♪」


「え?いやそこからですか?」




「無意味なお喋りの時間はそこまでです。

シャツキフさん、折角の機会ですから、貴女にも恒久的絶対平和の素晴らしさを、じっくりと教導して差し上げましょう。」


ヒャクゴウ大昇人の両手に、輝きが集中する。

またあの光か!



「アディーナちゃん、ヒャクゴウおじさんの光は目を瞑っても不可避だから、どっか遮蔽物の後ろに隠れて♪」


「はい、さっき痛い程身に染みましたから。」


コロちゃんが心配で見てみると、さっき私と一緒に光を浴びた筈なのに、平然としている。

どうやらヒャクゴウ大昇人の光は、既に洗脳済みの人には効果が無いようだ。


だから今、コロちゃんの心配をする必要は無い。

他の信徒達が危害を加える様子も無いし、取り敢えず自分の身を守る事を優先しよう。



「『無辜曼陀羅ムコマンダラ』」



「とうッ!」


私とシャツキフさんは、近くの扉を破壊して外へと飛び出し、そのまま建物の壁に背を当ててやり過ごす。

そこまでしても、あまりに膨大な光量に、目がチカチカする。でも、頭は無事だ。


「ファッファッファ、外での決戦がお望みですか。

確かに修練場には他の信徒もいるし、我の体格では動きにくいですからな。」


次の瞬間、爆発的な光の奔流が修練場の中から溢れ出し、激しい川の流れのように修練場前の庭園へと押し流される。

枯山水の美しい和の庭園をベースにしてるっぽいけど、所々に悪趣味な黄金の装飾が施されていて、こっちはこっちで目がチカチカする。

そんな庭園のど真ん中に、修練場の屋根を突き破って大ジャンプして来たヒャクゴウ大昇人が、地響きと共に豪快な着地を決めた。



「さて、極めて平和主義者である我ですが、愚かな仏敵にはそれなりの罰を下させて貰います。

我の平和の光を避け、受け入れる事を拒否するとは、我ら『平和の導き手』の平和的思想を否定する痴れ者に他ならない。

それは、我が信徒となる資格も無い、完全なる仏敵!」


再びヒャクゴウ大昇人の開いた手のひらに光が集まる。

ただ今度は、その光が更に手のひらの中央に収束され、光球になっていく。


「あ、これヤバいかもね♪」


「ええ。」




「『焦熱地獄線ショウネツジゴクセン』」



一瞬の煌めきの後、私はほぼ思考せず、直感で横に飛んだ。



その反射的行動は、結果として私の身を助けた。

ついさっきまで私の立っていた場所に、1メートル位の丸い穴が空き、その縁はジリジリと赤熱していた。

視認するのが困難な程に速い攻撃で、正直何をされたのかパッと見では理解出来ない。


でも、ヒャクゴウ大昇人の手のひらで、未だに輝く光球を見ると、何となく察しは付く。



「やっぱりヤバいね、あれレーザー撃ってきてるよ。」


「そうみたいですね、ビックリ人間にも限度があるでしょう。」


「ファッファッ、ただの人間ではありませんよ。我は現人神です。」


再び光球が激しく輝き、手のひらから丸太のように太いレーザーがシャツキフさん目掛けて照射される。


シャツキフさんは辛うじて躱すも、今度のレーザーは先程とは一味違う。

撃った後も継続して照射され続け、そのまま地面を削り取りながら、回避するシャツキフさんを追いかけているのだ。



「シャツキフさん!」


「私の事はいいから、本体を狙って♪」


「…了解です!」


シャツキフさんは、囮役を買って出てくれた。

その気持ちに応えるべく、私は一直線にヒャクゴウ大昇人の元へ走った。




「無駄、無駄。」


シャツキフさんを追うレーザーを照射しているのは、ヒャクゴウ大昇人の右手。

という事は、必然的にもう片方の手は空いている。


私の読み通り、左手にも光を集め出し、光球を生成。

足元まで接近していた私目掛けて、2発目のレーザーを撃ってきた。


でも、もう遅い。



「ぬうゥ!?」


私はレーザー照射をジグザグ走行で回避しながら、ヒャクゴウ大昇人の巨体の脛に全力の蹴りを叩き込み、体勢を崩す。

片膝を突き、大きな隙を見せた所へ、必殺の一撃を叩き込む!




「『割り箸殺法・渦紫陽花うずあじさい』」



超振動割り箸による岩をも斬り裂く一閃が、ヒャクゴウ大昇人の黄金の肉体に刻み込まれる。



「ぐ、ぐおォォォォッッ!?」



悶絶したところに追撃を試みるも、反撃の平手打ちを喰らってしまい、弾き飛ばされる。

咄嗟に防御したものの、何て怪力なんだ。

見た目は痩せているけど、単純な腕力も相当なものだ。



「アディーナちゃん、このまま一気に決めるよ♪」


「勿論です、遅れないで下さいね!」


私とシャツキフさんが左右から接近し、トドメの一撃を決めようとした、その時だった。




「…な、ナメるなよ仏敵どもォォ!!

我は森羅万象を司る絶対的平和の象徴にして、三千世界を導く奇跡として生まれ落ちた現人神なのだ!

貴様ら如き小娘二人など、ものの数ではないわァ!」


本性を現し、穏やかだった物腰から一変、憤怒の形相で非常に荒々しい言動を繰り出すようになったヒャクゴウ大昇人。

これが彼の本性か。


怒り狂うヒャクゴウ大昇人の身体が、今度は等間隔で明滅し始めた。

それに呼応するように、庭園に飾られている黄金の灯籠、黄金の庭石、その他黄金の装飾の全てが、ヒャクゴウ大昇人に合わせて脈打つように明滅している。


何だ、一体何が起こってるの?



「マズいね〜♪私達、誘導されてた訳だ♪」


「誘導ですって?まさか…!」


この明滅している黄金。

それらが全て罠だとしたら、私達は既にそれに掛かっていた…?



「ファッファッファ、気付いたところでもう遅い!

喰らえ、我が必滅の平和的奥義!」


滅ぼすのに平和もクソもあるかと思う間も無く、私とシャツキフさんは力を合わせて〝守り〟を固める。




「『大焦熱地獄変ダイショウネツジゴクヘン』」



それから巻き起こったのは、連続発生する激しい光の爆発。

庭園に飾られた黄金が次々に爆発するように高温の光を撒き散らし、辺りを地獄に変えていく。


私達は、シャツキフさんが咄嗟に作り出した、貝殻の盾に守られている。それも全方位対応したドーム状の。

しかし、あまりに高熱の光の嵐に飲み込まれ、少しずつ溶解しているのが分かる。

この鉄壁の守りを誇る盾も、そう長くは保たないだろう。



「ファッファッファ、あと何秒耐えられますかねぇ!」


「いや、もうそんなに耐える必要無いよ♪」


「ファッファッ、諦めが早いですねぇ、あのシャツキフさんともあろう者が!」


「いや、そういう意味じゃないから♪」


「ファ?」


私にも、シャツキフさんの言っている意味が分からなかった。

かなりピンチな今の状況だけど、彼女には策でもあるのか?




「『芸術的黒幕アーティスティック・フィクサー』」



いつの間にか、庭園の周りをシャツキフさんの手掛けた絵画や彫像が多数押し寄せ、完全に包囲していた。


「何?こいつら、いつの間に!」


「君が、私達への攻撃に執心してる間にね♪」


シャツキフさんが指を鳴らすと、作品達が一斉に庭園へと雪崩れ込む。

いや、ただ雪崩れ込んだだけではない。

まだ爆発していない黄金、又は爆発して次の爆発まで小休止している黄金を見極め、次々と要領良く破壊していく。



「何だとッ!?クソッ、止めろ!」


「ヒャクゴウおじさんの黄金グッズの正体は、光を蓄える性質を持つ蓄光鉄っていう金属だね♪

ネタバレしちゃうと大方、自分の体から出る高温の光を溜めさせて、放出させただけなんだろうけど♪

蓄光鉄は光を蓄えると黄金みたいに見えるから、偽りの光を放ち続けるヒャクゴウおじさんにはピッタリのギミックだったね♪」


欺瞞の黄金を守るのに必死なヒャクゴウ大昇人は、明らかに隙だらけだ。

今や、私達を追い詰めていた光の爆発もほぼ無い。




道は拓けた。


私は駆ける!



「うぬおォォォォ!!」


真正面からのヒャクゴウ大昇人渾身の拳をジャンプで躱し、そのままその太い腕を踏み台に、ヒャクゴウ大昇人の頭上へ跳躍する。




「『無辜曼陀羅ムコマンダラ』!!」


恐怖の洗脳光が、上空の私に向かって放たれる。

でも、もう遅い。



「『割り箸殺法・男郎花おとこえし』」


邪悪な光を斬り裂く閃きが、私の割り箸から連続で放たれる。

真空の刃は光と共に、地上のヒャクゴウ大昇人の身に斬り傷を刻んでいく。



「ぐあァァァァッッ!!」



ダメージを与えれば与える程、ヒャクゴウ大昇人の黄金ボディは輝きを失っていく。

やがて忌まわしい光は完全に失われ、破壊され色を失い辺りに残骸が散らばっている蓄光鉄の如く、鈍色の体色になると同時に、轟音と共に仰向けに地面に倒れたのだった。






「ん、あれ?」


「私、何して…」


「何だこれ、ここどこ?」


ヒャクゴウ大昇人が光を失った所為なのか、洗脳されていた信徒達が次々に正気に戻る。


という事は…!



「あ、アディーナ!」


「コロちゃん!」


現状把握出来ていないコロちゃんが、私の元にゆっくり歩いてきた。

私もコロちゃんが正気に戻ったのが嬉しくて、思わず駆け寄った。



「えっと確かアタシ、お風呂出た後、変な二人組に…」


必死に記憶を辿るコロちゃんだけど、まあ細かい事はいっかと思考を放棄してから、私へと向き直る。





「…あのさ、アディーナ。」


「はい?」


モジモジと唇を尖らせながら、コロちゃんは勇気を出して言葉を紡ぐ。




「……変な風に怒っちゃって、アンタに不快な思いさせちゃった。ごめん。」


「はい。」


「ごめんなさいッ!」


「私こそ、ムキになっちゃってごめんなさい。」




シャツキフさんが側からニマニマと見ている中、私とコロちゃんは手を取り合い、ようやく仲直り出来た。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



平和の導き手



教祖でもあり、現人神でもあるヒャクゴウ大昇人が最高指導者の、新興宗教団体ね。

コウシン村を拠点にしていて、信徒は全員、ヒャクゴウ大昇人の光によって洗脳されたコウシン村の村人や、村に立ち寄った不運な旅人や商人達ね。

コウシン村自体が辺鄙で、交通の要所からは外れた場所にあるから、ヒャクゴウ大昇人みたいな怪しい奴にとっては、都合の良い所だったみたいよ。

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