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#34、笑顔




私達が宿屋の外に出た、その時だった。


赤く揺らめく何かが、シャツキフさん目掛けて飛んできた。



「うぉっと♪」


間一髪のところで、シャツキフさんは貝殻の盾を出してそれを防ぐ。

赤い物体は貝殻の盾に命中すると同時に、爆発した。


何度か見てるけど、やっぱり便利だなぁ、あの盾。



「早速敵襲みたいですね。」


「うん、行動が早い真面目さんみたいだ♪」


赤い物体が飛来して来た方向に目を向けると、そこは宿屋を見下ろす小高い崖の上。

そんな場所に、不敵な笑みを浮かべる少女が立っていた。


髪は茶色いおさげの三つ編みヘアで、服装は上半身裸の上にオーバーオールを着ている大胆な見た目。

そんな可愛らしい外見とは対照的に、両手には黒くおどろおどろしい意匠の大斧と大鉈を握り締めている。



「あれ、君は確かマキナちゃん♪」


シャツキフさんが、そのオーバーオール少女の名を呼ぶ。

まあ、あの子が帝国軍ならシャツキフさんの知り合いでも不思議はない。


「あはぁ、お久しぶりだす、シャツキフさん。

ちぃと小耳に挟んだんだすがねぇ、あだす達の帝国軍裏切って、そこのアディーナとかいう変な娘っ子の味方しとるみたいだすね。」


何か独特の訛りで喋ってて、何を言ってるのか聞き取りづらい。

どっかの田舎育ちの子なんだろう。


「マキナちゃん、もしかしてさぁ、今回の件に一枚噛んでる?」


「アッハッハッハ、シャツキフさんも、けったいな事聞くもんだすなぁ。

こんタイミングで、こうして奇襲ばして、なんも噛んどらん訳ないだすよぉ。

おたくのお仲間の、コロちゃんとかいうクローンの娘っ子、探しとるんだすよね?」


あっさりと、コロちゃん行方不明事件との関わりを明かしてくれた。

だとしたら、あのマキナさんとかいう人が実行犯なのか?


「マキナさん、とか言いましたか。

貴女がコロちゃんを攫った実行犯なんですか?」


「んにゃ、あだすはただ、おめえさんらを教団本部に近付けるなと、命令されただけだす。

実行犯いうのは、他の人間だすよ。」


成る程、私達みたいな教団の事を嗅ぎ回る人間を、物理的に排除する役目を担っているのが、あのマキナさんか。


「つっても、あだす1人でアンタら2人をマトモに相手すんのは骨だがんねぇ。流石に。

だから、今回はたっぷり〝弾〟を用意させて貰っただすよ。」


マキナさんの背後から、巨大な何かを馬鹿デカい荷車に乗せ、馬数頭とクローン兵数人がかりで運んで来た。

暗くて見にくかったけど、巨大な何かはよく見ると、大量の木材だった。



「アディーナちゃん、気を付けてね♪

マキナちゃんは、『薪割りの達人』だから♪」


「は?薪割り?」


次の瞬間。


カァン!

という、斧で薪を割るような小気味良い音と共に、赤い物体が飛んで来る!

赤い……というよりは、燃えている。

紅く燃え盛る物体が銃弾並みの速度で飛来し、屈んだ私の頭部を掠める。


本来のターゲットに当たる事が叶わなかった赤い物体は、宿屋の入り口に並ぶ木の一本に直撃して、またもや爆発した。


「彼女が薪を割ると、あまりの勢いと摩擦で割られた薪に火が付いて、しかも割った衝撃で狙った場所に薪を飛ばす事が出来るよ♪」


「さっきから飛んで来てたの、薪だったんですね。」


「しかもあの薪は、引火すると表面の樹皮が爆発を起こす、恐ろしい『カヤクヒノキ』を使ってるね♪」


何なのその物騒な木!?


「そんじゃそろそろ本気で行くだすよ〜!」


マキナさんが指パッチンして合図を出すと、その周囲にいたクローン兵達が一斉に薪を持ち出し、マキナさん目掛けて放り投げた。


「チェイチェイチェイチェーイッ!」


放られた薪の尽くを、マキナさんが掛け声と共に高速で叩き割る。

両手の斧で、鉈で、断ち割られた無数の薪は、火達磨と化し、流星の如く私とシャツキフさんの元へ殺到した。



「『薪割り流星群メテオシャワー』!」


「うわっとっと!」


「おっと、これはこれは♪」


次々と飛んで来る燃える薪を、私達は躱す躱す。

ただ躱すだけじゃ爆風に巻き込まれるので、ある程度距離を取って躱すも、先読みされたかのように躱した先にも薪が飛んで来る。

かなり危ない。


「くっ!」


私は割り箸を取り出して、飛んで来た薪を縦一文字に斬り裂く。

綺麗に両断された薪は、私の両脇を通過し、背後で爆散する。


当然、それで終わりではない。

次から次へと薪は飛んで来るので、それらを躱し、斬り、受け流してゆく。


マキナさんの背後の薪の山はまだまだ数に余裕があり、攻撃が止まる気配は無い。



「さあさあさあぁ、とっとと諦めちまうだすよぉ!」


「アディーナちゃん!」


「はい?」


突然、シャツキフさんに声を掛けられる。

その間、シャツキフさんは地面に絵筆型ステッキで絵を描いていた。


「マキナちゃん強いから、先行ってて!」


「えっ?」


地面から出て来たのは、絵の具で描かれた鷹。普通のよりひと回り大きい。

それが猛スピードでこちらに飛んで来る。


私は、シャツキフさんの意図を察した。


「分かりました、この場は任せます!」


「任せて、すぐに追いつくから♪」


私は鷹の足を手で掴み、そのまま共に飛翔。

そんな目立つ私を、マキナさんがロックオンしない筈がなく、私の方へ流星のような薪が幾つも飛んで来る。


「わっ!?」


一瞬焦るも、鷹は薪を見切っているかのように器用に避け、急上昇。

そのままジグザグ飛行で燃える薪を回避し続けながら、前方へと突っ切って行く。


そして、空を飛んでいるからこそ分かる。

マキナさんの遥か後方には、さっき地図で見た白い神殿らしき建造物が見えるのだ。



あのままマキナさんの足止めを2人揃って喰らうよりは、どちらか1人が先行して神殿へ向かうべき、とシャツキフさんは判断したのだろう。

コロちゃんが教団に何をされるのか分からないし、今は一刻も早い救出が最優先事項だから。



「ありゃりゃ、行っちまっただか。」


マキナさんは追撃不可能と判断したのか、無駄に私に向けて追撃はしなかった。

そしてすぐに、意識をシャツキフさんへと切り替える。



「よっと。」


飛んで来た斬撃を、マキナさんは紙一重に躱す。

シャツキフさんが、私に気を取られて生じたマキナさんの隙を、見逃さなかったのだ。

そこに見舞った、粘土の剣の一撃だった。


「あぐッ!」


「あ、狙いはそっちだすか。」


薪を供給していたクローン兵の1人が、シャツキフさんの斬撃に巻き込まれた。

とは言っても、利き腕を軽く斬られた程度だけど。


でも、しばらくは薪を投げたりは出来ない。

そんな絶妙なダメージを、的確に狙った箇所に与えられるのは、やはりシャツキフさんが剣技の天才でもある所以か。


私がシャツキフさんの戦いを確認出来たのは、ここまでだった。

鷹は高度を下げながら、白の神殿へと急接近していく。



「っと!」


神殿の裏口まで近付いたところで、私は掴んでいた手を離し、小さな扉の前で着地する。

鷹は勢いそのまま、速度を落とさずに何処かへ飛び去ってしまった。



「…デカい。」


見上げると、真夏の雲のように真っ白な白亜の殿堂が、裏口からでも感じれる程の荘厳さを放っている。

大きさは、ガイラの街のシエルさんの館と、あのやたら大きいシャツキフさんの美術館を、足して2で割ったくらいだろうか。


それでいて、何も着飾った様子のない、ただただ白一色の、正直言って味気ない建物。

これも、教団の教義か何かによるものなのだろうか。



まあ、そんな事は今はどうでもいい訳で。

私は裏口の扉をそっと開き、隙間から中の様子を伺う。









「♫カリュウちゃん〜の〜アァ〜、ダブル肉饅マジ卍ィ〜フゥ〜!♫」


扉を開けた瞬間、凄く香ばしくて良い匂いが鼻腔を直撃してきた。

どうやら、この部屋は厨房だったみたいで、裏口は厨房の勝手口だったようだ。


そこで、1人の女性料理人が、妙な歌(独り言)を上機嫌で歌いながら料理を作っている。


しかもあの歌は確か、カリュウちゃんの怒りを買って即発禁になったランカーシス博士の伝説ソング、『カリュウちゃんのおっぱいマジ肉饅』に相違ない。



「この匂いはまさか、炒飯?」


料理人の人が鉄製のフライパンを巧みに振るい、その上で黄金に輝く炒飯が舞い踊る。

嗚呼、これ以上私の嗅覚を刺激しないで欲しい。


気付いたら、こっそり中に侵入していて、見つかる事無くその炒飯を拝借していた。

拝借した炒飯を、一旦外に出て一気に食す!


今日はまだ夕飯を食べておらず、正直言ってコンディションがイマイチなのだ。

だから、これは戦いの前の腹ごしらえ、必要なエネルギーの充填、腹が減っては戦は出来ぬ。

決して、単に食欲に負けた訳ではない!

パラパラ炒飯美味い!チャーシューもジューシー、味付けも完璧。

何だこの炒飯、今まで食べた炒飯の中で一番美味い!



「ご馳走様でした。よし、エネルギー満タン!」


改めて、裏口から潜入する事にした。













◆◆




……ここは、どこだ?



ああ、アタシは寝てたのか。


「うッ!?」


頭が痛い。ズキズキする。どうして?


確か、コウシン村の宿屋で、お風呂に入って、アディーナと仲直りしようと決心して、部屋に戻ろうとして…

思い出そうとすると、妙に頭が痛む。



よく分からないけど、アタシは今、白いベッドで横になっているらしい。

白い天井、白い壁、白い調度品、何もかもが白白白、白一色の部屋に、アタシは1人で寝ていた。


「趣味悪ぅ…」


率直な感想をポツリと呟き、アタシは起き上がろうとする。

でも、体が思うように動かない。



「あぁ、どうしよう。」


このまま寝ていようかとか考えていたら、不意に部屋の白い扉が開いた。

入って来たのは、小太りの中年女性。



ん?この人、どっかで見たような…。



「もう目は覚めたようですね。お加減はいかがですか?」


優しく柔和な笑顔でそう聞いてくる女性。

でも、その声を聞いた瞬間、頭の中が靄だらけだったアタシは全てを思い出した。


「…そ、そうだッ!アンタ、宿屋でアタシに変なもの見せて、ここまで攫って来たんでしょ!」


「攫った、とは人聞きが悪いですねぇ。正しき場所へと導いた、と言ってくださいな。」


「うっさい!アンタが何者か知らないけどね、これ以上変な事するなら…!」


アタシの武器である手槍は、当然ながら没収されているみたいだ。

だけど、相手が何者であれ、ここはアタシ自らの力で切り抜けなければいけない!



「おっと、手荒な真似はよして下さい。私はただの宣教師ですので、荒事は御免です。

なので、ここは一つ〝これ〟で鎮めます。」


女性はそう言って、白い紙を取り出した。

無論、ただの紙じゃない。その紙には、アタシの意識を奪った奇妙な図形がビッシリと描かれていたのだ。


「うぐッ!?」


アタシの頭が、激痛に苛まれる。

皮膚を透過して、頭蓋骨を直接殴打されたかのような痛烈な痛みが、頭の中に響き渡った。


「流石、〝あのお方〟がお作りになった奇跡の一枚。

こうして平和的に荒事を解決するには、効果覿面ですね。」


「…こ、のォ…!」


アタシは抵抗しようとするも、意思に反して体が全く言う事を聞かなくなってしまった。



駄目だ、アタシはやっぱ駄目駄目だ。


強くなってアディーナの役に立ちたいだけなのに、変な意地張ってアディーナ本人と喧嘩して、挙げ句の果てにまたこんな目に遭ってる。

アディーナはきっと、アタシに呆れて愛想を尽かしてるんじゃないか。

弱いアタシが居なくなって、清々したと思ってシャツキフと2人でコウシン村を既に後にしたんじゃないだろうか。

そんなネガティブな思考で頭を埋め尽くされる程、今のアタシは不甲斐なくて、弱々しくて、余裕も無く、どうしようもなかった。


「大丈夫、安心して下さい。今から貴女を、〝あのお方〟の元まで導いて差し上げます。

さすれば、貴女は偉大なる幸福と平和的思考に満ち溢れ、新たなる自分を見出す事が出来るでしょう。」


「…よ、余計なお世話よ…!

アタシの幸せは、アイツの隣に居る事だってとっくに決まってんのよ!」


「ほほう、興味深そうなお話ですが、それよりも我々に導かれた方が遥かに貴女の幸福度は高まるでしょう。

なので、ついて来て貰います。」


女性が、先程入って来た扉を再び開くと、今度は数人の男女が隊列でも組んでいるかのように入室してきた。

またぞろ、どいつもこいつも不気味なまでの笑顔を顔に貼り付けていて、実に気味が悪い。



「この世の生きとし生ける全ての存在は、我らが祖であるヒャクゴウ大昇人様によって導かれるのです!

皆が皆、笑顔で!平和で!幸福で!尊く!無限の輝きに満ち満ちた人生を送れるのを、あのお方は保証してくださるのです!

そう、信じさえすればッ!」




アタシの意識は、再び深い暗闇の中に沈んでいった。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



コウシン村



ラピルーク・アートミュージアムからしばらく東に進んだ先にある村ね。

村と呼ぶには割と栄えてる所なんだけど、少し前から外部との通信と交流が突然途絶えて、内情が殆ど分からない謎の村になってしまったわ。

住人は皆、不気味なまでの笑顔を顔に貼り付けてて、いかにも怪しさがプンプンね。

どうやらこの村を治めている何者かが、謎の宗教を村中に広めているのが原因みたいだけど…。


ま、アタシはそんなのに引っ掛かる程ヤワじゃないから、大丈夫だけどさ。



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